オカマ上司の恋人【R18】

饕餮

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圭視点

Margarita

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 ふっ、といきなり目が覚めた。しばらくぼーっとしていたけれど話の途中で寝てしまったんだと気づいた。母と真琴に悪いしちゃったなと思いつつ出勤時間まで時間があったので、昨夜入れなかったお風呂に入ったり家族全員のお弁当を作ったりした。
 特に一番下の葵のお弁当はキャラ弁にしたのだけれど……作ってからお弁当は必要だったかしらと焦る。必要ないなら私の分を翼の早弁用に渡し、葵のぶんを私の昼食にすればいいかと考えて、お弁当を包んだ。まあ、結局社会科見学に行くことになっていたらしく、そのまま葵に手渡すと喜んでくれた。もちろん、他の家族も。

 日差しは昨日より暖かかったけれど、服装は体を冷やさないような格好にした。髪は母に「下ろしていけ」と言われ、今日はシニヨンではなく両サイドを三つ編みにし、それをシュシュで一纏めにくくっただけの簡単な髪型だ。スカートは買い揃えるまで諦めてもらうことにする。

 今日は仮眠室の布団を全部干すことに決め、鞄にお弁当と薬を入れ、エコバッグに昨日買ったコーヒー豆と茶葉、自室にあった未使用のティーインフューザーを入れて出勤する。

(早く着きすぎちゃった……自宅より実家からのほうが近いなあ……)

 言われていた時間よりも早く着いたので、やろうと思っていた仮眠室の布団を干すことにする。
 物干し竿などが無いため、昨日買って来てもらったレジャーシートを日の当たる場所に敷き、その上に布団を並べ、少しだけ叩いておく。さらにその上に黒い布地を被せ、風で飛ばないように四隅に重いものを乗せてから事務所に戻った。仮眠室はまだカビ臭いので窓は開け放しておく。

 昨日の買い物袋から人数分のカップを出し、洗って伏せて置く。
 サイフォンをしまい、コーヒーメーカーと入れ替えてコーヒーを落とす。豆はジャブロー産のにした。
 プリンス・オブ・ウェールズとポンパドールを少しだけ分け、あとは自宅に持って帰るつもりでまたエコバッグにしまい、まだ机やロッカーがないので鞄と一緒に仮眠室に置いておいた。

 小田桐でやっていたようにまずはパソコンを立ち上げ、机を拭いたりしている途中で「おはよう。早いわね」と声をかけられた。振り向くと泪がいたのだけれど、眉間に皺が寄っている。

「せん……泪さん、おはようございます」
「……アタシ、パンツ禁止って言わなかった?」
「私は、持っていませんと言いましたよね?」
「ああ、そうだったわね……」

 ダークグレーのスーツを着た泪は、髪はさらさらのままでまだ眼鏡をしていない。

「なんでこんな早いの?」
「昨日は実家に帰ったのですが、実家から来たら早く着きすぎてしまって……。あ、コーヒーを淹れたんです。飲みますか?」
「ありがとう。いただくわ」

 そう言われ、カップにコーヒーを入れて渡す。

「さて、アイツらが来る前に面接をしましょうか。アタシの中では既に決まっていることだけど、一応規則だから。あっちの部屋に行きましょ」
「はい」

 いよいよ面接か……と緊張しながら鞄とエコバッグを持って、泪のあとを付いていく。

「そこに座って。貴女が持っている資格を全て教えて」
「わかりました」

 泪の部屋にある、対面式のソファーを指されて座る。鞄から手帳サイズのバインダーを出し、「これで全てです」とそれごと渡す。その中には諸々の資格証や免許証等が挟まれている。
 泪は一瞬驚いた顔をしたけれどすぐに戻り、パラパラと捲りはじめた。時にはスキャナーで読み取り、パソコンに取り込んではマウスを動かしている。恐らく穂積本社に送るための資料を作っているのだろう。
 ……この、待っている時間が、居た堪れない。時折「ふうん」とか「こんなのも持っているのか」と呟きが聞こえ、そのたびに今すぐ逃げ帰りたい衝動に駆られるけれどそれをグッと我慢する、というのを繰り返していた。

「よくこれだけ取ったな」

 確認し終わったのか、バインダーを返されながら、の顔でそう言われた。

「……両親の影響で。そのうち、家族の喜ぶ顔が見たくなって取ったり、仕事に役立ちそうだからと取ったりといろいろです。よくよく考えれば、それは必要なのかという資格も中にはあるのですが」
「そうか……。実は、君に声をかける前に僕が欲している資格保持者を数人雇うはずだった。だが、なかなかいい人材がいなくてね。……君を見つけたのは偶然だったが」

 一瞬、艶めいた……煌めいたものが泪の目に浮かんで消える。

「君に決めてよかった。これからもよろしく」
「……! はい! 専務、ありがとうございます! 精一杯頑張ります!」

 立ち上がって握手をすると、いきなりグッと引き寄せられて踏鞴たたらを踏んでしまい、泪の胸に飛び込むような形になってしまった。

「もう……泪って呼んでと言ったのに、またって言ったわね? さっきも言いそうになってたし」
「あ、あの……申し訳ありません?」

 突然オネエ言葉になった泪に戸惑う。いきなり口調が変わると私も混乱するし、呼び慣れていないからどうしても先に『専務』という言葉が出てきまうのは仕方がないでしょう?

と言うたびに、セクハラすることにしようかしら」
「え? え?!」
「そうね、それがいいわね。はすぐにやらないと効果がないし。今からことするわ」
「お、お仕置き?!」

 そう言われてび驚く間もなく、くるんと体を回された途端、服の上から両胸を掴まれた。何が起こったのか分からず、固まる。

「そう。お仕置きにもなるし、圭にイロイロ教えてあげるという約束も果たせるし……」

 アタシも嬉しいしね、と耳元で囁かれる。その間も泪の両手は動いている。

「男に胸揉まれたのは初めてよね? うふふ……圭の乳揉み初体験、ゲットね♪」

 そう言われてハッ、と我に返る。

「セ、セクっ……! ごほっ! ごほっ!」

 セクハラ、と叫ぼうとして咳き込んでしまった。胸を揉んでいた手が離れ、背中を優しくさすられる。

「大丈夫?! ごめん、調子に乗りすぎちゃったわ……あ!!」
「どうか……ごほっ、しましたか?」
「昨日から何か忘れてると思ったら……」
「はい?」
「……加除湿機能付の空気清浄機、買うの忘れてたわ……」
「……は?」

 泪は背中をさすっていた手を離し、パソコンで何かを調べ始める。見つかったのか急に手を止め、どこかに電話し始めた。

 ――さすっていた泪の温かく大きな手が離れた途端、なぜか寂しく思い……結局、どうして寂しく思ったのかわからないまま、泪の電話を聞いていた。


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