本気の恋をもう一度

蜜花

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出会編

17.待ち人

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 ノイエさんと結婚したら。妻になったら。想像をしてみる。部屋を片付けて、食事の用意をして彼を待つ。

 『帰る』と言われたのが嬉しかった。『会いに行くよ』なら、舞い上がっていない。

 出会ってから七日ほどなのに、ぐんぐん惹かれていく。今も早く会いたくてしょうがない。

 一緒に食事をして、二人の将来を話し合いたい。これからを想像するだけで自然と笑みが溢れてしまう。

「早く帰ってこないかな……」

 ◯⚫️◯

「んっ……」

 突然の浮遊感に目を開けると、私が好きな香りがした。

「お帰りなさい」
「ただいま」

 抱き上げてベッドへ運ぶ途中で私が目を覚ましたらしい。帰りを待つ間に眠ってしまった。

「ご飯を食べませんか。美味しいと聞いて買ってきたんです」
「眠らなくて大丈夫か?」

 窓の外はまだ暗い、明日は昼からの勤務だから大丈夫だろう。

「せっかく会えたから。眠るのがもったいないと思いませんか」
「誘惑が上手だ」

 キスを仕掛けようとするノイエさんを慌てて止めた。騎士団の滞在期間はあと七日だ。触れ合いよりも、先の約束をしておきたかった。

「お話しがあるんです」
「あなたが望むなら……」

 欲求は少し我慢してもらわなくては。体が持たないのも理由の一つだ。

「そうしましょう」

 お姫様抱っこのまま運ばれ、ノイエさんは椅子に座る。私は膝の上だ。

「この格好は……恥ずかしいです」
「椅子は増やしたくないな」

 ずっと膝に座らせる気だ!もしや、ノイエさんは私の部屋に住むつもりなのだろうか。

「それなんですが……ノイエさんが所属するフェニックス騎士団はあと七日で街に帰りますよね?」
「そうだな」

 なんでもない風に言うから、泣きそうになった。こんな時こそポジティブにいきたい。

「私はノイエさんと離れてしまうんですね……会いに来てくれますか? 」

 街への移動費は高額だ。薄給からは簡単に出せない。私が行けるのは二ヶ月から三ヶ月に一度の頻度だ。

「オレは帰らないが? 」
「えっ」

 騎士団を辞める選択肢はまだ残っていたのだろうか。私が養うならば、別職の掛け持ちを検討しなくては。

「あなたのそばにいると言っただろう」
「言いましたか……」
「態度で示していた」

 頬にちゅっとキスをされた。ノイエさんは、私が行く先ならどこでも来てくれると思う。私も思いに応えねば。

「私、お仕事を頑張りますね」
「それはほどほどしてくれ。新婚ですれ違いは寂しい」
「でも……」

 ノイエさんが私の瞳をじっと見つめてくる。新婚と言われて顔が少し引き攣ったせいもきっとある。ずっと一緒にいたいし、いつかはしたい。今すぐには心の準備ができていなかった。

「何か行き違いがあるようだな」

 私たちは認識のすり合わせを始めた。

「ノイエさんは騎士団を辞めるのですよね? 」
「辞めない。あなたがそう望んだ」

 二人の間に沈黙が流れた。

「この町に転勤するんですか? 」
「そうとも言える」

 ノイエさんと暮らすには、対話が必要だと感じた。

 『治安の悪化を原因として、ガーバ騎士団は増員するんだ。今回の出張はこの町に残る人員を選ぶためでもあった。知らなかったか?町中の噂だと聞いていたが』

 なんて言われても、私は噂を知らなかった。

 そういえば、アンナおばさんは前に言っていた。騎士団員は名乗らない。なぜなら自分の顔や名前を、女たちは把握していると思っているからと。

「町に残れるなら、なぜ騎士団を辞めつもりだったんですか? 」
「あなたと過ごす時間は長いほどいいだろう」

 そんなことで……と思うけどやっぱり嬉しい。

「結婚は先でもいい。まずは同棲しよう」
「ここでですか」
「ここがいい。一人の時も、部屋中にあなたを感じる」

 気のせいだと思う。『長く住んでいるからだな』と聞こえた。

 安心したらお腹が空いてきた。串焼きは冷めてしまってもおいしそうだ。

「ノイエさん、食べさせっこをしませんか?すぐ帰ると思って待っていたら……あれ」

 寝ぼけと恋心は怖い。大切なことを見逃す。

「リリー? 」

 不思議そうな表情をしているけれど、それは私がするべきです。

「ノイエさん。この部屋にどうやって入ったんですか……」
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