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ドルト村編

第86話 村へ帰る途中

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 ヘラルドたちと合流し、魚を回収して湖から離れる。魚はインベントリになっている麻袋に入れたようだ。
 それが十個もあるんだから、かなり大漁だったんだろう。その時に干物の話をするとやってみたいと言ったので、村に帰ってからやるつもりだ。
 干す場所はたくさんあるからいいとして、棚をどうするか……。カラモスがあればいいんだけれど、屋根に使った木材で作ってもいいかもしれんが、ちょっと勿体ないんだよなあ。
 まあ、それは村に帰ってから考えるとして。さすがに荷物が大量になっていたので、ウエストポーチがインベントリになっていることを告げ、荷物を全部預かった。

「アリサ、そのポーチはどうしたの?」
「この国に来る途中で寄った迷宮都市で買ったの。背負う形のものが欲しかったんだけど、在庫がなくてこの形にしたのよ」
「「「「「ああ、迷宮都市でか~。それなら納得!」」」」」
「納得するのかよ!」
「しますよ。インベントリになっているバッグは、大抵が迷宮都市で作られているものですからね」
「へ~」

 なるほど、迷宮都市ならば大抵売られているのか。まあ、ダンジョンに潜っている以上、荷物が大量になるものね。そこはしょうがないか。
 マップが完全に埋まっていたから最短距離で攻略した私たちですら十日はダンジョンの中にいたんだから、マップが埋まっていない冒険者が攻略するとなると、どうしてもそれ以上になる。
 そうすると持っていくものも持って帰るものもそれだけ多くなるんだから、インベントリが必須なのは、当たり前か。
 帝都にもインベントリになっているマジックバッグが売られているが、迷宮都市に比べたら値段が跳ね上がるそうだ。ウエストポーチタイプで白金貨二枚はくだらないっていうんだから、相当ぼったくっているんだろう。
 あの時はお金を減らす目的があったから買ったけれど、自分で作れる以上、これ以外は必要ないし。まあ、魔改造はしたが。
 それはともかく、話をしながら歩いていると、さっき見つけたなだらかな丘に着く。私たちがいいと思っていても、決定権は村長むらおさであるヘラルドにある。
 土質は悪くないが、村から来るにはちと遠い。しかも、こんなところに棚田を作ったら、下手すると隠れ里の存在が知れてしまう可能性がある。
 この場所よりももっと低い位置――村の隣とかなら問題ないんだろうけれど、さすがにここは目立ちすぎる。うまい具合に樹木がないんだよね、ここだけ。だから日当たりは抜群なのだよ。
 土や周囲の景色、太陽の位置などを入念に調べるヘラルド。それと並行して、私は山から見下ろす景色を堪能しながらも、マップを見つつ村の位置を確かめる。
 すげえなあ、おい。高台にあるこの位置なら村を上から見られるはずなのに、どこにあるのかわからない。森ばかり広がっているようにしか見えないのだ。
 魔族の魔法って本当に凄い……! そう思った瞬間だった。

「ふむ……。もう少し下のほうでもよさそうですが、さすがにここは目立ちすぎますね」
「だよなあ。他の場所はどうかな」
「恐らくここと同じようにぽっかりと開いているか、森しかないでしょうね」
「できれば水田で米を育てたいわよね、ヘラルド様」
「そうですね。まあ、陸稲おかぼが作れただけ、ありがたいことではありますが」

 あ~、やっぱり村長としてはダメな案件だったか。認識阻害をかけるにしても、さすがに広範囲すぎてどうにもならないんだろう。
 ……ブラックドラゴンの魔石をいくつか使い、それに付与すれば広範囲でもできるかもしれないって言わないほうがいいよね、これ。確実にやれって言われる案件だもの。
 よし、黙っていることにしよう。そこまでして水田を作りたいとは思わんぞ、私は。
 村の近くに作るとすれば、近くの森を伐採するか、開けている場所に作るかしかない。あとは村の中に池を作って、その水を利用するくらいかな。
 水の流れを作るためにも川が必要だけれど、その川が近くにないから、どのみち無理だが。
 さて、ヘラルドはどういう判断をするのかな?
 頑張っておくれ、。ここが正念場だぞ?
 そんな偉そうなことを考えていると、とても残念そうな顔をして溜息をつく、ヘラルド。

