自重をやめた転生者は、異世界を楽しむ

饕餮

文字の大きさ
上 下
106 / 190
ドルト村編

第122話 私と魔族たちの秘密

しおりを挟む
 重い話はさっさとすませてしまおうと、ヘラルドがゲレオンとランツを呼びにいった。話す場所は、私の家だ。
 村の北側にあるけれど中心から離れているから、内緒話にはもってこいなんだよ。誰かが近づけばわかるしね。
 それに、ノンがいれば嘘をつくことができなくなる。もちろんそれはヘラルドたちだけじゃなくて私にも言えることだし、リュミエール像がある以上、彼の前で嘘をつくこともできないという、神を間に挟んだ契約に等しい行為をするのだ。
 どこまで話してくれるかわからないが、きちんと誠意をみせようと思う。
 彼らが来るまでにお湯を沸かし、飲み物とつまめるものを用意。コーヒーとクッキーでいいかな?
 砂糖とミルクはお好みで入れてもらおう。
 準備をしていると、三人がやってくる。おっさんばかりとはいえ、魔族の顔面偏差値は普通にヤバイ。観賞用としては最大級の美丈夫具合だよ、ほんと。
 それでもときめかない私の心は、だいぶすさんでるよなあ……と改めて認識した。まあ、結婚願望はまーーーったくないので、このまま従魔たちと一緒に村でのんびりと暮らしていこうと思ってる。

「あがって。囲炉裏の前で話そう。ノンにも立ち会ってもらうし、そこにリュミエール像もあるから」
「ええ、構いません」
「そのほうがいいでしょう」
「ノン、防音結界を張ってくれる? ジル、誰か来たら教えてね」
<<はーい>>

 素直に返事をして防音結界を張ったあと、私の近くに来るノン。縁側には小さくなったジルが寝そべり、日向ぼっこをしている。
 庭にはリコもいるし、誰かが来てもわかるようにした。
 まずは魔族側の事情から。基本的な事情は変わらない。侵略されて国を追われているけれど、戻るつもりも国として立て直すこともしないそうだ。……面倒だから。

「面倒、って……」
「面倒ですよ。自分勝手な貴族はいるし、人の話は聞かないし、私腹を肥やすバカはいるし」
「災害が起きればその対処。している途中で資金の横領が発覚し、てんやわんや。嘘の報告をして工事は遅々として進まないですし」
「大小様々な近隣諸国との調整や外交、輸出入するための食材や素材、通行税などの税金」
「「「それらの管理を思えば、国や領地よりも村を運営するほうが楽です!」」」
「おおう……」

 い、いきなり愚痴からきたぞ、おい。どんだけ鬱憤が溜まってたんだよ……。
 私にはその感覚はさっぱりわからないけれど、国を治めるのは大変なことなんだろうね。領地を治めている貴族全員が清廉潔白だなんてことはまずない。
 清濁併せて国というものだろうし。もちろん不正をするような輩は国にとったらあかんけど、それでも、今よりももっといい地位に就きたい、もっといい爵位になりたい、自分の能力を試してみたい、という野心は少なからずあるだろうし。
 当然、国をよくしたいという人もいる。けれど、転生前の日本の野党のような、文句しか言わないようなのはダメだ。文句を言うなら別の案を持ってこいと、車の移動中に国会中継を見ていた社長が、よく吠えていたよなあ……ってことを思い出した。
 国を運営していた時には「頭が痛いことだ」としか思わなかったが、いざ国がなくなって、苦労をしながらも村で生活しているうちに、今の生活がすごーく楽だって気づいたんだそうだ。
 もちろん、私が来るまでは畑や家などの問題はあったけれど、国の運営に比べたら些細なことだし、お国柄と人柄からのんびり穏やかに暮らせる今の生活のほうが性分に合っていると感じて、今に至るらしい。
 だから、国を取り戻そうとか国を興そうとかヘラルドたちは全く考えておらず、そういう野望を持った輩は早々に魔物にやられて亡くなったり、犯罪に走って盗賊になって捕まったり、奴隷を扱うことを許している国の奴隷商人に捕まり、奴隷として過ごしているらしい。

「…………」
「あれはスッキリしましたね!」
「ええ。口は立派ですが、行動が全く以てダメでしたからね」
「害虫駆除できたのはよかったですよね」
「「「そう思いませんか、アリサ!」」」
「お、おう」

