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ドルト村の冬編

第133話 帝都で買い物

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 ギルドを出たあと、ランツと話しながら歩く。ランツはずっとトマスの愚痴を言っていた。
 やれ目先の金儲けのことしか考えていないだの、自分さえよければいいだの、職人を大事にしないだの、レシピや技術の登録者を食いつぶすだのと物騒な愚痴をかましていることにドン引きした。
 あ~、そりゃあ神罰が下っても仕方ないわな。自業自得だろ、としか思わん。

「他国の者はともかく、神罰を食らったギルマスなど、帝国では前代未聞です。すぐに別の者に変わるでしょう」
「やっぱそうなんだ」
「ええ。もちろん、自分が経営している店などにも響きますから、そちらからも除外されるか放逐されるでしょう。あるいは恥を隠すために、顔の文様が消えるまで、蟄居ちっきょという名の幽閉になるかですね」
「おおう……」

 言わば、ほとぼりが冷めるまで監禁するってか。
 ランツによると、トマスは男爵位を持ってるらしいから、その関係で放逐はないだろうと話す。恐らく、当主交代のうえで顔の文様が消えるか死ぬまで監禁コースだそうな。
 あな恐ろしや、お貴族様。
 そんな話をしているうちに宿に着く。夕飯まではゆっくりしたあと、明日以降の行動予定を話す。
 まず、寒さに強い野菜と春に蒔く野菜の種の確保。これはヘラルドからの依頼で、せっかく温室を作ったからと実験がてら蒔くらしい。それに先駆けて白菜とネギを既に蒔いているので、追加でほうれん草やトマトを蒔いてみたいとのこと。
 次に、雪に閉ざされる村だとしても、ギルマス会議は月に一回必ず出ないといけない決まりがある。なので、二人の移動手段の確保。
 さすがにまだ子どものイデアに雪道の移動をさせるわけにはいかないからと、ランツとヴィンの個人所有で、バトルホースかスレイプニルの購入をするという。

「その経費はどこから?」
「もちろん個人資産からです。ただ、ドルト村のように特殊な理由があると、半分出してくれますね」
「ああ。そこは冒険者ギルドも同じだな」
「んー……。どのみち私たちが護衛として一緒に行くことになるのよね?」
「ええ」
「そうだな」
「だったら、ピオとエバに便乗して移動でもいいわよ?」

 月に一回だもんね。それくらいなら協力するさ。つか、護衛の観点からもそのほうが安全だし楽なんだよ。そんな気持ちで言ったら、ランツとヴィンは驚いたあと、とても嬉しそうに破顔した。

「では、それで頼みますね」
「ああ。俺も頼む」
「はいよー。ただ、短時間とはいえ空の旅は寒いから、防寒対策だけはしっかりしてほしいかな」
「「了解」」

 だったら馬を買う予定のお金で最高級のコートを買おうと言い出す二人に、なぜかヤミンとヤナも便乗して、どんな素材で作ったコートが温かいのか聞いている。
 あ~、そうか。服に関しては村人たちが作ってくれているとはいえ、コートはほとんどないものね。だからヤミンとヤナも、もっと服が欲しいんだろう。

「では、明日は種を買うと同時に、ヤミンとヤナの服もいろいろ買いましょう」
「いいんですか?」
「もちろん」
「やった! 俺、もっと服とローブが欲しかったんだよな」
「ボクも!」
「よし。なら、冒険者御用達の店に連れて行ってやるぜ」
「「やったー!」」

 ヴィンの言葉に、万歳をして喜ぶヤミンとヤナ。素直だねぇ。
 ただね……誰も「買ってあげる」とは言ってないんだが、そこはわかってるのかな。まあ、それくらいは稼いでいるから、問題ないだろう。
 そんな話をしているうちに、夜は更けていった。

