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ハンデル自由都市国編

第64話 移動中

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 あれこれ準備しているうちに夕方になり、せっかくだからと私が晩ご飯を作ることにした。といっても、たいしたものは作らない。ついでにすり下ろし器をいくつか作り、リッキーに渡した。
 もちろん、彼らもミショの実をすり下ろし、醤油と味噌を作っていたのには笑ってしまった。
 パンとは合わないが味噌汁が飲みたいというので、大根とじゃがいもの味噌汁を作る。あと、ボアの肉を使った肉じゃがと、消費する意味で魚介類を出して網焼きや刺身にしてみた。
 リッチと樹人は変化の魔法を使って人間になり、みんなで網焼きを手伝ってくれる。久しぶりの味噌汁と肉じゃがとあってか、彼らは目を潤ませながら食べていた。
 夜遅くまで話し合いをしていた彼ら。誰一人欠けることなくガート帝国に行くと話し、できれば一緒に連れていってほしいと懇願されたのだ。

「……いいわ。ただし、ガート帝国の国境までよ」
「それで構わない」

 これは決意が固そうだ。
 彼らの武装に関して心配だったのでそれについても話をしたら、それなりにいい装備を持っていたので、そこは安心した。
 マップに関してはどうやら彼らもオールカラーらしく、私の目の前でガート帝国の確認をしているしね。何もないところを指が上下に動いたりしてるんだよ? 傍から見たらシュールだ。
 それぞれが確認して、この場で一泊した。

 翌朝。レイコと名乗った狼獣人の女性が召喚獣を二頭出し、幌馬車に繋ぐ。炎の鬣を持った茶色の馬で、ファイヤーホースという召喚獣なんだとか。リコとは違うカッコよさだ。
 バトルホースほどのスピードは出ないけれど、それでも普通の馬に比べたら早い。
 御者台にリッキーとフウと名乗った狐獣人の男が二人で並び、馬車を走らせる。私は彼らと並走する形で、リコに跨っている。
 ピオとエバが先行して魔物や盗賊を警戒してくれているから、何かあれば戻ってくるだろう。
 ちなみに、作った馬車は有料である。負けに負けて金貨五十枚と言ったら目を剥いて驚いていたけれど、相場を教えたら渋々ながらも払ってくれた。毎度あり~♪
 いくら同じ転生者だからといっても、タダで作るわけないじゃない、彼らの人となりを知らないんだから。関わったとしても、それはリュミエールからお願いされていることがあるからで、そうじゃなければ料理なんて教えてないし作らないっつーの。
 ノンが微妙に警戒してるんだよ、彼らを。彼らというよりも、一人の少年を。悪人ではないけれど、警戒しないといけない何かがあるってことでしょ?
 まあ、国境までは三日だし、もし何かやらかしたなら置いていけばいい。マップがオールカラーになっているんだから、迷うこともないだろう。
 お昼に関しては自分たちで用意してもらう。連れて行ってくれと言ってきたのは彼らなんだから、本来は彼らが私たちの分を用意しないとダメなんだよね。
 まあ、あれこれ言われるのも面倒だから、自分たちの分は自分たちで、ということにした。下手に作ってもらって、毒を入れられても困るし。
 ……一人、従魔たちを舐めるように見ていた虎獣人の男の子がいたんだよね。話に聞く限りテイマーだそうなんだけれど、どう見てもその子にテイムされているような魔物が見当たらない。
 もし、他人が持っている従魔を狙っているんだとしたら、困ったことになるのは彼や一緒にいる人たちであって、私じゃない。従魔泥棒って犯罪なんだけど……知っているんだろうか、男の子もリッキーも。
 まあ、何かあったら返り討ちにするさ~。私と彼らとでは、明らかにレベル差があるしね。
 ヤミンとヤナはいい子なのになあ……。
 とりあえず様子を見ようと思い、馬車組は放置した。

<アリサ、この先にボアが二体いるわ>
<なら、倒しちゃって。そのままエバとピオの鞄の中に入れておいてくれる?>
<<わかった>>

 先行していたエバから念話が飛んでくる。ボアなら彼らのおやつになるだろうし。一瞬だけ光った雷に、顔を引きつらせているリッキーとフウ。そしてテイマーの子は目をギラつかせている。
 これは釘を刺しておかないとダメかもね。敵対するなら、この場に置いていくことも吝かじゃないが。

「ねえ、リッキー。貴方は従魔泥棒って犯罪を知っている?」
「ああ」
「それ、テイマーの子に教えた?」
「え……? もちろん教えてあるが……って、ゲッ!」

 私の言葉に不思議そうな顔をして首を傾げたけれど、さり気なくテイマーの子を指させば、その顔を見たんだろう……真っ青な顔をして叫んだ。

「売られた喧嘩なら買うし、国境を待たずにさっさと行ってもいいんだけど?」
「すまん! こら、ジル!」
「え? なに?」
「なに、じゃないだろう!」

 リッキーの怒りに対して、きょとんとしているテイマーの子。それに気づいたペニーと呼ばれたリッチの女性が、テイマーの子の頭を叩く。

「あんた、何回同じことを言わせるの? 他人がテイムしている従魔をギラギラとした目で見るんじゃないの!」
「え~? 別にいいじゃん。奪ってしまえば、俺のモンだろ?」
「へえ? 奪えると思ってんの? たかがレベル一桁のガキに。しかも従魔泥棒って犯罪なんだけど?」
「……っ」

