上 下
121 / 190
ドルト村の冬編

第137話 パーティーと餅つき

しおりを挟む
 一週間が過ぎるのはとても早く、あっという間に過ぎ去っていく。外は雪が降ったり止んだりしているというのに、従魔たちはそれが楽しいみたいで、毎日外に出て遊んでいた。
 初雪が降ってそろそろ三週間。雪も順調に積もってきていて、今は五十センチほどになっていた。
 年が明けるともっと降って、一気に一メートルを超える積雪になるというんだから驚きだ。
 もちろんそれに備えて雨戸も付けたし、家自体も、柱も梁も太く丈夫にしたからね~。今年は安心して家に閉じこもっていられるだろう。
 屋根も慣れ親しんだものにしたしね。

 そして今日はクリスマスパーティだ。もちろん、日にちは十二月二十五日。
 今日の宴会が終わると二十八日に餅つきをして、新年の準備をするという。
 魔族の新年の準備は何を用意するんだろう? まあ、祖父母がやらかしている以上、日本と遜色ないものになっていそうだが。
 それはともかく。
 今日持っていくお菓子は中にカスタードクリームやクリームチーズ、ホイップした生クリームを小さなタルトカップに入れ、その上に果物を飾った一口サイズのフルーツタルトとマカロン。小さいアップルパイとミートパイ、スイートポテトと同じ材料で作ったパイを用意。
 他にもマドレーヌやフィナンシェ、レアチーズケーキとスフレ、シフォンケーキも紅茶とプレーンを用意したから、大丈夫だと思う。
 人数が多いし、できるだけ一口か二口で食べられるようにしたから、さすがにホールケーキは作らなかったが、せめてもと生クリームを使ったブッシュドノエルだけは何本か作った。チョコを発見できていないので、そこはしょうがない。
 つーか、当面の間はケーキ類は作りたくない……。
 もちろん、リュミエールにもお供えしてきたぜ!
 てなわけで集会所に集まり、女性たちが料理を作り、男性たちが飾り付けやテーブルと椅子のセッティングを担当。今日はある意味無礼講となるので、立食式にしたみたい。
 冷めても美味しいものを先に作り上げ、温かいものは直前に出す方法にしたみたい。ホテルのようになくなりそうなら追加はせず、なくなったらそれで終わり。
 料理自体はこの世界と魔族特有のもの、そして私やヤミンとヤナが教えた料理と、竜人族の料理が並んでいる。
 竜人族は肉料理が中心のようで、地球で言うところのシュラスコがデーンと置かれている。しかもヴィン自らが肉を回転させて焼いているんだから凄い。

