上 下
36 / 87
死の森篇

たいりょうでしゅ

しおりを挟む
 湖岸からそっと顔を出し、水の中を覗いてみる。すると、黒い背中の魚影がたくさん見えた。
 大きさはニジマスくらいかな? そこそこ大きい魚だ。
 その魚が身をひるがえすと、キラリと虹色に光る、なんとも不思議な魚だった。キャシーさんによるとこの時間は湖岸の水面に近いところで泳いでいるけれど、それ以外は中心部に近いところだったり、深い場所にいるんだそうだ。

「でね。動くと虹色に光るでしょう? だからこの魚はニジマスって言うのよ」
「…………。しょ、しょうれしゅか」
「ええ。とっても美味しいの! ステラちゃんも食べてみたい?」
「あい!」
「じゃあ、獲るわね」

 そのままの名前に愕然としつつ、ニジマスを獲ってくれるというのでお願いする。すると、キャシーさんは自前の糸を編んでネット状にしたあと石をくくりつけて錘にし、投網代わりに投げた。
 ポチャンと音がしたと同時にニジマスは逃げていく。が、キャシーさんのほうがスピードがあるようで、そのほとんどが逃げられなかった。
 そのまま網を引き寄せたキャシーさんは、気合いを入れて思いっきり引っ張ると、湖岸に網が乗り上げる。

「おお~! たいりょうでしゅ!」
「そうね! 思った以上に獲れて、アタシも満足だわ~♪」

 網を押し上げるようにピチピチと跳ねる魚は、ざっと数えただけでも三十匹は軽く超えている。しかも、見た目はきちんとニジマスだけれど、光を反射した鱗が虹色に光っているし、スーパーで見かけたものよりも大きかった。
 他にも、ヤマメやアユ、鮭っぽい見た目の魚もいて、まさに大漁であ~る。

「ああ、いいわぁ~! ラックスとヤマメ、アユとピンクトラウト、ウーガリまでいるじゃないっ! 凄いわ!」
「ふおぉぉぉっ! しおやきしたいでしゅ!」
「いいわね! テトとセレスにお願いしましょう!」
「あいっ!」

 アユやニジマスの塩焼きいいよね! 食べたい!
 キャシーさんが持ち上げてその魚の名前を教えてくれたんだけれど、ラックスは鮭でピンクトラウトはサクラマス。そしてウーガリはウナギで他はそのままだった。
 しかも、どれも日本でみたものより二回りは大きいし、ラックスに至っては産卵前らしく、お腹がパンパンに膨れている。
 よっしゃー! いくらだー! 醤油漬けにしよう!
 ウナギも蒲焼きにしたり、ピンクトラウトは押し寿司もいいかも! テンションあーがーるー!
 キャシーさんと二人でハイタッチしたあと、亜空間から出した大きな魚籠びくに、大漁の魚たちを種類ごとに入れる。そろそろ風が冷たくなってきたからと、キャシーさんに手を引かれながらハウスに戻った。
 明日の朝、湖を散策するそうだ。また違った魚や鳥が見れるらしい。楽しみ~!

「たらいまー!」
「おかえりなさい。湖はどうでしたか?」
「きれいれした! あと、おしゃかなしゃん、たいりょうれしゅ!」
「おや。キャシー、何が獲れましたか?」
「本当に大量なのよ~! 見て!」

