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ドルト村の冬編

第135話 初雪が降った日

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 雪が降ったのは夜中からだったらしく、うっすらと雪化粧をかぶった庭と畑は白い。従魔たちがいたことと、SSSランクの蜘蛛糸とダウンやフェザー素材で作った布団だからなのか、寝てても寒いということもなく。
 ただし、布団から出たらめっちゃ寒かったが。
 寝室にストーブもどきが必要かもと考え、あとで作ることにした。それはともかく。
 寒さに震えつつ着替えて階下へと下り、下火になっていた囲炉裏の炭に細い枝と薪をくべ、空気を送る。途端に燃え上がる炎に、しばらくそこで温まった。
 ある程度空気が温まったところで朝ご飯。さて、何を作るか。
 寒いからスープは必要だね。アイテムボックスと貯蔵庫の中身を確かめ、野菜や肉を調達する。
 アイテムボックスの中にトマトがたくさんあったので、それを使ってミネストローネにしよう。コンソメもそれくらいの分量しかないから、これも作らないといけないし。
 よし、今日はコンソメや鳥ガラ、牛骨と豚骨ならぬオークの骨を使って、いろんな種類のスープの素を作ろう。そのうちラーメンも食べてみたいしね。
 予定が決まればさっさとミネストローネを作り、野菜を柔らかく煮ている間にパンも温める。他にスクランブルエッグとサラダがあればいいかな。
 そろそろ本格的にパンも作りたいなあ。スープの素を作りながら、同時に作業すればいいか。
 そんなことを考えながら作業をしていると、すぐにご飯ができる。

「みんなー、ご飯だよー」

 いつもなら私が起きると一緒に起きるのに、今日は寒かったらしく、みんなして団子になって寝ていた。呼べば慌てて二階から下りてきて、囲炉裏の前に集まる。

<<<<<いただきます!>>>>>
「はい召し上がれ。今日はみんな、何する?」
<ノンは庭と畑の確認をしてくるのー>
<我は親父様を手伝う>
<俺はイデアのところに行ってくる。初めての雪だから、きっと歩くのが大変だろうし>
<あたしはリコと一緒に行くわ>
<オレは村の周囲を見回ってくる>

 ご飯を食べながら話をする。それぞれやりたいことがあるようで、すぐに伝えてくれる。

「わかった。遊ぶなら、気をつけて遊んでね。ピオ、もし異常があったら教えてくれる? ヘラルドに報告するから」
<わかった>
「私は家にいるから、何かあったら呼んで」
<<<<<はーい!>>>>>

 それぞれの予定も決まり、ご飯も食べ終わる。食べ終わった従魔たちは元気よく外へ出て行った。
 それを見送ったあとコンロや竈に大きな鍋を設置して、それぞれに牛骨やロック鳥の鳥ガラ、オークの骨や野菜屑を火にかける。沸騰するまでの間に食パン用の型を出したり、どんなパンを作ろうか考えながら材料を計っておく。
 準備が整ったころに沸騰したので弱火にし、まずは一回目のあく取り。それが終わったらパンを捏ねて寝かせ、囲炉裏のそばまで持って行って一次発酵。

「よし。ベンチタイムの間にあく取りと、パンの中身の用意かな」

 何がいいかな。ナッツ類は従魔たちのお気に入りのひとつだから確定、あとはハチミツ、チーズを練り込んだもの、くるみとチーズが入っているものかな。
 他にロールパンやクロワッサン、ソーセージを真ん中に入れた総菜パンに、カレーパンとツイストドーナツもいいなあ。コルネも欲しいけど、チョコがない!
 今回はチョコを見送って、きんぴらごぼうを使ったものや、小さめのジャガイモを丸々一個使ったパンもいいかも……なんてニヤニヤしてしまう。総菜パンならいろいろできそう。
 食パンがあればピザトーストもサンドイッチもできるし、パン自体を器にしたグラタンや、シチューを中に入れたやつも作れる。従魔たちがよく食べるから、たくさん作っても困らないのだ。
 どうせ冬の間は雪に閉ざされるというし、ストックを作るのもいい。ただ、あまりにも暇を持て余して、従魔たちがダンジョンに潜ろうと言い出しかねない。
 それはそれでいいか。どのみち月に一度は帝都にも漁港にも行くしね。
 あく取りそしてパンを捏ねて二次発酵、形を整えて食パンは型の中へ、ロールパンやクロワッサンはそれぞれの形にしていく。蒸したジャガイモをパン生地で包み、その中にバターとチーズを載せたり、生地にハチミツやチーズ、クルミとチーズを練りこんだり。
 あれこれ作って寝かせたあと、石窯のオーブンに突っ込む。

