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番外編・小話
ある日の夫婦 2
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小話 その一
「お圭ちゃん、実は凄く好きな人ができたんだけど……」
「あ、そうなんだ。じゃあこれ書いて?」
泪の言葉に反応した圭は、無表情でテーブルの上にあった封筒から薄い紙を出すと、泪にツイッとそれ押す。何気なくそれを見た泪は即座に固まる。なぜならば、そこに書かれていた文字は『離婚届』。しかも、圭の欄は既に埋まっている。
「書いてくれたらそれを持って麗と一緒に出て行くね」
「……」
「泪さん、早く書いて?」
泪にペンを渡し、トントン、と指で紙を叩く圭の横で、麗はお昼に出されたフライドポテトを一生懸命頬ばっていた。
……のだが。
「……!! うわぁぁん、お圭ちゃんのバカぁぁぁ!」
エイプリルフールなのにぃぃぃ! と叫んだ泪は、そのまま事務所のほうへと消えていった。それを見て麗は何かの遊びだと思っているのか、ポテトを持ったままはしゃいでいたため、圭は麗にそれを食べさせたあとで手を拭いてやる。
「全く……泪さんが言いそうなことくらいわかるし、よく見ればこれもエイプリルフールだってわかるのに……ねえ、麗?」
「あーい!」
溜息をつきながらもキャッキャと笑う麗にジュースを飲ませながらそう呟いた圭は、視線を麗から『離婚届』に向ける。
――『離婚届』には、旧姓の『在沢 圭』と書かれていた。
小話 その二
「泪さん、実家に行きますね」
いつもの無表情でそう言った圭に、泪は何か怒らせたのかと焦る。だが、身に覚えのない泪は首を傾げるばかり。
「泪さん……本当に覚えてないんですか……?」
「あ、あの……お圭ちゃん……」
「もう……あれほど言ったのに……。時間の無駄だからさっさと帰ります。麗、行こっか」
「あーい!」
「麗?! お圭ちゃぁぁぁん!」
叫ぶ泪を尻目に、圭は麗をおんぶして旅行鞄を持つと、そのまま家を出てしまった。
茫然自失のまま座っていた一時間後、姉の瑠香から怒りの電話が来る。
『泪! アンタ今どこにいるの! 今日はお父さんたちのルビー婚式だから、絶対に帰って来なさいって言ったでしょ?! お圭ちゃんにも同じこと言われなかったの?!』
「え……? …………あっ!」
そう言えば一週間前、圭にもそう言われた気がする、生返事しかしてないかも、と思った時には遅かった。
『いいから、とっとと帰って来なさい!』
長姉の瑠香を皮切りに、次々に姉たちから電話がかかって来た泪は慌てて実家に帰ったのだが。
『エイプリルフールよー!』
「ごめんね泪さん……お義父さんたちがどうしても麗とご飯食べたいって言われちゃって、断れなかった……」
引っ掛かったー! と叫んで笑う姉たちと、ひどく申し訳なさそうな顔で謝った圭を見た泪は、ガックリとその場に脱力したのだった。
「お圭ちゃん、実は凄く好きな人ができたんだけど……」
「あ、そうなんだ。じゃあこれ書いて?」
泪の言葉に反応した圭は、無表情でテーブルの上にあった封筒から薄い紙を出すと、泪にツイッとそれ押す。何気なくそれを見た泪は即座に固まる。なぜならば、そこに書かれていた文字は『離婚届』。しかも、圭の欄は既に埋まっている。
「書いてくれたらそれを持って麗と一緒に出て行くね」
「……」
「泪さん、早く書いて?」
泪にペンを渡し、トントン、と指で紙を叩く圭の横で、麗はお昼に出されたフライドポテトを一生懸命頬ばっていた。
……のだが。
「……!! うわぁぁん、お圭ちゃんのバカぁぁぁ!」
エイプリルフールなのにぃぃぃ! と叫んだ泪は、そのまま事務所のほうへと消えていった。それを見て麗は何かの遊びだと思っているのか、ポテトを持ったままはしゃいでいたため、圭は麗にそれを食べさせたあとで手を拭いてやる。
「全く……泪さんが言いそうなことくらいわかるし、よく見ればこれもエイプリルフールだってわかるのに……ねえ、麗?」
「あーい!」
溜息をつきながらもキャッキャと笑う麗にジュースを飲ませながらそう呟いた圭は、視線を麗から『離婚届』に向ける。
――『離婚届』には、旧姓の『在沢 圭』と書かれていた。
小話 その二
「泪さん、実家に行きますね」
いつもの無表情でそう言った圭に、泪は何か怒らせたのかと焦る。だが、身に覚えのない泪は首を傾げるばかり。
「泪さん……本当に覚えてないんですか……?」
「あ、あの……お圭ちゃん……」
「もう……あれほど言ったのに……。時間の無駄だからさっさと帰ります。麗、行こっか」
「あーい!」
「麗?! お圭ちゃぁぁぁん!」
叫ぶ泪を尻目に、圭は麗をおんぶして旅行鞄を持つと、そのまま家を出てしまった。
茫然自失のまま座っていた一時間後、姉の瑠香から怒りの電話が来る。
『泪! アンタ今どこにいるの! 今日はお父さんたちのルビー婚式だから、絶対に帰って来なさいって言ったでしょ?! お圭ちゃんにも同じこと言われなかったの?!』
「え……? …………あっ!」
そう言えば一週間前、圭にもそう言われた気がする、生返事しかしてないかも、と思った時には遅かった。
『いいから、とっとと帰って来なさい!』
長姉の瑠香を皮切りに、次々に姉たちから電話がかかって来た泪は慌てて実家に帰ったのだが。
『エイプリルフールよー!』
「ごめんね泪さん……お義父さんたちがどうしても麗とご飯食べたいって言われちゃって、断れなかった……」
引っ掛かったー! と叫んで笑う姉たちと、ひどく申し訳なさそうな顔で謝った圭を見た泪は、ガックリとその場に脱力したのだった。
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