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ファウルハーバー領編

第181話 盗賊たちの末路

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「白金貨二十枚と、護送馬車は持ち帰ってきたぞ」

 到着早々、ルードルフがそう宣言した。五十人強で白金貨二十枚とは、ずいぶん高額な盗賊だな、おい。
 私はよほど不審げな顔をしていたんだろう。ルードルフとヤナが顔を見合わせたあと、盛大に溜息をついた。なんでそんな反応?
 私だけじゃなく、ヤミンや村長もそう思ったようで同じく首を傾げている。
 とはいえ、これからご飯だし話は食べながらできるからと、ルードルフと村長、ルードルフの護衛についていたヤナや騎士たちには、先に座って待っていてもらう。
 ウナギもどきだからね~。疲れた体にはピッタリだろう。
 私がご飯をよそい、ヤミンがタレをつけて焼いたものを載せていく。スープは自分でよそってもらうスタイルだ。
 もちろん、ご飯もウナギもどきもスープも、おかわり自由。
 さすがにルードルフたち公爵一行にそんなことをさせるわけにはいかないので、お膳のようにワントレイにしてある。

「うな丼!?」
「もどきだけどね」

 目の前に置いた途端、公爵夫妻とヤナの目が輝く。若干潤んでいるのは気のせいではないはず。
 川にいたやつだと説明し、もしひつまぶしがいいのであれば出汁も用意するとだけ話したので、食べたければ言ってくるだろう。そんなことを考えつつ、とりあえずはご飯が先! と食べさせる。

「うまっ! まんまうな丼じゃん!」
「ボクも食べて驚いたよ。あっちよりも肉厚で食べがいもあるよね!」
「ああ!」

 ヤミンとヤナは食べ盛り。十二歳――いや、先月十三歳になったこともあり、以前よりも食欲が増している。
 そのあたりはさすが男の子といったところか。
 私もあとちょいで十七歳だ~(棒)
 公爵夫妻や側近、騎士たちに至っては、静かに、だがかきこむようにうな丼を食べている。私はウナギもどきを焼きながら、ちまちまと食べているとも。
 ある程度食べて落ち着いたころ、村の住人が焼き方を教えてくれというのでしばらく一緒に焼いたあと、任せろと言われてそのままやってもらった。
 さて、これから盗賊たちの話だ。

「まず、あの盗賊たちですが、高額の賞金首が十人いました。その関係で、白金貨二十枚という高額になりました」
「あらまあ……」
「そ、それは凄いですね……」
「もらった賞金に関しては、捕まえたアリサたちパーティーに任せるつもりですが、どうしますか?」
「どうすると言われてもねぇ……」

 全部はいらないと、ヤミンとも話していた。金額によっては全額村に寄付してもいいよね、なんて話もしていたのだ。
 だが、この金額は想定外。
 とはいえ、正当な報酬なので私たちのパーティーに一任すると言われた。まあ、ヤミンとヤナも「アリサに任せる」と言いやがったので、独断と偏見で金額を分けることにしよう。

「じゃあ、三分の二を村に。残りは私たちパーティーと、ルードルフたちと折半でどう?」
「ボクはいいよ」
「俺も」
「私も問題ないです」
「いやいやいや! 儂はそこまでは……!」
「村長、それはダメよ」

 私の案にOKを出すヤミンとヤナ、そしてルードルフ。その金額の大きさに慌てる村長に、しっかりとダメ出しをする。

「まず、村にお金はあるの?」
「……ない、です。盗賊たちに全て奪われました」
「でしょうね。まずその補填をしないと。これだけの人数がいる村だもの、壊された農具やこれから蒔く種、当面の間の食料を買うとなると、お金が必要よ」
「それは……」

 私の指摘に、村長が黙り込む。種まきの季節とはいえ、今すぐ種を蒔いたとしても、すぐに食料ができるわけではないのだ。
 たんぱく質は森で狩りをするか川で魚を捕ればいいが、野菜はそうはいかない。そうすると、購入資金が必要になる。
 家にしてもそうだ。今は私とヤミンがいるから木材が調達できるけれど、いなくなったあとの木材は、自分たちで調達するか買わないといけない。
 何をするにしても、お金という先立つものが必要なのだ。
 ぶっちゃけた話、私たちパーティーにお金は必要ない。冬に潜ったダンジョンでめっちゃ稼いだから。
 それに、ルードルフにしてもお金はいらんだろう。
 なにせ貴族だし、これから他国に売れるような事業の展開をする以上、もっとたくさんの利益が出るはずなんだから。
 なので、村長にはルードルフの話を抜きに私たちの事情を話したうえで、お金を渡すことにした。そして、手伝いに関しても村長が気にしていたから、村の再建はギルドを通して依頼を請ける、という形にしてもらう。
 そうすれば少量でも金額が発生するし、気に病む必要もないだろうしね。
 この村にも冒険者ギルドがあるというのですぐにギルマスを呼んでもらい、村長からの依頼として再建を受ける形にしてもらった。その場合の報酬は、金貨三十枚。

「そ、それだけでいいのか?」
「ええ。ちょうど護衛依頼を請けている最中だし、他にも依頼を請けているから」
「そうか。なら、そうさせてもらう」
「そうして」

 本来は畑と家屋の再建、魔物除けの柵を作ったとしても、この値段ではできない金額だったりする。しかも、Aランクに対する報酬だから、下手すると倍以上になる。
 ぶっちゃけ、格安も格安どころの話ではなかったりするのだ。
 だからこそ、ギルマスが驚くのも当然だった。
 そこに、思い出したようにルードルフが話に入ってくる。

「ああ、そうでした。盗賊たちが奪ったものの中に、貴族たちが買い取る予定のものがあるそうです。その金額もこの村に送るよう話してありますから、そのように処理してください」
「わかりました」
「えええええぇぇぇぇっ!?」

 村長、喧しい! ギルマスのようにどっしりと構えろ!
 ……まあ、ギルマスは諦めたともいうが。
 約一ヶ月も盗賊たちに迷惑をかけられたうえに、ご飯も碌に食べられなかったのだ。ルードルフとしては当然の処置と行動なんだろう。
 この国の王族や貴族は、一部を除いて領民や国民を大切にしなさいと言われて育つという。だから、こういうお金の使い方はとても豪快だ。
 今回に関しては私に丸投げしたルードルフが悪いってことにしよう。
 それはともかく。

「とにかく、奪われたお金も込みなんだから、ある程度は一律で全部の家庭に配って、残りとあとから来たお金は食料確保に使えばいいでしょ」
「……はい。そうさせていただきます」

 若干目を潤ませながらありがとうございますと言った村長は、ルードルフからお金をもらうと、一旦家に戻った。
 で、ここからが密談というか本題。

「で、盗賊たちの内訳は?」
「実際は全員が賞金首だ。しかも、五ヶ国からの指名手配付き」
「わお!」
「だからこそ、あの金額になった。特に村長にも話した十人については、十ヶ国から指名手配されててな……」
「その金額が膨れ上がった結果というわけね」
「ああ」

 どんだけ悪さしてたんだよ、奴らは。
 手配書によると強姦殺人、強盗殺人は当たり前。商人や冒険者どころか貴族すらも襲っていたし、この村と同じ扱いをされて滅んだところも複数あったらしい。
 それに、国によっては王族も殺されていたという。
 だからこそ、その懸賞金が高額になり、全員合わせたものがあの金額になったそうだ。そりゃあ王族や貴族を殺されていたら、高額になるわな。
 犯罪労働者として使うことができないほど罪状が多すぎて、裁判なしで死罪が決定。ギロチンによる公開処刑だとさ。

「そう……」
「こればかりは仕方がない。鉱山送りにしたとしても、逃亡されたら元の木阿弥だ。だからこそ、その場で死罪が申し渡された」

 遺族もそれを望んでいたらしいと言ったルードルフは、ひっそりと溜息をついた。

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