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ファウルハーバー領編
第185話 獣人の村再建 その後
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ヅケにする前のスモークサーモンは、油がのっていなかったからなのか、微妙に味がボケていた。けれど、ヅケにしたものは旨味が凝縮されたというか、出汁醤油の味が加わったことで、いい味になっている。
「美味しい!」
「いいな、これ!」
「「いくらがないのが残念!」」
「春先だからしょうがないわよ」
スプーンで掻き込むように食べるヤミンとヤナに、騎士たち。春先なので、残念ながらいくらはない。
まあ、アイテムボックスのほうにたんまりと入っているから、旅の途中で食べてもらおう。そしてルードルフを含めた側近たちは、何やらこそこそと話し合っている。
話し合いが終わったのか、夫婦揃って私を見た。
「アリサ」
「なに?」
「報酬を出すから、領地に戻ったら燻製窯の作り方と、スモークのやり方を教えてほしい」
「いいけど、川は? それに、スモークチップの材料は?」
「チップのほうは、調べないとわからない。川に関しては、この村とたいして変わらないと思う」
「……わかった。領地に戻ってからでいいから、依頼を出して」
「ああ」
おいおい、依頼が増えたよ。それだけ料理が乏しいのと、塩味に飽きたんだな。
ミショの実がルードルフの領地にあるかわからないけれど、なければ栽培しそうだ。まあ、一粒ずつあれば増やすことは容易いから、どうにでもなるっしょ。
それは旅の途中で聞くからいいとして。
「ヤナ。罠はどんなものを仕掛けてきたの?」
「子どもでもできるものだから、本当に簡単なものだよ。浅いところに堰を作って、そのうしろに定置網を設置したり。あとはあのブルツだっけ? あれが獲れればいいなってバカデカいウナギ篭を何個が仕掛けてきた」
「梁漁はしないのか?」
ニヤニヤしながらヤナに質問するルードルフに、ヤナは嫌そうな顔をしてルードルフを睨む。
「駄洒落だからってしねえよ。俺は錬金術は使えるけど、アリサほどのレベルもなければ、大工スキルもない。それに、そんな浅瀬でもないんだよ、今日行った川は」
「すまん。なるほど。子どもがいることを考えると、危険か」
「ああ。遠浅になっているところの流れはそうでもないけど、ちょっと離れると見た目よりも流れが速い。大人でも危険だと判断したんだ。だから投網を教えた」
「なるほどな」
海もそうだが、川も侮れない。雨上がりは特に危険だ。
それに、晴れている日でも表面は穏やかに見えても、実際は流れが速い場所もあったりして、見た目以上に危険なこともあるのだ。それを簡単に調べるのが、川に葉っぱなり小枝なり投げ込むこと。
一般的ではないかもしれないが、便利な道具があるわけではないこの世界だと、これが一番安全な方法だろう。それに、大人は経験や親世代から危険な場所を聞いて、知っているはず。
だからこそ、子どもを連れて行った場合はその場所を教え、連綿と受け継がれていくのだから。口伝ってやつだね。
それを踏まえたうえで、罠を設置してきたという。
「それなら大丈夫だろう」
「魚は毎回必要ってわけじゃなさそうだし、月に一回か二回でいいとも言っといた」
「充分だと思うぞ」
ヤナの言葉に頷くルードルフ。次はヤミンだ。
「ボクのほうでも、狩りの罠を教えたよ。といっても、踏むと足を引っ張るような簡単なものだけど」
「ほう? トラバサミは教えなかったのか?」
「うん。子どもたちも森に入るって聞いたから。罠自体は見てすぐにわかるようにしてあるから、明日にでも連れていって教えるって言ってた」
「なるほどな」
トラバサミは危険だもんなあ。足が挟まったら、大人でも骨が折れる危険がある。それならば、ロープで吊るすタイプのほうが危険はないだろう。
とはいえ、場所を知らないと、森に入った子どもたちが罠にかかる可能性がある以上、目印は必要だわな。
「あと、里芋と山芋を見つけたよ。山芋はドルト村と同じものだった。他にもミショの実があったり、リンゴやさくらんぼが生る樹もあったよ」
「おお、それは凄い! 今年は無理でも、村に植樹すれば来年には食べられるかも」
「ボクがいるから、今年でもできるよ」
「「ああ、そういえばそうだった!」」
ヤミンは樹人だものね。品種改良もできるというし、きっといい方向に向けて植樹するんだろう。
「あと、これはアリサにお土産」
ヤミンに手渡されたのは、黒くて小さな種。それが小瓶にたくさん入っている。
「からし菜の種。獣人にはきついだろうけど、僕たちは大丈夫でしょ?」
「からし菜……? あ! 和がらしもマスタードもイケるってことね!」
「うん。獣人さんたちだと、きっとあのツーンとした匂いが苦手だと思うんだ。実際、一緒にいた獣人さんも嫌そうな顔をしてたし」
「おお~。また料理の幅が広がる! ヤミン、ありがとう!」
「どういたしまして」
えへへ、とはにかんだヤミンは可愛い。
ルードルフが種を物欲しそうに見ていたから、領地に行ったら分けると約束した。
残りは畑と家屋のみ。畑に関しては、明日また種まきをしたあとで成長させ、食材のストックを作ることになっているという。とはいえ、私が持っている種はそんなに多くはない。
ただ、ルードルフによると、明日村で経営している商店の隊商が来ると村長から聞いたらしく、そこで種を購入予定だそうだ。そのついでに布や服など、必要なものを購入することも決まっているらしい。
そして壁と柵の間にあったスペースには、ヤミンが見つけた果樹や魔物除けに使う薬草を植える予定だそうだ。その薬草自体が弱い魔物なら寄せ付けないもので、この国の小さな村では必ず植えているものなんだと。
「なら大丈夫そうね。で、住宅に関しては、一番ひどかった家屋の補修は終了しているわ。あとは壁だけだそうよ」
「早いな」
「でしょう? ただ、どうせなら屋根も含めて建て直しをしたいと言っていたから、そこは自分たちでやるみたい。スキルレベルがガンガン上がったみたいで、自信をつけたのよ」
「なるほどね。なら、早ければ明日の昼には出発できそうだな」
「そうね」
思った以上に作業が早かったらしく、大工たちを褒めるルードルフ。ロジーネもホッとしたように息をついた。
つーか、今さらなんだが。ルードルフがあれこれ口を出して村の再建を手伝っているが、この地を治める領主に言わなくていいんだろうか。そんな疑問をぶつけたら、公爵夫妻揃って苦笑した。
「すまん、言ってなかったな。実は、ここ、王家の直轄地のひとつなんだよ。だから私があれこれ口を出したとしても、何も言われない」
「「「…………えええっ⁉」」」
「臣下に下ったとはいえ、元王族の私がスルーしたら、逆に陛下に叱責されていたと思うぞ」
「「「うわあ……」」」
「盗賊を引き渡した時に、陛下に手紙を送っている。そのうち騎士が来るだろう」
なんてこったい! もっと早く言ってくれよ!
とはいえ、あのまま見過ごすことはできない状態だったしね。
直轄地はなかなか巡回ができないから、こういう想定外なことがあると、非常に困ったことになるらしい。
ああ、だから即座に死刑宣告をされたのかと、妙に納得した。
その後は特にこれといったものはなく。ご飯も終わり、テントに入って寝た。
翌日は予定通りに動く。朝から川や森の罠を確認しに行った獣人たちが、それぞれ獲物を持って帰って来た。
三メートル超えのブルツは一匹しか獲れなかったが、その代わり一メートルサイズのブルツがたくさん獲れたらしい。なので、デカいのはスキルで解体したあと、小さいのは目打ちで捌いてみた。
ヤナがやり方を知っていたから、私も教わりながら捌いたとも。
普通の包丁だとやりづらそうにしていたから、出刃包丁を錬成した。ついでにドワーフたちにも出刃包丁と、スモークサーモンを切るために柳葉包丁を教えてみた。
刃を砥ぐのはドワーフたちがやると言っていたから、なんとかなるだろう。
肉のほうはボアが一体と一角兎が三羽かかっていたらしい。このあたりの一角兎はすばっしこくて狩れなかったらしいから、助かると喜んでいた。
野菜の一部は切ってから天日干しにして乾燥させたり、燻製窯の使い方とチップを教え、サケマスを燻したり、背開きにして干す方法を教え、いざという時のために保存食も教えた。
それと、ボアで塩漬け肉を作るというので、ついでにサケマスの塩漬けも教えた。新巻鮭の代わりだね。
そのまま焼いて食べてもいいし、酒のつまみにも合うと言うと、ドワーフたちと呑兵衛な男たちの目がキランと光ったような気が。
……うん、頑張って作っておくれ。
私とヤミンでリンゴやさくらんぼ、薬草などを植えている間に隊商が来たらしく、途中で賑やかになる。あれこれ種を買ったようで、ルードルフと一緒に村長が来て、嬉しそうに見せてくれたのだ。
果物はヤミンがやってくれるというのでお願いし、私は種を蒔いてもらったあと、一回成長させて収穫し、種を採取。その後、枯れたものと一緒に土を耕してもらったあとで種を蒔き、芽が出るまで成長させる。
あとは彼らが世話をして育てるだろう。
結局半日で終わらず、もう一泊することになった。
「美味しい!」
「いいな、これ!」
「「いくらがないのが残念!」」
「春先だからしょうがないわよ」
スプーンで掻き込むように食べるヤミンとヤナに、騎士たち。春先なので、残念ながらいくらはない。
まあ、アイテムボックスのほうにたんまりと入っているから、旅の途中で食べてもらおう。そしてルードルフを含めた側近たちは、何やらこそこそと話し合っている。
話し合いが終わったのか、夫婦揃って私を見た。
「アリサ」
「なに?」
「報酬を出すから、領地に戻ったら燻製窯の作り方と、スモークのやり方を教えてほしい」
「いいけど、川は? それに、スモークチップの材料は?」
「チップのほうは、調べないとわからない。川に関しては、この村とたいして変わらないと思う」
「……わかった。領地に戻ってからでいいから、依頼を出して」
「ああ」
おいおい、依頼が増えたよ。それだけ料理が乏しいのと、塩味に飽きたんだな。
ミショの実がルードルフの領地にあるかわからないけれど、なければ栽培しそうだ。まあ、一粒ずつあれば増やすことは容易いから、どうにでもなるっしょ。
それは旅の途中で聞くからいいとして。
「ヤナ。罠はどんなものを仕掛けてきたの?」
「子どもでもできるものだから、本当に簡単なものだよ。浅いところに堰を作って、そのうしろに定置網を設置したり。あとはあのブルツだっけ? あれが獲れればいいなってバカデカいウナギ篭を何個が仕掛けてきた」
「梁漁はしないのか?」
ニヤニヤしながらヤナに質問するルードルフに、ヤナは嫌そうな顔をしてルードルフを睨む。
「駄洒落だからってしねえよ。俺は錬金術は使えるけど、アリサほどのレベルもなければ、大工スキルもない。それに、そんな浅瀬でもないんだよ、今日行った川は」
「すまん。なるほど。子どもがいることを考えると、危険か」
「ああ。遠浅になっているところの流れはそうでもないけど、ちょっと離れると見た目よりも流れが速い。大人でも危険だと判断したんだ。だから投網を教えた」
「なるほどな」
海もそうだが、川も侮れない。雨上がりは特に危険だ。
それに、晴れている日でも表面は穏やかに見えても、実際は流れが速い場所もあったりして、見た目以上に危険なこともあるのだ。それを簡単に調べるのが、川に葉っぱなり小枝なり投げ込むこと。
一般的ではないかもしれないが、便利な道具があるわけではないこの世界だと、これが一番安全な方法だろう。それに、大人は経験や親世代から危険な場所を聞いて、知っているはず。
だからこそ、子どもを連れて行った場合はその場所を教え、連綿と受け継がれていくのだから。口伝ってやつだね。
それを踏まえたうえで、罠を設置してきたという。
「それなら大丈夫だろう」
「魚は毎回必要ってわけじゃなさそうだし、月に一回か二回でいいとも言っといた」
「充分だと思うぞ」
ヤナの言葉に頷くルードルフ。次はヤミンだ。
「ボクのほうでも、狩りの罠を教えたよ。といっても、踏むと足を引っ張るような簡単なものだけど」
「ほう? トラバサミは教えなかったのか?」
「うん。子どもたちも森に入るって聞いたから。罠自体は見てすぐにわかるようにしてあるから、明日にでも連れていって教えるって言ってた」
「なるほどな」
トラバサミは危険だもんなあ。足が挟まったら、大人でも骨が折れる危険がある。それならば、ロープで吊るすタイプのほうが危険はないだろう。
とはいえ、場所を知らないと、森に入った子どもたちが罠にかかる可能性がある以上、目印は必要だわな。
「あと、里芋と山芋を見つけたよ。山芋はドルト村と同じものだった。他にもミショの実があったり、リンゴやさくらんぼが生る樹もあったよ」
「おお、それは凄い! 今年は無理でも、村に植樹すれば来年には食べられるかも」
「ボクがいるから、今年でもできるよ」
「「ああ、そういえばそうだった!」」
ヤミンは樹人だものね。品種改良もできるというし、きっといい方向に向けて植樹するんだろう。
「あと、これはアリサにお土産」
ヤミンに手渡されたのは、黒くて小さな種。それが小瓶にたくさん入っている。
「からし菜の種。獣人にはきついだろうけど、僕たちは大丈夫でしょ?」
「からし菜……? あ! 和がらしもマスタードもイケるってことね!」
「うん。獣人さんたちだと、きっとあのツーンとした匂いが苦手だと思うんだ。実際、一緒にいた獣人さんも嫌そうな顔をしてたし」
「おお~。また料理の幅が広がる! ヤミン、ありがとう!」
「どういたしまして」
えへへ、とはにかんだヤミンは可愛い。
ルードルフが種を物欲しそうに見ていたから、領地に行ったら分けると約束した。
残りは畑と家屋のみ。畑に関しては、明日また種まきをしたあとで成長させ、食材のストックを作ることになっているという。とはいえ、私が持っている種はそんなに多くはない。
ただ、ルードルフによると、明日村で経営している商店の隊商が来ると村長から聞いたらしく、そこで種を購入予定だそうだ。そのついでに布や服など、必要なものを購入することも決まっているらしい。
そして壁と柵の間にあったスペースには、ヤミンが見つけた果樹や魔物除けに使う薬草を植える予定だそうだ。その薬草自体が弱い魔物なら寄せ付けないもので、この国の小さな村では必ず植えているものなんだと。
「なら大丈夫そうね。で、住宅に関しては、一番ひどかった家屋の補修は終了しているわ。あとは壁だけだそうよ」
「早いな」
「でしょう? ただ、どうせなら屋根も含めて建て直しをしたいと言っていたから、そこは自分たちでやるみたい。スキルレベルがガンガン上がったみたいで、自信をつけたのよ」
「なるほどね。なら、早ければ明日の昼には出発できそうだな」
「そうね」
思った以上に作業が早かったらしく、大工たちを褒めるルードルフ。ロジーネもホッとしたように息をついた。
つーか、今さらなんだが。ルードルフがあれこれ口を出して村の再建を手伝っているが、この地を治める領主に言わなくていいんだろうか。そんな疑問をぶつけたら、公爵夫妻揃って苦笑した。
「すまん、言ってなかったな。実は、ここ、王家の直轄地のひとつなんだよ。だから私があれこれ口を出したとしても、何も言われない」
「「「…………えええっ⁉」」」
「臣下に下ったとはいえ、元王族の私がスルーしたら、逆に陛下に叱責されていたと思うぞ」
「「「うわあ……」」」
「盗賊を引き渡した時に、陛下に手紙を送っている。そのうち騎士が来るだろう」
なんてこったい! もっと早く言ってくれよ!
とはいえ、あのまま見過ごすことはできない状態だったしね。
直轄地はなかなか巡回ができないから、こういう想定外なことがあると、非常に困ったことになるらしい。
ああ、だから即座に死刑宣告をされたのかと、妙に納得した。
その後は特にこれといったものはなく。ご飯も終わり、テントに入って寝た。
翌日は予定通りに動く。朝から川や森の罠を確認しに行った獣人たちが、それぞれ獲物を持って帰って来た。
三メートル超えのブルツは一匹しか獲れなかったが、その代わり一メートルサイズのブルツがたくさん獲れたらしい。なので、デカいのはスキルで解体したあと、小さいのは目打ちで捌いてみた。
ヤナがやり方を知っていたから、私も教わりながら捌いたとも。
普通の包丁だとやりづらそうにしていたから、出刃包丁を錬成した。ついでにドワーフたちにも出刃包丁と、スモークサーモンを切るために柳葉包丁を教えてみた。
刃を砥ぐのはドワーフたちがやると言っていたから、なんとかなるだろう。
肉のほうはボアが一体と一角兎が三羽かかっていたらしい。このあたりの一角兎はすばっしこくて狩れなかったらしいから、助かると喜んでいた。
野菜の一部は切ってから天日干しにして乾燥させたり、燻製窯の使い方とチップを教え、サケマスを燻したり、背開きにして干す方法を教え、いざという時のために保存食も教えた。
それと、ボアで塩漬け肉を作るというので、ついでにサケマスの塩漬けも教えた。新巻鮭の代わりだね。
そのまま焼いて食べてもいいし、酒のつまみにも合うと言うと、ドワーフたちと呑兵衛な男たちの目がキランと光ったような気が。
……うん、頑張って作っておくれ。
私とヤミンでリンゴやさくらんぼ、薬草などを植えている間に隊商が来たらしく、途中で賑やかになる。あれこれ種を買ったようで、ルードルフと一緒に村長が来て、嬉しそうに見せてくれたのだ。
果物はヤミンがやってくれるというのでお願いし、私は種を蒔いてもらったあと、一回成長させて収穫し、種を採取。その後、枯れたものと一緒に土を耕してもらったあとで種を蒔き、芽が出るまで成長させる。
あとは彼らが世話をして育てるだろう。
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