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出会編
14.騎士団の詰め所
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騎士団の詰め所の前を通る機会はあった。でも、中に入っていない。
敷地内に大きさの異なる施設があり、役割も違うらしい。大きな方が詰め所と呼ばれており、自首するならばここ……そんな未来は来ないで欲しいけど。
小さな施設に正式名はなく、番所や仮宿、ボロ屋と呼ばれている。最後のは悪口ね。
とりあえず、いつでも相談を謳っているのは小さい建物方だから、そちらの中に入った。
「こんにちは」
書類書きをしていた騎士団員と目が合う。水色の瞳にピンクの虹彩は珍しい。つい見つめてしまったら、怪訝な顔をされた。
「こんにちは。何か困り事ですか。こちらへどうぞ」
中に案内され、小さな椅子で向かい合う。団員は書きかけの書類を置いて別の紙を取り出した。
「まずはお名前と、年齢、住所、お勤めなら勤務先もお願いします。話せる範囲で結構です」
「困っていたので、相談できて嬉しいです。私はリリーと申します」
こめかみがピクッと震え、私を見る目が厳しくなった。接客業に就くと表情の変化に敏感になる。
「リリー・アベルか」
私がこの町では家名を名乗っていない。聞いたとしたら、マジェレド団長が呼んだ一度だけ。積極的に開示しないだけで隠しているわけではない。
「はい、アベル商会の娘でした。今は絶縁されてただのリリーです」
膝を組み、肩肘をつき彼女は私を眺めている。私はとりあえず、微笑みを返す。
「お父上はやり手ですね。一生をかけて罪を暴くと誓う団員もいるのですよ」
なんとも悪意のある笑いだった。父と同一視され憎まれ攻撃されたのは初めてではない。
「父は父、私は私ですから」
「そうでしょうか」
ここに来たのは失敗だった。恋人だからとノイエさんに話すのは気が引けて、ボロ屋まで歩いて来たのに。この呼び方は私と同じく雑な対応を受けた人がつけたのだわ。
「あれダウナー、相談者か」
「そう、リリー・アベルさんだよ」
奥から出た来た男性団員は私の名前に一瞬だけ反応したがすぐに取り繕った。
「ダウナー、お前あがりだろ。代わる」
「いい、私が続ける」
ダウナーの苗字は最近聞いたばかりだ。まさか、血縁だろうか。
「いいから。アベルさんですね、申し訳ないです。僕はウィンディアです。最初から説明していただけますか」
「はい、もちろんです」
まだ何も話していなかったし。
客がアクアマリンにしつこく絡み、『性的な揶揄いをする・何か秘密を話せと迫る』の二つを相談した。
「今日は、ご本人は? 」
「私が気になって来ただけですから」
「そうなると、被害届は受理できないんですよね……」
「相談した記録は残せますよね? 」
後から来た団員は、ダウナーと呼ばれた団員が用意した紙に書きこみを始めた。
「静かな町だったのに、開発が始まるとそうもいきませんね」
「僕は賑やかになるのを歓迎しています」
愛想笑いをして、ボロ屋を出た。私に生身の人間が敵意をぶつけたのは久しぶり。心が疲れてしまい、無性にノイエさんと会いたい。今はどこで何をしているだろう。
◯⚫️◯
外に出ると、ダウナー団員が私を待っていた。会釈して帰ろうしたら、手首を掴まれる。上質なワンピースはこの町から浮いて、過去に会った貴族の令団員を思い出した。彼女のせいではないのに、胸がムカムカしてしまった。
「私。あなたに話がありますの」
「申し訳ございません。先を急いでおります」
細身に見えても鍛えているようだ。外そうとした手はピクリともしない。
「こちらへ」
連れて行かれたのは馬車の中だった。向かい合って座ると、扉が閉められ施錠の音がする。連れ去る気かとヒヤヒヤしてきた。
「拉致など致しませんわ」
「さすがは魔法使いの妹君ですね」
言葉に出していない感情について回答しないで欲しい。お互い逸らしていた視線が絡まった。やっぱり瞳は珍しい色合いで心惹かれる。たとえ私を嫌っているけ相手でも。
「兄はその呼び名を面白がっていたわ。抱き込むのはお手のものかしら」
誤解だと何度も叫んだ。否定してくれと頼んでも、飛び火を嫌い私を庇う人はいなかった。過去の記憶が蘇るのを止められない。
「マジェレド団長のことは誤解です。でも……ありがとうございます」
「なんですって」
「私がペルテト様に愛されていたと。ノイエさんに愛されていると認めてくださったから」
バチンではすまない衝撃が頰に走った。頭が揺れてクラクラする。痛みから自然と涙が溢れる。
「あなたの父は不正で財をなした。市民から巻き上げたお金で養育を受けわよね。現に、騎士団員を引き込んだことをあなたは認めたじゃないの」
痛い。頬が痛いし、心が痛い。父は欲深い人だが悪人ではなかった。悪評も利用して成り上がる力を持っていただけ。
「私は愛したんです、ダウナー様」
また手を振り上げ、力を込めて私を睨みつけている。逃げられない状況ながら、私の心は凪いでいた。
「ペルテト様だから、ノイエさんだから愛しました。父も騎士団も関係ありません」
ダウナー団員はふーっふーっと息を吐くと、窓の外に合図する。従者が鍵を開けて、ダウナー団員加から降りろと指を刺された。
「わたくしは認めませんわ」
