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出会編
3.なんの権利が
しおりを挟む私の方を見て、ペルテト様の同僚の方が話しだした。
「オレは店に入ろうとしただけだ」
頭の中に疑問符が浮く。ではなぜペルテト様が止めるの?勤務時間内のサボりとか?
「お前……それだけじゃないだろう」
「どういうことですか? 」
二人を交互に見つめてみる。明後日の方角を見て目を合が合わないし効果がなかった。
「理由はもう聞きません。今後は揉め事を起こさぬようお願いします。あと二週間の任期を、しっかりと務めてください」
二人の返事は、『はい』と『わかった』だった。
なぜ無関係の私がお小言を言わなければならないのか。多分、私の方が年下なのに。
騎士は王の剣であり民を守る盾でしょう。しっかりしていただかないと困るわ。
「リリー殿」
「はい」
部屋の明かりで見ると、ただの茶色だと思った瞳は髪と同じくグリーンがかって見えた。何の色の絵の具を混ぜれば、表現できるだろうか。
「明日も店に立つのか」
「ノイエ」
何か言おうとしたペルテト様の口を、ノイエと呼ばれた騎士様が口を手のひらで覆った。
「ノイエ様とおっしゃるのですね。明日はお休みを頂いております」
ノイエ……よし、覚えた。今日、店に来ていただいた方の名前も覚えなくては。まだ、皆さんの髪の色と瞳の色しか知らないわ。
「様はいらない。ノイエと呼んでくれ」
「あ……」
笑うと幼く見えてかわらしい。男性的で少し険がある印象だったのに。つい見惚れてしまい、恥ずかしい。
「では、ノイエさん。ペルテト様、落ち着かれたのでしたらお帰りください」
タイプの違う綺麗な人たちが近くにいると落ち着かない。早くリラックスして、趣味の絵を描きたい。
「このとおりだ、ペルテト」
「ほとんど初対面の女性の部屋に居座る気か」
ええ、ペルテト様の言うとおり。角を立たせずお断りする方法はあるかしら。
「あの絵は誰の作品だ?作者が知りたい」
「あれは……私が描きました」
正直に言うか迷った。素人の絵を飾っているのだから。
「オレは壁の絵に興味がある。話を聞きたい」
「ノイエ、無理強いすな」
確かにノイエさんはときどき、私の絵を眺めていた。その横顔を私も見ていた。じわじわと上がる好感度を止められない。
「下心はない。心配ならば部屋のドアを開け放ってくれ。ダメか?」
「そうですね……」
「リリーなんて、ふしだらな」
その言葉は捨て置けなかった。
「ペルテト様……ふしだらとはなんですか。私は平民で貴族の令嬢ではありません。田舎に越して来てからも何名かと交際しました。ペルテト様の前にも経験があります。もう大人ですから……わかっていただけますね」
心配は嬉しい。でも、してくれる相手による。終わった恋の相手なら、気が立ってしまう。
「君は変わってしまったのか」
私の言葉に嘘はない、男女の仲になったのはペルテト様のみなだけ。
「だそうだ、安心して帰ったらどうだ」
ペルテト様は何か言いたげだったけど、しぶしぶ部屋を出て行ってくれた。そして私はノイエさんの申し出通りに、扉を開け放っておく。
「か弱い羊に似た姿とは裏腹に、中には狼を飼っているのか」
ノイエさんがそう笑うから、追い出してやろうかと思った。
「絵の話が聞きたかったのではないですか。口実でしたらどうぞペルテト様とお戻りください」
「いや、口実ではない。理由の一つだ」
この人は思ったよりも口数が多く、表情がコロコロ変わる。
「あの絵の色彩に惹かれた。実在するのなら、湖に行ってみたい。そして」
「そして?」
「あなたのことが知りたい」
握られた手から身体中に衝撃が走るのを感じた。この感覚には覚えがある。前に一度だけ……もう二度と得られないと覚悟していたのに。
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