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スピンオフ
卓越した者に護られし、青き珠 前編
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――あと三十分で帰れるはずだったのに、何でこんなことになっているんだろう……?
後ろ手に縛られながら、これまでのことを考える。
両隣には店の従業員と、従業員の隣には客が三人いて、そのうちの一人は義妹が兄と慕うガタイのいい男だった。全員、同じように後ろ手に縛られている。
外にはたくさんのパトカーと警官、野次馬がいる。もちろん、野次馬はパトカーの外側や他の警官の外側からこちらの様子が見えないか、と首を伸ばしながら中の様子を窺っていた。
目の前では覆面をした男三人がいて、一人は銃を持ち、あとの二人は自分が経営いている店の宝石類を鞄に詰め込んでいた。
それらから目を逸らして従業員や客を見ると、疲れが出始めているのか少し青ざめながら俯いている。が、ただ一人、ガタイのいい男だけは外の様子を見ながら「おー、すげえ」と小さな声で楽しそうに呟いていた。
***
「瑠璃義姉さん、こんにちは」
「お圭ちゃん、いらっしゃい。あら……浮気?」
「違うよ! 卓お兄ちゃんとは、ここに来る途中で会ったの!」
義妹と一緒に入って来た男性を見て、ドキリとする。短く刈り取られた黒い髪と精悍な顔つき。黒い肌に、ガタイのいい体つき。ガタイの良さとは裏腹にライトグレーのスーツがよく似合っていた。
「卓お兄ちゃん?」
「昔、同じ町に住んでた、同級生のお兄さんなの。一緒に遊んだり、勉強も教えてもらったんだ。私にとっては、お兄ちゃんと同じようなものかな」
「だな。確かに圭は妹だな」
わしわしと義妹の頭を撫でる仕草は、確かに恋人というよりは妹にする感じだった。
「そうなの。浮気じゃないなら、何かな?」
「泪さんに頼まれたものを取りに来たのと、これを渡しに」
そう言って紙袋を渡された。中を覗くと、たくさんのお箸とふろしきに包まれた物が見えた。
「これ……?」
「お弁当。すごーく遅くなっちゃったけど、あのペンダントのお礼。従業員の人と食べてもらおうと思って」
「え? でも、あれは稼がせてもらった私たちからのお礼、って言ったでしょ?」
「いいから、いいから。お礼のお礼。それで……泪さんに頼まれた物って何?」
「あ、ちょっと待って」
最近、強引なところが弟の泪に似てきたなあと思いつつも、そう言って背を向けて奥に入る。が、なぜか背中に視線を感じて振り向くと、男が自分を見ていた。目が合うと、男はニカッと笑って手を振ったので、その笑顔に再びドキリとして慌てて背を向けると、奥へと移動する。
(び、びっくりした……)
ドキドキと鳴る胸を抑えると、そっと息を吐く。初対面でいきなり手を振られたのは初めてだ。深呼吸をしてから自分を落ち着ける。棚から弟の泪に頼まれたものを手提げ袋ごと取り出して義妹と男のところに戻ると、義妹がなぜかニヤニヤと笑い、男は耳を少し赤くしながらそっぽを向いていた。それに首を傾げつつも、義妹に手提げ袋を渡すと
「じゃあ、帰ります。銭形警部、頑張って!」
と言って義妹は帰ってしまった。銭形警部って何? そう思いつつもそれに唖然としていると
「こら、圭! ……ったく……。あの……さ。今日、時間あるかな?」
と男に話かけられた。
「……は?」
「あー……唐突過ぎるよな……。俺、高林 #卓と言います。一応、名刺」
「あ、も、申し訳ありません! 穂積 瑠璃と申します。これ、私の名刺です」
そう言ってお互いに名刺を交換する。名刺には『国際刑事警察機構 警視正 高林 卓』と書かれていた。マジマジと名刺を見つめ、何の冗談? と思っていると、男……高林の呟きが聞こえて反応する。
