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第十三章

散花無惨(チルハナ ムザン)

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「…っ…まずいな近衛兵に見られた!」

「いやしかしこいつ…──!? 見覚えが」

 隊服を着たオメルが現れたので男達は焦りだした。だがすぐにオメルが正式な近衛兵ではないことを見破る。

「そうだ!焦るな、たしかこの小僧はクルバンだ」

「…!?…だったらこいつら仲間か」

「逃がすと面倒だな…捕まえろ!」

 三人は貯蔵庫に入ってきた彼を取り囲み、小柄な身体を押さえつける。

「シアン…っ」

 オメルがシアンに手を伸ばした。

 手足を縛られたシアンは身動きがとれず、差し出された手を掴むこともできず、この急展開に状況を把握することもできない。

「…オメル‥‥ッッ…‥何してるんだ‥‥」

「大丈夫かシアン!?」

「何故君が‥…!?…‥え?‥…なんだ?どういう…ことだい?」

 珍しく混乱したまま話すシアン。

 彼が何もできない間に、男達に捕らえられたオメルは身体を殴られて呻いた。

「がはぁっ!」

「いったん大人しくさせるぞ。押さえていろ」

 二人がかりで両側から拘束されたオメルに、再び拳が襲う。

「この悪党を助けにきたつもりか知らんが残念だったな!?」

「‥ぅ‥ッ──ち、がう…‥シアンは違う…なにも悪いことしてない!」

「うるさい黙れ!」

「─‥ッぐああ!」

 オメルの悲鳴が貯蔵庫に響いた。刀を抜いた男が彼の足を斬り付けたのだ。

「オメル!!」

「ハァッ‥!!…ハァッ‥!!‥ああ゛…!!」

 足を斬られたオメルは立っていられなくなり

 両脇の男らが手を離すと、彼は床に倒れた。


ドサッ‥‥‥!


「先に殺しておくか」

「それは問題じゃないか?俺たちが任されたのは犯人の始末だ。もしおおやけになったら…」

「ふん…クルバンごときが消えたところで大した捜索はされんだろうがな」

 男は倒れたオメルに対して、冷酷に刀を振りかざす。

「やめろ‥──ッッ!」

 止めようと声を張り上げたシアンは、切れた唇から血を吐き出して咳き込んだ。

「やめろっ…‥やめて‥くれ……!!」

 ほどけるわけが無いのに、背中で縛られた手首をバタつかせる。

「シアン…」

 必死なシアンを視界にいれたオメルは、ポロポロと涙を零す顔で、無理やり笑顔を作った。


「これ」

「……!?」

「これが、証拠だ……オレがやった証拠」


 オメルは床に崩れたまま、懐から包み紙を取り出した。

 彼の掌におさまるくらいの包み紙は、細い紐で口をきゅっと縛られている。

 シアンは それ に覚えがあった。

「これ を…‥スレマンさまの酒にいれた…!」

「……!! 小僧……まさかその中身」

「へっ‥‥あんたらが言ってた薬だろ?」

 阿芙蓉アフィヨンだ。

 オメルが持つ包み紙は──もともとシアンの持ち物だった。

 けれど今はそれがオメルの手にある。

「酒飲みすぎてスレマンさまが部屋で吐いたから…掃除しに行けって命令されてことがある…。そのとき置いてあった酒にいれたんだ。……でもシアンが持ってきたのとは別の酒にだ!」

「……!?」

「シアンはいっつも厨房のお酒あっためて、スレマンさまに運んでた‥‥!! いつも同じ入れ物に入れてたから、ハァ‥‥ッ…‥どんな入れ物かは他の隊員も知ってる!オレがいれたのとは違うやつだよ」

「…ふざけるなっ!そんな都合のいい話があってたまるか」

「調べたらすぐわかる」

「ち…っ」

 オメルは男達を睨みあげ、恐怖をものともせず堂々と話した。

 男は振り上げた腕をそのままにオメルの自白を聞いている。

「その自白じはくが何を意味するか──わかったうえでほざいてるのだろうな?」

「意味もなにもホントのこと 言っただけだ……!!」

「……!」

 オメルの鬼気迫る表情を見てたじろいだ男は、頭上に上げた湾曲刀を、ゆっくりと…下ろした。



 その男はシアンに向き直る。

「小僧の言葉は真実か?」

「ハァ…ハァ…!!」

「答えろ!スレマン様に毒を盛ったのは小僧で、貴様は本当に無関係なのか?」

 問われるシアンは

 ……何も返すことができなかった。

 認めれば自分は助かるかもしれない。
 そう、自分 だけ は。


「答えんか……ふん、まぁよい。どうせ貴様の口先だけの詭弁きべんなど当てにならん」


カラン──ッ


「その手で証明しろ」

「──…!」

「…わかるな?小僧の仲間でないというなら行動で示せ。俺たちは外に出てやるが待つのは400セクンダだ。それより待たせるようなら両方共…──いいな?」


 そう言い男は湾曲刀を足元に捨てた。

 目配せされた残りの二人がシアンの手足の拘束を解き、シアンの返事も待たず、彼等は貯蔵庫の外へと立ち去ったのだ。





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