上 下
118 / 190
ドルト村の冬編

第134話 冬目前

しおりを挟む
 村への道中は特に何もなく、従魔たちやヤミンとヤナが喜々として襲ってきた魔物たちを殲滅。私だけじゃなく、ランツとヴィンも顔を引きつらせつつ、特に問題もなく村へと帰ってきた。
 ギルドへ行って護衛の報酬を三等分してもらい、それぞれが全額貯金。その後、当面はゆっくりしようとヤミンとヤナに告げで解散したあと、自宅へ戻ってきた。
 種はランツが渡してくれると言っていたので、任せてある。

「みんな、ゆっくりしてきていいわよ」
<<<<<やった!>>>>>

 それぞれやりたいことがあるだろうからと従魔たちに告げ、家中の窓を開けて換気しつつ、囲炉裏の火を熾す。それからリュミエール像を一番最初に掃除したあとで家中を掃除し、お供えする。
 ここのところ連続して護衛依頼をしていたし、商業ギルドのことがあったから精神的に疲れてしまった。まあ、契約関連はもう残っていないだろうから、あとはランツに丸投げしてしまえ。
 持って帰ってきた玩具に関しては、あとでヴィンとランツの子どもたちに渡そうと思う。
 掃除が終われば、庭の手入れ。夏場ほどではなくとも、雑草が生えるわけで。草むしりでもするかと畑に行けば、ノンとジルが楽しそうに草むしりをしていた。

「ノン、ジル。ありがとう」
<うん!>
<親父殿と一緒に作業をするのが楽しいしな>
<ノンもジルと一緒にやるのは楽しいのー>

 キャッキャウフフと戯れるノンとジル。楽しそうで何よりだ。
 そんな二匹に交じって草むしりをしたり食べられそうな果物を採取したり。こっちもそろそろ終わりだなあ。
 残りは鳥たちや、たま~に来るおとなしいリス型の魔物のためにそのままにしておこう。
 野菜もぼちぼち終わりに近いので、種の収穫のためにも放置する。いつの間にかノンが採取して、瓶に種を摘めておいてくれるからね~。本当にありがたい。
 庭と畑の手入れが終わると、後回しにしていた洗濯。本来は魔法があるからする必要がないんだけれど、気分的な問題っていうのかな。なんとなく洗濯したい気分になるのだ。
 お天気がいいし、ついでに布団も干してしまえとベランダの手すりに干して、とりあえず家事は終了。あとは縁側でたくあん作りの用意。
 久しぶりだからうろ覚えだったが、なんとかなった。縁側の屋根から大根が吊るされているのは、某アイドルがやっていた農作業のようで、なんとも懐かしい。
 そんなことをしているとお昼になったので、ご飯。明日豆腐を作れるようにと大豆を水に浸しておくことも忘れない。
 そのころになると従魔たちが帰ってきたので魔法で綺麗にし、先にリュミエールにお供えしてからいただきます。
 昼は畑仕事を手伝ってくれたノンとジルのリクエストだ。ノンはマカロニを使った料理、ジルはチーズを使った料理。
 それならばとコッコやほうれん草、玉ねぎとキノコが入ったマカロニグラタンと、一番シンプルだからとマルゲリータにしてみた。もちろん、チーズは何種類かたっぷり使った、わりと贅沢な一品。
 リュミエールも気に入ったのか、いつのまにか供えていたものがなくなっていた。なので、おかわりとしてポテトグラタンとピザトーストも供えたら、瞬時に消えたのには笑ってしまった。
 夜はピオとエバ、リコのリクエストを聞いて作るつもり。そうじゃないと拗ねるからね、どの従魔たちも。なので、必ず全員のリクエストを聞くようにしている。
 ちなみに、ピオは魚介を使った料理、エバが米料理、リコがトマトを使った料理。なので、魚介たっぷりなパエリアとブイヤベースに決めた。
 名前は違うけれど、近い料理があるからね、この世界に。だから簡単に作れる。
 ただ、魚介の処理が面倒なだけで。
 どのみち従魔たちは、エビくらいだと殻ごと食べてしまうから、髭と足さえ取ってしまえば問題ない。貝類の殻は、私が剥き身にすればいいだけの話で、それくらいの手間ならそんなに面倒ではないのだ。
 矛盾してるって? いいんだよ、従魔のためなんだから。
 午後は牧場に行って、イデアやウルフたちと遊びながら訓練してくるというので見送り、簡単に魚介を処理し終えたころだった。

