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ドルト村の春編

第166話 宰相とお話

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「イデア、止まって」
<はーい>

 イデアに話しかけて止まってもらい、馬車を停める。御者台を降りて馬車のドアを開け、ヘラルドとゲレオンが降りたあと、ヘラルドのエスコートでレベッカが降りる。
 もちろん、私以外は正装だ。

「おお、ヘラルド様! お久しぶりです!」
「これはハルトムート様! 宰相自らとは……!」
「ゲレオン様もレベッカ様も、息災でなによりです」
「「ありがとうございます」」

 いきなり宰相が来るとか……さすがだな、ヘラルド。今は紹介もされてないし護衛だから黙って見ているよ!
 ちらちらと私を見るけど、今はシカトです、シカト。ヘラルドたちもここでは紹介をする気がないみたいで、こっちには見向きもしていないしね。
 そんな中、宰相と一緒にいたうちの一人が御者台に乗り、イデアを誘導していく。とはいえ、目の前にある馬車停めに入れているだけなんだけどね。
 それが終わると私たち四人と宰相、その護衛の五人の大所帯で歩く。王宮に泊まることになっているので、まずは部屋まで案内してくれるようだ。
 中央棟のエントランスのような場所から延びる階段を上がり、三階へ。この段階で二人の護衛が消える。といっても、階段付近で見張りをするようだ。
 宰相によると、三階は国にとって重要な客を泊める客室があり、貴族も入ってこれないんだとか。
 国賓もこの階に泊まるらしく、廊下もかなり豪華だし、風景画が飾られていて、花瓶には花が活けてあった。もちろん、気品がある豪華さだが。
 今は帝国に来ている国賓はいないそうで、ほぼ貸し切り状態らしい。

「こちらになります。続き部屋になっておりますので、男女分かれてお泊りできますよ」
「ありがとうございます。平民になったのに、まさかこのような部屋を用意してくださるとは思ってもみませんでした」
「それこそまさかですよ。陛下のご友人であると同時に、私の友人でもあります。それに、今回はとても重要なお話があると伺っております故、こちらにするようにと陛下のご判断です」
「そうですか……。お会いした時にもお話いたしますが、先にハルトムート様からお礼を申し上げていただきたい」
「かしこまりました」

 にこやか~に話をするヘラルドと宰相。皇帝どころかお主らも友人同士かい!
 そんな内心の突っ込みを入れつつ、四角い箱をポーチから取り出し、部屋の中を確認する。これは魔道具や魔法がないかを調べるもので、ヤナとノンの合作だ。
 凄いんだぜ、これ。魅了や隷属魔法はもちろんのこと、毒や麻痺にも対応しているし、盗聴や覗き見できる魔道具も簡単にわかる優れもの。
 闇魔法が得意なヤナが魔法を構築し、そこにノンが浄化を付与している。なので、王宮魔導師とか王宮魔法使いが仕掛けたものであろうとも、全部無効化できるのだ。
 人間ごときの魔法が、神獣の魔法に敵うわけないじゃん。なので、安心・安全・信用・信頼できたりする。
 仕掛けるとは思わないが、念のためだ。皇帝や宰相がヘラルドに対して好意的だとしても、その周囲の全員が同じとは限らない。
 なので、そのための対策だったわけだけど……特に問題はないようなので、ヘラルドたちの荷物を出す。

「ヘラルド様、荷物はどちらに置かれますか?」
「こちらにお願いします。レベッカと貴女の部屋は隣がいいでしょう」
「かしこまりました」

 宰相と護衛がいるからね、きちんとした言葉にしますとも。村にいるならともかく、ここは魑魅魍魎が蔓延る王宮だ。
 私の言葉でヘラルドたちに迷惑がかからないようにするのは当然。
 隣の部屋も調べた結果何の問題もなかったので、レベッカに聞いて彼女の荷物を置く。それが終わるとソファーとローテーブルがある部屋に集まり、一息つく。
 宰相も一緒にいるが、護衛は一人だけ室内に残り、二人は外へ出た。それを待っていたかのように宰相が結界を張る。

