10 / 18
出会編
10.疑惑
しおりを挟む
私が目を覚ますと体が軽くなっていた。ずっと抱えていた感情を吐き出して、愛を受けたからだろう。
隣を見ると彼はいない、窓から見える空はすっかりと暗く日が落ちていた。
「ノイエ……さ、わっ、びっくりした」
彼を探して部屋を見回すと、中央に椅子を置いて騎士の制服を着込たノイエさんが座っていた。
部屋の明かりは消えたままで表情も暗い。
「どうしたんです……?」
明るい場所で散々見せたのだし今更と、裸のままでノイエさんに近づいていく。肩に手を置いても反応がない。あんなに愛し合った後だから、甘い目覚めと反応を期待したのに。
「君が……オレを惑わすからっ」
「惑わすですか」
なんだか様子がおかしい。ノイエさんには活発で明るいイメージがあった。今は逆だ、風呂場の隅に生えたキノコに似ている。
「私に話せないのですか」
握りしめていた手をほぐして開かせ、胸に触れさせた。大先輩たちから、大抵の男性はこれで元気を取り戻すと聞いている。
「ペルテトに教わったのか……」
「はい?」
「すまない。失言だった」
もしや、私がセックスに慣れすぎていて幻滅した?
ペルテト様とのときは翻弄され、愛し愛される行為とは思えなかった。まるで食べつくされるようで。心から満足して優しい幸せを得たのは初めてだったのに。
「なんでも話し合える関係になりたいのです」
ペルテト様とはできずに心が離れる結果となったから。ノイエさんとは、心を通じ合わせいたい。
胸に置いていた手を自分の顔に当てる。硬く節くれだった、剣を握る人の手だ。
「素晴らしい手ですね」
唾を飲み込み、口を開く音が聞こえた。ゆっくりと、ノイエさんの言葉を待つ。
「将来の話をしたかったんだ」
態度の変化が腑に落ちた。
「あなたは、オレを思ってくれていないのかと思うと辛くて」
眠りにつく前に見た表情と同じだ。私が目覚めるまで、胸に不安が詰まっていたのだろう。
「私がプロポーズを断ったと思ったんですね」
「……違うのか?」
「違います。ノイエさんが望んでくださるなら、私もそうしたいです」
ノイエさんの顔がパァッと明るくなる。急いで部屋の明かりをつけに走り、勢いを殺さずにぎゅっと抱かれた。香水だろうか。水を連想する香りがして、心地いい。
「心が張り裂けそうだった」
「申し訳ありません」
「でも今は幸せだ」
あんなに苦しそうだったのに上機嫌になり、髪へ鼻を埋めてかいでいる。すぐに笑うし、コロコロと表情が変わる。私よりも面白い人なのはノイエさんだと思う。
「服を着せてください」
「確かに。風邪をひいたらいけないな」
少し離れてクローゼットからマシな服を探していたら、背後からノイエさんに抱きしめられた。
「着替えたら団長へ挨拶に行こう」
「マジェレド団長にですか。なにをです」
「結婚と、退団の挨拶だ」
驚きの声は呑み込んだ。結婚自体はぜひしたい。必ず幸せになれると思う。ただ、いくらなんでも展開が早すぎる。
「ノイエさん。私に嘘をつかないと約束してくださいますか」
びくっと跳ねた体を宥めるため、胸に置かれた腕を撫でた。
「私を……いつからご存知だったんです?」
彼は私を愛している。これは揺るがない。でも、結婚をするなら、全てを明らかにしたい。
「なんだろう」
「私たち、食堂で会ったのが初対面ではないんですね?」
抱きしめる力が強まった。
「オレの話を聞いても、逃げないと約束してくれ」
おおげさな前振りをされたら怖い。何を聞かされるのか。
「善処します」
隣を見ると彼はいない、窓から見える空はすっかりと暗く日が落ちていた。
「ノイエ……さ、わっ、びっくりした」
彼を探して部屋を見回すと、中央に椅子を置いて騎士の制服を着込たノイエさんが座っていた。
部屋の明かりは消えたままで表情も暗い。
「どうしたんです……?」
明るい場所で散々見せたのだし今更と、裸のままでノイエさんに近づいていく。肩に手を置いても反応がない。あんなに愛し合った後だから、甘い目覚めと反応を期待したのに。
「君が……オレを惑わすからっ」
「惑わすですか」
なんだか様子がおかしい。ノイエさんには活発で明るいイメージがあった。今は逆だ、風呂場の隅に生えたキノコに似ている。
「私に話せないのですか」
握りしめていた手をほぐして開かせ、胸に触れさせた。大先輩たちから、大抵の男性はこれで元気を取り戻すと聞いている。
「ペルテトに教わったのか……」
「はい?」
「すまない。失言だった」
もしや、私がセックスに慣れすぎていて幻滅した?