「へえ、店長さんなんだ」
「貴方のこの名刺も面白いですよね」
「だろ?」
そう言ってまたニカッと笑ったので、つられて笑顔を返した。
「うん、思った通りの笑顔。で……さっきの続きだけど……今日、時間あるかな?」
「どうしてそんなことを?」
「俺、ずっと海外にいて、最近日本に帰って来たばかりでさ。この近くのマンションを借りて住み始めたばかりだから、散歩がてらどんな店があるのか歩いていたら圭とばったり出会して。圭と再会したのもつい最近だったからお茶でも飲みながら圭の話を聞こうと思ったら、『旦那のお姉さんのどこに行く』って言うから、そのあとで話を聞こうと思ってくっついて来たのに……あいつ、さっさと帰りやがったし。初対面の人に聞くのもなんだけど……できれば最近の圭の話を聞きたいなあ……なんて……」
「……」
「あ、時間がないとか、予定があるなら、また今度圭に連絡とって時間作ってもらうから」
焦りながらそう言った高林は、頭をガシガシと掻きながら
「……唐突だったよな。ごめん、今日は帰るよ。仕事の邪魔して悪かった」
「時間ありますから、今から行きましょう」
それを引き止めるよう、そう思わず言ってしまった。振り向いた高林は、一瞬驚いた顔をしたあとで笑顔を浮かべた。その顔は、思わず見惚れてしまうほど、優しくて嬉しそうな顔をしていた。
***
「食事まで付き合わせて悪かった。送って行くよ」
「でも……」
「歳はくっても、女性は女性、だろ?」
「ひどい!」
「ごめん、冗談だ」
助手席のドアを開けながらあははと笑う高林に、「もう!」と言って頬を脹らませる。
時間がたつのも忘れるほど、楽しい時間だった。最初は義妹の話をしていたのに、いつの間にかお互いの話になっていた。
海外にずっといたと言っていただけあって、喫茶店でもレストランでもエスコートは完璧で、顔立ちも精悍なせいか、女性たちの視線を集めていた。けれど高林の視線はそちらに向くことはなく、常に私のほうへ向けられていたのが嬉しかった。
車内でもずっと話を続け、あっという間に自宅に着いてしまい、少しだけ寂しくなってしまう。
「着いたよ」
「ありがとう」
「また、会ってくれる?」
「え……?」
「あー……、その……、実は、君に一目惚れ、したんだよね……」
「え……」
その言葉に、鼓動が跳ねると同時に、義妹の「頑張って」という言葉を思い出す。高林のほうを見ると、暗がりでもわかるほど耳が赤い。
「あ……」
「できれば、でいいんだけどさ……俺の恋人になってくれないか?」
耳は赤いが、顔や目は真剣そのものだった。
『穂積』という名につられて寄って来た男を散々見て来たおかげで、目を見れば嘘かどうかがわかるようになってしまった私。でも、この人は違うと本能が告げる。目付きは優しげで、鋭い目付きの義兄とは全然違うのにどこか元警察官の義兄を思わせる高林は、出会ってたった数時間なのに、なぜか一緒にいて安心できたのも事実。
この人ならと覚悟を決めて「はい」と返事をすると、高林ははあと息を吐いて
「うわー……振られたらどうしようかと思った。ありがとう……これからよろしく」
そう言ってギュッと抱き締めて来たので心持ち焦るが、それでも高林の背中に手を回した。
「あ、あの……よろしく」
「じゃあ、早速……恋人初記念、ってことで」
「え……? ん……」
腕が緩められてホッとしていると顔が近付き、唇が重なる。唇を舌で舐められ、擽ったさに思わず口を開けると、高林の舌が口に入りこんで来た。
「んう、ん……っ、んぁ……」