「さて、これで大丈夫です」

 改めて宰相がそう言うと、全員が肩の力を抜く。それと同時に私がティーポットなどの茶器と茶葉を出し、生活魔法でお湯を入れる。
 今回は疲れが取れるよう、カモミールをブレンドした薬草茶だ。これはレベッカの配合なので、まず間違いない。
 茶葉を蒸らしている間に持って来たお茶請けを出し、お皿に並べる。そうこうするうちに茶葉が蒸し上がったので、全員に出した。

「どうぞ」
「ありがとう。アリサも座りなさい」
「はい」

 促されて座ると、宰相が興味津々な様子でお菓子を見ている。出したお菓子はバタークッキーと、ジャムが真ん中にあるロシアケーキに似たもの、ナッツを混ぜ込んだものだ。
 甘い香りとカモミールのリンゴの香りが室内に広がる。

「護衛の方もどうぞ。紅茶にも合うお菓子です」
「菓子……?」
「これが……?」

 まあ、驚くわな。帝都にあるお菓子とは違う形だしね。
 まず、毒見として先に私と護衛が食べてから、ヘラルドたちと宰相に振舞う。毒なんざ入れるつもりはないが。
 そんな中、ナッツクッキーを食べた護衛が顔をほころばせ、次々にジャムとバターを食べる。どうやら気に入ったらしい。
 それは宰相も同じで、その甘さに衝撃を受けたのか目を瞠ったあと、護衛と同じように顔をほころばせた。

「とても美味しいですね。我が国で作られている菓子とは違い、上品な甘さです」
「ありがとうございます」
「こちらは貴女が作られたのですか?」
「ええ。アリサと申します。ヘラルド様の村に住んでおります」
「ほう? よくヘラルド様がお許しになりましたね」

 感心したように私を見たあと、ヘラルドを見つめる宰相。

「アリサは見た目に反して、とても強いのです。成人したてではありますが、すでにAランク冒険者なのですよ」
「なんと! その若さでAランクとは、凄いですね」
「ありがとうございます」

 にっこり笑ってお礼を言う。偶然とはいえ、いろいろやらかしたもんな、私。
 それを言うつもりはないが。
 その後は明日の謁見に何を話すかなどを宰相に聞かれたものの、ヘラルドたちはのらりくらりと躱して教えない。まずは皇帝陛下にお知らせしてから話すとしか言わないヘラルドに、宰相も溜息をついて諦めた。
 あとは明日の謁見する時間を確認したあと、宰相が迎えに来ると言って話は終わった。
 せっかく結界を張ったのに、残念だったね、宰相様。元とはいえ王太子とその妃、宰相だぞ? そう簡単に情報を漏らすかっての。
 私だって言うつもりはないからね~。話すのであれば、皇帝と砂糖作りをするであろう担当者くらいだろうし。
 ヘラルドから聞いている皇帝ですら宰相に話していないのに、それを察したヘラルドたちが言うわけなかろう!
 明日は私もドレスを着ないといけないが、付与しまくっているうえに秘密もいっぱい。護衛を兼ねているんだから、当然の措置でしょ。
 晩ご飯は王宮らしくとても豪華で美味しかった。布団もふかふかで温かったと言っておこう。

 そして翌日の朝食後。
 先にレベッカの支度をすませたあと、私もドレスに着替える。コルセット? そんなものするわけがない。

「……コルセットなしでその細さ……。ずるいわ、アリサ」
「知らんがな」

 自分がコルセットをしているからと私にもつけさせようとしたものの、私の腰の細さに愕然とするレベッカ。
 そりゃあ毎日のように動き回っているから、当然ではある。
 ジト目になっているレベッカを促し、ヘラルドとゲレオンに合流する。宰相が来るまで紅茶を出し、まったりする。

 さて、ここからは私が説明しなければならない。武器はマジックボックスに入っているから、いつでも取り出せる。
 まあ、素手でも負けるつもりはないが。
 気合いを入れていると、ノック音。どうやら宰相が迎えに来たようだ。

「アリサ、お願いしますね」
「はいよー」

 いつものやり取りをして、全員で頷く。
 面倒だけれど、頑張りますか!

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