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第三章『秘密の花園』

蜜月。違和感。急く心。

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「雅之さん、起きて」


俺の朝は、意外と寝汚い雅之さんを起こす所から始まる。身体に何も纏っていないその人は、俺の腕の中でもぞもぞと寝返りを打つと、微睡みながら俺の胸にすり、と擦り寄ってきた。昨日、あれだけ激しく求めたのに、またしてもこの人の肌に触れたいという欲が腹の底から込み上げてきて、いかんいかん、と頭を振った。それでも、労る様に、身体の疼きを発散する様にしてぷりんと二つ並んだ双丘に掌を滑らしてしまって。そのままそこをじっくりと撫で回しながら、俺はその人の耳元に向けて、そっと囁いた。


「このまま、この可愛いお尻、後ろから撫で回しながらして良い?」


すると、そんな事をされたら叶わない、とばかりに雅之さんが慌ててベッドから飛び起きて、洗面台の方に小走りで向かって行った。俺は内心でチッと舌を打ちながら、二人で使っているクイーンサイズのベッドから降りて、自分自身の支度をする為にウォークインクローゼットに服を取りにいった。今日は、一応きちんとした身なりを整えてから出掛けなければならない。アメリカから帰ってきたあの人と、半年ぶりに面会する機会が整えられたからだ。


あの人……出雲さんは、自分の寿命は持って後半年だなんて俺に話して置きながら、いまでもピンピンしている。寿命があと半年だという話はどこに行ったかというと、理由は単純明快。『何の処置もしなければ』あと半年の命ですよ、というだけの話だったのだ。


アメリカに半年間在住していたのも、心臓外科の名医の元を訪れて手術をしたり、術後の経過を見なければいけなかったという流れがあったから。だったら初めからそう言えば良いのに、あの時、初めて話を聞かされた時の俺の落胆を返して欲しい。とはいえ、何だかんだ言っても手術の成功率は極めて低いものだった様で、術後の経過としても体力面において御方としての活動を続けていくのは難しいとの主治医の判断もあり、雅之さんに後進を委ねたのも無駄な判断では無かったとされている。つまり、雅之さんは、特別頼りになる『御隠居』を手に入れて、自分の仕事に従事する事が出来る様になったのだった。


手術が成功した事や、今後も自分の側でその存在を支え続けてくれる存在となった出雲さんを、雅之さんは大変心強く感じている様だった。確かに、体調面での不安からくる早期引退だったので、その問題がある程度解消された出雲さんは、組織としても大変心強い存在だ。だから、出雲さんは元教祖であり御方であった地位を退いても、『薔薇の八大原種』の一員となって、今では雅之さんを影から支える存在となっている。


つまり、雅之さんが以前名乗っていたロサ・フェティダの名前を冠する人物となったのだった。


これは、はっきり言って凄まじい人事裁量だと思う。現職の教祖である雅之さんの立場を脅かしかねないどころか、教会の一部関係者だって泡を吹いて倒れてしまいかねない、規格外の裁量だからだ。初めはこれで本当に組織が本当に回るのか?と思いながらも、ヒヤヒヤとしていたのだけど、俺の思っている以上の現場の動揺や混乱は無かった。


『薔薇の八大原種』のメンバーも、雅之さんが出雲さんを『薔薇の八大原種』のメンバーに推薦したいと会議の場で話しても、メンバーには全く異議申し立てをする人が居なかったし、それどころか然もありなんとして受け入れている雰囲気すら感じさせていた。それだけ、元御方であった出雲さんの言動や行動にすっかり慣れきっていて、あの人が隠居したとて大人しくしているはずが無いと考えている人達なんだろうという解釈を今ではしているけれど。本当に『薔薇の八大原種』のメンバーの精神力には舌を巻いてばかりいる。