「何の肉なの?」
「ワイバーンだ」
「高級品じゃない! よくあったわね」
「ほら、会議の往復で襲われたやつだ」
「ああ、なるほど!」

 なぜか知らないけれど、ヴィンとランツを連れてギルマス会議の護衛をすると、毎回往復でワイバーンに襲われるのよね。なので、肉や素材はギルドに売ることなく村で活用させてもらっている。
 ワイバーンの被膜や皮は幌馬車を改善したり、ランツの息子たちや村人たちの外套にしたりしているのだ。外套といっても雨合羽やポンチョの役割が近く、自分の家から温室や貯蔵庫へ行く時に着ているみたい。
 あとは長靴とかね。長靴を教えたのはヤミンとヤナだったりする。
 ヴィンに私と従魔たちの分の肉を削ぎ落してもらい、そこに温野菜を載せる。
 エビータたち獣人はやはり肉料理だがこっちは焼き鳥に近い串焼きやステーキで、レモン塩やタレ、ハーブ塩と味噌ダレがあり、どれも美味しそうで迷う。結局全種類食べることにした。
 従魔たちも期待したように、キラキラとした目で見てたからね~。しっかりいただいたとも。
 ハビエルたちドワーフ? 見事に酒しかないから割愛。
 魔族たちはといえば、コッコを丸々使ったものと骨付きのもも肉を焼いたもの、手羽先元を煮たものを中心に、ポテトサラダやグリーンサラダ、ポテトフライやオニオンリングと唐揚げ。
 エビとチーズを使ったカナッペと、パエリアやブイヤベース、ポトフやミルクスープなどの汁物もあり――とにかくいろんな料理が所狭しと、テーブルの上を飾っていた。飲み物はハビエルたちが作った酒の他に果実水やジュースもあり、自分の好きなものを手に取り、飲めるようになっている。
 村人たちと話しながら飲み食いしているとあっという間に時間は過ぎていく。そして料理もどんどんなくなり、酔い潰れた人たちは部屋の隅で寝っ転がっていて、気の利く人が毛布や布団をかけている。
 室内は温かいとはいえ、外は雪が降っているからね。今は熱気が凄いけれど、宴会が終われば室内の気温も下がるだろう。
 それを見越して、ヘラルドは囲炉裏の炎を絶やしていないし、電気ストーブもどきもあちこち配置しているのだ。
 そんな光景を見つつ、料理をしなかった分空いたお皿やコップを洗ったり、村人たちと話をしているうちに夜は更けていった。

 そして二十八日。珍しく晴れた。今日は朝から外で作業。
 村人総出でもち米を蒸し、餅つきの用意。鏡餅の他に豆餅や今日食べる分も作るらしく、全員が忙しなく動いている。魔族たちが用意したのは餡子と黄な粉。

「ねえ、アリサ。ずんだとか大根おろしも食べたいよね」
「俺も! お汁粉が食べたい! 材料はねえの?」
「あるわよ。ヘラルドたちに作っていいか聞いてみようか」
「「うん!」」

 一緒に作業をしていたヤミンとヤナが、二種類だけだと飽きると感じたらしく、私に振ってきた。材料自体はあるからすぐに作れることを伝えると、ヤナがヘラルドのところにすっ飛んで行くと、すぐに戻ってきた。

「アリサ、作っていいって!」
「よし! じゃあ、私はお汁粉とずんだを作るから、豆を煮ている間に大根おろしを作ってくれる?」
「いいよ!」
「俺も頑張る!」

 もち米が蒸しあがるまではもう少し時間がかかるので、先に大根おろしを作ってしまうことに。二人におろし器と大根を渡すと、大根の皮を剥き始めた二人。

「ヤミン、ヤナ。皮は取っておいてね」
「わかってるって。きんぴらや切り干し大根にするんでしょ?」
「シンクの掃除にも使えるもんな」
「よく知ってるね。その通りよ」

 お願いねと告げると、二人はふんすと気合いを入れて皮を剥き始める。寸胴を用意してその中に入れてもらうことにし、私はその横で小豆と枝豆を煮ていく。
 そうこうするうちに餅つきも始まり、あちこちでぺったんぺったんと音がし始めると、ヤミンとヤナがそわそわしだしたので笑ってしまった。前世で餅つきをしたことがないそうだ。

「交代で行ってきたら?」
「「そうする!」」

 食べるのはまだ先だとはいえ、全家庭に配る鏡餅と豆餅、焼くための平べったくて長方形の餅もある。このあたりは慣れている魔族たちの独壇場だった。
 お汁粉とずんだの様子を確かめながら作業を手伝ったりしていたけれど、途中で面倒になって錬成したら「アリサだしな……」と苦笑されてしまった。いいじゃん、鏡餅や豆餅のように丸や楕円形にするのはともかく、長方形にするのは大変なんだから。
 そんなことを言ったら、それもそうだなとあっさり納得されてしまった。……解せぬ。
 鏡餅を乗せる三方はハビエルが作り、飾りは女性たちが作る。紙はあるにはあるけれど半紙のような綺麗なものではないため、白い布を下に敷いて餅を乗せていた。
 あとは橙の代わりにみかんを乗せただけの、シンプルな鏡餅なのだ。日本にあったようなプラスチック容器に入っているわけじゃないし、魔族たちのしきたりなんだから、これでいいんだろう。
 それぞれができることをして、餅も全員に配り終えると、お疲れ様! ということで集会所で餅を頬張る。つきたてのお餅はとても美味しくて、つい食べ過ぎてしまいそうになる。