 穏やかな表情で私たちを出迎えてくれたセバスさんに、魚籠をセバスさんに見せるキャシーさん。すると、セバスさんも焼き魚を食べたいと言い出しだ。
 ですよねー! 私だって食べたいもん!
 すぐにキッチンへと向かい、ご飯の支度をしているテトさんとセレスさんに魚籠を見せ、焼き魚を食べたいと主張。すぐに一番数の多いニジマスを取り出したあと、えらと内臓を取り除き、串に刺してから塩を振り、暖炉の火で炙り始める。
 強火の遠火でじわじわと焼かれていくニジマス。魚から出る油が落ちるたびに、暖炉の火がはぜる。
 それに伴って魚が焼けるいい匂いがしてきて……。くうぅぅぅっ! たまらん!
 テトさんとセレスさんがスープやパン、サラダを作っているうしろで、私はラックスを捌いていたり。中から出て来たのは、綺麗なオレンジ色をした、宝石のように輝いている生筋子ちゃん。
 しかも、日本で見たものよりも粒がデカい! よーし、ほぐすぞー!
 たっぷりのぬるま湯に塩を入れ、ボウルに生筋子を入れたらぬるま湯を入れる。お風呂と同じ温度だから熱くない。
 潰さないように丁寧に洗ってほぐすことを何回も繰り返し、薄膜や血合いを取り除いていく。これを怠ると見た目も食感も悪くなるから、本当に丁寧に洗ったとも。
 綺麗になったらザルにあけて、しっかり水切り。その間に調味料の用意。
 これはバステト様が贈ってくださったものを使うことにしよう。
 まずは醤油漬け。みりんと酒を鍋に入れて煮切ってアルコールを飛ばしたたあと、醤油を入れて三分ほど煮詰め、冷ましておく。セバスさんにお願いして大きな瓶を作ってもらい、その中にいくらと冷めた漬け液を入れて、冷蔵庫へ。
 半日から一日漬け込めば食べごろだ。
 次は味噌漬けにしてみようかな。味噌漬けもうまいんだぜ~?
 味噌とみりんを2:1にして、練る。保存容器に練った味噌、ガーゼ、いくら、ガーゼ、味噌の順で漬け込むんだけど、この世界にはタッパはない。
 なので、やっぱりセバスさんに説明してガラスで作ってもらい、その中に入れて漬け込むことにした。ガーゼもなかったけれど、そこはキャシーさんにお願いしてそれに近い状態の布を作ってもらい、それを使った。
 キャシーさんの下の蜘蛛さんもよくわかってなかったみたい。それでもガーゼにかなり近い糸を出してくれたんだから、凄い。
 お礼に大きな顔を撫でたら、嬉しそうにしていた。なんだか可愛い!
 で、味噌漬けも冷蔵庫へ。不思議そうな顔をしている大人たちに、漬け込むことでもっと美味しくなると話すと、とーってもイイ笑顔でサムズアップした。
 今まではいくらを食べる、なんてことはしなかったんだって。
 なんて勿体ない!
 明日のお昼以降なら食べられると言うと、お昼ご飯に決定してしまった。
 残った身は三枚に下ろしたり、そのまま塩に漬け込んで新巻鮭にしたり。スモークにしてスモークサーモンっぽくしてもいいかも。
 下ろした骨や頭も取っといてもらって、後日、潮汁もどきにしたいと思います!
 ピンクトラウトとウーガリ、残っているラックスに関しては、これからもちまちまと作業をする予定。テトさんが全部亜空間にしまってくれるというのでお願いしてあるから、傷んだりすることもないしね。
 そうこうするうちに魚も焼け、ご飯も出来上がる。大根おろしはないけれど、その代わりレモンが添えてあって、とても美味しそうな焼き色のニジマス。美味しそう~!

「では、食べましょうか」
「いたらきましゅ!」
「はい、召し上がれ」

 まずはスープ。野菜たっぷり、あっさりめなコンソメ味。
 パンはふわふわもっちりで、幼児の手でも簡単に千切れちゃう。
 そして魚。綺麗に半身を剥がし、一口分をパクリ。

「ふわふわ……おいちいれしゅ!」
「でしょう? 小骨も柔らかいのよ」
「しょうなんれしゅね!」
「食べてもいいけど、気をつけて食べようね」
「あい!」

 小骨は柔らかいのか。サンマとかイワシくらいなのかな? そんなことを考えつつも、テトさんの注意をしっかり聞いて、小骨と一緒に身を噛む。
 身はふわふわで、油がのっているのかとてもジューシーな味がする。骨も本当に柔らかくて、噛めば噛むほど簡単に細かくなるのが凄い。
 塩がね、とてもいいお味なのだよ。しょっぱさの中に甘みがあって、マジウマ!
 幸せだ~!
 レモンを絞って食べてみたけれど、これはこれで口の中がさっぱりして美味しい!
 今度はご飯と味噌汁、大根おろしを添えて食べたい!
 てなことを大人たちに主張してみたら、あっさり通った。その時は頑張って作っちゃうよ!

しおりを挟む
感想 513

あなたにおすすめの小説

記憶喪失の転生幼女、ギルドで保護されたら最強冒険者に溺愛される

マー子
ファンタジー
ある日魔の森で異常が見られ、調査に来ていた冒険者ルーク。 そこで木の影で眠る幼女を見つけた。 自分の名前しか記憶がなく、両親やこの国の事も知らないというアイリは、冒険者ギルドで保護されることに。 実はある事情で記憶を失って転生した幼女だけど、異世界で最強冒険者に溺愛されて、第二の人生楽しんでいきます。 ・初のファンタジー物です ・ある程度内容纏まってからの更新になる為、進みは遅めになると思います ・長編予定ですが、最後まで気力が持たない場合は短編になるかもしれません⋯ どうか温かく見守ってください♪ ☆感謝☆ HOTランキング1位になりました。偏にご覧下さる皆様のお陰です。この場を借りて、感謝の気持ちを⋯ そしてなんと、人気ランキングの方にもちゃっかり載っておりました。 本当にありがとうございます!