「アリサーいるかー?」
「いるよー」

 珍しくハビエルが家に来た。すぐに外に出ると、なにやら道具箱を抱えている。

「どうしたの、それ」
「ヘラルドがそろそろ温室の温度を確かめたいって言い出してな」
「なるほど。夜はかなり気温が下がってきたものね」
「ああ。だから、早めになんとかしておこうと思って、以前アリサが言っていたものを作ってみたんだが……」

 そこで渋い顔をするハビエルに首を傾げる。話を聞くと、どうやらあの小屋の暖房としては優秀でも、温まった空気を温室に流すことに失敗している、とのことだった。

「あ~、なら、いっその事温室自体に魔石をくっつけて、風を送って巡回する形で温める?」
「そのほうがいいだろうな」
「となると、魔石は火属性と風属性のが必要よね」
「それはたくさんあるからこちらで用意するが、錬成はアリサがしてくれるか?」
「いいわ」

 作ったのは私だもんね。そこはしっかり協力しますとも。
 そんなわけでハビエルと一緒に温室へと行き、エアコンもどきを作ってあちこち配置してみた。あくまでも〝もどき〟なので温風を室内に流すだけが、それでも数か所にあるからか、実験段階では成功していた。
 あとは毎日魔石に魔力を貯めてもらうか、空気中に漂っている魔力の素である魔素を取り込むかの方法を取り、装置を作るだけ。それはハビエル自身が培ってきた技術でカバーしてくれるというので、丸投げ。
 二週間ほど試運転と実験をして、問題がなければそのまま温室に設置。小屋のストーブは単なる薪ストーブだけとなったので、空気を送るため用に開けていた穴は、温室のものだけ塞いだ。
 小屋のやつは薪ストーブの煙突を通すのに使ったので、塞ぐことはしなかった。

 それから二週間。村周辺は魔素が濃いこともあり、結局周囲から魔素を取り込む形で魔石を半永久的に使える温風機にし、スイッチひとつでオン・オフの切り替えができるものを作り上げたハビエル。
 試運転も実験も特に問題なかったことから、そのまま運用となった。
 試運転と並行して帝都で買ってきた種が蒔かれていたのか、青々をした芽が出ている一方で、いつの間にか増えていた学校方式の水田には五十センチほどに伸びた稲が、すくすくと伸びている。
 今のところ病気になってはいないけれど、それでも初の試みだからと、毎日監視しつつ世話をしているという。
 世間の季節はとうに十一月になり、日中と夜の気温差がなくなってきている。

「あと半月もすれば、この辺りは初雪が降りますよ」
「そうなのね。なら、今のうちに食料の買い溜めでもしておく?」
「それは大丈夫です。アリサとヤミンのおかげで、今年はひもじい思いをしなくて済みそうですし」
「それに貯蔵庫もあるもの。問題ないわ」
「そっか」

 雪が降る前の、最後の村人総出の魔物狩り。ヘラルドとレベッカと話しながら歩く。
 魔物たちも冬ごもりの支度をしているようで、食料を集めている魔物もいた。食料が充分にあることから、襲って来ない限りはこっちから仕掛けることはないので、基本的に放置だ。

