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短編
若社長はたわわなおっぱいがお好き
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とてつもない快感がして目覚めたら、小学校からの腐れ縁でもある若社長が隣に寝ていた。しかも私の胸を鷲掴みして揉んでいた。
「あっ、社長……っ、ど、して……」
「目覚めたか……おはよう、花梨」
低く掠れた声が私の耳を擽ると、そのまま首筋に顔を埋めて舐め始めた。テンプレではあるけれど、どうしても叫びたい。
どうしてこうなった!
と。
そもそもの話、若社長とは腐れ縁ではある。但し、小学校から大学まである私立の一貫校に通っていて、その学校が一緒だったってことと私が一方的に知ってるというだけで、接点はほとんどなかった。
それを腐れ縁というかは疑問に残るけれど。
私も一応『お嬢様』と呼ばれる部類には入るからその学校に通っていたけれど、彼の家と比べたら月とすっぽん、雲泥の差。もちろん我が家がすっぽんで泥ですが何か。
しかも我が家は彼の家のグループ企業のひとつというか、子会社どころか孫会社だ。
まあ、お嬢様と言っても父は雇われ社長なので、もうじき引退するからお嬢様じゃなくなるのだ。
というか、彼が社長になった時点でお嬢様ではなくなった。なので、社交界なるパーティーなどには、招待状が来ない限り出ていない。
それはともかく、どうして彼は……筒元 千彰は私なんかの胸を揉んでいるのだろう……。彼の好みは私みたいな平凡でちまい一部分デブな女じゃなく、身長の高い美乳なスレンダー美人だったはずなんだけど……。
腐れ縁とはいえ、彼との接点は高校生の時に生徒会を一緒に運営したくらいだ。それだって、私は会計補佐として忙しい月末にちょっとお手伝いするくらいで、会長でもあった彼と話したのは、ほんの数回だ。
あとは、彼が卒業間近に階段で足を滑らせたのを助けたくらいだけど、それだって彼には怪我ひとつなかったし、私にもなかった。
まあ、恥ずかしい思いはしたよ? 彼が私の胸に「バフッ」って埋もれるように倒れて来たんだから。『柔らかい……』って言われたような気がするけど、きっと気のせいだと思い、その時は気にもしなかった。
そして彼は卒業してそのまま大学へ行き、私も一貫校だから二年後に同じ大学へと行ったけど、その頃の彼はアメリカの大学に留学していて、構内では全く会わなかった。
だからこそ、高校生の時以外は全く接点もなく、留学から帰って来た彼は自分の家の会社に自力で合格し、私も父が社長をしている会社に自力で就職した。
まあ、接点が全くないわけだからこれが普通だし、孫会社とはいえ滅多に親会社の社員が配属されてくることはないから、二度と会えない人だと思ってた。
ところが何がどうしてそうなったのか、私が就職した翌年に彼が我が社に配属になった。何かミスをして飛ばされたとかではなく、『グループ内の仕事を経験しろ』との、本社社長の方針で。
(いまどきそんなことってあるのね……)
貼られていた辞令を見て、そんなことを思ったものだ。
配属先は海外事業部の部長として来たので、フロアも階も全く違う総務にいる私には関係ない話だったし、会社勤めを始めて三年、全く会うことはなかった。彼も順調に出世していて、父の定年とともに彼が社長になった。
早い出世だな、さすが小学生の時から主席を取り続けて来ただけのことはあるなと思ったし、父は社長業を引退したものの、私は残っている。
まあ、私は社長の娘と知られてしなかったし、私や父もわざわざ言いふらすことなどしなかったので、気まずい思いをしなくて済んでいた。
私と同じ『後藤』という姓が他にもいたから、余計に助かったとも言える。
そんな日々を過ごし、五年たったとある雨降りの日。
