上 下
65 / 190
ドルト村編

第81話 村を大改造 2

しおりを挟む
 すぐにノンにお願いして村全体を浄化すると、村を中心にかなり離れたところまでキラキラした光が舞う。その光景を、キラキラした目で見つめる村の住人たち。
 すぐにノンの姿を見つけると拝み始め、それに答えるようノンが触手を出して手を振るもんだから、余計に拝まれることになる。
 そんな状態に内心溜息をつきつつ、村長の家に行く。村長の家とは思えないほど周囲の家と同じくらい小さく、豆腐建築でボロボロなのが泣けてくる。
 中へと一緒に入って目的の部屋に着くと、真っ白な顔色をした女性がこっちを見た。目は綺麗な緑色でとても美人さんだが、如何せん顔色が悪すぎる。
 それでも、ヘラルドを認識すると、嬉しそうに微笑みを浮かべた。

「まあ、ヘラルド。どうしたの? ディエゴさんが来ているんじゃないの? それに後ろにいる子は?」
「来ているが、今はみんなとやり取りをしているよ。レベッカ、この子はアリサで、Aランク冒険者だよ。この村に住むことになったんだ」
「まあ、そうなのね。はじめまして。わたしはヘラルドの妻で、レベッカよ」
「はじめまして、アリサよ。ノン、お願いね」
<はーい>
「まあ……黒いにゃんすら様を見たのは初めてだわ!」

 ぴょんぴょんと跳ねてレベッカが寝ているベッドに近づくノンに、その姿を見て目を輝かせるレベッカ。その微笑みは巫女に相応しく、慈愛に満ちている。
 ヘラルド同様に、彼女は祖母を彷彿とさせる微笑みだったから、本当に懐かしくなると同時に、切なくなる。
 そんなことを考えているとノンが回復魔法を発動したようで、レベッカの体が淡く光る。その光が収まると、レベッカの顔色が明らかによくなった。

「あら……? にゃんすら様、何かなさったの? なんだか、体が軽く感じるわ」
「ああ……リュミエール様! にゃんすら様を遣わしていただき、ありがとうございます! にゃんすら様、ありがとうございます!」
<どういたしましてー♪>

 お礼を言われ、誇らしげに胸を張るノン。その仕草が可愛かったようで、レベッカはキラキラとした目でノンを見つめている。

「にゃんすら様、撫でてもいいかしら」
<いいよー>
「ありがとう」

 つるつるぷよぷよ尻尾もふだものね、ノンは。触ってみたいっていうのはとってもよくわかる。
 レベッカをこっそり鑑定してみたけれど、特になんの問題もない。状態異常として栄養失調と出ているくらいか。あとは栄養のあるものを食べて体力をつければ、すぐに元に戻るだろう。
 ノンに念話を送って戻って来てもらうと、夫婦水入らずで話をしているのを邪魔しないよう、そっと部屋から出て自分の家の建築予定地に戻る。先に基礎工事だけでもしておくかと、乾燥させた木材を板や柱にする。しまった、土台となる石がない。
 土をガッチリ固めてもらおうと草を食んでいたリコに声をかけ、棒と市販の赤い糸で囲った範囲をガッチガチに固めてもらった。コンクリートの土台の代わりかな。しっかりと固めてもらったあと、土台になる部分を持ち上げ、家の外周を凸の形にしてもらう。
 スキルを駆使して持ちあがった場所を木材で囲み、ある程度の目印として柱の位置に印をつけたり、周囲を板で囲った。中は空間拡張するつもりだから、そんなに大きくしていないのだ。
 部屋割を頭で考えながら基礎工事をしていると、わざわざヘラルドが戻って来た。

「すみません、アリサ。放置してしまって。そして、妻を治してくれてありがとうございます」
「やることがあったから大丈夫よ。お礼はにゃんすらにどうぞ」
「たとえ治したのがにゃんすら様だとしても、主人はアリサだ。だからこそですよ」
「そんなもん? まあ、私はどっちでも構わないわ」

