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★よくわからない気持ち
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ドサリと音をたててベッドへ身体を投げ出すと、息を吐く。今日はいろいろなことがあって疲れた。
朝は兄の璃人が我儘を言い出してついて来るし、駅でもその我儘を通そうとして護衛の人――篠原さんに怒られていたし。当然、父や兄と一緒に夕御飯を食べてる場で、父に暴露した。
心配してくれるのはすごく有難いとは思う。けれど、今までとは違って本職の護衛が就いている以上、兄の存在のせいでバレたらいろいろとマズイんじゃないのかなっていうのは私でもわかるのに、兄は何も考えてないように見える。いや、多分考えてるんだろうけど、感情が追い付かないだけかな。普段はちゃんと割りきれる人だし。
そんな兄は父に食卓で雷を落とされていた。もちろん、「逆の立場で考えろ! 護衛艦や巡視艇内で勝手な動きをされたら、勝手に機器に触れられたらどうなる!」という話をしてたっけ。
「璃人、お前に対して国際刑事警察機構から私宛てに警告が来た。今度任務の邪魔をしたら、海上保安庁に通達したうえでお前を告発、逮捕するそうだ」
挙げ句に父に言われて初めて、今回の犯人は相当ヤバいと認識したみたいだった。今さらなんだけど兄さん、そんな薄い危機管理意識で大丈夫なの? とは思ったけど、今までと同じように親や近所の人たちで何とかなるという意識でいたのなら仕方がない認識だと諦めた。
まさか、本当に国際的な犯罪組織だとは思ってなかっただろうし、多分、日本の警察ではなく国際刑事警察機構からというのも大きい気がする。そして、すぐに篠原さんが言った通りに警告して来たことも。ただ、兄がまたやらかしそうな気がするのは気のせい?
職場に行くまでに篠原さんが考えた設定を聞かされて唖然とした。過去には異性の友人も同性の友人もいたし今もいるけれど、私の耳のことや何度も誘拐されかかったこともあって、なかなか一歩が踏み出せないこともしばしばあった。そして、そのことがあったから恋人となるとさらに踏み込めず、憧れはしても恋に発展することはなかった。
それなのに、篠原さん……籐志朗さんは「そんなの関係ない」と謂わんばかりに決め、スルリと私の壁の内側へと入り込んで来たのだ。いつもなら感じる不快感はなかった。強面な顔は日焼けしてるのか真っ黒で、先日会った陸自のレンジャー部隊並みにガッチリとした大きな身長と身体なのに、あまり怖いと思わないことも不思議だった――独特の雰囲気を醸し出しているのに。
職場についてホッとし、ふと後ろを振り返って見れば、知り合いなのか防衛副大臣とその第一秘書と話していた。その顔は少年みたいだったしすごく楽しそうな顔をしていて、そのことに鼓動が大きく跳ねた。それを不思議に思いながらいつものように仕事をこなし、帰り際に一緒になった友人二人と話しながら出入口に行けば、籐志朗さんは辺りを警戒しながら佇んでいた。
厳しい目をしていたはずが、私を見つけてその視線を和らげていたっけ。明日、友人たちに本当のことを言わずに説明するのが大変なんだけど、そういう意味では『恋人関係』という設定は有り難かった。嬉しくはないけど。
母のお見舞いに行くと言えば、当たり前のようにお見舞いの花やお菓子を買うし、母を気遣いつつも、警戒されることなく話をしてるし。エスコートもスマートで、欧米人並みに女性慣れしているように感じた。そう言えば、父が籐志朗さんはフランス帰りとか言ってたような気がする。
そこまで考えて、ふと、病院でキスされたことを思い出し、指先で唇に触れる。ひんやりとした少しかさついた唇を押しあてられて黙らせるだけの……触れ合うだけのキス。
確かにあれは、その……私が悪い。籐志朗さんに詳しいその位置を知らせたかっただけだったんだけど、籐志朗さんに叱られて、初めてその危険性に気づいた。
今まで、写真に撮られたことはなかった。もしかしたら私が気づかなかっただけかも知れないけど、だからこそ、今までとは違うんだ、今まで以上に危険なんだと思うことができた。
「うーん……なんだろう、この変な感じ」
よくわかんないなあ、と思いながらお風呂に入ると、ベッドに潜り込んで目を瞑る。部屋の中は、時計の秒針の音すら聞こえないほどシーンとしていて無音だ。
我が家は私の耳が良すぎるせいもあって、家全体が防音されている。特に私の部屋は、他の部屋以上に防音されていた。窓に至っては二重窓になっていて、普通なら聞こえそうな外の音も、二重窓のおかげで気にならないレベルの音まで下げられている。時計ですらデジタル時計だ。
無音の世界が、私の世界。あんまり騒々しいのは非常に疲れるのだ。だからこそ、職場では私一人でできる、資料整理が中心の職場。他にも別のことを頼まれたりもするけど、それを知ってるのは上司を含めた極一部だ。
(そう言えば、扇子を拾ってもらったお礼を言えてない気が……)
しかも、「迷惑をかけるから」とブレスレットやアクセサリーまでもらっちゃったし。
「うーん……」
考えても仕方がないか、と一人ごちて眠りについた。
朝は兄の璃人が我儘を言い出してついて来るし、駅でもその我儘を通そうとして護衛の人――篠原さんに怒られていたし。当然、父や兄と一緒に夕御飯を食べてる場で、父に暴露した。
心配してくれるのはすごく有難いとは思う。けれど、今までとは違って本職の護衛が就いている以上、兄の存在のせいでバレたらいろいろとマズイんじゃないのかなっていうのは私でもわかるのに、兄は何も考えてないように見える。いや、多分考えてるんだろうけど、感情が追い付かないだけかな。普段はちゃんと割りきれる人だし。
そんな兄は父に食卓で雷を落とされていた。もちろん、「逆の立場で考えろ! 護衛艦や巡視艇内で勝手な動きをされたら、勝手に機器に触れられたらどうなる!」という話をしてたっけ。
「璃人、お前に対して国際刑事警察機構から私宛てに警告が来た。今度任務の邪魔をしたら、海上保安庁に通達したうえでお前を告発、逮捕するそうだ」
挙げ句に父に言われて初めて、今回の犯人は相当ヤバいと認識したみたいだった。今さらなんだけど兄さん、そんな薄い危機管理意識で大丈夫なの? とは思ったけど、今までと同じように親や近所の人たちで何とかなるという意識でいたのなら仕方がない認識だと諦めた。
まさか、本当に国際的な犯罪組織だとは思ってなかっただろうし、多分、日本の警察ではなく国際刑事警察機構からというのも大きい気がする。そして、すぐに篠原さんが言った通りに警告して来たことも。ただ、兄がまたやらかしそうな気がするのは気のせい?
職場に行くまでに篠原さんが考えた設定を聞かされて唖然とした。過去には異性の友人も同性の友人もいたし今もいるけれど、私の耳のことや何度も誘拐されかかったこともあって、なかなか一歩が踏み出せないこともしばしばあった。そして、そのことがあったから恋人となるとさらに踏み込めず、憧れはしても恋に発展することはなかった。
それなのに、篠原さん……籐志朗さんは「そんなの関係ない」と謂わんばかりに決め、スルリと私の壁の内側へと入り込んで来たのだ。いつもなら感じる不快感はなかった。強面な顔は日焼けしてるのか真っ黒で、先日会った陸自のレンジャー部隊並みにガッチリとした大きな身長と身体なのに、あまり怖いと思わないことも不思議だった――独特の雰囲気を醸し出しているのに。
職場についてホッとし、ふと後ろを振り返って見れば、知り合いなのか防衛副大臣とその第一秘書と話していた。その顔は少年みたいだったしすごく楽しそうな顔をしていて、そのことに鼓動が大きく跳ねた。それを不思議に思いながらいつものように仕事をこなし、帰り際に一緒になった友人二人と話しながら出入口に行けば、籐志朗さんは辺りを警戒しながら佇んでいた。
厳しい目をしていたはずが、私を見つけてその視線を和らげていたっけ。明日、友人たちに本当のことを言わずに説明するのが大変なんだけど、そういう意味では『恋人関係』という設定は有り難かった。嬉しくはないけど。
母のお見舞いに行くと言えば、当たり前のようにお見舞いの花やお菓子を買うし、母を気遣いつつも、警戒されることなく話をしてるし。エスコートもスマートで、欧米人並みに女性慣れしているように感じた。そう言えば、父が籐志朗さんはフランス帰りとか言ってたような気がする。
そこまで考えて、ふと、病院でキスされたことを思い出し、指先で唇に触れる。ひんやりとした少しかさついた唇を押しあてられて黙らせるだけの……触れ合うだけのキス。
確かにあれは、その……私が悪い。籐志朗さんに詳しいその位置を知らせたかっただけだったんだけど、籐志朗さんに叱られて、初めてその危険性に気づいた。
今まで、写真に撮られたことはなかった。もしかしたら私が気づかなかっただけかも知れないけど、だからこそ、今までとは違うんだ、今まで以上に危険なんだと思うことができた。
「うーん……なんだろう、この変な感じ」
よくわかんないなあ、と思いながらお風呂に入ると、ベッドに潜り込んで目を瞑る。部屋の中は、時計の秒針の音すら聞こえないほどシーンとしていて無音だ。
我が家は私の耳が良すぎるせいもあって、家全体が防音されている。特に私の部屋は、他の部屋以上に防音されていた。窓に至っては二重窓になっていて、普通なら聞こえそうな外の音も、二重窓のおかげで気にならないレベルの音まで下げられている。時計ですらデジタル時計だ。
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(そう言えば、扇子を拾ってもらったお礼を言えてない気が……)
しかも、「迷惑をかけるから」とブレスレットやアクセサリーまでもらっちゃったし。
「うーん……」
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