 酒が入ってないのに、なんでそんなに口が悪いんだ、元王族たちよ。ま、まあ、今までずっと我慢していたようだし、第三者に聞かせられるような話でもないから仕方がないんだろう。
 いいよいいよ、愚痴を聞くのは得意だよ。今のうちにどんどん吐き出せと言ったら、もうね……言葉にしたらダメな口汚い罵りやつが綺麗な顔からポンポン出て来て、ドン引きした。
 それでも私に愚痴ったからなんだろう、最後はすんごくすっきりした顔をしていたから、よしとしよう。
 それからは私の話をした。
 転生者であること。
 その原因がリュミエールの部下であること。
 リュミエールに誘われてこの世界に転生し、その時にノンを預けられたこと。
 リュミエールからたくさんのスキルを授かり、全部カンストしていることを話した。さすがに他人のスキルを詮索するのはマナー違反なので、彼らも聞いてこないし全部のスキルは言ってないけど……結局話してたり全部行動で示しちゃってるもんなあ。彼らにはバレバレみたい。
 それでも黙っててくれるみたいだから、私もしっかりとお口チャックしますとも。

「にゃんすら様を預けられるなんて、よっぽど信頼されているんですね」
「うーん……どうなんだろう? ノンに気に入られたっていうのもあると思うわよ?」
「そうですね。それから、他の従魔たちも」
「従魔たちは本当に偶然なのよね。バトルホースのリコに関してはリュミエールから教えてもらった結果だけど、他はねぇ」
「それでも助けたからでしょう? それに、アリサ自身も彼らを大切にしています。だからでしょうね」
「懐に入れた以上、大切な家族だもの。大事にするわ」

 その他はどうでもいいときっぱりと言い切った私に、三人は優しい眼差しで私を見る。その中に、私に対する拒絶は全く感じられず、心底よかったと内心で盛大に息をついた。
 それからは魔族の転生者の話になったんだが。

「は? キリブチゴンゾウって言ったの? その王様」
「ええ。ご存じありませんか?」
「ご存じもなにも、私の祖父なんだけど」
「「「はあっ⁉」」」

 ですよねー! そうなりますよねー!
 桐淵権蔵は、マジで祖父であ~る。生きている間の話を私が知っている限り話すと、こっちでも同じようなことをしてたらしくてね……すぐに信じてくれたし、私もマジで祖父だと確信した。

「では、私と血が繋がっているんですね」
「厳密には違うけど、そうなるんでしょうね」
「ああ、言われてみれば。色は違いますが、皇太后様に似ていらっしゃる」
「皇太后様?」
「ええ。彼女も転生者と聞いていますよ? 前世はキリブチハルだと仰っていました」
「おおう……マジで祖母じゃん!」

 夫婦そろって転生者とはこれ如何に! どうなってんだよ、リュミエールぅぅっ!
 なんだか、リュミエールの「テヘペロ☆」って声が聞こえた気がするんだが、気のせいか⁉
 今度会ったら殴る! と決意し、この世界で祖父母がやらかした話を、遠い目をしながら聞いていた。
 夕方まで話して終わりかと思ったら、ヘラルドが「新鮮な魚が手に入ったことだし、宴会をしましょう!」とか言い出し、貯蔵庫から刺身になる魚を持ちだしてきた。なめろうが食べたいんだって。
 それならとなめろうやタタキ、ぬたや山かけ、海鮮丼などの食べ方も紹介し、ついでに錬金術で作った日本酒もどきと梅酒を放出。その味が気に入ったらしく、来年から日本酒もどきと梅酒を作ることが決定した。
 なんだかやらかしたような気がしなくもないけれど、みんなが美味しいと言ってくれたからいいかと、梅酒ロックを飲みながらたくさん話をした。ヘラルドたち三人の他にも、祖父母が政策という名のやらかした話を聞いたからね……。
 私が前世の孫だとは言わなかったが、話の途中でヘラルドの父親である元王様はどんな人だったのか聞いたところその話になり、その流れで祖父母の話になったのだ。祖父母は魔族が幸せになるように、そして農作物の収穫量が増えるようになど、国力を上げるような政策をしていたそうで、今でも尊敬されている王様と王妃様だそうだ。
 そうか、元気でやっていたのか。国が滅亡する前に亡くなったそうだから会えないのは残念だけれど、それでも好きに生きたんならいいや。
 私も自分なりにスローライフを送ろうと決め、村人に交じって親交を深めていった。

 翌日しっかり二日酔いになったのは、言うまでもない。

しおりを挟む
感想 2,849

あなたにおすすめの小説

転生したら幼女でした!? 神様~、聞いてないよ~!

饕餮
ファンタジー
  書籍化決定!   2024/08/中旬ごろの出荷となります!   Web版と書籍版では一部の設定を追加しました! 今井 優希(いまい ゆき)、享年三十五歳。暴走車から母子をかばって轢かれ、あえなく死亡。 救った母親は数年後に人類にとってとても役立つ発明をし、その子がさらにそれを発展させる、人類にとって宝になる人物たちだった。彼らを助けた功績で生き返らせるか異世界に転生させてくれるという女神。 一旦このまま成仏したいと願うものの女神から誘いを受け、その女神が管理する異世界へ転生することに。 そして女神からその世界で生き残るための魔法をもらい、その世界に降り立つ。 だが。 「ようじらなんて、きいてにゃいでしゅよーーー!」 森の中に虚しく響く優希の声に、誰も答える者はいない。 ステラと名前を変え、女神から遣わされた魔物であるティーガー(虎)に気に入られて護られ、冒険者に気に入られ、辿り着いた村の人々に見守られながらもいろいろとやらかす話である。 ★主人公は口が悪いです。 ★不定期更新です。 ★ツギクル、カクヨムでも投稿を始めました。

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

聖女としてきたはずが要らないと言われてしまったため、異世界でふわふわパンを焼こうと思います!