 周囲を囲ったので、今日は一旦終わり。そろそろ日が暮れてくるから、ご飯の支度をしないといけない。
 ディエゴも今日は泊まると言っていたし、面倒だから炊き出しにしてしまうか。

「村長。村のみんなが集まれるような広場はある?」
「ええ。何をするつもりですか?」
「炊き出しをしようと思って。食材はいっぱいあるし、レベッカには栄養のあるものが必要だから」
「いいのですか?」
「構わないわ」

 この村の住人になるんだもの。いわばお近づきの印ですな。
 そんなことを話すとすぐに案内してくれた。そこにはディエゴたちもいて、住人とあれこれ話をしながら、商品を売ったり買ったりしていた。まあ、そのほとんどが物々交換のようだが。
 それを尻目に竈を三つほど作り、漁村でも活躍した大きな鍋や寸胴を出して乗せる。さて、何がいいかな。肉は道中で狩った、ブラックバイソンがいいかな。
 ブラックバイソンはダッチオーブンを使ってローストビーフとステーキにしよう。たくさんおかわりしたとしてもここの住人の数からすると、肉は三日分くらいはあるからね~。
 それくらい大きいんだよ、この山に棲息しているブラックバイソンは。ダンジョンでドロップした肉の比じゃないし、しっかりと骨もとっといてあるから、自宅ができたら牛骨でスープを作ろう。
 レベッカには出汁が利いた卵がゆにネギを散らして、他はご飯を炊くか。ディエゴもいることだし、この村の人に醤油の味を知ってもらうためにも、炊き込みご飯がいいかもしれんが、それは明日以降にするとして。

「ピオ、エバ。この焚火に置いた薪を燃やして、炭にしてほしいの」
<<任せて!>>

 火力の強い二羽に炭を作ってもらっている間に、寸胴に水を入れる。その中に干し肉と干しキノコ、ノンが採取してくれたキノコを数種類と乾燥野菜を入れた。
 沸騰するまでは放置して、ローストビーフの下ごしらえを終えたタイミングで炭になったと教えてくれたので、先にダッチオーブンを温める。その中に肉を入れて焼き色をつけて一回取り出すと、じゃがいもや櫛形に切った玉ねぎ、にんじんを入れて肉を戻し、蓋をしてからその上に炭を載せていく。
 これも出来上がるまで放置だ。
 次に、バイソンの肉を2センチの厚さにスライスして筋切りをしていると、女性たちが集まって来た。

「村長に聞いたの。わたしたちのために用意してくれているんでしょう? 手伝いましょうか?」
「いいの? なら、このバイソンの肉をこれと同じ厚さに切って――」

 寄ってきた女性に実践しながら筋切りを教え、一緒にいた女性にはサラダを作ってもらう。その後ろにいた二人のうち一人には野菜スープを見ててもらい、もう一人の女性には目玉焼きをお願いした。
 その間に米を洗って土鍋に入れ、竈が足りないのであと三つ作ると、そこに土鍋をふたつセットして米を炊く。予備として持っていた粘土質の土を使い、一人前用の土鍋を錬金してからそこに小さくしたかつおぶしと水を入れ、洗った米を入れて火にかける。
 かつおぶしごと食べてもらうつもり。
 手が空いた人から肉に味付けしてもらったあと焼いてもらい、それだけでは足りないだろうからと、ディアを使った野菜炒めを教える。
 しまった、これならバーベキューのほうがよかったかも。今さらだからいいか! バーベキューならいつでもできる!
 嗅いだことがない匂いだからなのか、女性以外にも男性たちも集まってくる。醤油が焦げる香ばしい匂いが刺激となっているのか、あちこちからゴクリと喉が鳴る音やお腹が鳴る音が聞こえてきた。
 小さな子どもはいないようで、姿を見かけない。寿命が長いから、子どもができにくいか、それぞれが大きくなっていて村を出たかのどちらかだろう。
 ヘラルドは息子が時々帰ってくるって言っていたしね。
 そうこうするうちにご飯も炊け、おかずも続々とできてくる。村の女性たちと手分けしてローストビーフをスライスしてもらってからグレイビーソースの作り方を教えたり、ご飯をおにぎりにしてもらったりした。
 やっぱりご飯を炊くということは知らなかったようで、目を丸くしていた。