いつもは自分の机に座ってお昼を食べていたのだけれど、この日は寝坊してお弁当を作っている時間がなく、コンビニにも寄っている時間すらもなかったから社食へ行った。雨降りで寒いからときつねうどんのセットと無料のお茶、デザートにプリンを選び、空いていた窓際の席に座って食べ始めた。
そこまではよかった。今まで一度も会わなかったし、これからも会うことはないだろうとすっかり彼の存在を忘れ、暢気に食事をしようとしていたのだ――その席で彼とバッタリ会うまでは。
「あ」
「あれ? もしかして……後藤さん……か? 後藤 花梨?」
「はっ、はい! ご無沙汰してます、筒元生徒会長」
そこまで言ってしまってから、まずい! と思った。今は生徒会長じゃなく、我が社の社長だ。
「も、申し訳ありません!」
「ははっ! 懐かしい呼び方だな。まさか一緒の会社にいるとは思わなかった。その……混んでいるし、相席してもいいだろうか」
「ど、どうぞ」
「ありがとう」
きょろきょろと周囲を見回していた彼だけど、ほぼ満席の状態で席を探すのも大変だろうからとその申し出に許可を出すと、すぐに席についた。偶然にも彼もきつねうどんのセットで、それだけでは足りないのか単品でも買える炊き込みご飯もあった。
さすが男性、よく食べる。話すこともないので無言で食べていたのだけれど、唐突に「相変わらず柔らかそうだ」という彼の呟きが耳に入ってしまい、固まった。
「…………はい?」
「いや……なんでもない」
一応聞き返したけれど、彼はそういってまた黙々と昼食を食べ始める。けれどその目はちらちらと私の胸を見ていた。
(人様から比べたら大きいけど、そんなにジロジロ見なくても……)
電車に乗っているとよく見られる視線で、少し辟易してくる。確かに私の胸は外国女性のように大きく、Jカップはあるから爆乳だとか豊乳だとかの類いになるのだろう。
通販などだとHカップ、またはメーカーによってはIカップもある。けれどそれ以上になると海外のショップやオーダーメイドになってしまうし、それにこのサイズのせいでショーツは普通でもブラを探すのが大変なのだ。
何度この胸を捥ぎ取りたいって思っただろうか! ちぎって捨てられるのならば、とっくに捨てているサイズだ!
小学生のころはそうでもなかったのに、中学生になってから急に大きくなった。高校生になるころは既にGカップはあって、そこからまた成長したのだからどうにもならない。
できればその栄養は胸ではなく身長に行ってほしかった……!!
そんな過去を思い出しながらも、どうせこれっきりだろうからと諦め、さっさと食事を終えると席を立った。
「まだ混んでいますし、先に帰ります」
「ああ。相席を了承してくれて助かったよ。ありがとう」
そんな会話をして、もう二度と食堂には来ないだろうとさっさとトレーや空いた食器などを返却口に返し、総務に戻ったのが九月の終わりだった。
次に彼と会ったのは十月のとある日で、会社から帰る時だった。その日も雨降りの日で、会社の出入口が滑りやすくなっていた。
気をつけて歩いていたのだけれど、ツルッとパンプスが滑り、後ろに倒れた。
悲鳴をあげる暇もなく、ぶつかる! と思って目を瞑った時、「おっと!」と後ろから支えてくれた人がいた。聞き覚えのあるその声に目を開けて顔を上に向けると、彼だった。
「す、すみません! 大丈夫ですか?!」
「それは僕の台詞だよ。大丈夫か?」
「はっ、はい、大丈夫、です」
そう返事をしたら、彼はホッとしたように息をはいた。それはいいのだけれど、彼は私を支えたまま一向に動いてくれない。
どうしたのだろう、やっぱりどこかぶつけたんじゃないかと思った矢先、またしても「柔らかい……」という呟きが聞こえた。
「え……?」
「……大きな胸はとても柔らかいんだな……」
「………………はい?!」
「あ……。こ、これは失礼!」
彼の手は私のたわわな胸を掴み、やわやわと揉んでいたのだ。私の声に慌ててその手を離してくれたものの、耳を微妙に赤く染めながら、なぜかその手をじっと見つめていた。
そして今日。