「食べすぎるとあとで困るわよ?」
<<<<<わかった!>>>>>

 ご機嫌な様子で食べていた従魔たちに注意を促し、私もしっかり堪能する。
 お正月の時は磯辺も食べたいし、雑煮も作りたい。おせちも手元にある材料で作ればいいかとあれこれ考えていると、ヤミンとヤナが寄ってきた。

「アリサ、おせちって作れる?」
「全ての材料があるわけじゃないから、全種類は無理よ?」
「わかってる。それでも、俺たちはおせちが食いたい」
「よし。じゃあ、一緒に作ろうか」
「「いいの?」」
「もちろん」

 こそこそと三人で話し、おせちを作る約束をする。足りない材料は買いに行こうと話をして、日にちと時間を告げると、二人は嬉しそうに笑うと頷いた。
 そしてお汁粉とずんだ、大根おろしは村人たちも気に入ったようで、次々に作り方と材料を聞かれたのでしっかり教えておく。

 この世界に来て半年ちょっと。かなり濃く、そして充実した半年だったなあ……となんだか感慨深かった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転移先は薬師が少ない世界でした

饕餮
ファンタジー
★この作品は書籍化及びコミカライズしています。 神様のせいでこの世界に落ちてきてしまった私は、いろいろと話し合ったりしてこの世界に馴染むような格好と知識を授かり、危ないからと神様が目的地の手前まで送ってくれた。 職業は【薬師】。私がハーブなどの知識が多少あったことと、その世界と地球の名前が一緒だったこと、もともと数が少ないことから、職業は【薬師】にしてくれたらしい。 神様にもらったものを握り締め、ドキドキしながらも国境を無事に越え、街でひと悶着あったから買い物だけしてその街を出た。 街道を歩いている途中で、魔神族が治める国の王都に帰るという魔神族の騎士と出会い、それが縁で、王都に住むようになる。 薬を作ったり、ダンジョンに潜ったり、トラブルに巻き込まれたり、冒険者と仲良くなったりしながら、秘密があってそれを話せないヒロインと、ヒロインに一目惚れした騎士の恋愛話がたまーに入る、転移(転生)したヒロインのお話。

転生したら幼女でした!? 神様~、聞いてないよ~!

饕餮
ファンタジー
  書籍化決定!   2024/08/中旬ごろの出荷となります!   Web版と書籍版では一部の設定を追加しました! 今井 優希(いまい ゆき)、享年三十五歳。暴走車から母子をかばって轢かれ、あえなく死亡。 救った母親は数年後に人類にとってとても役立つ発明をし、その子がさらにそれを発展させる、人類にとって宝になる人物たちだった。彼らを助けた功績で生き返らせるか異世界に転生させてくれるという女神。 一旦このまま成仏したいと願うものの女神から誘いを受け、その女神が管理する異世界へ転生することに。 そして女神からその世界で生き残るための魔法をもらい、その世界に降り立つ。 だが。 「ようじらなんて、きいてにゃいでしゅよーーー!」 森の中に虚しく響く優希の声に、誰も答える者はいない。 ステラと名前を変え、女神から遣わされた魔物であるティーガー(虎)に気に入られて護られ、冒険者に気に入られ、辿り着いた村の人々に見守られながらもいろいろとやらかす話である。 ★主人公は口が悪いです。 ★不定期更新です。 ★ツギクル、カクヨムでも投稿を始めました。

初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話

ラララキヲ
恋愛
 長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。  初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。  しかし寝室に居た妻は……  希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──  一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……── <【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました> ◇テンプレ浮気クソ男女。 ◇軽い触れ合い表現があるのでR15に ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾は察して下さい… ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)

