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※2020年……バレンタインデー前編

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実は……
彼女がいる初のバレンタインデー

オレはとっても期待していた。

とってもじゃない!

天に昇るほどというか、
天が落ちてくるんじゃないかって思っちゃうほど
期待していたし
浮かれていたんだ。

前日はバレンタインデー当日の
彼女からもらう予定のチョコレートを
オレにハニカミながら飛びっきりの笑顔
もしくは照れ臭そうにしながら
渡してくれるシチュエーションを想像して
なかなか寝付けなかったし
いつも以上に早く起きてしまったし

そうなんだ。
オレはこの上なく
バレンタインデーという当日を
楽しみにしていたんだ!

いつもはささっと済ます日常の朝。
今日は何度も鏡を見て
身だしなみのチェック
髪型のチェック

キスすることなんてないって
そんな進展あるわけないのに
いつも以上に歯磨きをして
何度も息を吐いて
自分の口臭までチェックして

オレ……どれだけ浮かれてる?

いつもより早く学校に行き
いつもより早く教室に行き
自分の席に座って足をばたつかせている。

早く彼女が来ないかなーって

それなのに
来るのはクラスの女子とか
他のクラスの女子とか

バレンタインのチョコを
持ってきてくれるんだけど……

「彼女いるから受け取れない」

そういっても女子のパワーは
凄すぎて
圧倒されて

「義理だから」
「気持ちは無理でもチョコだけでも受け取って」

それだけならいいんだけど

「好きです!」

ストレートでぐいぐい来ちゃう子も
いるんだよね……。

そういう子は大抵
受け取り拒否るまもなく押し付けて
去っていっちゃう。

そうして今年も机の上に増え続ける
キレイにラッピングされたチョコたち。

友達から羨ましがられるのはいつものこと。
だけど……これは、この状況はどうしたものか。

うーん困ったものだ。

オレが欲しいのはただひとつなのに

義理チョコを贈りまくっていた女子から
空になった大きめの紙袋をもらって
机のチョコを入れていく。

人の気持ち……
好きっていう想い……

そんな大切な気持ち
渡すだけでも勇気がいると思うから
その行為をオレは

無下にはできない。
だから、持って帰るしかない。

「ごめん」といいつつ
受け取ってしまっているオレが悪い。

でも、彼女を待つオレは
ずーっとそわそわしっぱなし。

授業が終わったらついつい
まだかなまだかな?

未練がましく
ひとつのバレンタインチョコを待っている。

でも……
授業が終わっても

放課後になっても

帰宅する時間になっても

校門で待っていても

一緒に帰る時間になっても

小指を繋いで帰っている最中でも

バレンタインデーの話になることもなく
ただただのんびりゆっくり
歩いているオレたち。

今日って……
バレンタインデーだよね?

好きな人にチョコレートを贈るという
素晴らしいイベントだよね?

……キミはオレのこと
そんなには好きじゃないってことなんだろうか?

や、やばい……

ちょっと凹む
いや、かなり凹む

こんな状態で
一緒に歩くのって
辛くてどうにかなっちゃいそうだよ……

キミはオレのこと
本当に好きなの?

オレ期待しすぎたの?

オレはキミだけのチョコしか興味ないのに……
キミだけからもらいたかったのに……

とうとう家まで着いちゃった。
いつものように笑顔で言わなきゃ!

「じゃあ、また明日!」

オレは笑えていたのだろうか?
強張らずに挨拶、出来ただろうか?

自信ない。

明日という自信さえ
オレにはないんだけど?

キミの顔を見たくなくって
オレはさっさと歩き出した……。

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