「よし。そろそろ村へ戻りましょう」

 山の日暮れはとても早い。今は午後二時を過ぎたばかりだけれど、村に着くころには薄暗くなっている可能性が高い。
 今回は見回りが目的だったし、魔物自体も襲ってくることがなかったからなのか、肉や素材はあまりない。それでも村人たちの顔は、とても明るい。
 今までは肉や魚はあっても、野菜が少なかった。それに、ここ数年は魔物自体も少なくて、ちょっとだけひもじい思いをしていたという、ドルト村。
 豆腐建築だったからということもあり、そんなに食料を溜め込むことができなかったらしい。
 だけど、今年は私と従魔たち、そしてギルマスになった二人の家族と、ヤミンとヤナが加わった。今までは狩りと畑に分かれていたけれど、専門職である私たち冒険者三人の他に、ランツの息子たちも冒険者になったことで、畑に専念できる人が増えた。
 狩りに行くことがなければ畑の人手が増え、その分手入れが行き渡るから食材も増える。肉は冒険者である私たちに依頼すればいい。
 村長であるヘラルドからしてみれば正のスパイラルができたわけで、いいことづくめなのだ。

「今年は途中で狩りに行かなくてすみそうです」

 万感の想いが込められたその言葉に、村人たちは深く頷いていた。

 それから半月後の十二月。
 ドルト村に、初雪が降った。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

傍若無人な姉の代わりに働かされていた妹、辺境領地に左遷されたと思ったら待っていたのは王子様でした!? ~無自覚天才錬金術師の辺境街づくり~

日之影ソラ
恋愛
【新作連載スタート!!】 https://ncode.syosetu.com/n1741iq/ https://www.alphapolis.co.jp/novel/516811515/430858199 【小説家になろうで先行公開中】 https://ncode.syosetu.com/n0091ip/ 働かずパーティーに参加したり、男と遊んでばかりいる姉の代わりに宮廷で錬金術師として働き続けていた妹のルミナ。両親も、姉も、婚約者すら頼れない。一人で孤独に耐えながら、日夜働いていた彼女に対して、婚約者から突然の婚約破棄と、辺境への転属を告げられる。 地位も婚約者も失ってさぞ悲しむと期待した彼らが見たのは、あっさりと受け入れて荷造りを始めるルミナの姿で……?

悪役令嬢は隣国へ嫁ぐようですよ!?~私は旦那様に愛されてそして生まれるRhapsody~

一ノ瀬 彩音
恋愛
ゲームヒロインのライバル役として登場するはずだった悪役令嬢ことマリアベル=レアードは 隣国への政略結婚として隣国へと旅立つ事になるのだが―――。 ※この物語はフィクションです。 R18作品ですので性描写などが苦手なお方や未成年のお方はご遠慮下さい。 ※2022年 8月10日付けでタイトル変更致しました。

義妹ばかりを溺愛して何もかも奪ったので縁を切らせていただきます。今さら寄生なんて許しません!

ユウ
恋愛
10歳の頃から伯爵家の嫁になるべく厳しい花嫁修業を受け。 貴族院を卒業して伯爵夫人になるべく努力をしていたアリアだったが事あるごと実娘と比べられて来た。 実の娘に勝る者はないと、嫌味を言われ。 嫁でありながら使用人のような扱いに苦しみながらも嫁として口答えをすることなく耐えて来たが限界を感じていた最中、義妹が出戻って来た。 そして告げられたのは。 「娘が帰って来るからでていってくれないかしら」 理不尽な言葉を告げられ精神的なショックを受けながらも泣く泣く家を出ることになった。 …はずだったが。 「やった!自由だ!」 夫や舅は申し訳ない顔をしていたけど、正直我儘放題の姑に我儘で自分を見下してくる義妹と縁を切りたかったので同居解消を喜んでいた。 これで解放されると心の中で両手を上げて喜んだのだが… これまで尽くして来た嫁を放り出した姑を世間は良しとせず。 生活費の負担をしていたのは息子夫婦で使用人を雇う事もできず生活が困窮するのだった。 縁を切ったはずが… 「生活費を負担してちょうだい」 「可愛い妹の為でしょ?」 手のひらを返すのだった。