上顎を舐められ、舌を絡められながら、口腔をなぞられると同時に、高林の手が私の身体をなぞる。服の中に手を入れて来たかと思うと下着の上から胸を掴まれ、やわやわと揉まれると同時に背中にぞくぞくとしたものが這い上がる。
「んう、んんっ」
下着を下にずらされて胸を直接揉まれ、乳首を摘ままれて弄られた。
「んんっ、んゃ、あっ、あ……っ」
「瑠璃……可愛い啼き方だな……もっと啼かせたい。が、今日はこれ以上はダメだな……」
「あ……っ、卓……?」
「恋人になったとは言え、会って数時間の男に、いきなり抱かれたくはないだろう?」
「……」
「それに、瑠璃の身体が微かに震えてる。俺は無理矢理瑠璃を抱きたくない」
「あ……」
「ちょっとずつ、慣らしていこう。瑠璃が大丈夫だと思ったら、そう言ってくれ」
そう言った高林は、名残惜しそうに服から手を抜くと、もう一度唇にキスを落とした。
***
あれから三ヶ月。週に一度のペースで、高林――卓とデートを重ねた。食事に行ったり、ドライブに行ったり。時々「急な仕事が入った」と言っては食事を中断して仕事にいってしまう卓に寂しいとは思いつつ、それでも、卓は次に会った時はできるだけ長く一緒にいてくれた。まだ身体は重ねてはいなが、あの日と同じようにキスと胸当への愛撫をするだけで、それ以上のことはまだされてはいなかった。
その間に私も卓に一目惚れだったのだと自覚して卓をどんどん好きになっていたが、まだ明確には伝えていなかったので、次に会った時に言おうと決めていた。
今日は週に一度のデートの日で、「夕方迎えに行くから」と言った卓を思い出してウキウキした気分になる。
「また宝石強盗ですって」
「また? ここのところ多くない?」
母と姉の会話を気にしつつ、出勤するために玄関に向かうと、「瑠璃も気をつけてね!」という姉の言葉が聞こえたので、「わかった」と出勤した。
従業員と打ち合わせをし、店を開ける。この店は私が始めた貴金属店で、私は社長であり店長でもあった。宝石を自分で買い付けに行くこともあるが、基本的には従業員に任せていた。
売れ筋は様々なデザインがある安価な指輪やピンキーリングやピアスで、中でも義妹が教えてくれた、誕生月の守護石が珍しいということでかなりの数が売れている。
それはともかく、今日も「あと少しで帰れますね」と、閉店作業をするために残っていた従業員二人と話をしていると卓が迎えに来た。既に客も疎らで、そろそろ閉店作業を始めようとした矢先、いきなり覆面をした男が三人雪崩れ込み、銃を突き付けられた。
できるだけ慌てないようにブザーの鳴らない、元警察官の義兄に知らせるための防犯ブザーのボタンを押したところで銃を持った男以外の二人に私と従業員、卓と逃げ遅れた客二人を、あっという間に後ろ手に縛り、「そこに座れ!」「声を出すな!」と脅され、壁際に座らされてしまった。
(皆は大丈夫からしら……)
キョロキョロと左右を見回すと、全員青ざめながら俯いている……卓以外は。その顔に何となく安心して、自分の店の宝石を鞄に詰めている男たちをそれとなく観察する。
覆面をしているので顔はわからないが、全員覆面から髪がはみ出してした。一人は金髪で、残り二人は茶髪。銃を持っているのは金髪の男で、二人の茶髪の男に指示を出しているので、この男がリーダーなのだろう。
そうこうするうちに外にはパトカーや警察が到着し、店を包囲し始める。それを見たリーダー格の男は舌打ちをすると、「急げ!」と言って二人の男を急かした。
もう一度卓を見ると、退屈なのかキョロキョロしていたが、私と目が合うと、口だけで「大丈夫か?」と聞いて来たので、なんとか笑顔を浮かべて頷くと卓も頷いてくれた。
それを見た卓は、安心させるかのようにニカッと笑って外を見ると、「おー、すげえ」と楽しそうに呟いた。
それを聞き付けた銃を持った男が近寄って来て
