85 / 143
第十三章
散花無惨(チルハナ ムザン)
しおりを挟むその後男達は、シアンをある場所へ拐っていった。
「到着だ」
床に転がされたシアンが不自由な手足でもがくと、問答無用で足蹴にされた。
口と視界をふさがれたシアンはどうすることもできず、背、腹、顔……を一方的に蹴られる。
やがてシアンがぐったりと動かなくなるまで暴力は続いた。
「‥‥ッ…‥ク‥…!!」
「抵抗するならまだ続けるぞ?わかったか?」
男のひとりがシアンの頭に手を伸ばし、被せていた布袋を乱暴に取った。
「騒ぐなよ?」
「フゥ‥フゥ…‥ッッ」
「よし」
口を塞がれたシアンが、鼻で息をしながら従順にうなづく。
男はそれを確認し、彼の口元の布をほどいた。
「…ハァハァッ‥…カ゛──ハッ…!!」
口を解放され大きく咳き込むと、血の塊が吐き出される。
痛みにたえて周囲を見ると、そこは牢屋でもなく、どこかの屋敷でもない。見知らぬ場所だった。
「ここはハムクール伯爵家の敷地内だ」
「…ハァッ‥‥ハァ、伯 爵…‥の‥‥!?」
土壁の空間。外へと繋がる登り階段。なるほどここは、伯爵家の屋敷のそばに造られた、半地下の貯蔵庫といったところだろう。
「なら‥…ッ‥…僕を捕らえる よう命じたのは、伯爵家ですか……」
「その通りだ。奥方様の意向により、貴様を処分する」
「‥‥!?‥理由は?」
「もちろん貴様が、スレマン伯爵を錯乱にいたらしめた故だ」
「…っ」
ハムクール・スレマンの乱心によりシアンが伯爵家の養子となり、もっとも良く思わないのは伯爵家の人間だ。よってシアンは極力伯爵家に近付かなかったし、財産を相続する気はないとあらかじめ宣言している。
それに今のシアンは王宮警備兵という立場な上に、タラン侍従長との繋がりがある。シアンを疎ましく思う伯爵家も、表立って彼を糾弾できない。
しかし……シアンの嫌な予感は的中した。
彼を捕らえにきたこの男達が、正式な近衛達の隊服を着ていないという事は──
「ここで無実の僕を処分するは明らかな " 私刑 " ‥っ。法に背きっ…陛下を欺くコトになりますよ…‥!?」
「黙れ悪党が!」
「ガハッ─‥!」
「何が無実だ、馬鹿馬鹿しい。貴様の手口はすでにわかっている」
「ハァ!!…ハァ!!‥‥‥なにを、言って……」
胸を蹴り飛ばされ仰向けに転がる。
こちらを嘲罵する相手を睨み付けたが、声は絶え絶えだった。
「手口…‥!? とは……どういうことですか……」
「とぼけたところで許されると思うな。スレマン伯爵のご病気は、医官にみせて原因を突き止めてある」
「……原因?──…フっ、‥ただの酒の…‥呑みすぎ、では?」
「いいや、毒だ」
「──…」
毒と言われて、シアンは表情こそ変えなかったが、僅かに動揺していた。
スレマン伯爵のあの状態は、鉛中毒だ。
だが鉛自体は強い毒では無い。むしろ酒の中に鉛が微量に含まれていることは、医術をかじった者なら誰もが知っている事実。
よってシアンが毒を盛った証拠にはならない。
「黙ったか。やはり毒を盛ったのは貴様だな」
「……」
ぐったりと動かないシアンは、ふと脳裏にバヤジットの姿を浮かべた。
スレマン伯爵に鉛を呑ませた手管について、打ち明けたのはバヤジットひとりだ。
もしやバヤジットが伯爵家に伝えたのだろうか……そんなふうにぼんやりと考えて
…………フッ
有り得なさに思わず笑った。
バヤジットがそんな真似をするはずない、と。シアンはわかっていた。
0
お気に入りに追加
66
あなたにおすすめの小説
お前じゃないと、追い出されたが最強に成りました。ざまぁ~見ろ(笑)
いくみ
ファンタジー
お前じゃないと、追い出されたので楽しく復讐させて貰いますね。実は転生者で今世紀では貴族出身、前世の記憶が在る、今まで能力を隠して居たがもう我慢しなくて良いな、開き直った男が楽しくパーティーメンバーに復讐していく物語。
---------
掲載は不定期になります。
追記
「ざまぁ」までがかなり時間が掛かります。
お知らせ
カクヨム様でも掲載中です。
祝福という名の厄介なモノがあるんですけど
野犬 猫兄
BL
魔導研究員のディルカには悩みがあった。
愛し愛される二人の証しとして、同じ場所に同じアザが発現するという『花祝紋』が独り身のディルカの身体にいつの間にか現れていたのだ。
それは女神の祝福とまでいわれるアザで、そんな大層なもの誰にも見せられるわけがない。
ディルカは、そんなアザがあるものだから、誰とも恋愛できずにいた。
イチャイチャ……イチャイチャしたいんですけど?!