ペルテト様とのときは翻弄され、愛し愛される行為とは思えなかった。まるで食べつくされるようで。心から満足して優しい幸せを得たのは初めてだったのに。
「なんでも話し合える関係になりたいのです」
ペルテト様とはできずに心が離れる結果となったから。ノイエさんとは、心を通じ合わせいたい。
胸に置いていた手を自分の顔に当てる。硬く節くれだった、剣を握る人の手だ。
「素晴らしい手ですね」
唾を飲み込み、口を開く音が聞こえた。ゆっくりと、ノイエさんの言葉を待つ。
「将来の話をしたかったんだ」
態度の変化が腑に落ちた。
「あなたは、オレを思ってくれていないのかと思うと辛くて」
眠りにつく前に見た表情と同じだ。私が目覚めるまで、胸に不安が詰まっていたのだろう。
「私がプロポーズを断ったと思ったんですね」
「……違うのか?」
「違います。ノイエさんが望んでくださるなら、私もそうしたいです」
ノイエさんの顔がパァッと明るくなる。急いで部屋の明かりをつけに走り、勢いを殺さずにぎゅっと抱かれた。香水だろうか。水を連想する香りがして、心地いい。
「心が張り裂けそうだった」
「申し訳ありません」
「でも今は幸せだ」
あんなに苦しそうだったのに上機嫌になり、髪へ鼻を埋めてかいでいる。すぐに笑うし、コロコロと表情が変わる。私よりも面白い人なのはノイエさんだと思う。
「服を着せてください」
「確かに。風邪をひいたらいけないな」
少し離れてクローゼットからマシな服を探していたら、背後からノイエさんに抱きしめられた。
「着替えたら団長へ挨拶に行こう」
「マジェレド団長にですか。なにをです」
「結婚と、退団の挨拶だ」
驚きの声は呑み込んだ。結婚自体はぜひしたい。必ず幸せになれると思う。ただ、いくらなんでも展開が早すぎる。
「ノイエさん。私に嘘をつかないと約束してくださいますか」
びくっと跳ねた体を宥めるため、胸に置かれた腕を撫でた。
「私を……いつからご存知だったんです?」
彼は私を愛している。これは揺るがない。でも、結婚をするなら、全てを明らかにしたい。
「なんだろう」
「私たち、食堂で会ったのが初対面ではないんですね?」
抱きしめる力が強まった。
「オレの話を聞いても、逃げないと約束してくれ」
おおげさな前振りをされたら怖い。何を聞かされるのか。
「善処します」
21
お気に入りに追加
473
あなたにおすすめの小説
【完結】傷物令嬢は近衛騎士団長に同情されて……溺愛されすぎです。
早稲 アカ
恋愛
王太子殿下との婚約から洩れてしまった伯爵令嬢のセーリーヌ。
宮廷の大広間で突然現れた賊に襲われた彼女は、殿下をかばって大けがを負ってしまう。
彼女に同情した近衛騎士団長のアドニス侯爵は熱心にお見舞いをしてくれるのだが、その熱意がセーリーヌの折れそうな心まで癒していく。
加えて、セーリーヌを振ったはずの王太子殿下が、親密な二人に絡んできて、ややこしい展開になり……。
果たして、セーリーヌとアドニス侯爵の関係はどうなるのでしょう?
