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『編み物男子部』?ができるまで。
42 狙われた翌日の出来事 2
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俺が五歳の時の寒い冬。近所の兄ちゃんが何かを首に巻いていたものをマフラーだと教えてくれたこと。
その見せてくれたマフラーは不格好な形をしていたこと。
そのマフラーは編み物をしたことがない彼女が兄ちゃんのために作ったこと。
嬉しそうにそのマフラーを大切に首に巻き直してた兄ちゃんの幸せな笑顔が忘れなかったこと。
その笑顔が忘れられなくて、俺も編み物をして誰かのために作ってあげたいと思うようになったこと。
母に編み物がしたいと言って、冬の間だけ一緒にするようになったこと。
小学一年から六年までマフラーをつくって母と交換してたこと。
いつか渡せたら……と思ってた気持ちの初心にかえって編み物を再開しようとしたこと。
出来ることなら、同じような気持ちを持った仲間と一緒に編み物がしたいと……そう思って『編み物部』を作ろうとしたこと。
それも男子のみの『編み物部』を……。
感慨深げにほっと一息ついた。
静かな空間が広がっていく。
「な、なぁ。聞いていいか?数合わねぇんじゃねえの?十五だろ?九じゃねーのか?残りはどこ行ったんだよ!」
「あ、そう言えば……でも、九じゃなく六だよね?わかんなくなってきた。どうなってるの?」
「今年、やっぱりマフラー渡すんだよね?」
「何編み?どんなのを作ったの?」
静けさを破った相沢君の言葉がきっかけになって……。
矢継ぎ早に降ってくる質問にちょっと引いてしまう。
俺はうまく火消しが出来なかった……。
いつもと違った疲労を感じながら何とか部活が終了し、足取り重くサッカー部のいるグランドへ向かう。
渡り廊下で見る時間なんか必要ない。神崎川がいないのだから。
サッカー部の練習をしているのを見ている女子生徒からかなり離れた場所で練習を見ることにした。これ以上揉め事は御免だ。
この先の今日の出来事を想像して大きなため息が出てしまった。
どうしてこんなことになってしまったんだろう?
じょうちゃんを遠くから見て……決心がついたから作ったマフラーを勇気に変えて告白して、玉砕して……じょうちゃんの想いを忘れて新たな一歩を踏み出す……ただそれだけを思っていたのに……!
世の中、思い通りにいくことなんて殆どないって認識はしてるけど、俺の人生の道にサッカー部のキャプテン……あの男は存在しない筈だった。
油断をした訳ではない、不意打ちに対処可能なのは武術系を少しでも習った者ぐらいだと思う。
身を守る代償に物を差し出す……そう思えばいいだけだよね……?
わかってる。
言い訳だ!
そんなことを考えていると、
「ねぇ、あんた……」
俺の肩を二度ポンポンと叩きながら声をかけてくる女性の声が聞こえてきた。
いつ俺の側に来たのだろう?
振り返ると、俺と同じ背丈の女子がいた。見覚えがある。
神崎川を応援している中にいた女子だ。
厄介なことになったな……。
俺は心の中でため息をついて対処法を模索しながら返事をした。
「俺に何か用ですか?」
「神崎川君は今日は部活に来てないの?」
「ええ、学校も休んでますから」
それを聞いて何か考え事をしながら俺にまだ話を再開してきた。
「忠告してあげる」
「何をですか?」
神崎川に近づくなとか?そんな話なら聞けないけど。
「部長には気を付けて」
「へ?」
予想の範疇外の言葉に変な声を発してしまった。
「部長……?」 って誰?
「サッカー部のキャプテン兼部長、村瀬智のこと」
そっか、キャプテンは部長……当たり前のことだよね。わからなかった。
あ、あの男……村瀬智って言うんだ。
知りたくなかったな……。
部活が終了した事を知らせる挨拶の声がサッカー部から聞こえてくる。
行かなきゃ……。
「もう、手遅れですよ……」
色のない表情を……してたんだと思う。彼女の表情は俺の言葉を聞いた途端、顔色が変わって辛そうだったから。
俺は機械仕掛けのように淡々と歩く。
あの男の元へ……!