「黙ってろ、と言っただろう!」
と言って 卓の額に銃口を宛てる。
「あー? だって、外すげえじゃん」
「煩い!」
そう言うと男は引き金に手をかける。
「卓?! ダメ!!」
――だがそれは、一瞬で起こった。
後ろ手に縛られながら、これまでのことを考える。
両隣には店の従業員と、従業員の隣には客が三人いて、そのうちの一人は義妹が兄と慕うガタイのいい男だった。全員、同じように後ろ手に縛られている。
外にはたくさんのパトカーと警官、野次馬がいる。もちろん、野次馬はパトカーの外側や他の警官の外側からこちらの様子が見えないか、と首を伸ばしながら中の様子を窺っていた。
目の前では覆面をした男三人がいて、一人は銃を持ち、あとの二人は自分が経営いている店の宝石類を鞄に詰め込んでいた。
それらから目を逸らして従業員や客を見ると、疲れが出始めているのか少し青ざめながら俯いている。が、ただ一人、ガタイのいい男だけは外の様子を見ながら「おー、すげえ」と小さな声で楽しそうに呟いていた。
***
「瑠璃義姉さん、こんにちは」
「お圭ちゃん、いらっしゃい。あら……浮気?」
「違うよ! 卓お兄ちゃんとは、ここに来る途中で会ったの!」
義妹と一緒に入って来た男性を見て、ドキリとする。短く刈り取られた黒い髪と精悍な顔つき。黒い肌に、ガタイのいい体つき。ガタイの良さとは裏腹にライトグレーのスーツがよく似合っていた。
「卓お兄ちゃん?」
「昔、同じ町に住んでた、同級生のお兄さんなの。一緒に遊んだり、勉強も教えてもらったんだ。私にとっては、お兄ちゃんと同じようなものかな」
「だな。確かに圭は妹だな」
わしわしと義妹の頭を撫でる仕草は、確かに恋人というよりは妹にする感じだった。
「そうなの。浮気じゃないなら、何かな?」
「泪さんに頼まれたものを取りに来たのと、これを渡しに」
そう言って紙袋を渡された。中を覗くと、たくさんのお箸とふろしきに包まれた物が見えた。
「これ……?」
「お弁当。すごーく遅くなっちゃったけど、あのペンダントのお礼。従業員の人と食べてもらおうと思って」
「え? でも、あれは稼がせてもらった私たちからのお礼、って言ったでしょ?」
「いいから、いいから。お礼のお礼。それで……泪さんに頼まれた物って何?」
「あ、ちょっと待って」
最近、強引なところが弟の泪に似てきたなあと思いつつも、そう言って背を向けて奥に入る。が、なぜか背中に視線を感じて振り向くと、男が自分を見ていた。目が合うと、男はニカッと笑って手を振ったので、その笑顔に再びドキリとして慌てて背を向けると、奥へと移動する。
(び、びっくりした……)
ドキドキと鳴る胸を抑えると、そっと息を吐く。初対面でいきなり手を振られたのは初めてだ。深呼吸をしてから自分を落ち着ける。棚から弟の泪に頼まれたものを手提げ袋ごと取り出して義妹と男のところに戻ると、義妹がなぜかニヤニヤと笑い、男は耳を少し赤くしながらそっぽを向いていた。それに首を傾げつつも、義妹に手提げ袋を渡すと
「じゃあ、帰ります。銭形警部、頑張って!」
と言って義妹は帰ってしまった。銭形警部って何? そう思いつつもそれに唖然としていると
「こら、圭! ……ったく……。あの……さ。今日、時間あるかな?」
と男に話かけられた。
「……は?」
「あー……唐突過ぎるよな……。俺、高林 #卓と言います。一応、名刺」
「あ、も、申し訳ありません! 穂積 瑠璃と申します。これ、私の名刺です」
そう言ってお互いに名刺を交換する。名刺には『国際刑事警察機構 警視正 高林 卓』と書かれていた。マジマジと名刺を見つめ、何の冗談? と思っていると、男……高林の呟きが聞こえて反応する。
「へえ、店長さんなんだ」
