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圭視点
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案内されてソファーに座る。
「ただいま」
「おかえり」
「おかえりなさい。まあ……」
「圭、父と母よ」
「はっ、初めまして。在沢 圭と申し……」
泪のご両親ということは、穂積の社長と社長夫人ということだ。あまりにも緊張しすぎて、声が上ずってしまう。きちんと初対面の挨拶をしようとしたのけれど、瑠香に「堅苦しい挨拶はナシよ!」と遮られてしまった。
「お圭ちゃんの淹れたコーヒーは美味しいのよ! 小野さんが淹れたのより美味しいの!」
「ほう?」
「まあ、そうなの? 是非飲みたいわ。でも、お客様にそんなことをお願いするなんて……」
「母さん、お客様ではなく泪の嫁だろう? つまり、私たちの娘だ」
「あら、そう言えばそうね」
「あ、あの……」
とんでもない単語が耳に入って来たけれど、私が口を挟む間もなく会話がなされて行くためにオロオロするしかなく、すがるように泪を見るとただニコニコ笑っているだけだった。
(うう……どうしたらいいの? 渡さなきゃいけないのもあるのに……)
泪が弟妹たちと遊んでいる間に作ったお手製の菓子折を渡すタイミングを完全に逃し、内心あたふたしていたのけれど……。
「「是非ともコーヒーを飲みたいな」」
ご両親の二人同時に言われてしまい、思わず「……は?」と聞き返してしまった。
「流石! じゃあ泪、お圭ちゃんを借りてくわ。お母さんも一緒に来る?」
「ちょっと! 瑠香姉さん!」
「あら! 一緒に行くわ! 是非とも泪との馴れ初めをきかなくちゃ!」
「え? え?」
「はい、出発ー!」
「えええええっ?!」
二人にがっちり両手を掴まれ、「逃がさないわよー!」と言った二人の顔は泪にそっくりで……。人の話を聞かない強引な様子は、『この親にしてこの子あり』と思わせるものだった。
二人にキッチンに連れて行かれると、サイフォンが置いてあった。よくよく話を聞くと、普段はコーヒーメーカーで淹れているのだけれどコーヒーメーカー用のフィルターを切らしてしまい、買いに行っていると言う。
仕方なくサイフォンを引っ張りだしてコーヒーを淹れようとしたものの、使い方がわからず困っていたらしい。
「ごめんなさいね、お圭ちゃん」
「大丈夫ですよ。でも……私なんかがコーヒーを淹れてしまっていいんでしょうか……」
「『私なんか』って言わないの!」
「そうよ、自分を否定してはいけないわ。貴女が淹れたコーヒーを是非飲みたいの!」
「はあ……わかりました」
二人の勢いに流される形でサイフォンの用意をし、待っている間に夫人のほうに紙袋を渡すことにした。
「あの……お口に合うかわからないんですけれど、よろしければ召し上がってください」
「あら。開けてもいいかしら?」
「どうぞ」
紙袋の中身を一つずつ取り出し、並べて行く夫人。
中身はクッキーが三種類、チーズケーキ、ゴマケーキとなぜか伊達巻だった。私が用意したのはお菓子だけなので、これは母が入れたことになる。
(母さんてば……いつの間に?!)
実家のぶんプラス、泪に食べてもらおうと確かにたくさん作ったけれど、私は穂積家に持って来るつもりはなかった。そのことにあたふたしている間に夫人と瑠香に突っ込まれてしまった。
「「あら……伊達巻?」」
「あの、あの、これは……!」
「しかも手作りよね、これ。食べてもいいかしら?」
私が伊達巻を持って来た言い訳をする暇もなく、食べることを了承する前に夫人は包丁を取り出して伊達巻を一本を切り分けて行く。瑠香もコーヒーのお供と謂わんばかりにケーキを切り分け、クッキーと一緒にお皿に並べて行く。
(母さんのバカーっ!)
内心で母を罵り、伊達巻をつまんだ夫人と瑠香を見ながら固唾を飲んで二人の審判を待っていると、二人は目を見開いて固まった。
(うちのは甘さ控えめだから、口に合わなかったのかな……)
内心がっかりしていると、いち早く夫人が立ち直り、瑠香に声をかけた。
「瑠香」
「はい」
「お父さんや泪にも食べさせてあげて」
「ええっ?!」
夫人の言葉に驚く。
(社長や泪さんにまで恥を晒せってこと?!)