三年目の離縁、「白い結婚」を申し立てます! 幼な妻のたった一度の反撃

紫月 由良
恋愛
【書籍化】5月30日発行されました。イラストは天城望先生です。 【本編】十三歳で政略のために婚姻を結んだエミリアは、夫に顧みられない日々を過ごす。夫の好みは肉感的で色香漂う大人の女性。子供のエミリアはお呼びではなかった。ある日、参加した夜会で、夫が愛人に対して、妻を襲わせた上でそれを浮気とし家から追い出すと、楽しそうに言ってるのを聞いてしまう。エミリアは孤児院への慰問や教会への寄付で培った人脈を味方に、婚姻無効を申し立て、夫の非を詳らかにする。従順(見かけだけ)妻の、夫への最初で最後の反撃に出る。

異世界で捨て子を育てたら王女だった話

せいめ
ファンタジー
 数年前に没落してしまった元貴族令嬢のエリーゼは、市井で逞しく生きていた。  元貴族令嬢なのに、どうして市井で逞しく生きれるのか…?それは、私には前世の記憶があるからだ。  毒親に殴られたショックで、日本人の庶民の記憶を思い出した私は、毒親を捨てて一人で生きていくことに決めたのだ。  そんな私は15歳の時、仕事終わりに赤ちゃんを見つける。 「えぇー!この赤ちゃんかわいい。天使だわ!」  こんな場所に置いておけないから、とりあえず町の孤児院に連れて行くが… 「拾ったって言っておきながら、本当はアンタが産んで育てられないからって連れてきたんだろう?  若いから育てられないなんて言うな!責任を持ちな!」  孤児院の職員からは引き取りを拒否される私…  はあ?ムカつくー!  だったら私が育ててやるわ!  しかし私は知らなかった。この赤ちゃんが、この後の私の人生に波乱を呼ぶことに…。  誤字脱字、いつも申し訳ありません。  ご都合主義です。    第15回ファンタジー小説大賞で成り上がり令嬢賞を頂きました。  ありがとうございました。

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

子爵家の長男ですが魔法適性が皆無だったので孤児院に預けられました。変化魔法があれば魔法適性なんて無くても無問題!

八神
ファンタジー
主人公『リデック・ゼルハイト』は子爵家の長男として産まれたが、検査によって『魔法適性が一切無い』と判明したため父親である当主の判断で孤児院に預けられた。 『魔法適性』とは読んで字のごとく魔法を扱う適性である。 魔力を持つ人間には差はあれど基本的にみんな生まれつき様々な属性の魔法適性が備わっている。 しかし例外というのはどの世界にも存在し、魔力を持つ人間の中にもごく稀に魔法適性が全くない状態で産まれてくる人も… そんな主人公、リデックが5歳になったある日…ふと前世の記憶を思い出し、魔法適性に関係の無い変化魔法に目をつける。 しかしその魔法は『魔物に変身する』というもので人々からはあまり好意的に思われていない魔法だった。 …はたして主人公の運命やいかに…

公爵家長男はゴミスキルだったので廃嫡後冒険者になる(美味しいモノが狩れるなら文句はない)

音爽(ネソウ)
ファンタジー
記憶持ち転生者は元定食屋の息子。 魔法ありファンタジー異世界に転生した。彼は将軍を父に持つエリートの公爵家の嫡男に生まれかわる。 だが授かった職業スキルが「パンツもぐもぐ」という謎ゴミスキルだった。そんな彼に聖騎士の弟以外家族は冷たい。 見習い騎士にさえなれそうもない長男レオニードは廃嫡後は冒険者として生き抜く決意をする。 「ゴミスキルでも美味しい物を狩れれば満足だ」そんな彼は前世の料理で敵味方の胃袋を掴んで魅了しまくるグルメギャグ。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。