とはいえ、俺だってこの人達と同じ『薔薇の八大原種』のメンバーの一人である、ロサ・キネンシスの名前を冠している。まだ、この名前を呼ばれた事は一度もないのだけど、他のメンバー達も仲間の名前を呼ぶ時は基本的に本名で呼び合っているので、この組織で言う所の肩書きなんてそんな扱いがされてしまう様な代物なんだろうなと思って納得していた。それに今では、出雲さんから引き継いだ医療・福祉事業を本格的に始動させる所まで行っていて、『薔薇の八大原種』の仲間達にも、自然とその位置を受け入れて貰えてきている。だから、少なくとも、立場や利益だけを見て行動する人間ではないんだという見方をして貰えているので、責任という重圧はあっても、やり甲斐を見出せる日々を過ごしていた。


それもこれも、俺をここまで導いてくれた、みんなのおかげだ。この恩に報いる為にも、俺は自分が任された仕事を誠心誠意勤めながら、雅之さんのその御身を守り慈しむという使命を全うしていかなくては、という意欲に燃えていた。


雅之さんは若干モタつきながら支度を整える様な人なので、俺は一から十まで雅之さんの身支度を担当している。朝食の準備、着替え、髪のセット、そして、外に出たら出来なくなってしまうキスをして……そんな風に、蓮さんにとっての新庄さんの様な立ち位置を確立した俺は、『薔薇の八大原種』以外の幹部達からも一目を置かれる存在となっていった。


雅之さんとワンセットにして扱われるのは、とても嬉しいし、誇りに思う。それでいながら、夜での関係性はといえば、尊敬の念は間違いなくあるけれど、限り無く下克上を果たしているのだから、男としては堪らない地位についているなと思っていた。


教会に赴き、教祖として、御方としての顔を持って、蓮さんには出来ない教会にとって本当に重要な仕事をし、誰からも畏怖の目を向けられている雅之さんを、その教会の大聖堂から人払いをして、荘厳で格調高い祭壇にしがみつかせながら、教祖その人の格好をしているその人の下半身を露出させ、後ろから前から、激しく犯す。


そして、身体の奥底に俺の子種を植え付けられた雅之さんが、俺の怒張に一番そっくりな、真っ黒で図太く長く、馬のペニスを模した作りをした、遠隔操作出来る俺のお気に入りのディルドを秘孔にぶっすりと差し。秘孔に力を込めて子種が漏れて来ないように必死に耐え、俺の手元にあるスイッチで俺の好きな時に好きなタイミングで体内で暴れ回るディルドに翻弄されながら、信者を前にして笑顔で仕事を行う様を、誰よりも近い位置から見守り続ける。


そして、仕事が終わり、用意されたホテルの一室に入った瞬間。教祖の法衣を全て脱ぎ捨てさせ、全くの裸体にさせてから、真っ黒で長大で、醜悪な見た目をしたディルドをずるんと秘孔から取り出して。


鏡の前で。
バスルームで。
ベッドの上で。
窓に手をつかせて。
ソファーで。
再びベッドに戻って。
繰り返し、繰り返し、激しく抱く。


いまでは、雅之さんも、すっかりと俺の子種を強請る様になり、一頻り『交尾』が終わると、可愛らしく腰と尻を上げて、俺がたっぷりと注ぎ込んだ子種の着床を促す様に、繰り返し、とんとん、とベッドの上で腰と尻を上下させる様になっていた。


そして俺は、その様子をうっとりと恍惚の表情を浮かべて眺めながら、雅之さんが俺の為に用意してくれたワインを飲み、チーズやウィンナーなどに舌鼓を打って、俺の子を欲しがってやまない雅之さんの様子をじっくりと堪能しつつ、その時間を楽しむのだ。


まさに、至福の時間。この世の贅沢を味わいながら、俺は日々、雅之さんに寄せる直向きな想いと、自分自身の愛欲と、自分に課せられた使命とを、胸の中で燃やし続けていた。


支度を終え、雅之さんの額や唇に深いキスをして、お互いの身体が反応する前に一緒に住んでいるマンションを出て、黒塗りの車に二人して乗り込む。特に目立った点のあるマンションというわけではないけれど、セキュリティだけはしっかりしているし、雅之さんお抱えとなった花園や真智さんのバー、今では幹部の会議を行う場所といえばコレ、と暗黙の指定を受けている、俺が昔母親と通っていた教会からも程近い場所にある立地を重視したマンションなので、とても重宝していた。