【完結】25妹は、私のものを欲しがるので、全部あげます。

華蓮
恋愛
妹は私のものを欲しがる。両親もお姉ちゃんだから我慢しなさいという。 私は、妹思いの良い姉を演じている。

嫌いになりたい 〜4人の切ない恋が交差する連作短編〜

BL
【完結】 【第1話】誕生日の夜、小野田夏生(おのだなつき)は恋人の雨宮健(あまみやたける)を待っていた。 約束したのに、結局来ない。電話には、知らない男が出て、誕生日を忘れられていると思い知る。 大学に行けば、健の元彼女に会ってしまう。 バイの健は、その元彼女とホテルで浮気未遂をしたことがある。夏生の胸を苦しめる。 【第2話】作家の伊野崎晶太(いのさきしょうた)を、離婚したばかりの柴理一(しばりいち)が二年ぶりに訪ねてきた。 その日から毎日、柴は家に来る。伊野崎は、柴の結婚で裏切られ絶望し別れた。 柴のことなど、これっぽっちも好きではない。何も残ってないと伊野崎は思っていた。 【第3話】雨宮健(あまみやたける)は、興味のない女達と付き合い続けた罰なんだろうか、と思った。 逃げてばかりの俺が、初めて告白したのが小野田夏生(おのだなつき)だったが、溺愛してるのに伝わらない。 早く夏生との甘々な同棲を開始したい。 早く一緒になりたい、と思っている俺の前に最強の敵が現れた。 【第4話】愚かな柴理一(しばりいち)は、拒絶されながらも別れた伊野崎晶太(いのさきしょうた)の元に戻ってきた。 どうして、伊野崎を捨てるなんてできたのだろう。忘れられると思ったのだ。 否定して逃げた柴は、拒絶されて当然なのだった。 登場人物と時系列が繋がった連作短編 お気に入り、エール、いいね、感想ありがとうございます!! *R18

【完結】10引き裂かれた公爵令息への愛は永遠に、、、

華蓮
恋愛
ムールナイト公爵家のカンナとカウジライト公爵家のマロンは愛し合ってた。 小さい頃から気が合い、早いうちに婚約者になった。

本物の恋、見つけましたⅡ ~今の私は地味だけど素敵な彼に夢中です~

日之影ソラ
恋愛
本物の恋を見つけたエミリアは、ゆっくり時間をかけユートと心を通わていく。 そうして念願が叶い、ユートと相思相愛になることが出来た。 ユートからプロポーズされ浮かれるエミリアだったが、二人にはまだまだ超えなくてはならない壁がたくさんある。 身分の違い、生きてきた環境の違い、価値観の違い。 様々な違いを抱えながら、一歩ずつ幸せに向かって前進していく。 何があっても関係ありません! 私とユートの恋は本物だってことを証明してみせます! 『本物の恋、見つけました』の続編です。 二章から読んでも楽しめるようになっています。

虐げられた落ちこぼれ令嬢は、若き天才王子様に溺愛される~才能ある姉と比べられ無能扱いされていた私ですが、前世の記憶を思い出して覚醒しました~

日之影ソラ
恋愛
異能の強さで人間としての価値が決まる世界。国内でも有数の貴族に生まれた双子は、姉は才能あふれる天才で、妹は無能力者の役立たずだった。幼いころから比べられ、虐げられてきた妹リアリスは、いつしか何にも期待しないようになった。 十五歳の誕生日に突然強大な力に目覚めたリアリスだったが、前世の記憶とこれまでの経験を経て、力を隠して平穏に生きることにする。 さらに時がたち、十七歳になったリアリスは、変わらず両親や姉からは罵倒され惨めな扱いを受けていた。それでも平穏に暮らせるならと、気にしないでいた彼女だったが、とあるパーティーで運命の出会いを果たす。 異能の大天才、第六王子に力がばれてしまったリアリス。彼女の人生はどうなってしまうのか。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。