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第5章 なんか同居することになりました
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***
「……もうこれ、山じゃ無くなってますよね」
さっきまでの自然はどこに消えたのだろう。
今はとりあえず山頂まで登ってみようか、ということで全員で歩いているのだが、歩けば歩くほど、およそ山に似つかわしくない人工物が出現するようになった。
俺たちが今歩いているのはレンガ造りの街。それも、知らない街だ。
急な斜面にコンサートホールの客席のようにして建つ家、石を敷き詰めて舗装された坂道、それから迷いそうなほどの袋小路。
斜面に造られた急な階段は一人が通り抜けるのでやっとだったし、舗装は途中で途切れていて、一歩間違えれば馬車道のほうに転がり落ちてしまいそうだった。
幸いだったのは、ここが全くの無人であること。
もし俺たちの他に人間がいたら、進むことは簡単では無いだろう。
「――私たちの街に、似ています」
ウタの作り出した精神世界、その景色を見てカティアさんが言った。
「王国の北にある、とある小さな街。標高の高い場所にあって、坂も急な階段もいっぱい。登り下りが大変なぶん、お年寄りには優しくないけど、そのぶんが人々が助け合ってる、そんな街です」
「……エーキルの街」ブラッドが呟いた。
「そう、そこです! エーキル。私とレイラが育った――ブラッドさん、来たことあるんですね」
「うむ。言っただろう、放浪生活は長いとな」
「へ~、そうだったんですか!」
街について彼らの間で何往復かやりとりがあったきり、パーティーの会話は止まった。
しばし沈黙。
耐えかねたカリンがアイザックさんに言う。
「師匠、そういえば何かレイラに聞きたいことがあるのではなかったか? 一人を除いて全員そろったのじゃし、もう聞いても良いのでは?」
アイザックさんが答える。
「そうだね。強いて言えば、コーキくんの毒手の事故のことについて詳しく知りたいかな。
その前に、拒絶反応が出たって――今こうして歩いているだけでも危険だと言うのに、どうして彼と歩いてる?仮にも敵だったんじゃないか」
レイラが俺の方を見て言った。
「ウタのため、さ。
――いや、それだけでは無いか。
私は、そう、彼の言葉を聞いて思い直したんだ。
……さっきのコーキの激情。
さっきはお互いカッとしていた。私も倒れているウタを見て混乱してた。
だからさっきは正直、お前に何がわかるのだって思ったさ。
けど、頭から離れなくてな、よくよく考えて、だんだん思ってきた。
私は間違っていたのか?と。
ウタ……私は間違っていたというのか?」
俺は慎重に言葉を選び、レイラに言う。
「――うまく言えないんだけどさ。
これから、今感じたその気持ちを忘れずに接してけば良いんじゃないだろうか」
怒りをぶちまけてからというもの、彼女と話すことに抵抗感は無かった。冒険者学校で話しただけで内心ビクビクしていたのが嘘のようだ。こんなに簡単なことだったのか。
「……そうだな……私も、そう、思う」
今話しているのが仇敵だという意識は残っているのか、言葉を選ぶように言った。
俺はそれを見て思った。
やっぱり、ぶつからないと分からないこともあるんだって。
あんな怒りが湧いたのは、冒険者としての譲れない吟持(ぎょうじ)とかもあるけれど。けどそれ以前に、垣間見たからなんだ。俺と同じ卑屈さを。そう。彼女もまた、心の奥でビクビク脅えていたんだ。
そんな気持ちがあったからこそだ。怒ったのは。
そこまで考えて、気がつく。
絶対に生まれなかったであろう一体感、連帯感に。
ウタの仕掛けた命がけの“お願い”の効果が俺まで及んでいることに。
誰にも聞こえないよう、口を閉じて舌打ちを試みる。当然音は鳴らなかった。
――あいつ。謀ったな。文字通り、命をかけて。
目を覚ましたら、絶対に問い質してやる。
お前がこんなことをしたのは、俺とレイラを和解させ、そして彼女を正しい方法に導き直すためだったんだろって。
そりゃあ一年間俺のことを調べあげたりするわけだ。
俺たちがお互いに黙ったのを見計らい、アイザックさんが再び口を開いた。そしてレイラに問う。
「話は戻るけど、拒絶反応のことで、何か変わったことはないかな?