「そろそろできるから、テーブルや椅子をお願い」
『おう!』

 うろちょろする男性たちに苦笑しつつも食事をする用意をお願いし、セッティングが終わったテーブルの上に料理とおにぎりを並べていく。そのころになると日もとっぷり暮れて、魔法を使ったのか光っている玉があちこちに浮かんでいた。
 全部のセッティングが終わると全員席に着く。なぜか私はヘラルドとレベッカの間に座らされている。

「今日、新たに村の住人が増えることになったアリサだ。彼女はAランク冒険者だ。そしてアリサが連れているにゃんすら様により、レベッカの病が快癒した」
『おおおーーー! よかったな、レベッカ!』
「ありがとう」
「いろいろと話をしたいが、詳しい話はまた明日にしよう。命の糧と恵みに感謝しよう。いただきます!」
『いただきます!』

 ヘラルドの挨拶とともに、食事が始まる。ひとつのテーブルに四、五人が座り、テーブルに置かれた料理を取り分けて食べている。
 最初は恐る恐るといったふうに料理を口に運んでいたが、味がわかると笑みをこぼしてどんどん食べていく。口に合ったならよかった!
 どっから引っ張りだして来たのか、いつの間にかエールやワインがテーブルに並び、次第に宴会へと発展してゆく。こういうところはどこも変わらないんだなあ……と、なんだか漁村の獣人たちが懐かしくなった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転移先は薬師が少ない世界でした

饕餮
ファンタジー
★この作品は書籍化及びコミカライズしています。 神様のせいでこの世界に落ちてきてしまった私は、いろいろと話し合ったりしてこの世界に馴染むような格好と知識を授かり、危ないからと神様が目的地の手前まで送ってくれた。 職業は【薬師】。私がハーブなどの知識が多少あったことと、その世界と地球の名前が一緒だったこと、もともと数が少ないことから、職業は【薬師】にしてくれたらしい。 神様にもらったものを握り締め、ドキドキしながらも国境を無事に越え、街でひと悶着あったから買い物だけしてその街を出た。 街道を歩いている途中で、魔神族が治める国の王都に帰るという魔神族の騎士と出会い、それが縁で、王都に住むようになる。 薬を作ったり、ダンジョンに潜ったり、トラブルに巻き込まれたり、冒険者と仲良くなったりしながら、秘密があってそれを話せないヒロインと、ヒロインに一目惚れした騎士の恋愛話がたまーに入る、転移(転生)したヒロインのお話。

転生したら幼女でした!? 神様~、聞いてないよ~!

饕餮
ファンタジー
  書籍化決定!   2024/08/中旬ごろの出荷となります!   Web版と書籍版では一部の設定を追加しました! 今井 優希(いまい ゆき)、享年三十五歳。暴走車から母子をかばって轢かれ、あえなく死亡。 救った母親は数年後に人類にとってとても役立つ発明をし、その子がさらにそれを発展させる、人類にとって宝になる人物たちだった。彼らを助けた功績で生き返らせるか異世界に転生させてくれるという女神。 一旦このまま成仏したいと願うものの女神から誘いを受け、その女神が管理する異世界へ転生することに。 そして女神からその世界で生き残るための魔法をもらい、その世界に降り立つ。 だが。 「ようじらなんて、きいてにゃいでしゅよーーー!」 森の中に虚しく響く優希の声に、誰も答える者はいない。 ステラと名前を変え、女神から遣わされた魔物であるティーガー(虎)に気に入られて護られ、冒険者に気に入られ、辿り着いた村の人々に見守られながらもいろいろとやらかす話である。 ★主人公は口が悪いです。 ★不定期更新です。 ★ツギクル、カクヨムでも投稿を始めました。