そう思っていても二人はにっこり笑い、社長と泪の分を取り分けると瑠香はそのお皿をおぼんに乗せてキッチンを出て行ってしまったので焦る。
「ちょっ、奥様、瑠香さん?!」
「もう、奥様だなんて。せめて『お義母さん』と呼んでほしいわ」
「え……お義母さん、て呼んでも……いいのですか?」
夫人の言葉に驚いた。まだ結婚もしていないのにそんなふうに言われるとは思っていなかったし、泪に相応しくないと罵られると思っていたからだ。
私を見ていた夫人が一瞬眉を上げたかと思うと、次の瞬間にはふわりと微笑んだ。
「あら。だって泪を見ればわかるわ。あんなに穏やかで幸せそうな泪は初めてだもの。伊達巻もすごく美味しかったわ。これからもよろしくね」
そう続けられた言葉が嬉しくて、笑顔で「はい」と返事をすると「瑠香や瑠璃の言った通りね」とギュッと抱きしめられた。
途中で瑠香も戻り、三人でコーヒーやお菓子を持って泪と社長のところに行くと、なぜか二人は目をうるうるさせて私を見た。
(な、なに? なんなの?! 奥様――お義母さんは美味しかった、って言ってくれたけど……)
二人の行動がよくわからなくて、やはり伊達巻は不味かったのかなと内心凹みながら泪の隣に座ると、泪が満面の笑みで抱き付いて来た。
「母さん……」
「何かしら?」
「やっと娘の手料理が食べれるな」
「そうね」
感動したように「娘の手料理」と話す二人の会話は、私にとって意味不明だしわけがわからない。
「でかしたぞ、泪!」
「ふふん、当然でしょ?」
「……悪かったわね、料理が下手で!」
「あ、あの……?」
穂積家の面々の会話を聞きながら、嫌な予感がしつつ首を傾げる。
「「「「是非ともお手製の御節料理が食べたいな」」」」
「……はいっ?!」
伊達巻を入れた母親を内心で罵りつつ、四人で綺麗にハモったセリフに、嫌な予感が的中したのを悟ったのだった。
「ただいま」
「おかえり」
「おかえりなさい。まあ……」
「圭、父と母よ」
「はっ、初めまして。在沢 圭と申し……」
泪のご両親ということは、穂積の社長と社長夫人ということだ。あまりにも緊張しすぎて、声が上ずってしまう。きちんと初対面の挨拶をしようとしたのけれど、瑠香に「堅苦しい挨拶はナシよ!」と遮られてしまった。
「お圭ちゃんの淹れたコーヒーは美味しいのよ! 小野さんが淹れたのより美味しいの!」
「ほう?」
「まあ、そうなの? 是非飲みたいわ。でも、お客様にそんなことをお願いするなんて……」
「母さん、お客様ではなく泪の嫁だろう? つまり、私たちの娘だ」
「あら、そう言えばそうね」
「あ、あの……」
とんでもない単語が耳に入って来たけれど、私が口を挟む間もなく会話がなされて行くためにオロオロするしかなく、すがるように泪を見るとただニコニコ笑っているだけだった。
(うう……どうしたらいいの? 渡さなきゃいけないのもあるのに……)
泪が弟妹たちと遊んでいる間に作ったお手製の菓子折を渡すタイミングを完全に逃し、内心あたふたしていたのけれど……。
「「是非ともコーヒーを飲みたいな」」
ご両親の二人同時に言われてしまい、思わず「……は?」と聞き返してしまった。
「流石! じゃあ泪、お圭ちゃんを借りてくわ。お母さんも一緒に来る?」
「ちょっと! 瑠香姉さん!」
「あら! 一緒に行くわ! 是非とも泪との馴れ初めをきかなくちゃ!」
「え? え?」
「はい、出発ー!」
「えええええっ?!」
二人にがっちり両手を掴まれ、「逃がさないわよー!」と言った二人の顔は泪にそっくりで……。人の話を聞かない強引な様子は、『この親にしてこの子あり』と思わせるものだった。
二人にキッチンに連れて行かれると、サイフォンが置いてあった。よくよく話を聞くと、普段はコーヒーメーカーで淹れているのだけれどコーヒーメーカー用のフィルターを切らしてしまい、買いに行っていると言う。
仕方なくサイフォンを引っ張りだしてコーヒーを淹れようとしたものの、使い方がわからず困っていたらしい。
「ごめんなさいね、お圭ちゃん」
「大丈夫ですよ。でも……私なんかがコーヒーを淹れてしまっていいんでしょうか……」
「『私なんか』って言わないの!」
「そうよ、自分を否定してはいけないわ。貴女が淹れたコーヒーを是非飲みたいの!」
「はあ……わかりました」
二人の勢いに流される形でサイフォンの用意をし、待っている間に夫人のほうに紙袋を渡すことにした。
「あの……お口に合うかわからないんですけれど、よろしければ召し上がってください」
「あら。開けてもいいかしら?」
「どうぞ」
紙袋の中身を一つずつ取り出し、並べて行く夫人。
中身はクッキーが三種類、チーズケーキ、ゴマケーキとなぜか伊達巻だった。私が用意したのはお菓子だけなので、これは母が入れたことになる。
(母さんてば……いつの間に?!)
