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第五章『旅立ち』

愛しき束縛

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谷川 真司は、それはそれは上機嫌だった。自分の為に、こんなにも身体を張って、自らの愛を示してくれる雅之を、背後から激しく揺さぶって、数えるのも馬鹿らしいくらい強制的に絶頂の階段を登らせては、その花芯から溢れる精液や潮、時には尿に渡るまでをも、雅之をこよなく愛してやまない男の顔に振りかけながら、自分の子種を雅之のその身体の奥底に撃ち込めるのだから。


人を顎で使い、人を操る側に立ってきた人間が愛し続けてきた絶対に手出しが出来ない御方その人を、その男の目の前で激しく犯せる。雄として生まれた悦びに浸りながら、真司はまた深く、雅之の身体の奥深くに亀頭を潜り込ませて、自分の解き放った子種が溢れ返っているそこを、グチュッグチュッと攪拌した。


「雅之さんの中、俺のザーメンでぬるぬるになってる。それにしても、あれだけたっぷり撃ち込んだのに、一滴も零れてないなんて……俺は、本当に貴方に愛されてますね。ねぇ、そんなに、俺の子どもが欲しいですか?」


膝を抱え、雅之の身体を持ち上げたまま長時間掛けてセックスをしていたので、体力にだけは自信がある真司も、全身に滴るほどの汗をかいていた。それは雅之も同様で、全くの脱力をしてしまえば真司の負担になるし、自分の身体の自重が、真司の怒張に向けられてしまう。そうなれば今より更に深い快楽を与えられて、完全に正体を失ってしまうほどよがり狂ってしまう事は明らかだったので、全身にびっしょりと汗をかきながら、与えられる快楽と、男達の欲に濡れた目に耐えて、必死に自我を保っていた。しかし。


「答えて、雅之さん。さっきは言えたでしょう?ねぇ、言って。真司の赤ちゃん欲しいって」


ばぢゅッッ、ばぢゅんッ!!ぐぢゅうッ…ぱんっ、ぱんっ!!ばっぢゅッッ、ぱん、ぱんっ!!


「ひぁ、あ゛ッッ、やらぁっ、こわいッッこないで、もう中に出さないで…ッッお願い、もう許してぇ……ッッ」

「あは、奥、いまキュンッてした。本当は欲しい癖に、素直じゃないなぁ。そんな人には、きついお仕置きをしなくちゃね」


ごぢゅんッッ!!ごぢゅんッッ!!ぐぢゅう……ッッぐちゅっ、ぐちゅっ、…ごりゅっっ


「い、いぁ……ッッ?!おく、だめ、そこ……アァッ!!いく、いくぅ、やら、またイッ、……ッッ」


真司が怒張を深々と差し込み、最深部を押し潰すかの様に腰をグラインドすると、雅之の花芯から、ぴゅっぴゅっ、と薄く白濁した精液が飛び散った。それは目の前にいる男の顔に掛かり、男の頬を汚した。男は目を血走らせながら、その頬に飛び散った精液を、どうにか口元まで持っていこうと頭と身体を斜めにして試みている。しかし、それを見た真司は、チッと舌を打って不快を露わにした。


「おっさん、雅之さんの身体から出た物、勝手に舐めようとしないでよ。自分じゃ出してやれないからって、お零れに預かろうとか、あんたプライドないの?偉い人なんでしょ?しっかりしてよ。これからもあんたとは仕事で会うのかもしれないんだしさ……もういいや、あんたがそんな態度取るなら、これ以上良い思いなんてさせてやんない」


そう言いながら、真司は雅之を抱き抱えたまま、再びベッドにすたすたと戻っていった。男は我に返ると、必死になって真司の背中に声を掛けた。真司は、その声に含まれる哀願に気を良くして、にたり、と冷酷な笑みを浮かべながら男を振り返った。


「どうしようかなぁ。あんたがこれから先、俺の言う事なんでも聞くって約束したら、考えてあげてもいいけど、どうする?」


男は、鼻息を荒くして、必死になって頷いた。その様子を見て真司は、心底から男を小馬鹿にする様な嘲笑を浮かべながら、怒張と秘孔が繋がったままの状態の雅之をベッドの上に下ろし、体勢が体勢だった為に、ずっとしたくても出来なかったキスを雅之に送った。夢中で口内を舐め啜り、自分の唾液を送り込む。その唾液を雅之がこくり、こくり、と素直に飲み下したのを確認してから、真司は唇を離した。あまりの激しい接吻に、お互いの唇に銀糸が伝う。それが、ふつり、と途切れたタイミングで、真司は雅之を、恍惚とした表情を浮かべながら、うっとりと見つめた。


「雅之さん、凄く良かった。おしっこしてる雅之さんの恥ずかしがってる姿を見ただけで、興奮しておかしくなりそうでした。本当に、ずっとずっと見たかったから……貴方がトイレを使うでしょ?実は俺、その度に扉の前まで行って、その音に聞き耳を立てていたんです。そして、いつもいつも、貴方がおしっこをしてる姿を想像して、何も触っていないのに、その場でイキそうになるくらいに興奮していました」 