頭痛が酷くて眠れず、頭痛薬を飲んでも効かず、そんな状態で仕事に行った。すごく忙しい部署というわけではないけれど、月末はそれなりに忙しいのだ。
それに明日から三連休だから、仕事は忙しい。
微妙にまだ痛かったけれど酷い頭痛はなんとか治まったし、どうしてもつらいなら早退させてもらうか途中で抜け出させてもらい、会社の隣にある病院に行こうと考えていた。
一応会社まで行ったし、午前中も仕事を頑張ったし、目処がついた三時過ぎまで頑張った。ただ、あまりにも私の顔色が悪かったんだろう……部長が「もう大丈夫だから、病院に行ってそのまま帰りなさい」と言ってくれたのだ。
謝罪しつつも言葉に甘え、病院に行った。休み前だから混んでいたけれど、頭痛を耐えながら診察を待っていた。
診察してくれた先生によると、熱が多少あることと肩凝りも酷いことから、それらを併せたものと疲れからくるものだろうということだった。確かにここのところ私のせいではないけれど仕事のトラブル続きで残業していたし、疲れ過ぎてよく眠れないでいた。
すっごく痛い筋肉注射を両肩にしてもらってから処方箋をもらい、薬局で薬をもらって帰ろうとしたら、またしても彼にバッタリ会ったのだ。
バッタリ会ったのは会社と病院の間にあるバス停で、最寄り駅まではバスで三十分かかる。時間を見るとちょうど行ったばかりだったのか、誰もいなかった。
スマホを弄りながらそのバスを待っている時に会ったのだ。
「まだ就業時間だが、どうした? 顔色が悪いが……」
「頭痛が酷くて病院に行っていました。上司が『病院に行ったあと帰っていい』と仰ってくださったので、お言葉に甘えたんです。これから帰るつもりです」
「そうだったのか。俺もこれから帰るところなんだ。よかったら最寄り駅まで送っていこうか?」
「いえ、さすがにそれは……」
「途中で倒れたらどうする、遠慮するな」
車を取ってくるから乗っていけと言ってくれた彼に、「バスで帰りますから」と断りを入れたものの、腕を掴まれて車まで連れて行かれ乗せられてしまった。
「駅までちょっとかかるし、つらかったら寝ててもいいぞ?」
「でも……」
「着いたら起こしてやるから、花梨」
「……は?!」
いきなり名前で呼ばれて素っ頓狂な声をあげるものの、彼は「いいから寝てろ」と車の暖気をしたまま寝かしつけてくる始末。名前で呼ばれたことで多少混乱したものの、シートを倒して目を瞑っていたらあっという間に寝てしまった。
そしてふと目が覚めたら知らない天井で、彼が私の寝汗を拭いてくれているところだった。
「あ……」
「起きた? すまない、苦しそうに魘されていたから、上半身裸にしてしまった」
「いっ、いえ、ありがとうございます」
「熱も出たようだし、そのまま寝ていろ」
「はい……ありがとうございます。あの、ここは……」
「僕の家。最寄り駅で起こしたけど、起きなかったから連れてきた」
「あっ! も、申し訳ありません! 駅まで送ってください、すぐに帰ります!」
上半身裸だということを忘れてそのまま起き上がろうとしたのだけど、彼に止められた。
「まだ熱があるし、薬も飲んでないだろう? それにまだ顔色も悪い。おかゆを作るから、シャワーを浴びて湯船に浸かって温まっておいで」
「え、でも、そこまでお世話になるわけにはっ」
「大丈夫だから。ほら、こっちだ」
バスローブとバスタオルを渡され、中に押し込められた。胸を見られたことがとても恥ずかしかったけれど、どうせこれっきりだろうとお風呂を借りた。
のちに、いくら熱で頭が働かなかったとはいえ歩けたわけだし、無防備にもほどがある、さっさと帰ればよかったのだと思ったのも後の祭り。何も働かない頭でシャワーを借り、そのまま湯船に浸かって温まったのだから。
結局下着なども洗濯されてしまい、乾燥機能付きの洗濯機だからと押し切られ、バスローブ一枚の姿のまま過ごしていた。さすがにそれだけだと寒いし恥ずかしいので、その上からコートを着たら彼に苦笑された。
「どうぞ」
「ありがとうございます」
おかゆを出され、それを食べる。ふうふうと息を吹きかけて冷ましながら食べたおかゆは、出汁の味がする玉子粥だった。
「美味しいです」
「それはよかった」
彼も同じおかゆを食べていて、他にサラダなんかもあった。少しだけサラダをもらい、おかゆもおかわりしてから薬を飲む。
乾くのにまだ時間があるからと彼と話していたのだけれど、なんか怠いし眠いしでうとうとしていたらしく、「眠いなら寝ていればいい」と彼の声に誘われるようにそのまま寝てしまったのだ。
そしてとてつもない快感に襲われて目を覚ましたら、彼が私の胸を揉んでいた。
「我慢したんだが、我慢しきれなくて……ああ……夢にまで見た、花梨のたわわなおっぱいが目の前に……」
「ちょっ、社長、やっ」
「こっちこそやだ」
いつの間にかバスローブは脱がされて真っ裸だし、彼もなぜか裸だしで、私は絶賛混乱中だ。
「社長には、確かもっと身長の高い美乳なスレンダー美人の恋人がいました、よね?」
「ん? ああ、昔はいたな。花梨のこのたわわなおっぱいの存在を知ってから味気なくなってしまって、別れた」
「はあっ?! 何それ! やんっ」
ぎゅっと胸を掴まれて、揉みしだかれてしまって、余計に混乱する。私の胸のせいで別れたって何さ?!
そんなことを問いただしても、彼はそんなことはどうでもいいとばかりにひたすら私の胸を揉みまくる。しかも「好きだ」とも言われましたとも!
結局そのまま避妊せずにアレなことをされ、三連休も家には帰してもらえず、ひたすら私の胸を揉んだりアレなことをされまくり、最終的には結婚の約束までさせられた。
……なんでこんな男に引っかかったんだ……? 確かに私は密かに彼に憧れていたし、高校生の時は好きになってた。どのみち会うこともないからと諦め、お見合い話が転がり込んで来た矢先だった。
まあ、その相手は彼だったのだけれどこの時点での私には知る由もなく、この時のアレやコレやが原因で妊娠してしまい、すぐに結婚した。
だけど、やっぱり、テンプレだろうとも叫びたい。
どうしてこうなった!!
「あっ、社長……っ、ど、して……」
「目覚めたか……おはよう、花梨」
低く掠れた声が私の耳を擽ると、そのまま首筋に顔を埋めて舐め始めた。テンプレではあるけれど、どうしても叫びたい。
どうしてこうなった!
と。
そもそもの話、若社長とは腐れ縁ではある。但し、小学校から大学まである私立の一貫校に通っていて、その学校が一緒だったってことと私が一方的に知ってるというだけで、接点はほとんどなかった。
それを腐れ縁というかは疑問に残るけれど。
私も一応『お嬢様』と呼ばれる部類には入るからその学校に通っていたけれど、彼の家と比べたら月とすっぽん、雲泥の差。もちろん我が家がすっぽんで泥ですが何か。
しかも我が家は彼の家のグループ企業のひとつというか、子会社どころか孫会社だ。
まあ、お嬢様と言っても父は雇われ社長なので、もうじき引退するからお嬢様じゃなくなるのだ。
というか、彼が社長になった時点でお嬢様ではなくなった。なので、社交界なるパーティーなどには、招待状が来ない限り出ていない。
それはともかく、どうして彼は……筒元 千彰は私なんかの胸を揉んでいるのだろう……。彼の好みは私みたいな平凡でちまい一部分デブな女じゃなく、身長の高い美乳なスレンダー美人だったはずなんだけど……。
腐れ縁とはいえ、彼との接点は高校生の時に生徒会を一緒に運営したくらいだ。それだって、私は会計補佐として忙しい月末にちょっとお手伝いするくらいで、会長でもあった彼と話したのは、ほんの数回だ。
あとは、彼が卒業間近に階段で足を滑らせたのを助けたくらいだけど、それだって彼には怪我ひとつなかったし、私にもなかった。
まあ、恥ずかしい思いはしたよ? 彼が私の胸に「バフッ」って埋もれるように倒れて来たんだから。『柔らかい……』って言われたような気がするけど、きっと気のせいだと思い、その時は気にもしなかった。
そして彼は卒業してそのまま大学へ行き、私も一貫校だから二年後に同じ大学へと行ったけど、その頃の彼はアメリカの大学に留学していて、構内では全く会わなかった。
だからこそ、高校生の時以外は全く接点もなく、留学から帰って来た彼は自分の家の会社に自力で合格し、私も父が社長をしている会社に自力で就職した。
まあ、接点が全くないわけだからこれが普通だし、孫会社とはいえ滅多に親会社の社員が配属されてくることはないから、二度と会えない人だと思ってた。
ところが何がどうしてそうなったのか、私が就職した翌年に彼が我が社に配属になった。何かミスをして飛ばされたとかではなく、『グループ内の仕事を経験しろ』との、本社社長の方針で。
(いまどきそんなことってあるのね……)
貼られていた辞令を見て、そんなことを思ったものだ。
配属先は海外事業部の部長として来たので、フロアも階も全く違う総務にいる私には関係ない話だったし、会社勤めを始めて三年、全く会うことはなかった。彼も順調に出世していて、父の定年とともに彼が社長になった。
早い出世だな、さすが小学生の時から主席を取り続けて来ただけのことはあるなと思ったし、父は社長業を引退したものの、私は残っている。
まあ、私は社長の娘と知られてしなかったし、私や父もわざわざ言いふらすことなどしなかったので、気まずい思いをしなくて済んでいた。
私と同じ『後藤』という姓が他にもいたから、余計に助かったとも言える。
そんな日々を過ごし、五年たったとある雨降りの日。
いつもは自分の机に座ってお昼を食べていたのだけれど、この日は寝坊してお弁当を作っている時間がなく、コンビニにも寄っている時間すらもなかったから社食へ行った。雨降りで寒いからときつねうどんのセットと無料のお茶、デザートにプリンを選び、空いていた窓際の席に座って食べ始めた。
そこまではよかった。今まで一度も会わなかったし、これからも会うことはないだろうとすっかり彼の存在を忘れ、暢気に食事をしようとしていたのだ――その席で彼とバッタリ会うまでは。
「あ」
「あれ? もしかして……後藤さん……か? 後藤 花梨?」
「はっ、はい! ご無沙汰してます、筒元生徒会長」
そこまで言ってしまってから、まずい! と思った。今は生徒会長じゃなく、我が社の社長だ。
「も、申し訳ありません!」
「ははっ! 懐かしい呼び方だな。まさか一緒の会社にいるとは思わなかった。その……混んでいるし、相席してもいいだろうか」
「ど、どうぞ」
「ありがとう」
きょろきょろと周囲を見回していた彼だけど、ほぼ満席の状態で席を探すのも大変だろうからとその申し出に許可を出すと、すぐに席についた。偶然にも彼もきつねうどんのセットで、それだけでは足りないのか単品でも買える炊き込みご飯もあった。
さすが男性、よく食べる。話すこともないので無言で食べていたのだけれど、唐突に「相変わらず柔らかそうだ」という彼の呟きが耳に入ってしまい、固まった。
「…………はい?」
「いや……なんでもない」
一応聞き返したけれど、彼はそういってまた黙々と昼食を食べ始める。けれどその目はちらちらと私の胸を見ていた。
(人様から比べたら大きいけど、そんなにジロジロ見なくても……)
電車に乗っているとよく見られる視線で、少し辟易してくる。確かに私の胸は外国女性のように大きく、Jカップはあるから爆乳だとか豊乳だとかの類いになるのだろう。
通販などだとHカップ、またはメーカーによってはIカップもある。けれどそれ以上になると海外のショップやオーダーメイドになってしまうし、それにこのサイズのせいでショーツは普通でもブラを探すのが大変なのだ。
何度この胸を捥ぎ取りたいって思っただろうか! ちぎって捨てられるのならば、とっくに捨てているサイズだ!
小学生のころはそうでもなかったのに、中学生になってから急に大きくなった。高校生になるころは既にGカップはあって、そこからまた成長したのだからどうにもならない。
できればその栄養は胸ではなく身長に行ってほしかった……!!