例えば、自分だけの体質?とか、そういったものはあるかな」
「これといって違うところを挙げろと言われれば、一つだけある。
――私は桃が食べられない」
桃。意外な単語が出てきた。
「桃? あの、果物のかい?」
「ああ、子供のころ、姉が持っていた『魔法の桃』を勝手につまみ食いして死にかけたことがある。
それ以来、普通の桃も怖くて食べられないのだ」
魔法の桃は回復アイテム。普通の桃とは違って特別な種類の木から取れるものだ。
「その通り。レイラは桃だけはだめなんです。」カティアさんが補足する。
なんだか意外だ。
「君の症状、聞いたことがあるよ―― それはおそらく、『ルクレッティ』、と呼ばれるものだ」
「『ルクレッティ』? 初めて聞いたな」
「ああ。最近ある研究所で魔法を調合する最中、毒性も何も無い、本当になんでもない材料に触って皮膚がかぶれた人がいてね。
職員達が調査を重ねた結果、特定のものを摂取すると体質によってひどい拒絶反応を起こす人が稀にいることが分かってきたんだ。
同様の反応がさまざまな異世界でも見つかっていて、そのうちの一つでは主に、アレルギィと呼ばれているらしい。
あ、異世界からたまに人間が飛ばされてくるのは分かるよね?」
「はい」
異世界。この俺たちが住んでいる世界にはときどき見たことの無い服装をした人間が迷い込む。
その年齢や格好は多種多様。
帰る方法が無い以上、彼らは政府に保護されてからこちらで新たな人生を過ごすことになる。
彼らの言う異世界というものの、その口から語られる“元いた世界”というのがまるでバラバラなのだ。
共通するのは、こちらの言語が話せるということのみ。
「あ、異世界と言えば、コーキさんも……」カティアさんが思い出した。
カティアさんとスラムの入口で話したこと。
俺の母と思われる人間もそうだ。彼女は息絶える直前まで赤ん坊を抱いていて、それが今の俺だ。
あまり実感は湧いてこないが、俺も一応異世界の人間なのだ。
アイザックさんがはっと喋りだす。
「――待てよ?
反応が出たということは、コーキ君の毒と桃に何らかの因果関係があるのか?
しかし、コーキ君の毒を調べても魔法の桃にだけ含まれる特別な成分なんて、何一つ検出されなかった。
それでは、魔法の桃と彼の毒にはそれぞれ我々がまだ発見していない隠れた成分があるというのか?
それとも、魔法の桃に拒絶反応がある人間に対して効くなんらかの成分が彼の毒に?
そもそも、なぜ桃なんだ?」
これは長くなりそうだ。
アイザックさんの思考が回転しきるのを待たずに、俺は話題を変え、前を歩くレイラにさっきから気になっていたことを聞いてみた。
「そうだ、親衛隊のやつらは?」
「山の下に置いてきた」
「冒険者学校から付いてきたのか?」
「いいや、私が命令を下した」
「命令? 従者はウタだけで、親衛隊は非公認なんじゃなかったのか? まあ、お前の頼みならイエスマンになるんだろうけど」
「彼ら、特にラカーンとカンザクには付き人時代からの恩がある。
その……ファ、ファンクラブなんか結成したのは気恥ずかしいが、流石に無下にはできまいよ。
ほんと困ってるよ、そういうのはその、私のガラじゃないというのに。でも部下として粗末にもできないし」
そう早口で言うと、サッとうつむいた。
よほどファンクラブというのが恥ずかしいんだな。
けど……けっこう情に厚いじゃないか。
***
「俺さ、ウタが言ってたことがずっと気になってるんだ」思いきって言ってみる。
「それはもしかして……」
「お前の過去さ。彼女はそれを中途半端に言い残したかたちになる」
「……話す気にはなれない」レイラは腕組みをして言った。
「じゃあ俺の仮説、聞いてみる?」
「……なにを」
「――こういうことだろ?」
俺は彼女が十歳かもしれないということを皆の前で話した。
その間レイラはじっと俺の考察を聞いていた。
他の面子を見ると、事情を知るカティアさん以外は、信じられないという顔をしていた。
話し終わると、レイラが口を開いた。
「……正確には違う」
「じゃあ?」
「だからその話はしたくない」
「がくり」
「もう、仕方ない子ですね。代わりに私が――」カティアさんが手を挙げた。
「あーあーあー! 聞こえない聞こえないなんにも聞こえなーいー!」
「レイラ、うるさ……むぐっ!! ちょっと、なにするのよ!!」
レイラに妨害されて顔を引っ張られるカティアさんを見て、俺は思わず吹き出した。
それを目にしていたのか、カリンが言う。
「ところでコーキ、よくこんなのと普通に話せるのう」
「いや、割りとこういうのの扱いには慣れてるっつーか……、どうしてそんなこと聞くんだ。カリンには別に関係ないだろ?」
答えづらい質問をぶつけてきたので、そう言い返した。
「……別になんでもないわい」カリンが顔を赤らめて目をそらす。
「??」
「あ、わかったぞよ! お主、本当は自己暗示をかけとるのではないか?」取り繕うように言う彼女。
「ん、どういうことだよ」
「お主の予想ならレイラは本当は十歳、つまり彼女の罵倒を頭の中で童女ボイスに置き換えて興奮しとるんじゃろ? をわー、ものすごい変態なのじゃ!」
「しねーよ! 上級者か!」
「変態、変態」おどけたような声を出す彼女。
「変態は言ったテメーだろ、この貧に――ぐるぼぁっ!」
久々に足蹴をお見舞いされた。
「り、理不尽だ……」
「雉(きじ)も鳴かずば撃たれまい。一言余計なのじゃよ」
そう言って俺を追い越したカリンの横顔は、さほど怒っているようには見えなかった。
「……もうこれ、山じゃ無くなってますよね」
さっきまでの自然はどこに消えたのだろう。
今はとりあえず山頂まで登ってみようか、ということで全員で歩いているのだが、歩けば歩くほど、およそ山に似つかわしくない人工物が出現するようになった。
俺たちが今歩いているのはレンガ造りの街。それも、知らない街だ。
急な斜面にコンサートホールの客席のようにして建つ家、石を敷き詰めて舗装された坂道、それから迷いそうなほどの袋小路。
斜面に造られた急な階段は一人が通り抜けるのでやっとだったし、舗装は途中で途切れていて、一歩間違えれば馬車道のほうに転がり落ちてしまいそうだった。
幸いだったのは、ここが全くの無人であること。
もし俺たちの他に人間がいたら、進むことは簡単では無いだろう。
「――私たちの街に、似ています」
ウタの作り出した精神世界、その景色を見てカティアさんが言った。
「王国の北にある、とある小さな街。標高の高い場所にあって、坂も急な階段もいっぱい。登り下りが大変なぶん、お年寄りには優しくないけど、そのぶんが人々が助け合ってる、そんな街です」
「……エーキルの街」ブラッドが呟いた。
「そう、そこです! エーキル。私とレイラが育った――ブラッドさん、来たことあるんですね」
「うむ。言っただろう、放浪生活は長いとな」
「へ~、そうだったんですか!」
街について彼らの間で何往復かやりとりがあったきり、パーティーの会話は止まった。
しばし沈黙。
耐えかねたカリンがアイザックさんに言う。
「師匠、そういえば何かレイラに聞きたいことがあるのではなかったか? 一人を除いて全員そろったのじゃし、もう聞いても良いのでは?」
アイザックさんが答える。
「そうだね。強いて言えば、コーキくんの毒手の事故のことについて詳しく知りたいかな。
その前に、拒絶反応が出たって――今こうして歩いているだけでも危険だと言うのに、どうして彼と歩いてる?仮にも敵だったんじゃないか」
レイラが俺の方を見て言った。
「ウタのため、さ。
――いや、それだけでは無いか。
私は、そう、彼の言葉を聞いて思い直したんだ。
……さっきのコーキの激情。
さっきはお互いカッとしていた。私も倒れているウタを見て混乱してた。
だからさっきは正直、お前に何がわかるのだって思ったさ。
けど、頭から離れなくてな、よくよく考えて、だんだん思ってきた。
私は間違っていたのか?と。
ウタ……私は間違っていたというのか?」
俺は慎重に言葉を選び、レイラに言う。
「――うまく言えないんだけどさ。
これから、今感じたその気持ちを忘れずに接してけば良いんじゃないだろうか」
怒りをぶちまけてからというもの、彼女と話すことに抵抗感は無かった。冒険者学校で話しただけで内心ビクビクしていたのが嘘のようだ。こんなに簡単なことだったのか。
「……そうだな……私も、そう、思う」
今話しているのが仇敵だという意識は残っているのか、言葉を選ぶように言った。
俺はそれを見て思った。
やっぱり、ぶつからないと分からないこともあるんだって。
あんな怒りが湧いたのは、冒険者としての譲れない吟持(ぎょうじ)とかもあるけれど。けどそれ以前に、垣間見たからなんだ。俺と同じ卑屈さを。そう。彼女もまた、心の奥でビクビク脅えていたんだ。
そんな気持ちがあったからこそだ。怒ったのは。
そこまで考えて、気がつく。
絶対に生まれなかったであろう一体感、連帯感に。
ウタの仕掛けた命がけの“お願い”の効果が俺まで及んでいることに。
誰にも聞こえないよう、口を閉じて舌打ちを試みる。当然音は鳴らなかった。
――あいつ。謀ったな。文字通り、命をかけて。
目を覚ましたら、絶対に問い質してやる。
お前がこんなことをしたのは、俺とレイラを和解させ、そして彼女を正しい方法に導き直すためだったんだろって。
そりゃあ一年間俺のことを調べあげたりするわけだ。
俺たちがお互いに黙ったのを見計らい、アイザックさんが再び口を開いた。そしてレイラに問う。
「話は戻るけど、拒絶反応のことで、何か変わったことはないかな?
例えば、自分だけの体質?とか、そういったものはあるかな」
「これといって違うところを挙げろと言われれば、一つだけある。
――私は桃が食べられない」
桃。意外な単語が出てきた。
「桃? あの、果物のかい?」
「ああ、子供のころ、姉が持っていた『魔法の桃』を勝手につまみ食いして死にかけたことがある。
それ以来、普通の桃も怖くて食べられないのだ」
魔法の桃は回復アイテム。普通の桃とは違って特別な種類の木から取れるものだ。
「その通り。レイラは桃だけはだめなんです。」カティアさんが補足する。
なんだか意外だ。
「君の症状、聞いたことがあるよ―― それはおそらく、『ルクレッティ』、と呼ばれるものだ」
「『ルクレッティ』? 初めて聞いたな」
「ああ。最近ある研究所で魔法を調合する最中、毒性も何も無い、本当になんでもない材料に触って皮膚がかぶれた人がいてね。
職員達が調査を重ねた結果、特定のものを摂取すると体質によってひどい拒絶反応を起こす人が稀にいることが分かってきたんだ。
同様の反応がさまざまな異世界でも見つかっていて、そのうちの一つでは主に、アレルギィと呼ばれているらしい。
あ、異世界からたまに人間が飛ばされてくるのは分かるよね?」
「はい」
異世界。この俺たちが住んでいる世界にはときどき見たことの無い服装をした人間が迷い込む。
その年齢や格好は多種多様。
帰る方法が無い以上、彼らは政府に保護されてからこちらで新たな人生を過ごすことになる。
彼らの言う異世界というものの、その口から語られる“元いた世界”というのがまるでバラバラなのだ。
共通するのは、こちらの言語が話せるということのみ。
「あ、異世界と言えば、コーキさんも……」カティアさんが思い出した。
カティアさんとスラムの入口で話したこと。
俺の母と思われる人間もそうだ。彼女は息絶える直前まで赤ん坊を抱いていて、それが今の俺だ。
あまり実感は湧いてこないが、俺も一応異世界の人間なのだ。
アイザックさんがはっと喋りだす。
「――待てよ?
反応が出たということは、コーキ君の毒と桃に何らかの因果関係があるのか?
しかし、コーキ君の毒を調べても魔法の桃にだけ含まれる特別な成分なんて、何一つ検出されなかった。
それでは、魔法の桃と彼の毒にはそれぞれ我々がまだ発見していない隠れた成分があるというのか?
それとも、魔法の桃に拒絶反応がある人間に対して効くなんらかの成分が彼の毒に?
そもそも、なぜ桃なんだ?」
これは長くなりそうだ。
アイザックさんの思考が回転しきるのを待たずに、俺は話題を変え、前を歩くレイラにさっきから気になっていたことを聞いてみた。
「そうだ、親衛隊のやつらは?」
「山の下に置いてきた」
「冒険者学校から付いてきたのか?」
「いいや、私が命令を下した」
「命令? 従者はウタだけで、親衛隊は非公認なんじゃなかったのか? まあ、お前の頼みならイエスマンになるんだろうけど」
「彼ら、特にラカーンとカンザクには付き人時代からの恩がある。
その……ファ、ファンクラブなんか結成したのは気恥ずかしいが、流石に無下にはできまいよ。
ほんと困ってるよ、そういうのはその、私のガラじゃないというのに。でも部下として粗末にもできないし」
そう早口で言うと、サッとうつむいた。
よほどファンクラブというのが恥ずかしいんだな。
けど……けっこう情に厚いじゃないか。
***
「俺さ、ウタが言ってたことがずっと気になってるんだ」思いきって言ってみる。
「それはもしかして……」
「お前の過去さ。彼女はそれを中途半端に言い残したかたちになる」
「……話す気にはなれない」レイラは腕組みをして言った。
「じゃあ俺の仮説、聞いてみる?」
「……なにを」
「――こういうことだろ?」
俺は彼女が十歳かもしれないということを皆の前で話した。
その間レイラはじっと俺の考察を聞いていた。
他の面子を見ると、事情を知るカティアさん以外は、信じられないという顔をしていた。
話し終わると、レイラが口を開いた。
「……正確には違う」
「じゃあ?」
「だからその話はしたくない」
「がくり」
「もう、仕方ない子ですね。代わりに私が――」カティアさんが手を挙げた。
「あーあーあー! 聞こえない聞こえないなんにも聞こえなーいー!」
「レイラ、うるさ……むぐっ!! ちょっと、なにするのよ!!」
レイラに妨害されて顔を引っ張られるカティアさんを見て、俺は思わず吹き出した。
それを目にしていたのか、カリンが言う。
「ところでコーキ、よくこんなのと普通に話せるのう」
「いや、割りとこういうのの扱いには慣れてるっつーか……、どうしてそんなこと聞くんだ。カリンには別に関係ないだろ?」
答えづらい質問をぶつけてきたので、そう言い返した。
「……別になんでもないわい」カリンが顔を赤らめて目をそらす。
「??」
「あ、わかったぞよ! お主、本当は自己暗示をかけとるのではないか?」取り繕うように言う彼女。
「ん、どういうことだよ」
「お主の予想ならレイラは本当は十歳、つまり彼女の罵倒を頭の中で童女ボイスに置き換えて興奮しとるんじゃろ? をわー、ものすごい変態なのじゃ!」
「しねーよ! 上級者か!」
「変態、変態」おどけたような声を出す彼女。
「変態は言ったテメーだろ、この貧に――ぐるぼぁっ!」
久々に足蹴をお見舞いされた。
「り、理不尽だ……」
「雉(きじ)も鳴かずば撃たれまい。一言余計なのじゃよ」
そう言って俺を追い越したカリンの横顔は、さほど怒っているようには見えなかった。
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