実家のぶんプラス、泪に食べてもらおうと確かにたくさん作ったけれど、私は穂積家に持って来るつもりはなかった。そのことにあたふたしている間に夫人と瑠香に突っ込まれてしまった。
「「あら……伊達巻?」」
「あの、あの、これは……!」
「しかも手作りよね、これ。食べてもいいかしら?」
私が伊達巻を持って来た言い訳をする暇もなく、食べることを了承する前に夫人は包丁を取り出して伊達巻を一本を切り分けて行く。瑠香もコーヒーのお供と謂わんばかりにケーキを切り分け、クッキーと一緒にお皿に並べて行く。
(母さんのバカーっ!)
内心で母を罵り、伊達巻をつまんだ夫人と瑠香を見ながら固唾を飲んで二人の審判を待っていると、二人は目を見開いて固まった。
(うちのは甘さ控えめだから、口に合わなかったのかな……)
内心がっかりしていると、いち早く夫人が立ち直り、瑠香に声をかけた。
「瑠香」
「はい」
「お父さんや泪にも食べさせてあげて」
「ええっ?!」
夫人の言葉に驚く。
(社長や泪さんにまで恥を晒せってこと?!)
そう思っていても二人はにっこり笑い、社長と泪の分を取り分けると瑠香はそのお皿をおぼんに乗せてキッチンを出て行ってしまったので焦る。
「ちょっ、奥様、瑠香さん?!」
「もう、奥様だなんて。せめて『お義母さん』と呼んでほしいわ」
「え……お義母さん、て呼んでも……いいのですか?」
夫人の言葉に驚いた。まだ結婚もしていないのにそんなふうに言われるとは思っていなかったし、泪に相応しくないと罵られると思っていたからだ。
私を見ていた夫人が一瞬眉を上げたかと思うと、次の瞬間にはふわりと微笑んだ。
「あら。だって泪を見ればわかるわ。あんなに穏やかで幸せそうな泪は初めてだもの。伊達巻もすごく美味しかったわ。これからもよろしくね」
そう続けられた言葉が嬉しくて、笑顔で「はい」と返事をすると「瑠香や瑠璃の言った通りね」とギュッと抱きしめられた。
途中で瑠香も戻り、三人でコーヒーやお菓子を持って泪と社長のところに行くと、なぜか二人は目をうるうるさせて私を見た。
(な、なに? なんなの?! 奥様――お義母さんは美味しかった、って言ってくれたけど……)
二人の行動がよくわからなくて、やはり伊達巻は不味かったのかなと内心凹みながら泪の隣に座ると、泪が満面の笑みで抱き付いて来た。
「母さん……」
「何かしら?」
「やっと娘の手料理が食べれるな」
「そうね」
感動したように「娘の手料理」と話す二人の会話は、私にとって意味不明だしわけがわからない。
「でかしたぞ、泪!」
「ふふん、当然でしょ?」
「……悪かったわね、料理が下手で!」
「あ、あの……?」
穂積家の面々の会話を聞きながら、嫌な予感がしつつ首を傾げる。
「「「「是非ともお手製の御節料理が食べたいな」」」」
「……はいっ?!」
伊達巻を入れた母親を内心で罵りつつ、四人で綺麗にハモったセリフに、嫌な予感が的中したのを悟ったのだった。
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