あみdan

わらいしなみだし

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『編み物男子部』?ができるまで。

32 やっぱり…うまくいかない

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 今日は朝からクラスの男子生徒を見かけては勧誘を開始した。

 まだクラスメイトと打ち解けていないし仲良くなった訳じゃないけど、心を落ち着かせて普通に声を掛けてみた。そのつもりだった。
 
 どうして声を掛けるのがこんなに難しくなってしまったのだろう?
 小学時代はなんてことなかった行動だったのに。

 編み物部に勧誘すること。それ以上に、クラスメイトに声を掛けることが普通に出来なくなっている自分に驚愕した。
 だから、声を掛けるのにはかなりの勇気が必要だった。自分は勇気…っていうものがなくても何でも思ったことはごく当たり前のように実行出来た、そう自負していたのに。

 こんなにもクラスメイトに声を掛けることが怖いと思っていただなんて知らなかった、だから困惑した。クラスメイトの顔も名前も覚えているというのに……。
 体が震えるようで、ほんのり汗ばんで、心が忙しない。心臓の音もなんだけど。

 中学時代はすべてを拒絶していたから、何一つ必要なかった。

 声を掛けてみたけどちょっと、辿々しくってそんな自分がもどかしかった。
 勇気を絞って声を掛けてはみるものの、大抵の男子生徒は部活に入部していた。入部していない生徒でもやんわり断られたし、はっきり部活には入らないとも言われたし。
 数人が、言葉を濁していたけどたぶん、彼らの雰囲気からして無理だと思った。

 神崎川は気を使ってからなのだろうか、俺の肩を抱くことをしなった。
 俺が話しかける相手に威圧的な態度もとることもなく。
 目線さえ、この件は無関心……とでも言っているようにそっぽ向いてくれている。
 隣には変わることなくいるけれど。
 部の勧誘の邪魔になると思ってくれているのだと……。
 
 俺は勝手にそう思ってて、ちょっと神崎川の態度が嬉しかった。

 編み物をしたい男子なんか、やっぱりいないんだ……。
 そう、諦めるしかなかった。

 俺が男子生徒に勧誘してるのを見て女子たちがそわそわしてるのが目に入ったけど、理由はわからなかった。

 俺たちの側に朔田君が様子を伺うようにやって来た。

「鳴海くん、どうだったの?」
「全滅だよー」
「やっぱりね。見ててそんな気がしてた」
「お前は手伝わないのか?」 突然、神崎川が口を挟んできた。
「ご、ごめんなさい……皇帝……」 怯えるような声の朔田君。
「神崎川、いいんだよ。俺がポスターだけでいいって言ったんだし!ね、朔田君」
「ありがとう。……戦力になれなくてごめん」
「ポスターだけで十分戦力だよ。あ、一人入部者がいたんだよ!あのポスターを見て。凄くない?」
「え?ホントに?」
「そうだよ。だから朔田君は十分戦力になってるから、ね!」

 朔田君は俺と神崎川を交互に見ながら、笑顔を見せて一言「ありがとう」と呟いた。



 放課後、俺は朔田君と理科室の鍵をもらってから理科室へ向かおうとしていた。
 今日も青空でそよ風が気持ちいい、いい天気だ。思わず伸びをしたくなる。
 サッカー部はいつものように練習するんだろうな……。
 何て思いつつ、渡り廊下を歩く時、ふとグランドを見ながら目線をそっちに向けた。

 あ、いた……。
 それだけで、満足なんだ……。

 歩く歩調をゆるめることなく、歩く方向に目線を戻して理科室へ歩を進めた。

 今日は三人での部活……の予定。
 ちょっと緊張する。

 鍵を開けて理科室に入ったところで、坂口君がやって来た。
 俺は手を軽く振りながら坂口君と挨拶をしあった。
 坂口君が俺を見る目線を横にずらす。
 朔田君を見るなり、ツカツカとそっちに向かっていき右手を出して挨拶をし始めた。

「はじめまして。僕は小学校から鳴海君とお友達の坂口友哉です。ヨロシク」
「あ、僕は……朔田乃斗、です。は、はじめまして」

 差し出された右手をぎこちなく手を合わせて握る朔田君。

 穏やかに見える握手なのに、二人とも目が険しいんですけど。
 何を牽制してるんだろう?
 それとも……気のせい?

 俺は二人に声を掛けて座るように促した。
 坂口君は渋々と?朔田君はさっさといつも座ってる席ではなく、俺の隣を陣取った。
 坂口君の目がますます険しくなる。

 どうしてこんなに険悪なの?
 
「あの……二人顔を合わせるのは、初めてだよね?」
「うん、そうだよ。鳴海君」
「そう、だけど……」
「なんか、雰囲気悪くない?」
「鳴海君、気のせいだよ。僕たち仲良く出来るよ、ね?朔田君……」
「う、うん。大丈夫……。出来る……」

 なんか、疑わしい。

 坂口君は柔らかい口調の中、何処か棘を感じてしまう。
 朔田君は弱々しい口調なのに、目線が坂口君を睨んでるように見えるし。

 なんだかなぁ……。

 部員集めは芳しくないのに……。
 これでは、先が思いやられる。

 二人を見ながらこっそりため息をつくしかなかった。




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