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「だろ?」
そう言ってまたニカッと笑ったので、つられて笑顔を返した。
「うん、思った通りの笑顔。で……さっきの続きだけど……今日、時間あるかな?」
「どうしてそんなことを?」
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「……」
「あ、時間がないとか、予定があるなら、また今度圭に連絡とって時間作ってもらうから」
焦りながらそう言った高林は、頭をガシガシと掻きながら
「……唐突だったよな。ごめん、今日は帰るよ。仕事の邪魔して悪かった」
「時間ありますから、今から行きましょう」
それを引き止めるよう、そう思わず言ってしまった。振り向いた高林は、一瞬驚いた顔をしたあとで笑顔を浮かべた。その顔は、思わず見惚れてしまうほど、優しくて嬉しそうな顔をしていた。
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「食事まで付き合わせて悪かった。送って行くよ」
「でも……」
「歳はくっても、女性は女性、だろ?」
「ひどい!」
「ごめん、冗談だ」
助手席のドアを開けながらあははと笑う高林に、「もう!」と言って頬を脹らませる。
時間がたつのも忘れるほど、楽しい時間だった。最初は義妹の話をしていたのに、いつの間にかお互いの話になっていた。
海外にずっといたと言っていただけあって、喫茶店でもレストランでもエスコートは完璧で、顔立ちも精悍なせいか、女性たちの視線を集めていた。けれど高林の視線はそちらに向くことはなく、常に私のほうへ向けられていたのが嬉しかった。
車内でもずっと話を続け、あっという間に自宅に着いてしまい、少しだけ寂しくなってしまう。
「着いたよ」
「ありがとう」
「また、会ってくれる?」
「え……?」
「あー……、その……、実は、君に一目惚れ、したんだよね……」
「え……」
その言葉に、鼓動が跳ねると同時に、義妹の「頑張って」という言葉を思い出す。高林のほうを見ると、暗がりでもわかるほど耳が赤い。
「あ……」
「できれば、でいいんだけどさ……俺の恋人になってくれないか?」
耳は赤いが、顔や目は真剣そのものだった。
『穂積』という名につられて寄って来た男を散々見て来たおかげで、目を見れば嘘かどうかがわかるようになってしまった私。でも、この人は違うと本能が告げる。目付きは優しげで、鋭い目付きの義兄とは全然違うのにどこか元警察官の義兄を思わせる高林は、出会ってたった数時間なのに、なぜか一緒にいて安心できたのも事実。
この人ならと覚悟を決めて「はい」と返事をすると、高林ははあと息を吐いて
「うわー……振られたらどうしようかと思った。ありがとう……これからよろしく」
そう言ってギュッと抱き締めて来たので心持ち焦るが、それでも高林の背中に手を回した。
「あ、あの……よろしく」
「じゃあ、早速……恋人初記念、ってことで」
「え……? ん……」
腕が緩められてホッとしていると顔が近付き、唇が重なる。唇を舌で舐められ、擽ったさに思わず口を開けると、高林の舌が口に入りこんで来た。
「んう、ん……っ、んぁ……」
上顎を舐められ、舌を絡められながら、口腔をなぞられると同時に、高林の手が私の身体をなぞる。服の中に手を入れて来たかと思うと下着の上から胸を掴まれ、やわやわと揉まれると同時に背中にぞくぞくとしたものが這い上がる。
「んう、んんっ」
下着を下にずらされて胸を直接揉まれ、乳首を摘ままれて弄られた。
「んんっ、んゃ、あっ、あ……っ」
「瑠璃……可愛い啼き方だな……もっと啼かせたい。が、今日はこれ以上はダメだな……」
