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とてもツイていない私

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 ジョアンナの不運は生まれた時まで遡る。

 母が出産中にこむら返りを起こし、のたうち回る母からスポーンと発射されるように生まれてきた事を皮切りに、飛び出した瞬間に母を抑えようとしていた父の顔に頭突きをかましたり、驚くほど大きなデベソになったりと、ありえないような地味についていない事が頻発したらしい。
 生まれてからも、小さな怪我は日常茶飯事。ハイハイすれば床が抜け、歩けるようになると障害物のない道で転ぶし、三回に一回は落ちている動物のウ●コを踏む毎日。
 人通りの多い場所に行けば、落し物はするし、スリにも遭う。
 彼女が欲しいと思うものは目の前で売り切れ、同じ店で同じものを買っても私のものだけ欠陥品だし、気を付けていてもインクは必ず垂れる。
 同じ木からとった実を食べると、彼女が食べるものだけ酸っぱかったり苦かったりした。
 それでも、ジョアンナが捻くれずに済んだのは、それを温かく見守ってくれていた家族と、いつも一緒にいてくれた幼馴染のお陰だ。
 その両親が事故で他界した時は辛かったけれど、残された彼女を祖父と祖母は大切に育ててくれたし、仲の良かった幼馴染が騎士になると領地を離れてしまった時も悲しかったが、領地の人々は明るく気遣ってくれた。
 一緒に座っていた椅子の足が何故か突然壊れて引っ繰り返ってしまった時も豪胆な祖父は大笑いしてくれたし、気を付けていても破いてしまう服は祖母がニコニコ笑いながら直してくれたのだ。

「ジョアンナと一緒にいると退屈している暇がないわい」
「お転婆だっていいじゃない。私は元気で明るいジョアンナが大好きよ」

 時には酷い事をする人もいたけれど、それでも優しい人達に恵まれ、ジョアンナは自分を幸せだと思う。


 私は不運だ。けれど、不幸じゃない。


「――――だから、これも『不幸』じゃないわ」


 ただ、縁がなかっただけ。
 不運だが頭は悪くないジョアンナには、ヴィジエールの考えが透けるように見えていた。
 貴族が通う学園で彼が近づいて来た時も、直ぐに彼の狙いが『男爵位』であることは明白で、わざわざそれを教えてくれた人もいた位だ。
 それでも、ジョアンナがヴィジエールを選んだのは、彼がジョアンナの不運ごと受け入れてくれていたからだった。
 領地にいる人々は昔からジョアンナの事を知っており、ジョアンナの不運を笑って受け入れてくれていたが、学園にいる時はそうではない。
 ジョアンナの神掛かった不運が自分に降りかかる事を恐れ、誰も彼女に近づかなかった。唯一近づいてきたのが、野心を持つヴィジエールだけだったのだ。
 彼の下心が分かっていても、領地から遠く離れた学園で親しい人達と離れた日々の中、色々話しかけてくれるヴィジエールはジョアンナの寂しさを埋めてくれた。
 彼の優しさが条件付きであったとしても、嬉しかったし幸せだったのだ。

「私の事を何とも思っていなくても、男爵領を発展させる方法を沢山考えてくれていた貴方の事、私は結構好きだったんだけどな」

 夢の様な話をキラキラ輝く目で語る彼が好きだった。だから、心がある訳じゃないと思いながらも告白も受け入れ、婚約の話も受けたのだ。
 自分を見ていなくても、この目をずっと見ていられるならいいかもしれないと、そう思うほどには彼が好きだったのだけれど。
 何も卒業式の日に、こんな話をする事ないんじゃないかなと思う。
 もっと早く話して欲しかった、なんて言っても仕方がないけれど、溜息は重い。


「――――やっぱり、私はついてないんだなぁ」





「そーんなことはごっざいませんよぉ!」
「へ!」





 妙に明るい声に思わず振り返れば、そこにはピカピカ光る羽根のついた何かがいる。

「………虫?」
「天使でっす! あなた、ジョアンナ・ディンプルさんで間違いないですか?」
「は、はい。私はジョアンナですけど…どこかでお会いした事ありましたか?」
「その答えはイエスでありノーでっす!」
「え? え?」

 その虫、改め天使はニコニコと笑いながら、プップカプーとどこか気に抜ける笛を鳴らした。


「おっめでとうございまっす! ジョアンナさんの不運は今日で終了しました! 明日っから貴方はスーパーラッキーガールでーす!」
「はい?」


 思わず聞き返した私は、多分悪くない。


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