 意識してすっごく低い声を出したうえで、ピンポイントに殺気を飛ばす。それだけでガタガタと震えるテイマーの子。

「そっちがそのつもりなら、ここでお別れね」
「はあ……そうだな。俺たちも犯罪に巻き込まれたくない。もうじき村がある。ジルはそこで降りろ」
「そんな!」
「そんなじゃないでしょ! あたしたち、何度同じこと言った? テイムは自分でしてこそって言ったでしょ!」
「自分でテイムできないテイマーなんて、役に立たないだろうが」
「ぅ……っ」

 リッキーとペニー、フウに叱られ、真っ青になりながら震えるだけのテイマーのガキ。
 リッキーたちの話を聞く限り何度も言われていたにもかかわらず、直さなかったのか。一桁でもテイムできる方法はあるんだけれど、あの子の歪んだ性格じゃあそれも無理だろうね。
 本来は対等でないとダメだからね~。だけど、どうやら彼は魔物を下に見ている感じがするし、これはいつまでたってもテイムは無理でしょ。
 中の人がいったいいくつか知らないが、もし大人だとしたら相当痛い人だぞ、その態度は。
 呆れて彼を見ていたら、ピオとエバが戻って来て私の両肩にとまる。怯えながらも、相変わらずギラついた目で二羽を見つめるテイマーの少年。

「あんたじゃ手に負えないわよ。おしおきしてあげて」
<<わかった>>
「え……? ぎゃーーー‼」
『ひえっ!』

 ピオとエバがテイマーに雷を落とす。もちろん、一番弱い雷で、だ。
 ピクピクと痙攣して髪をアフロにした少年は、目覚めたあと如何に自分が弱くて愚かだったのか自覚したんだろう……私とピオとエバを見て、怯えた。

「あ、あ……」
「当然の結果よね、私に喧嘩を売ったんだから。自分よりも弱いテイマーに――レベルが一桁しかないあんたに、強い魔物が従うわけないでしょ」
「よくて一角兎、悪くてもスライムくらいだよな」
「そうよね。だからあたしも、レベルを上げて自分も磨けって言ったのに」
「その態度も直せって言われてたのにさあ」
「直さなかったもんね」

 同じ集落にいた人全員から冷たい目で見られる少年は、同年代であるヤミンとヤナにトドメを刺されて撃沈した。ヤミンもヤナもレベル80はあるしね。他の大人たちだって100は超えている。
 それなのに、少年だけがレベル一桁なのだ。
 どう考えたって、レベル上げをサボっていたとしか思えない。

「アリサ、すまん」
「いいわ。ただ、国境までは一緒に行けない」
「わかってる。ここまでありがとう。コイツの処遇は、俺たちで決める」
「そう……わかった。頑張ってガート帝国まで行ってね。一本道だから、迷わないだろうし」
「ああ。馬車もありがとう」
「どういたしまして。じゃあね」

 リッキーたちに手を振り、リコのスピードを上げて馬車から離れる。今後彼らが少年の処遇をどうするのか気になるところだけれど……まあ、同じ転生者とはいえ、私はこの世界に来てまだ二ヶ月半くらいだからね。
 ずっと一緒にいた彼らのほうが絆が強いだろうし、どうにでもするんだろう。少年がどうなろうと、知ったこっちゃないしね。


 私がガート帝国に定住したのちにリュミエールから聞かされた話によると、リッキーたちに追放を言い渡されたテイマーの少年は、頭を下げてレベル上げを手伝ってほしいこととテイムするまでは一緒にいてほしいと、一緒にいたみんなに頭を下げたという。
 それならばと全員一緒にダンジョンに潜ってレベルを上げたあと、なんとか外の森でフォレストウルフをテイムしたそうだ。
 テイムしたあとはリッキーたちと別れ、近くにあった村に住み着き、その村で過ごし始めたそうだ。
 そしてリッキーたちはといえばガート帝国に入ったあとは東に向かい、米を作っている村に定住し、その村の住人と結婚したりしながら、米を作って過ごしたという。


*******

今回転生者として出て来た人たちの名前は、リッキーとジルを除いてキリ番を踏んだ人たちやしょっちゅう感想を書いてくださる読者様の名前になっています。

樹人やみみん(やみみん)さん→ヤミン
yanaさん→ヤナ
八神 風さん→フウ
もらわれっこさん→レイコ
penpenさん→ペニー
狼怒さん→ロウ
黒うさぎさん→ウサギ

勝手ながら、キリ番と感想のお礼とさせていただきました~!

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