魔力なしと虐げられた令嬢は孤高の騎士団総長に甘やかされる
橋本彩里(Ayari)
恋愛
五歳で魔力なしと判定され魔力があって当たり前の貴族社会では恥ずかしいことだと蔑まれ、使用人のように扱われ物置部屋で生活をしていた伯爵家長女ミザリア。
十六歳になり、魔力なしの役立たずは出て行けと屋敷から追い出された。
途中騎士に助けられ、成り行きで王都騎士団寮、しかも総長のいる黒狼寮での家政婦として雇われることになった。
それぞれ訳ありの二人、総長とミザリアは周囲の助けもあってじわじわ距離が近づいていく。
命を狙われたり互いの事情やそれにまつわる事件が重なり、気づけば総長に過保護なほど甘やかされ溺愛され……。
孤高で寡黙な総長のまっすぐな甘やかしに溺れないようにとミザリアは今日も家政婦業に励みます!
※R15については暴力や血の出る表現が少々含まれますので保険としてつけています。
腹黒王子は、食べ頃を待っている
月密
恋愛
侯爵令嬢のアリシア・ヴェルネがまだ五歳の時、自国の王太子であるリーンハルトと出会った。そしてその僅か一秒後ーー彼から跪かれ結婚を申し込まれる。幼いアリシアは思わず頷いてしまい、それから十三年間彼からの溺愛ならぬ執愛が止まらない。「ハンカチを拾って頂いただけなんです!」それなのに浮気だと言われてしまいーー「悪い子にはお仕置きをしないとね」また今日も彼から淫らなお仕置きをされてーー……。
公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-
猫まんじゅう
恋愛
そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。
無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。
筈だったのです······が?
◆◇◆
「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」
拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」
溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない?
◆◇◆
安心保障のR15設定。
描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。
ゆるゆる設定のコメディ要素あり。
つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。
※妊娠に関する内容を含みます。
【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】
こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)
【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!
楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。
(リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……)
遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──!
(かわいい、好きです、愛してます)
(誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?)
二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない!
ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。
(まさか。もしかして、心の声が聞こえている?)
リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる?
二人の恋の結末はどうなっちゃうの?!
心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。
✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。
✳︎小説家になろうにも投稿しています♪
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
愛する殿下の為に身を引いたのに…なぜかヤンデレ化した殿下に囚われてしまいました
Karamimi
恋愛
公爵令嬢のレティシアは、愛する婚約者で王太子のリアムとの結婚を約1年後に控え、毎日幸せな生活を送っていた。
そんな幸せ絶頂の中、両親が馬車の事故で命を落としてしまう。大好きな両親を失い、悲しみに暮れるレティシアを心配したリアムによって、王宮で生活する事になる。
相変わらず自分を大切にしてくれるリアムによって、少しずつ元気を取り戻していくレティシア。そんな中、たまたま王宮で貴族たちが話をしているのを聞いてしまう。その内容と言うのが、そもそもリアムはレティシアの父からの結婚の申し出を断る事が出来ず、仕方なくレティシアと婚約したという事。
トンプソン公爵がいなくなった今、本来婚約する予定だったガルシア侯爵家の、ミランダとの婚約を考えていると言う事。でも心優しいリアムは、その事をレティシアに言い出せずに悩んでいると言う、レティシアにとって衝撃的な内容だった。
あまりのショックに、フラフラと歩くレティシアの目に飛び込んできたのは、楽しそうにお茶をする、リアムとミランダの姿だった。ミランダの髪を優しく撫でるリアムを見た瞬間、先ほど貴族が話していた事が本当だったと理解する。
ずっと自分を支えてくれたリアム。大好きなリアムの為、身を引く事を決意。それと同時に、国を出る準備を始めるレティシア。
そして1ヶ月後、大好きなリアムの為、自ら王宮を後にしたレティシアだったが…
追記:ヒーローが物凄く気持ち悪いです。
今更ですが、閲覧の際はご注意ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる