上 下
59 / 87
北西の国・ミルヴェーデン篇

ばしゃでしゅ

しおりを挟む
 二時間ほど歩いただろうか。話しながらとはいえ、変わり映えしない景色に飽きて来たところで、町に着いた。神獣おとなたちの徒歩による移動速度がオカシイだけで、馬車だとだいたい二時間から二時間半くらいの距離だそうだ。
 移動手段がある人たちはここで一泊したあと、次の町に向かうらしい。
 もちろんない人たちもだが、せっかちな人はこの町で食事を摂ったあと、食材を買い足してまた街道に戻ったり、ふたつ先にある町まで定期便があるそうなので、発車時間が間に合えばそれに乗り込むらしい。とはいえ、定期便は一日二便で朝と昼しか出ないそうなので、それをすぎるとないんだとか。
 なので、翌日以降の予約をしておくのが大半で、徒歩だとどのみち途中で定期便に追い越されるので、徒歩で街道に戻るのは金がないかよほどのバカだけらしいとは、セレスさん談である。
 ちなみに、この世界の定期便とは、馬車を使ったバスや電車のような存在である。馬車自体は中が拡張されていてかなりの人数を乗せることができるそうだが、国境から辿り着く最初の町なだけあり、利用者は多数いる。
 なので、利用者数に合わせて馬車の台数も増えていくんだと、私を抱っこしたままテトさんが説明してくれた。

「ご飯はどうする?」
「ギルドはやめておいたほうがいいわよね」
「ん。ステラ、狙われる」

 ですよねー!
 セバスさんの問いかけに、キャシーさんとスーお兄様が反応する。さすがにフードを被ったままご飯を食べるのは失礼だしね。そうなるとフードを取ることになるんだけれど、そうすると私の容姿が犯罪者ホイホイになりかねないので却下だそうな。

「となると、個室があるレストランか、宿に泊まって部屋で食べるしかないが」
「それはそれで面倒よね」
「……馬車を出す? その中で食べれば、ステラも話せるだろうし」
「いつの間に馬車なんて手に入れたのよ?」
「セバスたちが合流してから、死の森の木材で錬金した」
「「「「「テト……」」」」」

 おおう、テトさんてば用意周到だな! そんなテトさんに大人たちは呆れている。

「まあ、馬車はいいとして、馬はどうする?」
「ゴーレムでいいなら、それもある」
「「「「「あるんかーいっ!」」」」」

 シレっと言ったテトさんに、テトさん以外の全員で突っ込みを入れたとも! 私は無言で、しかも裏手でビシッ! と突っ込んださ!
 てなわけで大人たちが話し合った結果。馬車での移動が確定したので、お昼ご飯を屋台で買い求めたあと、そのまま町を出る。少し歩くと原っぱに出たのでそこで一旦とまるとテトさんは私をセバスさんに預け、亜空間からあれこれ出し始めた。
 まずは馬車。形としては箱馬車っていうのかな。木造の長方形には窓と扉が三ケ所ついている。扉は前にふたつと真後ろにひとつだ。
 窓は側面の両方と扉、前はのぞき窓程度、うしろは比較的大きめについていて、外からは中が見えないようになっているみたい。
 足回りは木造の車輪だけで、タイヤのようなゴム製品はない。あまりにも乗り心地が悪かったら、サスペンションやゴムのような弾力のある素材がないか提案をしてみよう。
 チューブの代わりに弾力があるものを使い、外側を魔物の皮で覆えば代用できそうだしねぇ。
 屋根は若干傾斜しているのとひさしがついているから、雨や雪が降っても中に入らないし、下に流れ落ちるようになっているみたい。
 前のほうには馭者台と、馬に繋ぐためなのか持ち手のような棒と革がついている。
 次に出したのは馬が二頭。ぱっと見は馬だが、よーく見ると木目があるし、背中には切り込みがついていた。種類としては、ウッドゴーレムというらしい。
 蓋になっているらしい切り込みをパカっと開けると、私の頭くらいはある真っ赤な石――魔石を嵌め込んだテトさんに、大人たちは呆れたような顔をしたあと、溜息をついた。

「テト……よくそんな大きな魔石を持っていたな」
「百年くらい前だったかな。バハムートの変異種を倒したことがあってね。そいつの魔石」
「あ~、百年前だと、西の大陸で大繁殖した時期か?」
「その時のものだね。大繁殖中だったからか、結構変異種がいたんだよねぇ」

 なんだか物騒な話をしているが、私は聞かなかったことにした。とはいえ、ニュアンスとしてはなんとなくわかるけれど、大繁殖とスタンビードの明確な違いがわからないので、馬車の中で質問しよう。
 そんなことを考えているうちに木造の馬二頭が馬車に繋がれ、テトさんが馬の動作を確認している。ゴーレムって言ってたけど、どう見ても動きが滑らかだし、普通の馬だ。
 きっちりたてがみも尻尾もついてるんだぜ? 遠目で見たら、栗毛の馬にしか見えんがな。
 それに、ゴーレムっていうと動きが鈍いとか、カクカクしているとか、某国民的RPGのやつを思い出すんだよねぇ。あとはファンタジー小説に出てくるやつ。
 ファンタジー小説だと魔法生物だったり召喚されたりといろいろだけれど、この世界のゴーレムはどんな立ち位置なんだろう? それも馬車に乗ってから聞いてみようと、本物の馬のように動く耳と尻尾を見つつ考えているうちに出発準備が整ったらしく、馬車の中へと移動する。
 馬車に乗るには階段を使うんだけれど、なんと階段は収納式。扉の下の部分を引っ張ると階段が出てきたのだ! セバスさんに補助してもらいつつ、えっちらおっちらと登ると車内が目に入る。
 座席の並びは、簡単に言うと観光バス。進行方向に向かっていて、左右二席ずつ、五列あった。座席にはしっかり座面と背面が張られ、クッションも置かれている。
 しかも、新幹線や特急列車のように座席が動くらしく、テトさんがどこを押せば動くのか説明をしていた。もちろん私にも説明してくれたし、実際にスイッチを押してみたけれど、座席自体が重くて動かせなかった。残念。
 まあ、指を挟まれて泣きをみる羽目にはなりたくないから、スイッチを押せるだけ充分だ。
 座席の下は荷物が置けるようになっていて、中には毛布や暖房器具、鍋や食器など、旅に必要なものが入っていた。……用意周到すぎねえか? わたしゃびっくりだよ。
 他には座席の背もたれを倒すと簡易ベッドになるとか、スイッチひとつで室内をもっと広げることができるとか。私にはイマイチよくわからない機能を説明されたけれど、それは追々教えてくれるというので、楽しみにしていよう。
 そんな説明を聞きつつ、しっかりご飯を食べたあと、いつもの背中ポンポン攻撃に遭い、寝落ちたのだった。

 寝たんだが、なんだか背中がぞわぞわして目が覚めた。なんというか……嫌な予感というか悪意を受けたというか。
 この感覚はなんだろうと考えつつボーっとしていたら、私の様子に気づいたバトラーさんが話しかけてきた。

「ステラ、どうした?」
「あ、バトラーしゃん。にゃんだか、しぇにゃかがじょわじょわしましゅ」
「ぞわぞわ……? どれ、熱でも出たか?」

 バトラーさんと目が合ったからぞわぞわしていることを伝えたら、熱かと額に手が張りついた。が、熱はない。
 あと、嫌な予感がするとも伝えるもどうしてなのかわからず、お互い不思議そうな顔をし、二人して首を傾げた時だった。

「大変だ! 1キロ先でスタンピードが発生した! 逃げろ!」
「戦えない者は町に向かって走れ! 戦える者や冒険者は殲滅を手伝ってくれ!」

 外からそんな声が聞こえてきて、嫌な予感とはこれか? と、バトラーさんと顔を見合わせた。

しおりを挟む
感想 513

あなたにおすすめの小説

記憶喪失の転生幼女、ギルドで保護されたら最強冒険者に溺愛される

マー子
ファンタジー
ある日魔の森で異常が見られ、調査に来ていた冒険者ルーク。 そこで木の影で眠る幼女を見つけた。 自分の名前しか記憶がなく、両親やこの国の事も知らないというアイリは、冒険者ギルドで保護されることに。 実はある事情で記憶を失って転生した幼女だけど、異世界で最強冒険者に溺愛されて、第二の人生楽しんでいきます。 ・初のファンタジー物です ・ある程度内容纏まってからの更新になる為、進みは遅めになると思います ・長編予定ですが、最後まで気力が持たない場合は短編になるかもしれません⋯ どうか温かく見守ってください♪ ☆感謝☆ HOTランキング1位になりました。偏にご覧下さる皆様のお陰です。この場を借りて、感謝の気持ちを⋯ そしてなんと、人気ランキングの方にもちゃっかり載っておりました。 本当にありがとうございます!

自重をやめた転生者は、異世界を楽しむ

饕餮
ファンタジー
書籍発売中! 詳しくは近況ノートをご覧ください。 桐渕 有里沙ことアリサは16歳。天使のせいで異世界に転生した元日本人。 お詫びにとたくさんのスキルと、とても珍しい黒いにゃんこスライムをもらい、にゃんすらを相棒にしてその世界を旅することに。 途中で魔馬と魔鳥を助けて懐かれ、従魔契約をし、旅を続ける。 自重しないでものを作ったり、テンプレに出会ったり……。 旅を続けるうちにとある村にたどり着き、スキルを使って村の一番奥に家を建てた。 訳アリの住人たちが住む村と、そこでの暮らしはアリサに合っていたようで、人間嫌いのアリサは徐々に心を開いていく。 リュミエール世界をのんびりと冒険したり旅をしたりダンジョンに潜ったりする、スローライフ。かもしれないお話。 ★最初は旅しかしていませんが、その道中でもいろいろ作ります。 ★本人は自重しません。 ★たまに残酷表現がありますので、苦手な方はご注意ください。 表紙は巴月のんさんに依頼し、有償で作っていただきました。 黒い猫耳の丸いものは作中に出てくる神獣・にゃんすらことにゃんこスライムです。 ★カクヨムでも連載しています。カクヨム先行。

転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜

犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中にいた。 馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出す。周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっており、自分だけ助かっていることにショックを受ける。 大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。 精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。 人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。

私の家族はハイスペックです! 落ちこぼれ転生末姫ですが溺愛されつつ世界救っちゃいます!

りーさん
ファンタジー
 ある日、突然生まれ変わっていた。理由はわからないけど、私は末っ子のお姫さまになったらしい。 でも、このお姫さま、なんか放置気味!?と思っていたら、お兄さんやお姉さん、お父さんやお母さんのスペックが高すぎるのが原因みたい。 こうなったら、こうなったでがんばる!放置されてるんなら、なにしてもいいよね! のんびりマイペースをモットーに、私は好きに生きようと思ったんだけど、実は私は、重要な使命で転生していて、それを遂行するために神器までもらってしまいました!でも、私は私で楽しく暮らしたいと思います!

10歳で記憶喪失になったけど、チート従魔たちと異世界ライフを楽しみます(リメイク版)

犬社護
ファンタジー
10歳の咲耶(さや)は家族とのキャンプ旅行で就寝中、豪雨の影響で発生した土石流に巻き込まれてしまう。 意識が浮上して目覚めると、そこは森の中。 彼女は10歳の見知らぬ少女となっており、その子の記憶も喪失していたことで、自分が異世界に転生していることにも気づかず、何故深い森の中にいるのかもわからないまま途方に暮れてしまう。 そんな状況の中、森で知り合った冒険者ベイツと霊鳥ルウリと出会ったことで、彼女は徐々に自分の置かれている状況を把握していく。持ち前の明るくてのほほんとしたマイペースな性格もあって、咲耶は前世の知識を駆使して、徐々に異世界にも慣れていくのだが、そんな彼女に転機が訪れる。それ以降、これまで不明だった咲耶自身の力も解放され、様々な人々や精霊、魔物たちと出会い愛されていく。 これは、ちょっぴり天然な《咲耶》とチート従魔たちとのまったり異世界物語。 ○○○ 旧版を基に再編集しています。 第二章(16話付近)以降、完全オリジナルとなります。 旧版に関しては、8月1日に削除予定なのでご注意ください。 この作品は、ノベルアップ+にも投稿しています。

転移先は薬師が少ない世界でした

饕餮
ファンタジー
★この作品は書籍化及びコミカライズしています。 神様のせいでこの世界に落ちてきてしまった私は、いろいろと話し合ったりしてこの世界に馴染むような格好と知識を授かり、危ないからと神様が目的地の手前まで送ってくれた。 職業は【薬師】。私がハーブなどの知識が多少あったことと、その世界と地球の名前が一緒だったこと、もともと数が少ないことから、職業は【薬師】にしてくれたらしい。 神様にもらったものを握り締め、ドキドキしながらも国境を無事に越え、街でひと悶着あったから買い物だけしてその街を出た。 街道を歩いている途中で、魔神族が治める国の王都に帰るという魔神族の騎士と出会い、それが縁で、王都に住むようになる。 薬を作ったり、ダンジョンに潜ったり、トラブルに巻き込まれたり、冒険者と仲良くなったりしながら、秘密があってそれを話せないヒロインと、ヒロインに一目惚れした騎士の恋愛話がたまーに入る、転移(転生)したヒロインのお話。

侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました

下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。 ご都合主義のSS。 お父様、キャラチェンジが激しくないですか。 小説家になろう様でも投稿しています。 突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。