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ハンデル自由都市国編

第61話 迷宮都市ラビラント 8

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 準備を整え、立ち上がる。

「じゃあ、行こう。戦闘中は結界を張っておくから、安心してね」
「「はい!」」

 先に私が結界を張り、追加でノンとエバが張る。その状態で隠し扉を開き、全員で中に入る。それからヤナがいたあたりを探すと、同じようなギミックを見つけたので押す。
 すると、壁が横にずれていき、通れるようになった。全員で中に入ると、奥のほうにコアがあり、そこに髪がボサボサになっている、白衣を着た人がいた。
 後ろ姿の見た目は、マッドサイエンティストみたい。
 扉が開いたことに驚いたんだろう。すぐにこっちに振り向いた。ひび割れた眼鏡に、青白い顔。無精ひげが酷すぎる。
 顔は人間。だけど、首から下は人間ではなく、いろんな魔物が混じったものだった。そのことに安堵する。
 人を斬ることに、まだ忌避感があったから。だからこそ、盗賊たちを斬らずに生け捕りにしていたわけだし。
 それはともかく。

「だ、誰だ!」
「冒険者よ。貴方がダンマスかしら?」
「いかにも!」
「そう。じゃあ、さようなら」
「は? いたっ、痛い! ぎゃーーー!」

 槍を突き刺したあとで袈裟懸けに斬る。それを合図に、従魔たちも攻撃した。ヤミンとヤナは制約で攻撃できないようで、壁際にいて震えている。
 鑑定によると、ダンマスのレベルは500。私とリコだと格上だけれど、ピオとエバ、ノンからしたら格下だ。
 呆気なくダンマスを倒すと、光の粒子となって消える。ドロップは魔石のみで、それと同時にヤミンとヤナが光り、パリーンとガラスが割れるような音がした。

「や、やった!」
「制約が解けた!」
「よかった! 一回自分たちの武器を探す?」
「「はい!」」
「OK。じゃあ、先にコアを割るから、ちょっと待って」
「「OK……⁉」」

 ヤミンとヤナが驚いているけれど、今はコアを割ることが先だ。確か、コアは魔法では攻撃できなかったはず。だから槍で切りつける。
 さすがリュミエール謹製の槍だ、一撃でコアを破壊することができた。

「ふう……。これで、ダンマスが出ることも、これ以上深い階層になることもないわね。問題は、このダンジョンがなくなっちゃうことだけど……」
「あ、それは大丈夫です。ダンジョンはコアがなくなったとしても、そのまま残りますから」
「ああ。魔物は適度に湧くけど、スタンピードを起こすことはなくなるし」
「そうなんだ。ありがとう。じゃあ、二人の装備品を探しましょう」

 コアも破壊したからと、室内をあちこち探す。マップには隠し部屋もなく、一連の三部屋しか表示されていなかった。手分けしてあちこち探したけれど、お宝と呼べるようなものがないばかりか、二人の装備品すらなかった。

<たぶん、コアかダンジョンマスターの栄養になったのー>
「そう……。だからお宝のようなものもないのね」
「ああ、残念。買ったばかりの杖だったのに……」
「俺も」

 ガックリと肩を落とす、ヤミンとヤナ。いい杖を作るからと約束し、二人を促して外に出ようとしたらコアがあった台が崩れ、そこに魔法陣が現れた。それに触ってみると、今まで突破してきた階層が出る。

「帰還の魔法陣みたい。じゃあ、帰ろうか。悪いけど、二人はバトルホースに掴まっていてね」
「「はい」」

 リコに触ってもらい、帰還の魔法陣に触る。すぐに視界が白く染まり、一瞬の浮遊感のあと、光が消えた。たぶん一階に戻って来たんだろうけれど、念のため魔法陣に触れると、そこにはしっかり一階以外の数字があった。

「よし。二人はフードを目深にかぶってね。一回ギルドに行くけど、いい?」
「「はい」」

 小柄な二人だから、リコに乗せるのも楽だろう。とりあえず転移陣があるところから出るとすぐに出入口に向かう。
 そこからしばらく歩いてからリコが元のサイズに戻り、ヤミンとヤナを前に乗せるとその後ろに跨る。

「飛ばすから、しっかり捕まっていてね」
「ボク、バトルホースに乗るの、初めて!」
「俺も!」
「そうなんだ。町までは一時間かからないからね」

 わくわくした様子の二人にほっこりしつつ、落ちないようにロープで繋ぐ。最初はゆっくりとリコを走らせたあと、徐々にスピード上げる。
 二人が怖がるといけないと思ったけれどそんなことはなく、終始楽しそうにしていたのが印象的だった。
 そのまま町へと行き、門のところで水晶に触る。ギルドタグ自体は自分たちの首にかけていたから、無事だったという二人もしっかりとタグを見せたあと、水晶に触って中へ入ることができた。
 疲れているように見えたから二人をリコの乗せたままにし、私はリコを引いて冒険者ギルドへと向かう。

「すみません、ギルマスはいるかしら」
「……っ! は、はい。少々お待ちください」

 受付嬢にギルドタグの裏を見せる。すると、受付嬢は息を呑んだあと、すぐに席を立つ。そして五分もしないうちにこっちだと案内してくれた。
 もちろんヤミンとヤナ、小さくなったリコも一緒だ。

「失礼します。ギルマス、お連れしました」
「ありがとう。こちらにどうぞ」
「失礼します」

 一階の奥にある部屋へと案内され、中へと通される。そこにいたのは筋骨隆々なおっさんだった。顔も強面で、小さい子なら泣きそうだ。
 私と、ヤミンとヤナが席に着くと、すぐに扉が閉められ、結界が張られる。

「改めて。俺はラビラントのギルドマスター、パウルだ」
「アリサよ。魔物たちは従魔なの」
「ボクはヤミンです」
「ヤナです」

 それぞれ自己紹介をしたあと、ギルマスを呼んだ理由を話す。

「タグを見てもらえればわかると思うけど、ダンマスとコアを破壊したわ。この二人は、ダンマスに囚われていたの」
「草原と森のダンジョンか。あそこはダンマス部屋に辿り着ける者がいなかった。どうやって見つけたんだ?」
「ボスを周回したのよ。全部で六色のドラゴンだった。それを全部倒したら、下に下りる階段が出現したの」
「おいおい……まさか、周回したとはね。ランダムだというのはよく知られていたが、まさか全色倒さないとダメだとは思わなかった。それにしても……よくわかったな」
「私だって偶然よ。最初に出たのがアースドラゴンだったの。次は何が出るんだろうという、興味本位で周回した結果ね」

 そう話すと、パウルの顔が引きつった。ヤミンとヤナも驚いている……たぶん。
 その後もヤミンとヤナが囚われていたことと、彼らがダンマスの制約に縛られていたこと、ダンマスを倒したらその制約が解けてここに戻ってこれたことを告げた。もちろん、コアを破壊したことも話す。

「そうか……よくやった! あのダンジョンだけコアが見つからなくてなあ。まさか、全部の色のボスを連続で倒すと出るだなんて、思わねえよ」
「そうよね。で、これがダンマスの魔石。他にもいろいろと売りたいんだけど……」
「ああ、それは助かる。二十五階以降の素材は少なくてな。それを売ってくれると助かる」
「私も欲しい素材があるから、全部は無理よ?」
「それは仕方がないさ。とりあえず、依頼だけでも持ってこさせよう」

 すぐにパウルが声をかけると、案内してくれた女性が顔を出す。すぐにギルマスの指示に従って依頼表を持ってくると、その束をテーブルの上に並べるギルマス。

「この中に売れる素材はあるか?」
「そうね……皮と牙と鱗、それから――」

 ドラゴンの素材をはじめとしてランクの低い毛糸や羊毛、羽毛や肉、蜘蛛糸と宝箱から出た防具など、必要ないものは全て売り払うことにした。もちろん、ヤミンとヤナに作る予定の杖の材料は残して。

「す、凄い数だな、おい!」
「従魔たちが張り切っちゃったからね」
「そ、そうか」

 ボスドラゴンの魔石も売ってくれと言われたが、錬金術で使うからと拒否。その代わり、ダンマスの魔石を売ると言うと、喜んだ。
 この部屋に出すわけにはいかないからとパウル自ら倉庫に案内してくれて、その場で素材ごとにテーブルの上に載せていく。その数に顔を引きつらせるパウルと職員たち。
 まあねぇ……凄い数だものね。
 一番高かったのはやっぱりダンマスの魔石で、その次が宝箱から出た防具だった。なんだかんだと全部買ってくれたので、私としてもホクホクだ。
 合計金額は今までで一番高い、白金貨十五枚。もちろん、全額貯金だ。

「ありがとう、アリサ。助かった」
「こちらこそ。ヤミンとヤナは、素材を売らなくていいの?」
「特にないから、大丈夫です」
「あっても魔石くらいだし……」

 ヤミンとヤナが顔を見合わせたけれど、ギルマスが反応する。

「ここに出していいぞ」
「じ、じゃあ、遠慮なく」

 ヤミンもヤナもかなりの数の魔石をを持っていたようで、それらを全部テーブルの上に載せていた。渡された木札を見た彼らは、とても嬉しそうな雰囲気を出している。
 彼らもかなりの額になったみたい。うんうん、よかった。
 二人とも半分は貯金して、半分は現金で持つようだ。
 手続きをしている二人を待ち、私のところに寄ってきたところでギルドを出た。

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