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1巻

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 ノンとバトルホースと仲良く話しながら、肉を食べる。ご飯だなんて贅沢は言わん、せめてパンがあればなあ……と思った食事だった。
 今日はここで、まったりと過ごす。ノンは採取に行くと言って、今はこの場にいない。
 バトルホースはというと、敵がいないからなのか、あるいは立っているのがつらいのか、膝を折ってのんびりと寝転んでいた。出会ったときの警戒心や敵意を考えると、よくぞここまで警戒心がなくなったよなあと感心するが……ちょっと気を許しすぎじゃない?
 まあ、周囲には魔物の気配はないし、私がここにいて危険ということはないので、そのままでいてもらおう。なにかあったら困るから、結界は張っておくが。
 ついでにさっき狩ったビッグボアの皮を使い、水筒すいとうを作ることにする。そんなにたくさんはいらないのでビッグボアの皮を四等分にし、残りはバッグにしまう。

「〝水筒すいとうを錬成〟」

 皮を持って言葉を発する。すると皮が光り、徐々にその形を変えていく。光が消えると、皮袋の水筒すいとうが五つ出来上がっっていた。
 しかも、この世界にもあるような丸みをおびた形の水筒すいとうで、どこから出てきたのか知らないが、しっかりとコルク栓までついている。
 ……物理法則は無視ですか、そうですか。リュミエールのところで作った薬やポーションも、材料が足りないはずなのにきちんとできていたなあ……と、思い出した。よくイメージしていたからかな。
 これはきっと考えたらアカンやつだと疑問に蓋をし、【鑑定】する。


 【革の水筒すいとうS】
   錬金術で作った水筒すいとう
   しっかりとした作りでとても丈夫
   なめした皮で作られ、水を入れても問題ない
   見た目に反し、水を入れても軽く、中身は見た目の十倍入る
   時間が経過しないので、中身が腐ることはない


「やばっ! これは売れない!」

 やっちまったぜ、ベイベー。なんも考えずに作った結果がこれだよ……
 旅に持っていくにはとても便利だけれど、これは他人に見せたらダメなやつだ。
 錬金術はイメージが大事だとリュミエールも言っていたから、しっかり考えて作らないとダメだと思った。
 よっぽどのことがない限り、人間嫌いな私が他人と深く関わるとは思えないしねぇ……
 まあ、いっか。私とノンだけならどうにでもなるだろう。
 さっそく水辺に近づき、水筒すいとうに水を入れていく。確か革の水筒すいとうは一リットル入るはず。それが十倍なんだから、十リットルが五つ。
 途中に村や町、川がなくても数日どころか三週間は大丈夫なくらいはある。
 次はなにを作ろうか。当面ここで暮らすなら、私とノン、バトルホースの分の食器が必要と考える。
 それはすぐそこに転がっている枯れ木を使って作ればいいか。

「あれ? もしかして、土を使えば、ナイフくらいできるんじゃない?」

 もしかしたら、もしかするかも?
 試してみようと土と枯れ枝を持つ。

「〝ナイフを錬成〟」

 すると持っていた材料が光り、果物ナイフくらいの大きさのナイフが出来上がった。きちんとさやもある。
 おお、できちゃったよ! 便利だなあ、錬金術って。まあ、その分魔力を使うけどね。
 神様のところで戦闘訓練をしただけあり、私のレベルは百だ。カンストが九百九十九なのでまだひよっこか、かけだしといったところか。
 騎士やベテラン冒険者ともなると、平気で四百から五百はあるとリュミエールが言っていたことを思い出し、ちょっとだけ乾いた笑いが出た。
 まあ、それは置いといて。
 私自身は攻撃魔法を使うことはできない。ノンがいれば風魔法を使って木を切ってもらうことができるけれど、今はいない。
 のちのちのことを考えて、ノコギリなどの大工道具を錬成しよう。ちゃんとしたものは、鉱石を手に入れてから作ればいいし……
 よし、あとでマップを確かめ、まずは鉱山がある町を目指そうと決める。
 とりあえず今は、間に合わせで作っておく。

「〝ノコギリを錬成〟」

 いちいち持つのが面倒になったので、地面に木を置いててのひらを地面につけ、言葉を放つ。
 すると、そこにノコギリが現れる。今はノコギリだけだが、いずれは他の大工道具も作りたい。
 それはまだまだ先の話だから、先に食器類を作ってしまおう。
 倒木をノコギリで適当な大きさに切っていく。どんどん作っていくよ!
 深皿に皿、カップとフォーク、スプーン。フォークとスプーンは木でもいいけれど、さすがにナイフは金属がいいだろうと、土を使って錬成した。
 残りの木材はバッグにしまい、必要になった段階で使おう。

「ねえ、バトルホースくん。水を飲むバケツは必要?」
〈できれば。そのほうが俺も飲みやすい〉
「OK」

 別の倒木を使って、深さのあるバケツを作ることにする。さっきの木だと太さも深さも足りない。この倒木は太さも充分にあるし、くりぬいたような形のバケツにすればいいかと思い、深さ五十センチくらいの長さに切った。

「〝バケツを錬成〟」

 すると、金属でしっかりめてあるバケツが出来上がる。しかも、持ち手付きだ。
 ……うん、物理法則は無視なんですね、わかりました。
 遠い目をしつつ、バケツに水を汲んでバトルホースのところに持っていく。
 だいぶ薄れたとはいえ、未だに警戒心は解けていない。警戒心というよりも猜疑心さいぎしんに近いのかも。
 どれだけ酷いことをしたんだ、元主人は。そいつの行動にいきどおりを感じる。

「深さはこれくらいで大丈夫かな?」
〈充分だ〉
「喉が渇いたら飲むのよ」
〈ありがとう〉

 まだまだ体力がないから、動くのがつらそうだ。今は体を元に戻すことと、体力をつけることを考えてもらおう。
 それまでに、せめて私にだけでも警戒心を解いてくれるといいなあ。
 倒木のところに戻ると、これもノコギリで適当な長さに切る。できれば椅子と、テーブルか卓袱台ちゃぶだいがほしいところ。
 どっちがいいか考え、どこかに落ち着くまではと卓袱台ちゃぶだいにした。椅子は座椅子くらいの高さでいいかな?
 町に行ったら布と綿を買って、座布団ざぶとんとクッションを作りたい。もしかしたら、その辺にある草でできるかもしれないが、その実験はあとでいいとして……

「〝座椅子と卓袱台ちゃぶだいを錬成〟」

 折り畳める、見事な卓袱台ちゃぶだいと座椅子ができました。
 座椅子にしっかりクッションがついているのはなぜだ!
 もうあれこれ考えるのはやめようと決め、残った木材で予備の食器類と串をたくさん作った。これで焼くにも問題ない。面倒だから、鍋とフライパンも作っちゃえ!
 ということで、作ってしまった。土が若干減っているけど、キニシナーイ!
 そうこうするうちにノンが帰ってくる。

〈ただいまなのー〉
「おかえり。どんなものが採れた?」
〈果物とキノコ。あと、一角兎が五羽!〉
「おお、凄い! そろそろお昼になるし、その肉を使ってご飯にしよう」
〈やった!〉
「君もしっかりと食べなさい」
〈ああ。……ありがとう〉

 作ったばかりのナイフを使い、さっそく一角兎の肉を小さく切っていく。さすがに切りにくいから、あとで包丁も錬成してしまおう。
 作ったばかりの串に肉を刺し、かまどの近くに立てていく。
 くそう……せめてパンが欲しいなあ……。そう思っていたら、ピロリン♪ と音が鳴った。
 おおう、何事!?

《ごめんね、食料のことをすっかり忘れていた。マジックバッグにたくさん入れたから、いっぱい食べてね》

 リュミエールの声がして驚く。マジックバッグに何を入れてくれたんだろうとあさってみれば、いろんな種類のパンが大量に入っていた。
 しかも調味料の数と量が増えているし、卵と牛乳、バターと小麦粉や乾燥野菜まであるではないか!
 そして、糠漬ぬかづけと梅干、味噌も。おまけで醤油と酒、みりんまであるのは驚いたが。
 糠漬ぬかづけなどは米がないからしばらく封印するとして……このパンの数なら私とノン、バトルホースが食べても二週間分くらいある。バトルホースも、それまでには回復しているだろうし。

「リュミエール、ありがとう。大事に食べるわね」

 今は直接感謝を伝えることはできないけれど、祈りや想いはきっと届くはず。定住先に教会がなかったら、自宅に像を作って毎日リュミエールを拝もう。
 まあ、落ち着く先が決まってからね!
 パンを出して、かまどの近くで温める。そして作った鍋に水を張り、その中に乾燥野菜と採取したキノコを入れ、味付ければスープの出来上がり。
 シンプルだけど、今の私たちには充分な食事だ。

「できたよ。さあ、食べようか。ノンもバトルホースくんもスープを飲む?」
〈〈欲しい!〉〉
「ふふっ! いいよ。よそうから、ちょっと待ってね」

 熱いから気をつけるんだよと声をかけると、すぐにスープを飲み始める二匹。そうこうするうちに肉も焼けてきたので、どんどん二匹に食べてもらう。
 もちろん私もしっかり食べているし、追加でも焼いている。
 ……どれだけ食べさせてもらえなかったんだろう、このバトルホースは。美味い美味いと言いながら涙を流し、一心不乱に肉やスープを食べ、水を飲んでいる。
 マジで呪われろ、バトルホースの元主人! しばらく冒険ができないくらいの怪我でも負ってしまえ!
 そんな物騒ぶっそうなことを考えつつ、バトルホースが早く元気になるよう、祈った。


 それからなんだかんだと池のほとりに留まり、二週間。
 今ではバトルホース自身の警戒心もすっかりなくなり、あれだけ威嚇していたというのに、なついてくれた。
 痩せ細っていた体も見事に復活し、つやがなかった肌や毛もつやつやふさふさだ。これなら、野生に戻っても大丈夫だろう。
 そう思っていたんだけれど……

「は?」
〈だから、アリサの従魔になりたい〉
「だけど……」
〈前の主人はここまでしてくれたことはないし、俺はアリサが気に入ったんだ。俺に乗って移動すればいいし、俺もノンやアリサと一緒に、旅をしてみたい〉
「いいの?」
〈いいからそう言っている〉
〈ノンも一緒に旅をしてみたい!〉

 二匹は本当に仲良くなったようで、一緒に旅をしたいと言っている。確かにバトルホースがいれば、移動は楽になる。
 どうしようかと考えるものの、ノンもバトルホースも、懇願こんがんするように私をじっと見ている。こういう目に弱いんだよなあ……特に動物のは。
 人間? それはない。人間嫌いな私が、身内認定した人以外にこういう目をされても頷くことはない。

「そうね……いいわ」
〈〈やった!〉〉
「名前だけど、リコ、はどうかしら」
〈気に入った!〉

 そう叫んだ途端、私とリコは魔法陣に包まれた。これで従魔契約が成立した。

「よし。さっそく移動、と言いたいところだけど、私には裸馬を乗りこなす技術はないから、錬金術でくらを作るわね。ちょっと待って」
〈ああ〉

 移動前にくらなどを含めた馬具を作ることに。この二週間で、ビッグボアをはじめとした魔物を結構狩った。
 その中でも、馬具にするには一般的ではないが、比較的防御力が高いブラウンベアとホーンディアの皮を使ってくらなどを作る。あと、レッグプロテクターも。
 便利です、錬金術。しっかりとしたイメージと材料さえあれば、かなりいいものができるんだから。

「よし。じゃあ、くらをつけて……っと。どう? 痛いとか苦しいとか、ない?」
〈ふむ……ああ、大丈夫だ、動きやすい〉
「ならよかった」

 馬具を着けたまま歩いたり飛び跳ねたりしたリコ。どうやら大丈夫そうだ。
 すぐに乗ってくれと言われてリコにまたがると、ノンはリコの頭のところに陣取る。

「リコはどっちから来たか、覚えてる?」
〈西のほうだ。前の主人も西に帰った〉
「なら、西以外へ行こうか」
〈ノンは適度に涼しくて、ご飯が美味しいところがいいなー〉
〈俺も〉
「よし、そうしようか」

 食いしん坊な二匹を微笑ましく思いつつ、リコの背に乗って森の中をゆっくりと歩く。そのまま話していると、すぐに私たちが出会った場所に出る。

「まずはここを東に移動しよう。北に分岐があったら、その方向へ行ってみようか」
〈うん!〉
〈わかった〉

 しばらく走っていないから、まずはゆっくり歩いていたけど……少しずつスピードを上げて走り始めるリコ。
 日本にいたときに乗馬を経験したけれど、あれなんか目じゃないほど速い。

「リコ、途中に村か町があったら教えるから止まってね。ノンと一緒に従魔登録をするから。私も冒険者登録しないとまずいし」
〈おう〉

 各村や町には、必ず冒険者ギルドがあるという。そこで登録してしまえば、誰かに文句を言われることもない。
 途中に休憩所があったので、リコのためにも一回休みを取る。

「リコ、大丈夫? ノンも疲れていない?」
〈ああ。まだまだいける〉
〈ノンも平気ー〉
「そっか。水分を取ったら、出発しよう」

 一緒に休憩所にいるのは、冒険者だろうか。リコとノンが気になるんだろうけれど、ちらちらとこっちを見ていてうざい。彼らが近づいてくる前にすぐに休憩所を出発する。
 そして休憩所から一時間も走ると、十字路が見えてきた。そこを北に向けて曲がる。さらに一時間走ると町が見えてきたけれど……トラブルがあったのか、騎士がたくさんいる。

「うーん……面倒ね」
〈通り過ぎるー?〉
「そうしようか。森か休憩所で一夜を明かそう。従魔登録前だから、文句を言われても困るし」
〈アリサと離れるのは嫌ー!〉
〈俺も!〉
「私もよ。だから、さっさと通り過ぎよう」

 さっさと町を通り過ぎさらに三十分走ると、森の中から悲鳴が聞こえた。悲鳴といっても人間のものではなく、魔物の声だ。
 すると、バリバリと音がしたあと、少し先にある森の近くに雷が落ち、静かになった。

「おおう……びっくりした! なにがあったんだろう」
〈行ってみるか?〉
「そうしよう」

 魔物と人間が戦っていたんだとすれば、人間を助けないといけないけれど……関わるのは面倒だなあ……なんて思っていると、すぐにその場所に着く。
 そこにいたのは倒れているシルバーウルフの群れと、怪我をしている二羽の大きな魔鳥――フレスベルグだった。

「怪我をしているのね」
〈近寄らないで!〉

 威嚇してくるフレスベルグたちに、できるだけ落ち着いた声で話しかける。

「そうは言っても、動けないとまたシルバーウルフに襲われるわよ?」
〈〈え……?〉〉
〈あたしたちの言葉がわかる、の?〉
「突っ込むのはそこかよ! まあね。ノン、二羽に【回復】をかけて。リコは周囲の警戒を」
〈〈わかった〉〉

 リコから降りて、シルバーウルフの状態を見る。今は雷に当たったのか痺れて倒れているけれど、動き出すと困るからとすぐに首を斬りつけ、トドメを刺す。
 シルバーウルフの毛皮は高く売れるし、肉もウルフ種にしては美味しい部類に入る。今は夏だが、すぐに秋がきて冬がくる。錬金術でコートや敷物しきものを作ってもいいかもと、内心ホクホクしていた。

「〝解体〟」

 血抜きを終えて全てを解体すると、毛皮と肉、爪と牙、魔石に分かれた。必要ないものはギルドに売ろう。いっぺんに売らずにあちこちにばら撒けば、場所によっては高値で買ってくれるところもあるだろうし。

〈アリサ、終わったのー〉
「ありがとうノン」
〈俺のほうも特に問題ない〉
「ありがとう、リコ。君たちも傷は大丈夫?」
〈あ、ああ。にゃんすら殿の魔法が効いた〉
〈さすがは神獣のにゃんすら様ね〉
〈えっへん!〉

 フレスベルグたちが褒めると、ノンが胸を張る。可愛いぞ、ノン。
 ここにいるとまた襲われるだろうからと、街道に出ることに。
 騎士がいたのは、もしかしたら、フレスベルグとシルバーウルフの群れがいたからじゃなかろうか。この二種類は、こんなところに出るような魔物じゃないし。
 いろいろ聞かれて足止めされるのも面倒なので、騎士たちに会わないように北に向けて出発することにした。そしてフレスベルグだけれど、【縮小】というスキルが使えるようで、スズメサイズになって私の肩にとまっている。

「さあ、離れるわよ。話はあとで聞くから。リコ、休憩できそうな場所まで移動しよう」
〈わかった〉

 すぐにスピードを上げて走り始めるリコ。
 そこから一時間も走ると休憩所が見えてきた。誰もいないのはラッキーだ。テントを展開し、結界を張ってからかまどを作る。シルバーウルフの肉を使って料理だ。

「さあ、どうぞ。君たちは生肉のほうがいいわよね?」
〈〈はい〉〉
「じゃあ食べようか」

 食べやすいように小さく切った肉を、フレスベルグに食べさせる。ノンは焼いたもの、リコは生がいいというので、それぞれ好きなように食べてもらう。
 ある程度食べて落ち着いたころを見計らい、フレスベルグに話しかける。

「どうしてあそこにいたの?」
〈あのシルバーウルフの群れに、追いかけられた〉
「あらまあ……」

 別の場所で巣作りをしていたら、シルバーウルフにちょっかいをかけられたという。あのシルバーウルフたちは悪さばかりしていて、人間から討伐とうばつ対象になっていたんだって。
 魔物たちの中でもかなり悪い評判が立っていたらしい。
 フレスベルグたちも最初は相手にしなかったけれど、完成間際の巣を壊されて激怒。怪我を負ってしまったが、なんとか倒しきったところに私たちが来たそうだ。

「なるほどね。なら、これからその土地に帰る?」
〈いや、我らはアリサに恩がある。だから一緒に連れていってくれ〉
〈みんなと一緒の旅も楽しそうだし〉
「いいの?」
〈ああ〉
〈ええ〉

 おっと、また従魔が増えることになりそうだ。

「わかった。そうね、名前だけど……オスがピオ、メスがエバでどう?」
〈〈気に入った!〉〉

 彼らが気に入ったことで魔法陣が現れ、従魔契約となった。



  第二章 冒険者登録と活動開始


 のんびりと街道を走る。
 途中で旅人や行商人、冒険者とすれ違いながら、村か町を目指す。
 マップには、あと少しで町があると表示されているけれど……どんな町かな? まずは念のため冒険者登録とノンたちの従魔登録をしよう。そしていらない素材を売ってから、ちゃんとした鍋や包丁とタオル、下着や着替えを買おう。
 そんなことを考えているうちに町に着く。そこまで大きいというわけではないが、それなりに人がいる。
 門番に身分証を持っていないと話すと、その場合の対応について教えてくれた。銀貨一枚を担保たんぽに木札をもらい、あとで身分証を持って木札を返しにくれば返金してくれるんだとか。なのでその通りにして木札をもらい、中に入ろうとすると、別の門番に止められた。

「なに?」
「いや、魔物が一緒だから、その……」
「旅の途中で従魔になった彼らの登録のために来たの。なにか問題でも?」
「い、いや、ない。すまん、通ってよし」
「ありがとう。ああ、ついでに。冒険者ギルドはどこにあるの?」
「ここを真っ直ぐ行くと、すぐ十字路に出る。そこの右角にあるからわかるだろう」
「ありがとう」

 かなり門から近いところにあるのね、なんて考えつつ、リコを引いて冒険者ギルドへと向かう。教えられた通り十字路の右角の建物に、冒険者が出入りしているのが見えた。


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