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第六章

復讐者の記録──弐

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 ヤンは傍らの円卓上から美しく装飾された小刀を取り床を滑らせた。

 それは横たわる少年の目の前で止まる。

『 過去の自分を追ってすぐに命を絶つか、ここで血反吐を吐きながら生きてみるか、盗みでもして食いつないでそのうち捕まって処刑されるか……選択肢は山ほどある。わくわくするだろう? 』

『 ……ぜんぜん 』

 少年は身体をお越し、めくれていた衣服を戻して乱れを正した。

 差し出された小刀を右手に持ち見詰める。

『 あーどうせ死ぬなら血が多く出る場所を切れよ?手首は……片手が無いから無理か……、なら首か?そのほうが華やかで楽しい 』

『 …死ねない 』

『 へぇ? 』

『 僕は……きっと死にたいわけではない から 』

『 ……。なら死にたくなるまでは生きておけ。方法は俺が教えてやるよ 』

『 そうする…… 』

 ならそれを返せと、ヤンが手を差し出す。

 ぐっと唇を噛み締めた少年は立ち上がって彼に歩み寄った。

 やはり泣いていなかったようだ。幼いながらも整った顔は、涙に濡れていなかった。

『 決断を後押しするわけじゃないがお前は男娼の素質がある。だから安心していい 』

『 どうして? 』

『 顔が可愛らしく野郎の好みで肌の触り心地も良い。生意気だが教養もありそうだ。
 ──…それに何より、心をズタズタに壊されてる 』

『 ……心? 』

 差し出した小刀にヤンが上から手を添えたが、しかしそれを掴もうとせず、少年の顔をじっと見上げてきた。

 なので少年も刀を持った手を引けずに立ち尽くしている。


『 心は壊れてるくらいで丁度いい。まともな感性じゃあやっていけない──…大抵が自滅する 』


『 ──…! 』


 ヤンは最後に試している。本当に刀を返していいのかどうか──。

 ここで生き残るという地獄がなんたるかを、無知な少年へ教える為。

 そんなヤンの蠱惑的こわくてきな赤い瞳に試されて、少年の手がカタカタと震えた。


『 ……ひとつだけ、教えてほしい 』


『 ん? 』


『 貴方はどうしてそんな場所で生きる事を選んだの?死のうと思わなかったのか? 』


『 ──…ハッ 』


 そして今度は、震える少年の手が小刀を固く握った。まるでこの問いに答えなければ刀を返してやらないという意思表示だ。

 久しぶりに愉しくなってきたヤンが、灰を捨てた煙管を咥えて空吹いた。

 それを卓上に置き──空いた手で少年の腰を引き寄せる。

 片手は小刀越しに少年と重ね、他方の手で小さな身体を胸に抱く。そして少年の耳に口許を寄せて囁いた。



『 俺はまだ死なない。目的がある 』


『 ……ッ 』


『 殺したい奴がいるから……生きているだけさ 』



 誰かを呪うように低く
 睦言のように優しい声で。








…………


────……





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