雅之としては、どんな気持ちでその話を聞いたらいいのか分からなかった。けれどそれでも、少しだけ熱が冷めた身体と頭で、この場と、未来の自分の為に、最善の答えを導きだそうとしていた。


「そうだったんだね……でも、さっきまでの真司、凄く怖かった。あんなギラギラした目で、俺のおしっこしてる姿見て、しかも、あの男にまで見せて……俺、凄く嫌だったよ」 


真司は、頭をガツンと鈍器で殴られた様な衝撃を受けた。雅之から批判を受けるとは、思ってもみなかったからだ。雅之であれば、『恥ずかしいけど、真司になら、俺の全部を見て欲しいな』と言ってくれるだろうと思い込んでいた。そして、それを言質として受け止めて、雅之がトイレに行くたびに個室の中まで着いて行き、ズボンのチャックを下ろして花芯を外に出し、花芯を指で支えて尿を出させて、亀頭の先に溜まった尿をそのままに、その場で口淫して綺麗にしてあげてから、トイレを済ませるまでの未来の想像図を、すっかりと頭の中で思い描いていたのだ。


因みに口淫する際は、漏れなく雅之を射精させ飲精するまでが、真司の頭の中でオプションとして含まれている。人間の一日の排尿回数は平均で四~六回なので、それだけの回数、セックス以外でも、真司は雅之の花芯の先から排出される甘露にあり付ける予定だったのだ。尊い身から生成される、ぴかぴかで新鮮な甘露に舌鼓を打て、御身のその体調の把握すら行える一石二鳥の提案だと思っていた。しかし、それは雅之による真正面からの『してくれるな』と言う発言によって幻の想像となってしまった。しかし、諦めがつかない真司は、どうしても雅之のトイレについて行きたいと強請った。


「雅之さん、毎日じゃなくていいんです。そう、一ヶ月に一日だけでもいい。例えば一日中セックスするって決めたその日だけは、貴方のお世話を全部させて下さい。貴方は、ベッドの上にいるだけでいいんです。トイレに行きたいときは、俺が抱えて連れて行きます。それで、俺に……」

「やだ。恥ずかしいもん。それに、そんな日をちゃんと作るかどうかは、この四日間で決めるって話したでしょ?……俺いま、すっごく不機嫌だから、もうその可能性すら殆ど無いけどね」


この世の終わり、という顔をしている真司を見ているうちに、雅之は段々と自分の落ち着きを取り戻していった。真司や男の欲望に煽られて、昔のトラウマを思い出して震え上がった自分が、情け無くて悔しくて堪らない。あんな思いは二度とごめんだ、と思う反面、まだまだ自分は修行が足りないな、とも思った。真司と一ヶ月に一日、という話も、これでこの先の四日間という区切りからも外して保留に出来たし、全くの実りが無いでもない。だから、この辺りで手打ちにして、今後の展開を今度こそ自分の手中に収める為に、雅之は未だに自分の身体に怒張を挿入したままでいる真司に向けて、『どいて』と冷たく言い放った。しかし。


「やだ、いやです。俺、雅之さんと一日中一緒にいられる日が欲しい。他の薔薇の八大原種達といると、貴方はいつもその人達と楽しそうにして、全然俺の相手をしてくれないじゃないですか。だから、せめて一日だけでも、貴方を独り占めしたい。みんなとは違うんだって、俺を自惚れさせて……誰よりも貴方に愛されてるのは俺なんだって、思わせて」  


真司は、雅之の身体をベッドに縫い付けると、再び怒張を身体の奥深くまで一気に挿し入れた。そして、『雅之さん、雅之さん、雅之さん……』と雅之の名前をひたすらに呼びながら、再び腰を激しく打ち付けていった。


雅之は、自分の言う事を全く聞かない真司を見て、焦りを覚えた。これほどまで谷川 真司という男が、コントロール不可な人間になっていたとは流石に思わなかったからだ。婚約に対する気持ちが止まる事を知らない時にも若干冷めた感情を抱いたが、今の衝撃とは比ではなかった。真司の、自分の欲求に素直な所は美徳だと考えているが、それは、雅之が許容する範囲までの話であり、当たり前だが、命令違反はその範囲に当て嵌まらない。雅之は、真司に怒りを覚えた。そして、自分をただ唯一のオンナとして扱い、自分の思った通りに動いて欲しいと強請り、その管理を一手に引き受けたいと願い、自分を激しく束縛しようとしてくる真司を。



どこまでも、愛おしく感じた。



自分を、こんな風に一人の人間扱いしてくれる人は、雅之が完璧に管理するこの世界に、真司ただ一人しかいない。真司には信仰心のカケラすら求めていなかったが、真司の中に雅之への信仰心にも似た強い尊敬の念が、次第に芽生え始めているのも実感している。にも関わらず、真司は雅之を、本当に大切な恋人として扱い、永遠の愛すら誓って、雅之ただ一人の幸せの為に生きようとしてくれている。直向きで純粋な姿を見せる真司は、覇道を行く雅之にとって、何よりも必要な存在だったのだ。


そんな存在を自分は騙し続けている。
自分の持つ権能の、全てを持ってして。


そこに、本当の『愛』はあるのだろうか?









…………………パンッッ








空間を切り裂く、破裂音。その音は、雅之に『その存在』がこの場に訪れた事実を告げた。その音を聞いた瞬間に、雅之の身体に篭り始めていた熱は、完全に消え失せた。真司もその音の持つ本来の冷たさを感じ取ったのか、はたり、と気を取り戻して、扉の向こうに視線を走らせた。何が起こっているのかは分からないけれど、真司が今まで目にしてきたマフィア物のB級映画では、男と女がセックスしている間に悪漢が乱入してきて、女の上で腰を振っていた男の頭を撃ち抜く、そして叫ぶ女……という流れは常態化していたので、思わずそんな想像を働かせてしまい、真司は、すぐさま雅之の秘孔に挿入していた自分の怒張を引き抜いて、雅之の上に覆い被さり、雅之を抱えてベッドの下に転げ落ち、雅之を腕の中に抱えたまま、近くにあったサイドテーブルを引き寄せて、扉に向けて盾にしたのだった。


驚いたのは雅之の方だった。主人を守る人間が取る反応としては、丸腰とは言え申し分がないと思えたからだ。もとより、恵まれた肉体に、恵まれた反射神経、頭だって学歴には釣り合わないと思えないくらいに吸収率が高く、薔薇の花園の講師陣達からの覚えも良かった。単純に、人間の資質的に見て、真司はかなり高スペックな男だったのだ。そんな真司の様子を腕の中から繁々と眺めながら、雅之は自分の頭の中で組み上がっていくシナリオの最後の一文が書き上がった感覚を覚えた。


雅之は、真司に、『本当の教会の姿』を見させる決意を改めて固めたのだ。


薔薇の八大原種。自分の正体を知る一部幹部達。
そして、この男、谷川 真司。


全ての人間達の気持ちを収める為には、やはり、この道しかないと思えたからだ。


真司の命を守る為には、真司に教会の真実を知って貰い、それでいて尚、周囲の人間に認められて、真司自身の手で自らの地位を確立していって貰わなくてはならない。それは、例え雅之であっても成す事は出来ないのだ。与えられる利益が大きいなら、それに見合った仕事をせねば、当然不満が噴出する。今のように、ロサ・キネンシスの後をついて周り、視察という名のお散歩ばかりして、薔薇の八大原種の真似事ばかりさせている様では、周りに示しが付かないのだ。それに何より、このままでは真司が、人間として駄目になってしまう。雅之が真司をこれから先もずっと変わらずに愛し続け、手元に置く為には、真司自身の努力と経験と功績とを積み重ねて、成長して貰わねばならないのだから。


御方の忠実なる守護者『ケルベロス』……その名前に恥じない男になって貰うために。


蓮や九條、他数名の数少ない『同士』と共に考えていたシナリオだったが、真司がこれだけの資質を兼ね備えた男であるならば、きっと問題なく話は進んで行くだろう。真司が薔薇の八大原種に向けている嫉妬の目にも、薔薇の八大原種の他のメンバーが真司に送る嫉妬の目にも、変化が生じるかもしれない。もっともそれは雅之による希望的観測に過ぎないのだが、雅之は、その可能性に掛けてみる事にした。


それだけ深い愛と信頼を、雅之は、谷川 真司という男に向けているのだから。


「………真司、大丈夫。この発砲は、俺達に向けられた物じゃない」

「え?じゃあ、この発砲音は、やっぱり俺の勘違いじゃないんですね?これは、本物の……」

「あぁ。それに、誰が何の為に撃ったのかも、俺には分かる。だから、警戒を解いてくれないか?」


初めのうち、真司は、俄かには信じ難いという顔をしていたが、雅之の言葉に嘘偽りが無いのだという事を知り、渋々と雅之を自分の腕の中から解放した。


「さて……今のままの格好で外に出る訳にはいかないから、シャワーを浴びて着替えるつもりでいるんだけど、流れ的に見て、真司も一緒に身支度をしないといけないと思うんだ。勿論、手を出さない条件付きだけれど、それでも良いなら、一緒にどうかな?」

「え……?」


こうなった以上、この部屋から出て、外で待機している時に状況確認をしないといけないのは当然だ。そして、外に向かうならば、今の格好でいてはいけないのも理解できた。何せ全身が汗だくだったし、色々な体液で身体がべたべたになっている。けれど、目の前に全裸の雅之がいて、二人きりで個室に篭り、それでいてなお、全く手を付けられないとなれば、真司としては生き地獄に近い環境となってしまう。だから少しだけ逡巡をしたけれど、雅之の次に放った言葉で、真司は一気に陥落した。


「………お腹の中にたっぷり出されたのが、苦しいんだ。だから、君が俺の身体を洗って、外も中も、綺麗にしてくれないかな?」
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