振り返って会釈をする。手を受けた頬はまだ痛い。気をつけていないと人前で泣きだしてしまうだろう。
敷地内に大きさの異なる施設があり、役割も違うらしい。大きな方が詰め所と呼ばれており、自首するならばここ……そんな未来は来ないで欲しいけど。
小さな施設に正式名はなく、番所や仮宿、ボロ屋と呼ばれている。最後のは悪口ね。
とりあえず、いつでも相談を謳っているのは小さい建物方だから、そちらの中に入った。
「こんにちは」
書類書きをしていた騎士団員と目が合う。水色の瞳にピンクの虹彩は珍しい。つい見つめてしまったら、怪訝な顔をされた。
「こんにちは。何か困り事ですか。こちらへどうぞ」
中に案内され、小さな椅子で向かい合う。団員は書きかけの書類を置いて別の紙を取り出した。
「まずはお名前と、年齢、住所、お勤めなら勤務先もお願いします。話せる範囲で結構です」
「困っていたので、相談できて嬉しいです。私はリリーと申します」
こめかみがピクッと震え、私を見る目が厳しくなった。接客業に就くと表情の変化に敏感になる。
「リリー・アベルか」
私がこの町では家名を名乗っていない。聞いたとしたら、マジェレド団長が呼んだ一度だけ。積極的に開示しないだけで隠しているわけではない。
「はい、アベル商会の娘でした。今は絶縁されてただのリリーです」
膝を組み、肩肘をつき彼女は私を眺めている。私はとりあえず、微笑みを返す。
「お父上はやり手ですね。一生をかけて罪を暴くと誓う団員もいるのですよ」
なんとも悪意のある笑いだった。父と同一視され憎まれ攻撃されたのは初めてではない。
「父は父、私は私ですから」
「そうでしょうか」
ここに来たのは失敗だった。恋人だからとノイエさんに話すのは気が引けて、ボロ屋まで歩いて来たのに。この呼び方は私と同じく雑な対応を受けた人がつけたのだわ。
「あれダウナー、相談者か」
「そう、リリー・アベルさんだよ」
奥から出た来た男性団員は私の名前に一瞬だけ反応したがすぐに取り繕った。
「ダウナー、お前あがりだろ。代わる」
「いい、私が続ける」
ダウナーの苗字は最近聞いたばかりだ。まさか、血縁だろうか。
「いいから。アベルさんですね、申し訳ないです。僕はウィンディアです。最初から説明していただけますか」
「はい、もちろんです」
まだ何も話していなかったし。
客がアクアマリンにしつこく絡み、『性的な揶揄いをする・何か秘密を話せと迫る』の二つを相談した。
「今日は、ご本人は? 」
「私が気になって来ただけですから」
「そうなると、被害届は受理できないんですよね……」
「相談した記録は残せますよね? 」
後から来た団員は、ダウナーと呼ばれた団員が用意した紙に書きこみを始めた。
「静かな町だったのに、開発が始まるとそうもいきませんね」
「僕は賑やかになるのを歓迎しています」
愛想笑いをして、ボロ屋を出た。私に生身の人間が敵意をぶつけたのは久しぶり。心が疲れてしまい、無性にノイエさんと会いたい。今はどこで何をしているだろう。
◯⚫️◯
外に出ると、ダウナー団員が私を待っていた。会釈して帰ろうしたら、手首を掴まれる。上質なワンピースはこの町から浮いて、過去に会った貴族の令団員を思い出した。彼女のせいではないのに、胸がムカムカしてしまった。
「私。あなたに話がありますの」
「申し訳ございません。先を急いでおります」
細身に見えても鍛えているようだ。外そうとした手はピクリともしない。
「こちらへ」
連れて行かれたのは馬車の中だった。向かい合って座ると、扉が閉められ施錠の音がする。連れ去る気かとヒヤヒヤしてきた。
「拉致など致しませんわ」
「さすがは魔法使いの妹君ですね」
言葉に出していない感情について回答しないで欲しい。お互い逸らしていた視線が絡まった。やっぱり瞳は珍しい色合いで心惹かれる。たとえ私を嫌っているけ相手でも。
「兄はその呼び名を面白がっていたわ。抱き込むのはお手のものかしら」
誤解だと何度も叫んだ。否定してくれと頼んでも、飛び火を嫌い私を庇う人はいなかった。過去の記憶が蘇るのを止められない。
「マジェレド団長のことは誤解です。でも……ありがとうございます」
「なんですって」
「私がペルテト様に愛されていたと。ノイエさんに愛されていると認めてくださったから」
バチンではすまない衝撃が頰に走った。頭が揺れてクラクラする。痛みから自然と涙が溢れる。
「あなたの父は不正で財をなした。市民から巻き上げたお金で養育を受けわよね。現に、騎士団員を引き込んだことをあなたは認めたじゃないの」
痛い。頬が痛いし、心が痛い。父は欲深い人だが悪人ではなかった。悪評も利用して成り上がる力を持っていただけ。
「私は愛したんです、ダウナー様」
また手を振り上げ、力を込めて私を睨みつけている。逃げられない状況ながら、私の心は凪いでいた。
「ペルテト様だから、ノイエさんだから愛しました。父も騎士団も関係ありません」
ダウナー団員はふーっふーっと息を吐くと、窓の外に合図する。従者が鍵を開けて、ダウナー団員加から降りろと指を刺された。
「わたくしは認めませんわ」
振り返って会釈をする。手を受けた頬はまだ痛い。気をつけていないと人前で泣きだしてしまうだろう。
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