自重をやめた転生者は、異世界を楽しむ

饕餮
ファンタジー
書籍発売中! 詳しくは近況ノートをご覧ください。 桐渕 有里沙ことアリサは16歳。天使のせいで異世界に転生した元日本人。 お詫びにとたくさんのスキルと、とても珍しい黒いにゃんこスライムをもらい、にゃんすらを相棒にしてその世界を旅することに。 途中で魔馬と魔鳥を助けて懐かれ、従魔契約をし、旅を続ける。 自重しないでものを作ったり、テンプレに出会ったり……。 旅を続けるうちにとある村にたどり着き、スキルを使って村の一番奥に家を建てた。 訳アリの住人たちが住む村と、そこでの暮らしはアリサに合っていたようで、人間嫌いのアリサは徐々に心を開いていく。 リュミエール世界をのんびりと冒険したり旅をしたりダンジョンに潜ったりする、スローライフ。かもしれないお話。 ★最初は旅しかしていませんが、その道中でもいろいろ作ります。 ★本人は自重しません。 ★たまに残酷表現がありますので、苦手な方はご注意ください。 表紙は巴月のんさんに依頼し、有償で作っていただきました。 黒い猫耳の丸いものは作中に出てくる神獣・にゃんすらことにゃんこスライムです。 ★カクヨムでも連載しています。カクヨム先行。

転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜

犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中にいた。 馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出す。周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっており、自分だけ助かっていることにショックを受ける。 大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。 精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。 人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。

私の家族はハイスペックです! 落ちこぼれ転生末姫ですが溺愛されつつ世界救っちゃいます!

りーさん
ファンタジー
 ある日、突然生まれ変わっていた。理由はわからないけど、私は末っ子のお姫さまになったらしい。 でも、このお姫さま、なんか放置気味!?と思っていたら、お兄さんやお姉さん、お父さんやお母さんのスペックが高すぎるのが原因みたい。 こうなったら、こうなったでがんばる!放置されてるんなら、なにしてもいいよね! のんびりマイペースをモットーに、私は好きに生きようと思ったんだけど、実は私は、重要な使命で転生していて、それを遂行するために神器までもらってしまいました!でも、私は私で楽しく暮らしたいと思います!

10歳で記憶喪失になったけど、チート従魔たちと異世界ライフを楽しみます(リメイク版)

犬社護
ファンタジー
10歳の咲耶(さや)は家族とのキャンプ旅行で就寝中、豪雨の影響で発生した土石流に巻き込まれてしまう。 意識が浮上して目覚めると、そこは森の中。 彼女は10歳の見知らぬ少女となっており、その子の記憶も喪失していたことで、自分が異世界に転生していることにも気づかず、何故深い森の中にいるのかもわからないまま途方に暮れてしまう。 そんな状況の中、森で知り合った冒険者ベイツと霊鳥ルウリと出会ったことで、彼女は徐々に自分の置かれている状況を把握していく。持ち前の明るくてのほほんとしたマイペースな性格もあって、咲耶は前世の知識を駆使して、徐々に異世界にも慣れていくのだが、そんな彼女に転機が訪れる。それ以降、これまで不明だった咲耶自身の力も解放され、様々な人々や精霊、魔物たちと出会い愛されていく。 これは、ちょっぴり天然な《咲耶》とチート従魔たちとのまったり異世界物語。 ○○○ 旧版を基に再編集しています。 第二章(16話付近)以降、完全オリジナルとなります。 旧版に関しては、8月1日に削除予定なのでご注意ください。 この作品は、ノベルアップ+にも投稿しています。

転移先は薬師が少ない世界でした

饕餮
ファンタジー
★この作品は書籍化及びコミカライズしています。 神様のせいでこの世界に落ちてきてしまった私は、いろいろと話し合ったりしてこの世界に馴染むような格好と知識を授かり、危ないからと神様が目的地の手前まで送ってくれた。 職業は【薬師】。私がハーブなどの知識が多少あったことと、その世界と地球の名前が一緒だったこと、もともと数が少ないことから、職業は【薬師】にしてくれたらしい。 神様にもらったものを握り締め、ドキドキしながらも国境を無事に越え、街でひと悶着あったから買い物だけしてその街を出た。 街道を歩いている途中で、魔神族が治める国の王都に帰るという魔神族の騎士と出会い、それが縁で、王都に住むようになる。 薬を作ったり、ダンジョンに潜ったり、トラブルに巻き込まれたり、冒険者と仲良くなったりしながら、秘密があってそれを話せないヒロインと、ヒロインに一目惚れした騎士の恋愛話がたまーに入る、転移(転生)したヒロインのお話。

侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました

下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。 ご都合主義のSS。 お父様、キャラチェンジが激しくないですか。 小説家になろう様でも投稿しています。 突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。