 翌日。
 あとは帰るだけだからと、帰り支度をして朝市へと向かう。複数の種を大量に買ったあと、私は個人で大豆をたくさん買った。
 冬の間、何回も鍋を作る可能性があるし、氷豆腐を作ってみたいんだよね~。なので、大豆がたくさん必要なのだ。
 うまくできるといいんだが。
 たくあんを作るのに大根と細い麻紐も買ったし、とりあえず準備は万端。どうしても足りなくなったら、転移を使って買い物にくればいいしね。
 そんなこんなで種を買ったあとは、冒険者御用達の店へと向かう。途中で冒険者ギルドがあったんだが、ヤミンとヤナが「お金を下ろしてくる」と言ってしばらく待つことに。
 すぐに戻ってきた二人を連れて、ヴィンの案内のもと、その店に着く。朝だからなのか冒険者はほとんどいなかったけれど、ヴィンが店に入った途端にシーンとなり、男どもが憧れの目とキラキラした目をしてヴィンを見る様子は、なんともシュールだ。
 そんなのは一切気にせずヤミンとヤナを連れて、まずはローブがあるところへ。私も一応見るかと一緒に行く。
 いろいろ鑑定してみると、それぞれに使われている素材は様々で、蜘蛛糸や毛糸、ウルフなどの毛を使って織ったものや毛皮をそのままローブにしたものまである。一番性能がいいのはやはりドラゴンの素材。
 表面はドラゴンの革で、中身が獣系の毛皮を使っているのがなんとも贅沢だ。もちろん、付与されているのもいいものばかりで、お値段もその分高い。
 だけどそれくらいならばヤミンもヤナもしっかり稼いでいるので、冬用とオールシーズン用に一枚ずつ、しかもドラゴン素材のものを手にとって他の冒険者たちを唖然とさせた。

「アリサ、これ、どうかな。ボクに似合う?」
「俺も気になる」
「うん、付与されているのもいいものばかりだし、色も二人に似合っているわ」
「「やった! じゃあ、これを買う!」」
「お、おう」

 ……元気だな、君たち。
 他にも、人型になった時のためなのか、ズボンとシャツ、コートや靴やブーツなども買い、迷宮都市で買ったらしい斜め掛けのマジックバッグに入れていた。もちろんそれは二人だけじゃなくてヴィンとランツも買っていた。
 私は錬金で作れてしまうし村の女性たちからたくさんもらったから服は買わなかったけれど、同じくドラゴン素材のコートとロングブーツで気に入ったのがあったので、それを購入。
 いい買い物をした。
 その後、ヴィン御用達の鍛冶屋へと行き、ヴィンは大剣を見繕ってもらっていたし、ランツも新調したかったらしく、自分が使う武器を同じく見繕ってもらっていた。
 そしてヤミンとヤナも杖をいろいろと見て、トレントと同等の魔力が籠っているトネリコの杖を買っていた。もちろん自分が得意な属性の魔石がついたものだ。
 トネリコ自体は高くない素材だけれど、属性がついている魔石が高いので、その分高くなる。けれどヤミンもヤナも武器や防具など、自分を守るものはできるだけ最高のものをと考えているようで、金に糸目をつけないのはさすがだと思った。
 それはヴィンも褒めていた。
 買い物も済ませたので帝都をあとにし、村へ向かって馬車を走らせる。その途中で自分が使っている武器や防具の話になったんだが。

「今の自分のレベルと力量に合った武器と防具を選ぶのはいいことだ」
「「ありがとうございます!」」
「ところで、普段使っている杖はどうしたんだ? 珍しい装飾が施されているよな」
「これはアリサと出会った時、アリサが作ってくれたものなんです」
「あの時はギリギリだったけど、今は気に入っているししっくりくる感じで」
「そうか。アリサ、どうやって作ったんだ?」
「え? 錬金術でパパっと?」

 そう言ったら、ヴィンだけじゃなくてランツにも呆れられた。
 なんでよ!

「……今と同じかよ」
「そう簡単に変わるわけないでしょうが」
「「アリサだしね」」
「そうですね、アリサですしね」
「私だからってどういう意味よ!」
「「「「そのまんま」」」」
「喧しいわ!」

 ゲラゲラ笑う男四人にイラつくも、本気でイラついているわけじゃない。こういう雰囲気で話せる仲間ができたってことは、きっと私にとってもいいことなんだろう。
 日本では手に入れられなかったものが異世界で手に入るという、なんとも複雑な心境ではあるけれど、きっと魔物がいて命の大事さを身近に感じる世界だからこそ、仲間意識が強いんだろうなと思う。
 あと、懐のでかい魔族と竜人だからこそというのもあると思う。
 なんとも寛容で、おおらかで。
 そんな人たちに出会えなければ、今でもきっと従魔たちと一緒に旅を続けていたんじゃないかなあと、話に混ざりながらそんなことを考えていた。

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