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第四章

復讐者の記録──壱

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 店中の視線がそこへ集中する。

 『 ヤン?ヤンじゃないか! 』

『 へぇ、あれが噂に聞く…!? 』

『 神出鬼没の《気まぐれ姫》に会えるなんて今夜はついてるな。おおい!次こそ遊ばせろよ! 』

『 馬鹿野郎あいつは俺の相手だ 』

 次の瞬間、店は歓声と熱気に包まれる。

 《気まぐれ姫》と呼ばれたその人物は、なるほど確かに独特な美貌と雰囲気を持つ青年であった。

 透けてしまいそうな白い肌。肌と同じ色の髪は首の後ろだけを伸ばして編まれており、細い鞭のように揺れていた。

『 おや誰も死んでいなかったか……残念です 』

 なだらかな蛾眉がびの下、横にスっと伸びた一重ひとえの目。

 興奮した男達に挑発の流し目を送りながら、彼は足音もなく降りてくる。

 ただ相手を誘うような熱っぽさは無く、薄いベールの奥に透ける片頬の笑みも限りなく冷たかった。

 しかし客の方はと言えば、先ほどの沈黙を忘れて大いに盛り上がっている。

『 2000だ!2000を出すぞ! 』

『 2000だと!?……ッ なら俺は2300を 』

『 こっちは5000だ!』

 買い値の飛び交うこの場所は、間違いなくいまこの街の何処よりも騒がしい場所に違いない。

『 あんた達いい加減に……ッッ』

 客どもの勝手な振る舞いに、女亭主の怒りが爆発しようという時

 《気まぐれ姫》は客を無視して、淡々と彼女に向かって話しかけた。


『 どうやら今夜もこの店に、僕に釣り合う旦那さまはいないようですね 』

 聞き間違いかとざわめく男達を後目しりめに、礼儀正しく亭主に頭を下げる。

 そして彼女の背後に見知らぬ少年を見付けた。

『 この子供は誰です?初めて見ました 』

『 あ、ああ、街の外れで拾ったばかりの子だ。丁度いいからあんたが世話してやりな、ヤン。どうせ今日のあいつ等じゃあんたは買えないよ 』

『 そうみたいですねぇ 』

 近くから顔を覗き込んでも、そらそうとしない。

『 はじめまして、お前、名前は…── 』

『 …… 』

『 まぁどうでもいいかそんなもの 』

 焦点の定まらないままゆらゆらと漂うばかりの瞳を、青年はじっと見つめた。


『 キレイな翠だ 』

『 …………? 』

『 ……、おいで 』


 ヤンと言う名の青年は、少年の肩に手を添えた。

 ろくに反応しないので、言ったことを理解できているのかどうかも知らないが、背中を軽く押すようにして少年を連れて行く。

 不満不平で膨れ上がる店の戸を閉め、風の吹き荒ぶ歓楽街を歩いた。








──…


─────……






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