そんな過去を思い出しながらも、どうせこれっきりだろうからと諦め、さっさと食事を終えると席を立った。
「まだ混んでいますし、先に帰ります」
「ああ。相席を了承してくれて助かったよ。ありがとう」
そんな会話をして、もう二度と食堂には来ないだろうとさっさとトレーや空いた食器などを返却口に返し、総務に戻ったのが九月の終わりだった。
次に彼と会ったのは十月のとある日で、会社から帰る時だった。その日も雨降りの日で、会社の出入口が滑りやすくなっていた。
気をつけて歩いていたのだけれど、ツルッとパンプスが滑り、後ろに倒れた。
悲鳴をあげる暇もなく、ぶつかる! と思って目を瞑った時、「おっと!」と後ろから支えてくれた人がいた。聞き覚えのあるその声に目を開けて顔を上に向けると、彼だった。
「す、すみません! 大丈夫ですか?!」
「それは僕の台詞だよ。大丈夫か?」
「はっ、はい、大丈夫、です」
そう返事をしたら、彼はホッとしたように息をはいた。それはいいのだけれど、彼は私を支えたまま一向に動いてくれない。
どうしたのだろう、やっぱりどこかぶつけたんじゃないかと思った矢先、またしても「柔らかい……」という呟きが聞こえた。
「え……?」
「……大きな胸はとても柔らかいんだな……」
「………………はい?!」
「あ……。こ、これは失礼!」
彼の手は私のたわわな胸を掴み、やわやわと揉んでいたのだ。私の声に慌ててその手を離してくれたものの、耳を微妙に赤く染めながら、なぜかその手をじっと見つめていた。
そして今日。
頭痛が酷くて眠れず、頭痛薬を飲んでも効かず、そんな状態で仕事に行った。すごく忙しい部署というわけではないけれど、月末はそれなりに忙しいのだ。
それに明日から三連休だから、仕事は忙しい。
微妙にまだ痛かったけれど酷い頭痛はなんとか治まったし、どうしてもつらいなら早退させてもらうか途中で抜け出させてもらい、会社の隣にある病院に行こうと考えていた。
一応会社まで行ったし、午前中も仕事を頑張ったし、目処がついた三時過ぎまで頑張った。ただ、あまりにも私の顔色が悪かったんだろう……部長が「もう大丈夫だから、病院に行ってそのまま帰りなさい」と言ってくれたのだ。
謝罪しつつも言葉に甘え、病院に行った。休み前だから混んでいたけれど、頭痛を耐えながら診察を待っていた。
診察してくれた先生によると、熱が多少あることと肩凝りも酷いことから、それらを併せたものと疲れからくるものだろうということだった。確かにここのところ私のせいではないけれど仕事のトラブル続きで残業していたし、疲れ過ぎてよく眠れないでいた。
すっごく痛い筋肉注射を両肩にしてもらってから処方箋をもらい、薬局で薬をもらって帰ろうとしたら、またしても彼にバッタリ会ったのだ。
バッタリ会ったのは会社と病院の間にあるバス停で、最寄り駅まではバスで三十分かかる。時間を見るとちょうど行ったばかりだったのか、誰もいなかった。
スマホを弄りながらそのバスを待っている時に会ったのだ。
「まだ就業時間だが、どうした? 顔色が悪いが……」
「頭痛が酷くて病院に行っていました。上司が『病院に行ったあと帰っていい』と仰ってくださったので、お言葉に甘えたんです。これから帰るつもりです」
「そうだったのか。俺もこれから帰るところなんだ。よかったら最寄り駅まで送っていこうか?」
「いえ、さすがにそれは……」
「途中で倒れたらどうする、遠慮するな」
車を取ってくるから乗っていけと言ってくれた彼に、「バスで帰りますから」と断りを入れたものの、腕を掴まれて車まで連れて行かれ乗せられてしまった。
「駅までちょっとかかるし、つらかったら寝ててもいいぞ?」
「でも……」
「着いたら起こしてやるから、花梨」
「……は?!」
いきなり名前で呼ばれて素っ頓狂な声をあげるものの、彼は「いいから寝てろ」と車の暖気をしたまま寝かしつけてくる始末。名前で呼ばれたことで多少混乱したものの、シートを倒して目を瞑っていたらあっという間に寝てしまった。
そしてふと目が覚めたら知らない天井で、彼が私の寝汗を拭いてくれているところだった。
「あ……」
「起きた? すまない、苦しそうに魘されていたから、上半身裸にしてしまった」
「いっ、いえ、ありがとうございます」
「熱も出たようだし、そのまま寝ていろ」
「はい……ありがとうございます。あの、ここは……」
「僕の家。最寄り駅で起こしたけど、起きなかったから連れてきた」
「あっ! も、申し訳ありません! 駅まで送ってください、すぐに帰ります!」
上半身裸だということを忘れてそのまま起き上がろうとしたのだけど、彼に止められた。
「まだ熱があるし、薬も飲んでないだろう? それにまだ顔色も悪い。おかゆを作るから、シャワーを浴びて湯船に浸かって温まっておいで」
「え、でも、そこまでお世話になるわけにはっ」
「大丈夫だから。ほら、こっちだ」
バスローブとバスタオルを渡され、中に押し込められた。胸を見られたことがとても恥ずかしかったけれど、どうせこれっきりだろうとお風呂を借りた。
のちに、いくら熱で頭が働かなかったとはいえ歩けたわけだし、無防備にもほどがある、さっさと帰ればよかったのだと思ったのも後の祭り。何も働かない頭でシャワーを借り、そのまま湯船に浸かって温まったのだから。
結局下着なども洗濯されてしまい、乾燥機能付きの洗濯機だからと押し切られ、バスローブ一枚の姿のまま過ごしていた。さすがにそれだけだと寒いし恥ずかしいので、その上からコートを着たら彼に苦笑された。
「どうぞ」
「ありがとうございます」
おかゆを出され、それを食べる。ふうふうと息を吹きかけて冷ましながら食べたおかゆは、出汁の味がする玉子粥だった。
「美味しいです」
「それはよかった」
彼も同じおかゆを食べていて、他にサラダなんかもあった。少しだけサラダをもらい、おかゆもおかわりしてから薬を飲む。
乾くのにまだ時間があるからと彼と話していたのだけれど、なんか怠いし眠いしでうとうとしていたらしく、「眠いなら寝ていればいい」と彼の声に誘われるようにそのまま寝てしまったのだ。
そしてとてつもない快感に襲われて目を覚ましたら、彼が私の胸を揉んでいた。
「我慢したんだが、我慢しきれなくて……ああ……夢にまで見た、花梨のたわわなおっぱいが目の前に……」
「ちょっ、社長、やっ」
「こっちこそやだ」
いつの間にかバスローブは脱がされて真っ裸だし、彼もなぜか裸だしで、私は絶賛混乱中だ。
「社長には、確かもっと身長の高い美乳なスレンダー美人の恋人がいました、よね?」
「ん? ああ、昔はいたな。花梨のこのたわわなおっぱいの存在を知ってから味気なくなってしまって、別れた」
「はあっ?! 何それ! やんっ」
ぎゅっと胸を掴まれて、揉みしだかれてしまって、余計に混乱する。私の胸のせいで別れたって何さ?!
そんなことを問いただしても、彼はそんなことはどうでもいいとばかりにひたすら私の胸を揉みまくる。しかも「好きだ」とも言われましたとも!
結局そのまま避妊せずにアレなことをされ、三連休も家には帰してもらえず、ひたすら私の胸を揉んだりアレなことをされまくり、最終的には結婚の約束までさせられた。
……なんでこんな男に引っかかったんだ……? 確かに私は密かに彼に憧れていたし、高校生の時は好きになってた。どのみち会うこともないからと諦め、お見合い話が転がり込んで来た矢先だった。
まあ、その相手は彼だったのだけれどこの時点での私には知る由もなく、この時のアレやコレやが原因で妊娠してしまい、すぐに結婚した。
だけど、やっぱり、テンプレだろうとも叫びたい。
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あかつき理章様
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わ~、そんなのがあったんですね。ざまあされたのかな?
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