「水路を作るにしても、この先には川がありませんからね。下手に作って人間たちに見つかったら、隠れ里の意味がないですし。水田は諦めましょう。その代わり、囲いを大きくして森を少しだけ切り開き、陸稲畑をふやしましょうか」
「そう、ですね。そのほうがいいですね」
「なら、薬草の植え替えもしないといけませんわね」
「植え替えなら手伝うわよ?」
「その時はお願いしますが、アリサには先に温室を作っていただきたいのです。そちらを優先してください」
「わかったわ」

 あはは~、やっぱり温室を優先させろと言われたか。枠になる金属はどうにでもなるけれど、ガラス張りにするなら砂が確実に足りないから、あとで湖に行くか、漁港か漁村に行って砂を取ってくることにしよう。
 どっちがいいかはヘラルドに聞いてからだな。恐らくガラスにしろーって言うだろうけれど。
 そうすると、雪対策もしないといけないから、金属は上位のものになってしまうなあ。ヒヒイロカネとかオリハルコンとか神鋼とか。もしくは木材と併用するか。
 それとも……ダンジョンに潜る? あの鉱山に行く?
 どれくらいの大きさの温室にするかを聞いてから、どうするか決めよう。
 下山しつつ採取と戦闘をして、村に戻ってくる。私たちが一番最初に戻ってきたようで、ヘラルドが結界を解いていた。
 それを見計らったかのように次々に他の村人が戻ってきて、ヘラルドに報告している。

「アリサ、さきほどの干物を教えてください」
「わかった。ただ、干すための棚が必要なの。できればカラモスがいいんだけど、ある?」
「ええ、ありますよ。ただ。数が少ないんです」
「そう……。今から取りに行ってきてもいいかしら」
「構いませんが、先に干物のやり方を教えてください」

 ヘラルドの言葉に頷き、先に棚を作ることにする。できるだけ風通しのいい場所を教えてもらい、全員でそこに移動する。その途中で、ピオがカラモスがあった場所を覚えていて、採ってきてくれるというのでお願いした。

<オレは風魔法が使えないから、ノンも連れていきたいんだ。いいか?>
「もちろん。採取もしてくるなら、籠と瓶を渡すわよ」
<お願い! たくさん採取してくるね!>
<カラモスもだぞ、ノン>
<わかってるのー>
「ふふっ! 気をつけて行ってきてね」
<<はーい!>>

 元気に返事をしてからノンを乗せて飛び立ったピオを見送り、ヘラルドに案内された場所に着く。その場所は、ディエゴたちが入ってくる門と冒険者の家がある場所から一番遠い場所だった。
 めっちゃ警戒されてて笑う。
 日当たりのいい西側で、三年前までは畑だった場所だという。ここに温室と干物を干す棚を作ってほしいと言われたので、頷く。

「じゃあ、まずは温室の大きさを決めちゃいましょうか。その場所さえ確保すれば、棚はあっという間にできるから」
「そうですね……。温室はそんなに大きくなくていいですね」
「なら、入口はこれくらいで、横長にして――」

 地面に横長の長方形をふたつ描く。幅六メートル、長さ十メートルの規模だ。それをふたつ並べてくっつけ、中からどっちにも移動できる構造にするつもりでいる。
 もちろん、どっちの建物にも出入口をつけるつもり。温室にするんだから、暖房機能も備えておかないといけないので、その建物は外に作る。こっちは木材だけで充分だろう。
 暖房機能や温室の温度に関してはまた今度話し合いをするとして、先に温室の土地を確保したあとで棚を設置する場所も決める。温室から少し離れた場所に移動したあとでカラモスをもらい、それとダンジョン産の木材を使って棚を作る。
 カラモスが足りなくて横幅三メートルの長さのものがふたつしかできなかったが、ピオとノンが帰ってきたら追加で作ると話し、一旦作業を終わらせる。どうせ干すからと魚が入っている麻袋をひとつ出し、作業台を作ってそこに魚を出した。
 魚はサケマスと、なぜかアジ。なんで湖にアジがいるんだよ! と内心で盛大に突っ込みを入れつつ、アジを使って村人に説明することに。

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