その見せてくれたマフラーは不格好な形をしていたこと。
そのマフラーは編み物をしたことがない彼女が兄ちゃんのために作ったこと。
嬉しそうにそのマフラーを大切に首に巻き直してた兄ちゃんの幸せな笑顔が忘れなかったこと。
その笑顔が忘れられなくて、俺も編み物をして誰かのために作ってあげたいと思うようになったこと。
母に編み物がしたいと言って、冬の間だけ一緒にするようになったこと。
小学一年から六年までマフラーをつくって母と交換してたこと。
いつか渡せたら……と思ってた気持ちの初心にかえって編み物を再開しようとしたこと。
出来ることなら、同じような気持ちを持った仲間と一緒に編み物がしたいと……そう思って『編み物部』を作ろうとしたこと。
それも男子のみの『編み物部』を……。
感慨深げにほっと一息ついた。
静かな空間が広がっていく。
「な、なぁ。聞いていいか?数合わねぇんじゃねえの?十五だろ?九じゃねーのか?残りはどこ行ったんだよ!」
「あ、そう言えば……でも、九じゃなく六だよね?わかんなくなってきた。どうなってるの?」
「今年、やっぱりマフラー渡すんだよね?」
「何編み?どんなのを作ったの?」
静けさを破った相沢君の言葉がきっかけになって……。
矢継ぎ早に降ってくる質問にちょっと引いてしまう。
俺はうまく火消しが出来なかった……。
いつもと違った疲労を感じながら何とか部活が終了し、足取り重くサッカー部のいるグランドへ向かう。
渡り廊下で見る時間なんか必要ない。神崎川がいないのだから。
サッカー部の練習をしているのを見ている女子生徒からかなり離れた場所で練習を見ることにした。これ以上揉め事は御免だ。
この先の今日の出来事を想像して大きなため息が出てしまった。
どうしてこんなことになってしまったんだろう?
じょうちゃんを遠くから見て……決心がついたから作ったマフラーを勇気に変えて告白して、玉砕して……じょうちゃんの想いを忘れて新たな一歩を踏み出す……ただそれだけを思っていたのに……!
世の中、思い通りにいくことなんて殆どないって認識はしてるけど、俺の人生の道にサッカー部のキャプテン……あの男は存在しない筈だった。
油断をした訳ではない、不意打ちに対処可能なのは武術系を少しでも習った者ぐらいだと思う。
身を守る代償に物を差し出す……そう思えばいいだけだよね……?
わかってる。
言い訳だ!
そんなことを考えていると、
「ねぇ、あんた……」
俺の肩を二度ポンポンと叩きながら声をかけてくる女性の声が聞こえてきた。
いつ俺の側に来たのだろう?
振り返ると、俺と同じ背丈の女子がいた。見覚えがある。
神崎川を応援している中にいた女子だ。
厄介なことになったな……。
俺は心の中でため息をついて対処法を模索しながら返事をした。
「俺に何か用ですか?」
「神崎川君は今日は部活に来てないの?」
「ええ、学校も休んでますから」
それを聞いて何か考え事をしながら俺にまだ話を再開してきた。
「忠告してあげる」
「何をですか?」
神崎川に近づくなとか?そんな話なら聞けないけど。
「部長には気を付けて」
「へ?」
予想の範疇外の言葉に変な声を発してしまった。
「部長……?」 って誰?
「サッカー部のキャプテン兼部長、村瀬智のこと」
そっか、キャプテンは部長……当たり前のことだよね。わからなかった。
あ、あの男……村瀬智って言うんだ。
知りたくなかったな……。
部活が終了した事を知らせる挨拶の声がサッカー部から聞こえてくる。
行かなきゃ……。
「もう、手遅れですよ……」
色のない表情を……してたんだと思う。彼女の表情は俺の言葉を聞いた途端、顔色が変わって辛そうだったから。
俺は機械仕掛けのように淡々と歩く。
あの男の元へ……!
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