「あ……っ、卓……?」
「恋人になったとは言え、会って数時間の男に、いきなり抱かれたくはないだろう?」
「……」
「それに、瑠璃の身体が微かに震えてる。俺は無理矢理瑠璃を抱きたくない」
「あ……」
「ちょっとずつ、慣らしていこう。瑠璃が大丈夫だと思ったら、そう言ってくれ」
そう言った高林は、名残惜しそうに服から手を抜くと、もう一度唇にキスを落とした。
***
あれから三ヶ月。週に一度のペースで、高林――卓とデートを重ねた。食事に行ったり、ドライブに行ったり。時々「急な仕事が入った」と言っては食事を中断して仕事にいってしまう卓に寂しいとは思いつつ、それでも、卓は次に会った時はできるだけ長く一緒にいてくれた。まだ身体は重ねてはいなが、あの日と同じようにキスと胸当への愛撫をするだけで、それ以上のことはまだされてはいなかった。
その間に私も卓に一目惚れだったのだと自覚して卓をどんどん好きになっていたが、まだ明確には伝えていなかったので、次に会った時に言おうと決めていた。
今日は週に一度のデートの日で、「夕方迎えに行くから」と言った卓を思い出してウキウキした気分になる。
「また宝石強盗ですって」
「また? ここのところ多くない?」
母と姉の会話を気にしつつ、出勤するために玄関に向かうと、「瑠璃も気をつけてね!」という姉の言葉が聞こえたので、「わかった」と出勤した。
従業員と打ち合わせをし、店を開ける。この店は私が始めた貴金属店で、私は社長であり店長でもあった。宝石を自分で買い付けに行くこともあるが、基本的には従業員に任せていた。
売れ筋は様々なデザインがある安価な指輪やピンキーリングやピアスで、中でも義妹が教えてくれた、誕生月の守護石が珍しいということでかなりの数が売れている。
それはともかく、今日も「あと少しで帰れますね」と、閉店作業をするために残っていた従業員二人と話をしていると卓が迎えに来た。既に客も疎らで、そろそろ閉店作業を始めようとした矢先、いきなり覆面をした男が三人雪崩れ込み、銃を突き付けられた。
できるだけ慌てないようにブザーの鳴らない、元警察官の義兄に知らせるための防犯ブザーのボタンを押したところで銃を持った男以外の二人に私と従業員、卓と逃げ遅れた客二人を、あっという間に後ろ手に縛り、「そこに座れ!」「声を出すな!」と脅され、壁際に座らされてしまった。
(皆は大丈夫からしら……)
キョロキョロと左右を見回すと、全員青ざめながら俯いている……卓以外は。その顔に何となく安心して、自分の店の宝石を鞄に詰めている男たちをそれとなく観察する。
覆面をしているので顔はわからないが、全員覆面から髪がはみ出してした。一人は金髪で、残り二人は茶髪。銃を持っているのは金髪の男で、二人の茶髪の男に指示を出しているので、この男がリーダーなのだろう。
そうこうするうちに外にはパトカーや警察が到着し、店を包囲し始める。それを見たリーダー格の男は舌打ちをすると、「急げ!」と言って二人の男を急かした。
もう一度卓を見ると、退屈なのかキョロキョロしていたが、私と目が合うと、口だけで「大丈夫か?」と聞いて来たので、なんとか笑顔を浮かべて頷くと卓も頷いてくれた。
それを見た卓は、安心させるかのようにニカッと笑って外を見ると、「おー、すげえ」と楽しそうに呟いた。
それを聞き付けた銃を持った男が近寄って来て
「黙ってろ、と言っただろう!」
と言って 卓の額に銃口を宛てる。
「あー? だって、外すげえじゃん」
「煩い!」
そう言うと男は引き金に手をかける。
「卓?! ダメ!!」
――だがそれは、一瞬で起こった。
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