伊桜らな
ファンタジー
家業パン屋さんで働くメルは、パンが大好き。 いきなり聖女召喚の儀やらで異世界に呼ばれちゃったのに「いらない」と言われて追い出されてしまう。どうすればいいか分からなかったとき、公爵家当主に拾われ公爵家にお世話になる。 衣食住は確保できたって思ったのに、パンが美味しくないしめちゃくちゃ硬い!! パン好きなメルは、厨房を使いふわふわパン作りを始める。  *表紙画は月兎なつめ様に描いて頂きました。*  ー(*)のマークはRシーンがあります。ー  少しだけ展開を変えました。申し訳ありません。  ホットランキング 1位(2021.10.17)  ファンタジーランキング1位(2021.10.17)  小説ランキング 1位(2021.10.17)  ありがとうございます。読んでくださる皆様に感謝です。

転移先は薬師が少ない世界でした

饕餮
ファンタジー
★この作品は書籍化及びコミカライズしています。 神様のせいでこの世界に落ちてきてしまった私は、いろいろと話し合ったりしてこの世界に馴染むような格好と知識を授かり、危ないからと神様が目的地の手前まで送ってくれた。 職業は【薬師】。私がハーブなどの知識が多少あったことと、その世界と地球の名前が一緒だったこと、もともと数が少ないことから、職業は【薬師】にしてくれたらしい。 神様にもらったものを握り締め、ドキドキしながらも国境を無事に越え、街でひと悶着あったから買い物だけしてその街を出た。 街道を歩いている途中で、魔神族が治める国の王都に帰るという魔神族の騎士と出会い、それが縁で、王都に住むようになる。 薬を作ったり、ダンジョンに潜ったり、トラブルに巻き込まれたり、冒険者と仲良くなったりしながら、秘密があってそれを話せないヒロインと、ヒロインに一目惚れした騎士の恋愛話がたまーに入る、転移(転生)したヒロインのお話。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

側妃は捨てられましたので

なか
恋愛
「この国に側妃など要らないのではないか?」 現王、ランドルフが呟いた言葉。 周囲の人間は内心に怒りを抱きつつ、聞き耳を立てる。 ランドルフは、彼のために人生を捧げて王妃となったクリスティーナ妃を側妃に変え。 別の女性を正妃として迎え入れた。 裏切りに近い行為は彼女の心を確かに傷付け、癒えてもいない内に廃妃にすると宣言したのだ。 あまりの横暴、人道を無視した非道な行い。 だが、彼を止める事は誰にも出来ず。 廃妃となった事実を知らされたクリスティーナは、涙で瞳を潤ませながら「分かりました」とだけ答えた。 王妃として教育を受けて、側妃にされ 廃妃となった彼女。 その半生をランドルフのために捧げ、彼のために献身した事実さえも軽んじられる。 実の両親さえ……彼女を慰めてくれずに『捨てられた女性に価値はない』と非難した。 それらの行為に……彼女の心が吹っ切れた。 屋敷を飛び出し、一人で生きていく事を選択した。 ただコソコソと身を隠すつまりはない。 私を軽んじて。 捨てた彼らに自身の価値を示すため。 捨てられたのは、どちらか……。 後悔するのはどちらかを示すために。

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

フェンリルさんちの末っ子は人間でした ~神獣に転生した少年の雪原を駆ける狼スローライフ~

空色蜻蛉
ファンタジー
真白山脈に棲むフェンリル三兄弟、末っ子ゼフィリアは元人間である。 どうでもいいことで山が消し飛ぶ大喧嘩を始める兄二匹を「兄たん大好き!」幼児メロメロ作戦で仲裁したり、たまに襲撃してくる神獣ハンターは、人間時代につちかった得意の剣舞で撃退したり。 そう、最強は末っ子ゼフィなのであった。知らないのは本狼ばかりなり。 ブラコンの兄に溺愛され、自由気ままに雪原を駆ける日々を過ごす中、ゼフィは人間時代に負った心の傷を少しずつ癒していく。 スノードームを覗きこむような輝く氷雪の物語をお届けします。 ※今回はバトル成分やシリアスは少なめ。ほのぼの明るい話で、主人公がひたすら可愛いです!

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。