□■
少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです!
完結しました。
応援していただきありがとうございます!
□■
第11回BL大賞では、ポイントを入れてくださった皆様、またお読みくださった皆様、どうもありがとうございましたm(__)m
僕はただの平民なのに、やたら敵視されています
カシナシ
BL
僕はド田舎出身の定食屋の息子。貴族の学園に特待生枠で通っている。ちょっと光属性の魔法が使えるだけの平凡で善良な平民だ。
平民の肩身は狭いけれど、だんだん周りにも馴染んできた所。
真面目に勉強をしているだけなのに、何故か公爵令嬢に目をつけられてしまったようでーー?
冷酷な少年に成り代わってしまった俺の話
岩永みやび
BL
気が付いたら異世界にいた主人公。それもユリスという大公家の三男に成り代わっていた。しかもユリスは「ヴィアンの氷の花」と呼ばれるほど冷酷な美少年らしい。本来のユリスがあれこれやらかしていたせいで周囲とはなんだかギクシャク。なんで俺が尻拭いをしないといけないんだ!
知識・記憶一切なしの成り代わり主人公が手探り異世界生活を送ることに。
突然性格が豹変したユリスに戸惑う周囲を翻弄しつつ異世界ライフを楽しむお話です。
※基本ほのぼの路線です。不定期更新。冒頭から少しですが流血表現あります。苦手な方はご注意下さい。
可愛いあの子は。
ましろ
恋愛
本当に好きだった。貴方に相応しい令嬢になる為にずっと努力してきたのにっ…!
第三王子であるディーン様とは政略的な婚約だったけれど、穏やかに少しずつ思いを重ねて来たつもりでした。
一人の転入生の存在がすべてを変えていくとは思わなかったのです…。
(11月5日、タグを少し変更しました)
✻ゆるふわ設定です。
お気軽にお読みいただけると嬉しいです。
今世ではあなたと結婚なんてお断りです!
水川サキ
恋愛
私は夫に殺された。
正確には、夫とその愛人である私の親友に。
夫である王太子殿下に剣で身体を貫かれ、死んだと思ったら1年前に戻っていた。
もう二度とあんな目に遭いたくない。
今度はあなたと結婚なんて、絶対にしませんから。
あなたの人生なんて知ったことではないけれど、
破滅するまで見守ってさしあげますわ!
不憫な推しキャラを救おうとしただけなのに【魔法学園編 突入☆】
はぴねこ
BL
魔法学園編突入! 学園モノは読みたいけど、そこに辿り着くまでの長い話を読むのは大変という方は、魔法学園編の000話をお読みください。これまでのあらすじをまとめてあります。
美幼児&美幼児(ブロマンス期)からの美青年×美青年(BL期)への成長を辿る長編BLです。
金髪碧眼美幼児のリヒトの前世は、隠れゲイでBL好きのおじさんだった。
享年52歳までプレイしていた乙女ゲーム『星鏡のレイラ』の攻略対象であるリヒトに転生したため、彼は推しだった不憫な攻略対象:カルロを不運な運命から救い、幸せにすることに全振りする。
見た目は美しい王子のリヒトだが、中身は52歳で、両親も乳母も護衛騎士もみんな年下。
気軽に話せるのは年上の帝国の皇帝や魔塔主だけ。
幼い推しへの高まる父性でカルロを溺愛しつつ、頑張る若者たち(両親etc)を温かく見守りながら、リヒトはヒロインとカルロが結ばれるように奮闘する!
リヒト… エトワール王国の第一王子。カルロへの父性が暴走気味。
カルロ… リヒトの従者。リヒトは神様で唯一の居場所。リヒトへの想いが暴走気味。
魔塔主… 一人で国を滅ぼせるほどの魔法が使える自由人。ある意味厄災。リヒトを研究対象としている。
オーロ皇帝… 大帝国の皇帝。エトワールの悍ましい慣習を嫌っていたが、リヒトの利発さに興味を持つ。
ナタリア… 乙女ゲーム『星鏡のレイラ』のヒロイン。オーロ皇帝の孫娘。カルロとは恋のライバル。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる