58 / 62
結婚編
閑話 俺の秘宝
しおりを挟む
《お主ら、落ち着け! ミカはまだ生きておる!》
「なに……?」
「実花は、無事なのか?!」
『ええ。生きてるわ。でも、すぐにこの場所から引き離さないと、危ないわね』
<領地のほうがいいかもー>
《そうじゃな。あちらのほうが、王都よりも空気と魔力の質がいいからの。視察はお主とアイゼン殿でもできるじゃろう?》
ミカの護衛である魔物たちが、ミカは生きているという。本当に生きているのだろうか……。そう思うものの、魔物たちはとても落ち着いていて、それを見た俺もいくぶんか心が落ち着いてくる。
「そう、だな。後日でも大丈夫だろう」
「では、一旦王都の我が家へと向かい、そこから転移いたしましょう。それでいいですかな? 蜘蛛殿、殿下」
《大丈夫じゃ》
「ああ」
魔森林蜘蛛の提案により、一度教会から離れ、モーントシュタイン家へと向かう。そこからモーントシュタイン領へと転移で飛ぶというのだ。そしてその通りの行動をしたのだが……。
「何があった」
ミカの髪が黒髪に戻っていることに驚いたアルが王都の屋敷から一緒について来て、アイゼンや魔物たちに詰め寄っている。そして起きたことをそのまま伝えると、安堵したように息を吐いた。
「そうか……。何が原因か、わかっているのか?」
《おそらく、魔力の使いすぎじゃろう。というか、枯渇じゃな。いきなり大規模な魔法を使ったからのう……》
「魔法……」
『無意識だったけど、浄化魔法を使っていたわね。聖女が使うような、浄化魔法よ』
《必要ないからと、教えたことはないんじゃがのう》
浄化魔法を使ったとは、驚いた。それは伝説に聞く、聖女だけの魔法だからだ。
色付きの魔物たちは、それらの記憶を受け継いでいるというのだから驚いた。だからこそ、博識なのだと実感もする。
<まあ、【白】が使えるんだから、浄化が使えてもおかしくないんだけどねー>
『そうね。魔力を乗せすぎて、たまたま浄化になっちゃっただけのような気がしなくもないけど』
《そうじゃの。じゃが、これはミカが起きたら、叱らんといかんのう》
『そうは言うけど、そもそも魔力の制限をしなかったのは、お爺のせいじゃないの』
<それで叱られるのは、ミカお姉ちゃんが可哀想だよー、お爺ちゃん>
《……》
スパルトイとサーベルタイガーの言葉に、魔森林蜘蛛は視線を逸らせた。確かに、魔森林蜘蛛は魔力の制限や使い方をきちんと説明していなかったな、と思い至る。
「ともかく、実花は大丈夫ということで、よろしいですかな?」
《ああ、大丈夫じゃ》
『魔力が戻れば目が覚めるだろうから、そのまま寝かせておくといいわ』
「そうしよう。グラナート殿下は……」
「俺は、ミカが起きるまでここにいたい」
ミカが本当に目が覚めるのか、ここでずっと見ていたかった。消えてしまいそうで、怖かったのもある。
「ええ、いいでしょう。それでは、私だちはここから……えっ?」
アイゼンが心配そうな顔をしながらも、俺だけを残してミカの部屋から立ち去ろうとした時だった。テーブルの上に置いていた髪飾りが飛び上がってミカのところにくると、キラキラとした光りを放ってミカに降り注いだ。
そしてそれを浴びたミカの体が徐々に光り、その光が繭を作るように丸くなる。
「これは……!」
《おお、転生するのか?!》
「転生、だと……?! まさか、アイゼンやアルたちと同じように……!」
「ああ、あの時と同じ光だ!」
魔森林蜘蛛の言葉に驚く。そしてアイゼンとアルは興奮したように、自分たちがドラゴンとなった時の状況と同じだと言い出した。
俺もあの時側にいたが、確かにあの時の状況にとてもよく似ている。
「ミカ……」
なにが起こるかわからないから、ミカがとても心配だ。キラキラと光る繭玉は、白くて清浄な光を放ちながら、どんどん小さくなっていく。
そしてそれが収まると、今度はどんどん大きくなり、最初に見た時と同じ大きさになった。そして一際眩しい輝きを放つ。
「……っ!」
《成功したのう》
『ほんっとに規格外よね、ミカって』
<でも、とっても優しいから、好きー>
眩しいからと腕で目を覆い、光を防ぐ。魔物たちは大丈夫なようで、楽しそうな声で話をしていた。そして魔森林蜘蛛の《終わったぞ》との言葉に腕をどけて目を開けると、黒髪のままのミカが、さっきのままの状態で眠っていた。足元には、義足がぽつんと転がっている。
そして髪飾りは、まるで役目を終えたと謂わんばかりに、ミカの上へと落ちた。
「ミカ……?」
《眠っておるだけじゃから、大丈夫じゃ。目覚めるまで、そのままでいいじゃろう》
「俺は、ミカの側にいたい」
「そうだな、そうしてあげて。あと、義足が転がってるから、点検したほうが……え……?」
アルがミカに近寄り、転がっていた義足を持ち上げる。だが、呆けたようにしばらく義足とミカを凝視すると、徐にドレスの裾を少しだけ捲り上げた。
そこにあったのは、二本の足。
「ああ……! 神様に感謝いたします!」
「実花……っ! よかった……!」
何が作用したのかわからないが、ミカの足が生えてきていた。そのことに喜ぶ、アイゼンとアル。
そして二人してドレスの上から足の状態を確かめたり、侍女に頼んで足を確かめてもらったりしているし、ミカの足のことを、自分のことのように侍女たちや執事たちが喜んでいる。
「実花……ゆっくり寝てるんだぞ」
「殿下、実花についていてくださいますか?」
「ああ。目覚めるまで、ミカの側にいる」
「「ありがとうございます」」
アルとアイゼンの言葉に頷き、椅子を持って来てくれた執事にお礼を言うと、そこに座ってミカの手を取る。冷たい手ではなく、血の通った。温かな手だった。
ベッドの近くに紅茶を淹れてくれた侍女は、そのまま下がって行く。ミカの手を握りながらその顔を見ると、安らかな寝息をたてていた。
そのまま手を持ち上げ、手の甲にキスを落とす。
「ミカ……俺の大事な秘宝。曾祖母にいただいた髪飾りも大事だが、今はそれ以上にミカが大事なんだ……。早く目覚めて、俺の名を呼んでくれ」
手を握ったままミカの髪を撫でる。銀色の髪も素敵だったが、やはりミカには黒髪がよく似合う。
それに、ドレスは黒髪でも大丈夫な色を選んでいる。説明は面倒だが、ミカに付いてくれる女官たちはとても信頼できる者たちばかりだから、髪飾りのせいで銀髪になっていたと言っても、信じるだろう。
結局ミカはその日のうちに目覚めることはなく、こんこんと眠り続けた。
モーントシュタイン家に泊めてもらい、ずっとミカについていた。夜も明け、朝食もいただいたが、アルやアイゼンと共に、ミカが心配だからと、彼女の部屋で食べた。
時折アルとアイゼンは仕事をしに行ったものの、基本的にはずっとミカの部屋に待機していた。
「ミカ……」
侍女が控えていたが、ミカの唇にキスを落とす。アルが教えてくれた、アルの世界にある『眠り姫』という物語のように。
その時だった。
ミカの瞼が震え、そっと目を開ける。
「ミカ! 目覚めたのか!」
「「実花!」」
三人で……いや、三人と魔物たち、執事や侍女たちと一緒になってミカを囲み、その顔を見る。
「ジークハルト、様……? それに、皆さんまで……」
目覚めたミカに全員が安堵し、そっと息を吐く。ミカの目はアイゼンやアルと同じ黒目と、瞳孔はドラゴンと同じように、縦になっていた。
「なに……?」
「実花は、無事なのか?!」
『ええ。生きてるわ。でも、すぐにこの場所から引き離さないと、危ないわね』
<領地のほうがいいかもー>
《そうじゃな。あちらのほうが、王都よりも空気と魔力の質がいいからの。視察はお主とアイゼン殿でもできるじゃろう?》
ミカの護衛である魔物たちが、ミカは生きているという。本当に生きているのだろうか……。そう思うものの、魔物たちはとても落ち着いていて、それを見た俺もいくぶんか心が落ち着いてくる。
「そう、だな。後日でも大丈夫だろう」
「では、一旦王都の我が家へと向かい、そこから転移いたしましょう。それでいいですかな? 蜘蛛殿、殿下」
《大丈夫じゃ》
「ああ」
魔森林蜘蛛の提案により、一度教会から離れ、モーントシュタイン家へと向かう。そこからモーントシュタイン領へと転移で飛ぶというのだ。そしてその通りの行動をしたのだが……。
「何があった」
ミカの髪が黒髪に戻っていることに驚いたアルが王都の屋敷から一緒について来て、アイゼンや魔物たちに詰め寄っている。そして起きたことをそのまま伝えると、安堵したように息を吐いた。
「そうか……。何が原因か、わかっているのか?」
《おそらく、魔力の使いすぎじゃろう。というか、枯渇じゃな。いきなり大規模な魔法を使ったからのう……》
「魔法……」
『無意識だったけど、浄化魔法を使っていたわね。聖女が使うような、浄化魔法よ』
《必要ないからと、教えたことはないんじゃがのう》
浄化魔法を使ったとは、驚いた。それは伝説に聞く、聖女だけの魔法だからだ。
色付きの魔物たちは、それらの記憶を受け継いでいるというのだから驚いた。だからこそ、博識なのだと実感もする。
<まあ、【白】が使えるんだから、浄化が使えてもおかしくないんだけどねー>
『そうね。魔力を乗せすぎて、たまたま浄化になっちゃっただけのような気がしなくもないけど』
《そうじゃの。じゃが、これはミカが起きたら、叱らんといかんのう》
『そうは言うけど、そもそも魔力の制限をしなかったのは、お爺のせいじゃないの』
<それで叱られるのは、ミカお姉ちゃんが可哀想だよー、お爺ちゃん>
《……》
スパルトイとサーベルタイガーの言葉に、魔森林蜘蛛は視線を逸らせた。確かに、魔森林蜘蛛は魔力の制限や使い方をきちんと説明していなかったな、と思い至る。
「ともかく、実花は大丈夫ということで、よろしいですかな?」
《ああ、大丈夫じゃ》
『魔力が戻れば目が覚めるだろうから、そのまま寝かせておくといいわ』
「そうしよう。グラナート殿下は……」
「俺は、ミカが起きるまでここにいたい」
ミカが本当に目が覚めるのか、ここでずっと見ていたかった。消えてしまいそうで、怖かったのもある。
「ええ、いいでしょう。それでは、私だちはここから……えっ?」
アイゼンが心配そうな顔をしながらも、俺だけを残してミカの部屋から立ち去ろうとした時だった。テーブルの上に置いていた髪飾りが飛び上がってミカのところにくると、キラキラとした光りを放ってミカに降り注いだ。
そしてそれを浴びたミカの体が徐々に光り、その光が繭を作るように丸くなる。
「これは……!」
《おお、転生するのか?!》
「転生、だと……?! まさか、アイゼンやアルたちと同じように……!」
「ああ、あの時と同じ光だ!」
魔森林蜘蛛の言葉に驚く。そしてアイゼンとアルは興奮したように、自分たちがドラゴンとなった時の状況と同じだと言い出した。
俺もあの時側にいたが、確かにあの時の状況にとてもよく似ている。
「ミカ……」
なにが起こるかわからないから、ミカがとても心配だ。キラキラと光る繭玉は、白くて清浄な光を放ちながら、どんどん小さくなっていく。
そしてそれが収まると、今度はどんどん大きくなり、最初に見た時と同じ大きさになった。そして一際眩しい輝きを放つ。
「……っ!」
《成功したのう》
『ほんっとに規格外よね、ミカって』
<でも、とっても優しいから、好きー>
眩しいからと腕で目を覆い、光を防ぐ。魔物たちは大丈夫なようで、楽しそうな声で話をしていた。そして魔森林蜘蛛の《終わったぞ》との言葉に腕をどけて目を開けると、黒髪のままのミカが、さっきのままの状態で眠っていた。足元には、義足がぽつんと転がっている。
そして髪飾りは、まるで役目を終えたと謂わんばかりに、ミカの上へと落ちた。
「ミカ……?」
《眠っておるだけじゃから、大丈夫じゃ。目覚めるまで、そのままでいいじゃろう》
「俺は、ミカの側にいたい」
「そうだな、そうしてあげて。あと、義足が転がってるから、点検したほうが……え……?」
アルがミカに近寄り、転がっていた義足を持ち上げる。だが、呆けたようにしばらく義足とミカを凝視すると、徐にドレスの裾を少しだけ捲り上げた。
そこにあったのは、二本の足。
「ああ……! 神様に感謝いたします!」
「実花……っ! よかった……!」
何が作用したのかわからないが、ミカの足が生えてきていた。そのことに喜ぶ、アイゼンとアル。
そして二人してドレスの上から足の状態を確かめたり、侍女に頼んで足を確かめてもらったりしているし、ミカの足のことを、自分のことのように侍女たちや執事たちが喜んでいる。
「実花……ゆっくり寝てるんだぞ」
「殿下、実花についていてくださいますか?」
「ああ。目覚めるまで、ミカの側にいる」
「「ありがとうございます」」