「よし。スープの素はもうちょいかな。あとは……」

 ブツブツと独り言を言いながら作業をしていると、あっという間にお昼になる。お昼は、今朝の残りのミネストローネの中に米を突っ込んでリゾットにしてしまおう。

「夜はボア肉を使った牡丹鍋にするか」

 夜のメニューも決まったことだし、さっさとリゾットを仕上げる。そのタイミングで全員戻ってくる従魔たちに、なんともタイミングがいいなと内心笑ってしまった。
 全員でご飯を食べたあと、従魔たちはまた外に行くと言って家を出た。それを見送ったあと、私は第二弾の食パンと総菜パン、ブイヨンの準備。
 骨系のスープはともかく、コンソメの素になるブイヨンは何かと使う頻度が高い。なので大量に作って貯蔵庫にストックしておくのだ。
 あとは昆布出汁とかつお出汁、昆布とかつおの混合出汁があれば冬の間はもつだろう。足りなくなったらその都度作ればいいしね。
 時間だけはたっぷりあるんだし。
 ちゃっちゃと準備してパン生地を寝かせ、あく取りをしたあと、手持ちの鉱石と魔石でストーブもどきを作る。タイマーセットなんてどうすればいいかなんて知らないから、スイッチひとつでオン・オフ設定のみだ。
 いざとなったら寝室だけでも防寒にしてしまえと、まずはストーブで耐えられる寒さなのかを実験。これからもっと雪が降り、二メートル前後の雪が降ることを考えると、きっと防寒は必要になると思うんだよね。
 村人たちもそれぞれで防寒対策をしているみたいだし。そこは自分の家なんだから、当然の結果だろう。
 ストーブを作りあげて試運転をしていると、外からヤミンとヤナの声が。

「どうしたの?」
「コンソメ? ブイヨン? の作り方を知りたくて」
「かつお出汁とキノコの出汁、昆布の出汁はなんとかなってるけど、さすがに和食ばかりなのもさ」
「あ~、なるほど。材料は持ってきた?」
「「うん」」
「じゃあ、あがって。ちょうど今作業しているところだから」

 なんともいいタイミングで来たなと苦笑し、二人にあがってもらう。空いているコンロに鍋を乗せてもらい、作業台にくず野菜を出してもらった。
 その時に足りないもの――特に内臓など使わない肉を入れて煮込むことも話すと、二人は頷いて肉を足す。あとはひたすらあくを取りながら煮ることと、最低でも二時間以上は煮だすことを教えると、驚いた顔をした。

「あ~、だから味が薄いんだね」
「俺たち、一時間も煮てないもんな」
「一時間だと足りないわね。お店で出すような味にしたいなら、もっと煮ないと」
「「やっぱり……」」

 しょんぼりとした二人を慰め、とにかくあく取りをさせる。私もあく取りをしつつ食パンの準備。
 パンも作ってみたいというので材料を出してもらい、酵母が足りないというので、それは私が用意した。

「酵母は店で売ってるし、自分で作ることもできるわよ」
「「それも教えて、アリサ」」
「いいわよ」

 先に天然酵母の作り方を教え、実行してもらう。酵母として発酵するまで数日かかるし、必ずしも成功するとは限らないからだ。
 どうしても失敗するようであれば買うことを薦め、酵母の準備が終わったところでパン生地作り。混ぜて捏ねて纏め、発酵させる。その間に中に入れたいものがあれば用意してもらう。
 私のほうはそろそろ二次発酵が終わるところなので型に入れ、しばらく放置したあとで石窯へと入れる。焼きあがるまではあく取りをしたりヤミンとヤナにパン作りの指導をしたり、雑談して過ごした。
 そしてなんだかんだとヤミンとヤナは楽しそうにパンを成形し、食パンも作り終えたころにコンソメも完成。嬉しそうにハイタッチした二人は、出来上がったものを持って帰って行った。
 二人と入れ違うように従魔たちが帰ってきたので、先にお風呂に入らせる。その間に牡丹鍋の準備をする。
 鍋が煮えればみんなでご飯。従魔たちはそれぞれ自分たちが今日一日何をしていたかを話してくれるから、それを聞いているだけでも楽しい。
 明日は何をしようか?
 そんな話をしているうちに、夜は更けていった。

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