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ドルト村編

第87話 乾物を作る

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 専門の知識があるわけじゃないからと、ネットで見た家庭でもできる情報を思い出しつつ、作業をする。

「まず、魚を開くんだけど、頭は必要?」
「食べるわけではないから、いりません」
「わかった。なら、頭を取る方法を教えるわ。まずは包丁の先で鱗を取って――」

 頭はあとであら汁にするとして。まずは鱗を取り、頭を切り落とす。
 内臓や血合い、鱗を洗い流し、何度か庖丁を滑らせるように中骨の上側の身を切り、背中側の皮一枚残すように開く。ちょっと濃いめの塩水を作り、その中に二十分から一時間ほど漬け込む、〝立て塩〟と呼ばれる方法を教えた。
 濃度の目安はその水に対して5~15%の塩分濃度だけれど、この世界には量りなんてない。ないわけじゃないが天秤で、基準となる錘も何グラムというものがあるわけではないので、日本にあったような簡単に量れるものではないのだ。
 なので、塩分濃度に関しては試行錯誤していくしかない。
 好みの問題もあるから、それはみんなで決めればいいと話し、今回は大きな鍋に半分ほど入れた水に対し、一掴みの塩を入れた。塩を溶かしたら味見をし、その中に開いた魚を入れて漬け込み、それを一回洗ってから水分をふき取り、風通しのいい日影に干すだけだ。
 日影や夜など、一晩干したものが一夜干しとなる。他にも風通しのいい場所で日光にあてて乾かす、天日干しの話もした。
 どっちにしろ今日は食べられないし、保存食の意味合いがある。冬の間外に出られないのであれば、作るのも一興だ。
 まあ、貯蔵庫自体が時間が経過しないから、生のまま保存も可能だが。
 そこは自分の好きなようにすればいいからと話すと、干した魚を体験してみたいというので、自分が食べる分だけでも作ることに。
 魔族も、知らないことに関しては好奇心旺盛だなあ。魚が滅多に食べられないからこその行動なんだろう。
 彼らが魚を捌いている間に木材と金属を使って燻製窯を錬成し、スモークチップを用意。今回は肉にも魚にも合う、オールマイティーなヒッコリーを使うつもりだ。
 試運転としてチーズとゆで卵を燻製にしている間に、肉の準備。肉はオークのバラ肉で、旅をしている間にコツコツと作業を進めていた。
 作った塊は二種類。塩を溶かしただけのソミュール液に漬けたものと、塩と香辛料を加えたピックル液に漬けたものだ。塩を直接擦り込むよりも、液体のほうが酸化しづらいことと、味が均等になるからこっちの方法にした。
 三日ほど液体に漬けて洗い流し、茹でたあとで乾燥を済ませている。あとは燻すだけの状態だった。
 私が燻製を始めたことで気になっているのか、何人かが私のほうに寄ってきた。その中にヘラルドもいることから、私が何をするのか興味津々みたい。

「アリサ、これはなんですか?」
「燻製窯というの。細かくした香りの高い木を使って風味をつけるといった感じかしら」
「なるほど。今、そのくんせいとやらにしているのはなんですか?」
「今はチーズとゆで卵が入っているわ。できたら味見してもらうから、それまで待ってね」
「わかりました」

 新たな食材となるとわかったのか、ヘラルドをはじめとした数人がウキウキとした顔になる。食べることが好きなのかな? だとしたら、きっと気に入ると思う。
 子どものように目を輝かせて燻製窯を見るヘラルドたちに苦笑していると、ピオとノンが帰って来た。カラモスも薬草などの採取も大量にできたようで、ピオとノンがご機嫌だ。
 ピオからカラモスを預かり、魚を捌いている人たちのところへ行くと、棚を作りあげる。お試しとして一夜干し用と天日干し用に三つずつ作った。
 待っている間に温室の基礎工事をして、使う金属や周囲をどうするか話し合い、結局神鋼を使うことに決定。ダンジョン内の鉱石が採れる場所で稀に出るそうだけれど、そんなのをあてにしていたらいつまでたっても必要な量が集まらない。
 密かにあの鉱山に行って採掘してくるかと決め、ヘラルドたちにはダンジョンに潜ってくるとだけ伝えた。一週間くらい潜ってくると話すと、それくらいであれば必要数が揃う可能性が高いと太鼓判を押される。
 とりあえず一度はダンジョンに行ってみて、鉱山よりも効率がよければダンジョンで集め、悪ければ鉱山に行こう。周囲はガラスにするが、雪を懸念して厚みを持たせることで壊れにくくするつもり。
 まあ、状態維持をかけてしまえばそう簡単に割れることもないが。
 一応冒険者たちの分も含めて魚を各家と備蓄倉庫用に分配し、それぞれの家にある貯蔵庫や備蓄倉庫にしまっていく村人たち。魚の他にも森で採れた果物や野菜を分配している。
 薬草類は全てレベッカの元へと集められた。彼女が常備薬やポーションを作り、配るという。
 もう少し秋が深まると栗やクルミも採取できるようになり、キノコも種類が豊富になるとのこと。今から従魔たちと一緒に山を散策するのが楽しみだ。
 そうこうするうちにチーズと卵の燻製が出来上がった。数が少ないので一口ずつになってしまったけれど、味見だからとみんなに配る。

「……エールかワインが欲しいな」
「ああ。美味い!」
「アリサ、これは自分の家でもできるのか?」
「できるわ。ただ、もっと小さいものになるから、いっぺんには作れないけど」
「そうか……」
「それなら、この窯を借りてやればいいじゃないか」

 気に入ったようで、酒が欲しいと言い出す、一部の呑兵衛たち。

「アリサ、使ってもいいか?」
「いいわ。チップも提供するし、村の共用にすればいいじゃない。ただし、薪は自分で用意してね」
「「「わかった! ありがとう!」」」

 嬉しそうにお礼を言ったあと、ガッツポーズをする呑兵衛の三人にチップとなる木材の名前を告げると、この村から西にある森にヒッコリーと桜があるという。枯れたものや倒木を使えばいいと話すと、明日取りに行くと言い出した。
 そんなに気に入ったのか。
 若干呆れつつもヒッコリーチップを足し、バラ肉を燻していく。ベーコンがないわけじゃないみたいだけれど、どうも他国で作っているようなのよね。
 帝都にもあったけれど、とても高かった。ブロックだというのもあるんだろうけれど、日本にもあった小さなサイズだというのに、値段は日本のよりも高く、金貨五枚もしたのだ。
 だからこそ買わなかったし、もともと手作りをするつもりだったから、問題ない。
 ベーコンだベーコンだと子どものようにはしゃぎ、騒ぐ村人たちに苦笑しつつ、新生児くらいの大きな塊を五つ吊るして燻す。それだけデカいんだよなあ……この世界のオークって。

「アリサ、このベーコンの材料はなんですか?」
「これはオークのバラ肉よ。ボアで作っても美味しいかもね」
「そうですね。今度作ってみましょう。もちろん、オークでも作りますが」
「いいね、ヘラルド様! オレがやるよ!」
「お願いしますね、デイブ」
「おう! アリサ、ベーコンの作り方を教えてくれ」
「いいわよ」

 デイブがやる気満々だ。オークのバラ肉はあまりないが、ボアのバラ肉ならある。自分で使う分はそのままにして、ある程度のものは放出してしまおう。
 別の作業台を作り、持っていたボアのバラ肉を乗せる。デイブの分も渡して、一緒に作業をした。
 スモークするまでには時間はかかるけれど、仕込みは大切だからね~。しっかりとやってもらった。一緒に作業しながらメモを取っていたデイブ。これなら材料さえあれば、勝手にやりそう~。
 作業しているうちにスモークも終わり、全員に配る。残ったものは私の懐だ。

『ずるい!』
「ずるいじゃないわよ! 私が食べたいから、作ったの! 作り方もボアの肉も燻製窯も提供したんだから、あとは自分たちで作りなさいよ!」

 燻製窯もそのままにしているんだから、自由に使えばいいじゃないか! 自分の食べたいものを燻製にすればいいだけの話だし。
 ソーセージもスモークしたいところだけれど、今出したら全員に食われることは間違いない。放出してもいいけれど、全員に行き渡るほどの量がないんだよね。
 そのうち作り方を教えるか……と考えながら、私も魚を捌いて干物にした。

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