初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話

ラララキヲ
恋愛
 長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。  初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。  しかし寝室に居た妻は……  希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──  一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……── <【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました> ◇テンプレ浮気クソ男女。 ◇軽い触れ合い表現があるのでR15に ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾は察して下さい… ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)

三年目の離縁、「白い結婚」を申し立てます! 幼な妻のたった一度の反撃

紫月 由良
恋愛
【書籍化】5月30日発行されました。イラストは天城望先生です。 【本編】十三歳で政略のために婚姻を結んだエミリアは、夫に顧みられない日々を過ごす。夫の好みは肉感的で色香漂う大人の女性。子供のエミリアはお呼びではなかった。ある日、参加した夜会で、夫が愛人に対して、妻を襲わせた上でそれを浮気とし家から追い出すと、楽しそうに言ってるのを聞いてしまう。エミリアは孤児院への慰問や教会への寄付で培った人脈を味方に、婚姻無効を申し立て、夫の非を詳らかにする。従順(見かけだけ)妻の、夫への最初で最後の反撃に出る。

異世界で捨て子を育てたら王女だった話

せいめ
ファンタジー
 数年前に没落してしまった元貴族令嬢のエリーゼは、市井で逞しく生きていた。  元貴族令嬢なのに、どうして市井で逞しく生きれるのか…?それは、私には前世の記憶があるからだ。  毒親に殴られたショックで、日本人の庶民の記憶を思い出した私は、毒親を捨てて一人で生きていくことに決めたのだ。  そんな私は15歳の時、仕事終わりに赤ちゃんを見つける。 「えぇー!この赤ちゃんかわいい。天使だわ!」  こんな場所に置いておけないから、とりあえず町の孤児院に連れて行くが… 「拾ったって言っておきながら、本当はアンタが産んで育てられないからって連れてきたんだろう?  若いから育てられないなんて言うな!責任を持ちな!」  孤児院の職員からは引き取りを拒否される私…  はあ?ムカつくー!  だったら私が育ててやるわ!  しかし私は知らなかった。この赤ちゃんが、この後の私の人生に波乱を呼ぶことに…。  誤字脱字、いつも申し訳ありません。  ご都合主義です。    第15回ファンタジー小説大賞で成り上がり令嬢賞を頂きました。  ありがとうございました。

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

子爵家の長男ですが魔法適性が皆無だったので孤児院に預けられました。変化魔法があれば魔法適性なんて無くても無問題!

八神
ファンタジー
主人公『リデック・ゼルハイト』は子爵家の長男として産まれたが、検査によって『魔法適性が一切無い』と判明したため父親である当主の判断で孤児院に預けられた。 『魔法適性』とは読んで字のごとく魔法を扱う適性である。 魔力を持つ人間には差はあれど基本的にみんな生まれつき様々な属性の魔法適性が備わっている。 しかし例外というのはどの世界にも存在し、魔力を持つ人間の中にもごく稀に魔法適性が全くない状態で産まれてくる人も… そんな主人公、リデックが5歳になったある日…ふと前世の記憶を思い出し、魔法適性に関係の無い変化魔法に目をつける。 しかしその魔法は『魔物に変身する』というもので人々からはあまり好意的に思われていない魔法だった。 …はたして主人公の運命やいかに…

公爵家長男はゴミスキルだったので廃嫡後冒険者になる(美味しいモノが狩れるなら文句はない)

音爽(ネソウ)
ファンタジー
記憶持ち転生者は元定食屋の息子。 魔法ありファンタジー異世界に転生した。彼は将軍を父に持つエリートの公爵家の嫡男に生まれかわる。 だが授かった職業スキルが「パンツもぐもぐ」という謎ゴミスキルだった。そんな彼に聖騎士の弟以外家族は冷たい。 見習い騎士にさえなれそうもない長男レオニードは廃嫡後は冒険者として生き抜く決意をする。 「ゴミスキルでも美味しい物を狩れれば満足だ」そんな彼は前世の料理で敵味方の胃袋を掴んで魅了しまくるグルメギャグ。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。