アルとアイゼンの言葉に頷き、椅子を持って来てくれた執事にお礼を言うと、そこに座ってミカの手を取る。冷たい手ではなく、血の通った。温かな手だった。
ベッドの近くに紅茶を淹れてくれた侍女は、そのまま下がって行く。ミカの手を握りながらその顔を見ると、安らかな寝息をたてていた。
そのまま手を持ち上げ、手の甲にキスを落とす。
「ミカ……俺の大事な秘宝。曾祖母にいただいた髪飾りも大事だが、今はそれ以上にミカが大事なんだ……。早く目覚めて、俺の名を呼んでくれ」
手を握ったままミカの髪を撫でる。銀色の髪も素敵だったが、やはりミカには黒髪がよく似合う。
それに、ドレスは黒髪でも大丈夫な色を選んでいる。説明は面倒だが、ミカに付いてくれる女官たちはとても信頼できる者たちばかりだから、髪飾りのせいで銀髪になっていたと言っても、信じるだろう。
結局ミカはその日のうちに目覚めることはなく、こんこんと眠り続けた。
モーントシュタイン家に泊めてもらい、ずっとミカについていた。夜も明け、朝食もいただいたが、アルやアイゼンと共に、ミカが心配だからと、彼女の部屋で食べた。
時折アルとアイゼンは仕事をしに行ったものの、基本的にはずっとミカの部屋に待機していた。
「ミカ……」
侍女が控えていたが、ミカの唇にキスを落とす。アルが教えてくれた、アルの世界にある『眠り姫』という物語のように。
その時だった。
ミカの瞼が震え、そっと目を開ける。
「ミカ! 目覚めたのか!」
「「実花!」」
三人で……いや、三人と魔物たち、執事や侍女たちと一緒になってミカを囲み、その顔を見る。
「ジークハルト、様……? それに、皆さんまで……」
目覚めたミカに全員が安堵し、そっと息を吐く。ミカの目はアイゼンやアルと同じ黒目と、瞳孔はドラゴンと同じように、縦になっていた。
44
お気に入りに追加
1,640
あなたにおすすめの小説
月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~
真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。
【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件
三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。
※アルファポリスのみの公開です。
ただ貴方の傍にいたい〜醜いイケメン騎士と異世界の稀人
花野はる
恋愛
日本で暮らす相川花純は、成人の思い出として、振袖姿を残そうと写真館へやって来た。
そこで着飾り、いざ撮影室へ足を踏み入れたら異世界へ転移した。
森の中で困っていると、仮面の騎士が助けてくれた。その騎士は騎士団の団長様で、すごく素敵なのに醜くて仮面を被っていると言う。
孤独な騎士と異世界でひとりぼっちになった花純の一途な恋愛ストーリー。
初投稿です。よろしくお願いします。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
王宮医務室にお休みはありません。~休日出勤に疲れていたら、結婚前提のお付き合いを希望していたらしい騎士さまとデートをすることになりました。~
石河 翠
恋愛
王宮の医務室に勤める主人公。彼女は、連続する遅番と休日出勤に疲れはてていた。そんなある日、彼女はひそかに片思いをしていた騎士ウィリアムから夕食に誘われる。
食事に向かう途中、彼女は憧れていたお菓子「マリトッツォ」をウィリアムと美味しく食べるのだった。
そして休日出勤の当日。なぜか、彼女は怒り心頭の男になぐりこまれる。なんと、彼女に仕事を押しつけている先輩は、父親には自分が仕事を押しつけられていると話していたらしい。
しかし、そんな先輩にも実は誰にも相談できない事情があったのだ。ピンチに陥る彼女を救ったのは、やはりウィリアム。ふたりの距離は急速に近づいて……。
何事にも真面目で一生懸命な主人公と、誠実な騎士との恋物語。
扉絵は管澤捻さまに描いていただきました。
小説家になろう及びエブリスタにも投稿しております。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる