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ファウルハーバー領編

第177話 村から出発

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 三日ほど村に滞在した公爵一行だが、今日村から出発する。案の定領地まで護衛依頼を請けたとも。
 もちろん私たちパーティーに対する護衛依頼なので、従魔は当然としてヤミンとヤナも同行する。
 食料については一度帝都に寄り、そこで買い物をする予定。その時に、ルードルフが皇帝にあとをつけられたことを手紙に書いて出すと言っている。

「側近がしっかり家紋を見てるからな。家名もバッチリだ」
「ちなみに、それだけで処罰ってできるもんなの?」
「捜査と調査次第かな」
「捜査と調査……」
「元とはいえ王子と、皇帝と宰相の友人のあとをつけたんだ。しかも家紋までわかっている。それを進言したらどうなると思う?」

 くくく……と低い声で、尚且つ真っ黒い笑みを浮かべて笑うルードルフ。ほんっとにこえーよ、お貴族様は! この手のタイプは、絶対に敵に回したらあかんというのがよーくわかるってもんだ。
 とりあえず家紋を見ただけじゃなく、その映像も保存してあるから、それも一緒に皇帝に送ったうえで「ストーカーされたよ、父ちゃん。怖いし、砂糖作りを横取り&邪魔されると困るから、調べてね☆(意訳)」的な内容の手紙を添えるという。
 ……終わったな、その貴族は。どのみち真っ黒い噂しか聞かない家らしいので、その内容次第では逮捕、じゃなくて捕縛されるだろうとのこと。

「そのまま芋蔓式に別の連中を捕縛できれば、御の字だな」
「中には幼子の人身売買もありましたもの。できれば捕縛していただきたいですわ」
「そうだな」

 おいおい、子どもの人身売買かよ! どう考えてもアウトでしょ!
 絶対に狙ってるだろ、ルードルフ。国の中枢なんて清だけでは立ち行かないしね。清濁併せ持ってないと無理。
 正義だけでは国も領地も治められないとは、ルードルフの弁だ。

「もちろん悪事に手を出すつもりはないが、正義感だけで領地なんて治められない。どこかで切り捨てる必要も出てくる」
「主に税金ですわ」
「なるほど。場合によっては上げざると得ないってことね」
「ああ。災害に備えてできるだけ備蓄などを用意し、資産を増やして貯金していたとしても、その規模によっては赤字になる場合がある。その時は数年は税を軽くするが、その後は税を上げざるを得なくなる」
「とはいえ、上げたとしても数年ですわ。その見極めを間違うと、ずっと重税に喘ぐ領地が出てしまいますもの」
「なるほどね」

 その采配がとても難しいと話す公爵夫妻。税を上げるか増やすかするしかないが、一歩間違うと悪徳領主になってしまうってことか。
 そんな話を聞いていると、私には確実に無理だとわかる。書類整理くらいはできるけれど、それ以上の采配などは確実に無理!
 教育を受けた貴族は怖いと同時に凄いって思った。
 そんな話をしていると準備が整う。公爵夫妻一行待ちだったんだよね。
 私たちは自分たちが使う馬車にリコを繋ぎ、いつものポジでスタンバイ済みだったのだ。

「じゃあ、アリサ、頼む。出立する」
「はっ!」
「はいよー」

 村人たちに見送られ、馬車が走り出す。来た時同様に休憩所まで行ったあと、転移で下まで行くのだ。
 その後帝都まで行って買い物をしたあと、領地に向かう予定。
 てなわけで予定通りに行動し、帝都を出たのは昼過ぎだった。買い物と、ついでに食事をして出て来た。
 ルードルフたちの領に向かう途中にいつも行く牧場があったので寄ってもらい、卵と肉類を購入した。なくなったら襲ってきた魔物肉を食べる予定。
 途中休憩を挟み、夕方まで移動。泊まる予定の町に着いたものの、珍しく宿が全滅だったので、町を出て少し先にある休憩所に移動中だ。
 とはいえ、公爵夫妻一行の馬たちはスレイプニルだったので、ちょっとスピードを上げてもらうと、すぐに休憩所に着いた。さっさとテントと結界を張り、ピオに雷を這わせてもらうと、一行の顔が引きつった。

「凶悪ですわね……」
「そうは言うけど、休憩所といえど安全じゃないの。特にこっちは女がいるんだから、自衛は大事よ」
「確かに」
「よからぬ視線も感じますしね」
「でしょ?」

 休憩所に着いてすぐ、気持ち悪い視線が飛んできた。そのこにいたのは冒険者が複数組と、商人一行だ。
 どこから飛んできたのかわからないが、先客が野郎どもしかいないことを考えると、警戒し自衛するのは当然。怖いのは魔物よりも人間だからね。
 なので、しっかりと結界を張ったうえでの雷付き。
 明日の朝はどうなってるかな♪ 楽しみだな♪

「結界も三重になってるから、見張りも必要ないわよ」
「わかった。ゆっくりと寝かせてもらうことにするよ」

 着いたばかりだからと一行全員に紅茶を配り、まったりしててもらう。その間にヤミンとヤナと一緒に、ご飯作り。
 貴族だからといって豪華な食事にはしないぞ? そういうのは町で食べればいいんだよ。
 とはいえ、デザートは食べたいとロジーネたち女性陣に言われているから、一品ずつだすつもりではいる。もちろん、男性陣も食べる気満々だ。
 領地の特産品となり得るものだからね~。そこは男性陣も真剣に吟味するだろう。
 まずはデザートよりも晩ご飯。春になったとはいえ、夜はまだまだ寒い。なのでスープは必須。

「アリサ、キノコたっぷりな野菜スープでいい?」
「いいわよ」
「俺は肉を串に刺すのを手伝うぜ」
「よし。じゃあ、一緒にやろうか」
「手が空いたらボクも手伝うね」
「ありがとう」

 スープはヤミンが作ってくれるというのでお願いし、その間に微妙に残っているボア肉とディア肉を一口大にカット。それをヤナが串に刺し、焚火の周囲に刺していくという流れだ。
 引っくり返すのは騎士たちがやると言ってくれたのでお願いする。ある程度カットしたらパンを用意して温め始めた。

「手際がいいな」
「そりゃあ冒険者稼業には必須だしね。冒険者によっては干し肉と硬い黒パンで済ませる人もいるけど、栄養面を考えるとねぇ」
「確かに」

 ルードルフを含めた騎士たちが頷いている。

「最近は、冒険者も料理するようになったよ、アリサ」
「ああ。といっても野菜が入ったスープだけとかな」
「それでも、野菜が入ったスープがあるだけで、栄養面は安心よね。あとはそこに加工肉を入れたり、干し肉を入れたり、魔物肉を入れるだけで立派な一品になるし」
「アリサ殿、もし休憩所での食事になるようであれば、我らにも教えていただきたい」
「簡単だし、いいわよ」

 私たちの話を聞いて何やら考えていた騎士の側近が、教えてくれと言ってきた。たぶん、村でもヴィンあたりに何か言われたんだろう。
 向上心が出てきてるから、村での訓練はいい経験になったんだろうね。
 他にも簡単な料理を教えてほしいというので、まずは何を作れるか聞いてからと提案すると、騎士たち全員が頷いた。その間も串を引っくり返している。
 そうこうするうちに一人三本は食べられる量の肉が焼けたし、スープもパンも出来上がった。串焼きが足りないのであれば、自分で焼いてほしいと話し、ご飯開始。

「美味しいです! ディアは滅多に食べられませんし」
「ボアもだよな」
「領地だとホーンラビットぐらいだもんな」
「あとはダンジョンから出るオークか」
「へ~、ダンジョンもあるんだ」

 和気藹々と話が弾む。ダンジョンがあるとは聞いてないぞ、ルードルフ!

「ああ。初級がふたつと中級がひとつある。ただ、どれも階層が深くてな」
「何階まであるの?」
「初級が三十と五十だが、中級は不明だ。三十のほうは攻略済みで、五十のほうが四十まで行ってる。中級はまだまだだな」
「そうなの?」
「発見されたばかりなんだ。だから、攻略が始まったばかりさ」

 なるほど。騎士たちによると、オークはその中級ダンジョンに出るという。ワンフロアがかなり広いらしく、五階までしか攻略が済んでいないらしい。
 ただ、その情報は帝都に来る前の話なので、もしかしたら帰るころにはもっと攻略が進んでいる可能性があるんだとか。進んでいれば、肉の種類がもっと増えると喜んでいる騎士たち。
 そうかい……やっぱ肉が好きなんかい……。
 今は領の騎士と冒険者が手を組んでダンジョンに挑んでいるが、もっと冒険者の数が増えたら、彼らに一任するつもりだという。
 領主になるとあれこれ考えないといけないから、大変そうだ。それでも、ルードルフもロジーネも、愚痴を言わずに楽しそうにしているのが印象的。
 部下にはならんけど、手伝いはするから頑張れよー。
 なんなことを考えつつ、ご飯を食べたのだった。

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