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第十三章

次の手

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──…


「職務は順調か?王宮警備兵(ベイオルク)殿」

「──タラン侍従長様」


 シアンが王宮警備兵に任命されてから十日後、王宮の廻廊を巡回中の彼はタラン侍従長とすれ違った。

「先の約束どおり私の権限でその地位に就かせてやったと言うに、挨拶のひとつにも来んとはどういう事か?」

「……僕など、侍従長様へ拝謁はいえつを許されるような身分ではありませんので」

「それは今更すぎる話だろうよ。"元" 賤人という身の上でクオーレ地区はおろか王宮にまで入った者は、後にも先にもキサラジャの歴史にお前ひとりだ」

 会釈をして通りすぎてもよかったのだが、立ち止まったタランが呼び止めたのでシアンはそれに応じた。

「ハムクール・スレマン・バシュの件……いや今はバシュの職を解任されたのであったか。医官が言うには錯乱状態が続いているらしいな。うわごとのようにお前の名を呼んでいるとか」

「…そのようですね」

「どんな手を使ったかは知らんが、伯爵家の人間を手玉にとるとは恐ろしいな。ハムクール家を乗っ取るつもりか?」

「いいえ、僕が養子になったとはいえスレマン様にはすでに後継ぎとなる子息がおります。乗っとるなんて考えませんよ」

「スレマン・バシュにも伯爵家にも興味無しか。……爵位を手にした今、すでに彼等は用済みということらしい」

「……」

 肯定ととれる沈黙でシアンが返す。

「まんまと爵位を手にいれたなら、私が手を貸さずとも王宮警備兵にくらいなれたのでは?」

「何を仰いますか、侍従長様。陛下の身辺は今や貴方の手の者で固められており、僕のような部外者はまっさきに排除されたに決まっています」

「ふ……抜け目の無い男だな、シアンよ。やはりお前は面白い」

「ありがとうございます。ではそろそろ巡回の交代時間ですので」

 失礼しますと頭をさげるシアン。

 彼のためにしつらえられた新しい帽子には、王宮警備兵(ベイオルク)の印である、太陽神の武器、獣角弓の刺繍があった。



 シアンが去り、残ったタラン侍従長のもとへ、別の王宮警備兵の男が近付いた。

「…何か動きはあったか?」

 視線はシアンの去った方向へ向けたまま、タランはその男に問う。

「いいえ、この数日はとくに何も無く……。バヤジット・バシュの邸宅から出た後は、新しく用意された宿舎の部屋で寝泊まりしているようです」

「スレマン伯爵のもとへは?」

「六日前と昨日の二度、スレマン伯爵を訪ねていますね。容態を確認しているのでしょう」

 タランの指示でシアンを見張っているその王宮警備兵が、小さな声で耳打つ。

「何故あのような怪しい者を王宮警備兵に命じたのですか?わざわざ見張るくらいならいっそ遠ざけてしまえばよいでしょうに」

「手を貸す約束をしたのでな」

 ごくごく当然の疑問を持った男の問いかけに、タラン侍従長は不吉な笑みを浮かべて返した。

「アレの目的を見極めるには、早く次の行動を起こさせたほうが楽なのだ。…私の敵であるなら尚更、ということになる」

「侍従長様の敵……?と言うとあの、バヤジット将軍の手先ということでしょうか?」

「さてな、知らん。だが背後にいる何者かについてもじきにわかるだろうよ」

 くれぐれも目を離すな。

 タランは男に念押しした後、いつものように王がいる寝所に向かったのだった。






──





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