広くはないが、男が二人で生活する分には問題がない広さだし、いま何処に相手がいるか直ぐに分かる環境は、俺にとって何者にも変え難い環境だった。それに、お世話になっている酒屋さんや、地場野菜をふんだんに扱っているスーパーなどもほど近くて、住むには最高の環境なのだった。


雅之さんは食への拘りだけは強いけど、決して高い物が好きな人という訳ではなく、本当に良いものをごく少量楽しむ事を至上の幸福に感じている様だった。そんな様子を見て、その生活に俺自身も触れていくと、俺はふと、出雲さんが俺に話してくれた話を思い出す事があった。


『幸せは、追い求めるものじゃない。いつもそこにあり、感じる物。例えば神であり、例えば愛であり、例えば家族である。だから、答えは、『今目の前にある大切な物全て』だよ』


雅之さんを見ていると、その幸せを体現している様に思えて。そんな豊かな感性を持つこの人を、俺はこれまで以上に深く愛し、どこまでも支え、癒し、着いて行こうと、自然なままに思えたんだ。


車に乗り込み、密室になると、俺は雅之さんのセットした頭が崩れない様に気を付けながらその身体を引き寄せて、家を出る前にしていたキスの続きをした。唇を隙間なくぴったりと合わせ、口内に根本まで舌を差し入れて、口腔内を味わい尽くす様にねっとりと蹂躙していく。そして、上半身を撫で上げながら最後に股間に手を伸ばすと、雅之さんの焦った声が、俺の耳元に届いた。


「あ、真司……駄目だよ」

「今抜いておけば、今日こそは祭壇を汚さなくて済むかもしれませんよ」

「……っ、そんなの嘘だもん。いつも、俺が祭壇に向かって出すまで離してくれない癖に」

「ふふ、貴方にとってみたら、自分の顔に向かって出している様なものじゃないですか。恥ずかしい事なんて、何もありませんよ」

「酷い……そんな風に思ってたんだ。もういい、今日は、ううん、この先だって、ずっとずっと、お前の言う通りにしないから」


プイッと反対を向いてしまった雅之さんを見て、想像していた以上のショックを受ける。だから、俺は焦って、雅之さんの機嫌を取る為にあの手この手を繰り出していった。


「貴方の気持ちを踏み躙る様な真似をしてしまって、本当に申し訳ありません。どうか、俺に許しを乞う機会を下さい。今日は、貴方の好きなシャンパンも冷やしてあります。最近気に入ったと仰っていた、ローストビーフも冷蔵庫に……今日は、バレンタインです。だから、そんな恋人同士の祭典でもあるこの日を、貴方の為に最高の日にさせて下さい」
 

恋人同士の祭典とも言える日が始まってすぐに、誰よりも何よりも大切にしている恋人と喧嘩をするだなんて、許される訳がない。だから、どうにかして気持ちを変えてくれないかと、必死になって請願する。夜の関係性と日常は全くの別物。主従カップルは、こうなってしまった時に、臍を曲げてしまった主のご機嫌取りをするのすらも、お互いの愛情を確かめ合う為のプレイの一環にしたりする。だから、俺の心境に焦りはあれど、特別な高揚感にも包まれていた。愛する人に愛を乞う行為を馬鹿にしていた自分だったけれど、それは一方的な矢印しかそこにない環境での話だ。俺はこの人に愛されている。だから、確信を持って情け無い男になれる。愛されるより愛したい系の人間である俺にとって、雅之さんとの恋愛は、心身共に、何処までも満ち足りた物だった。


「俺には関係ない」

「雅之様……御方、お願いです。機嫌を直して下さい……決して、貴方を辱めたかった訳じゃないんです。俺は貴方がその尊い身を俺の為だけに許して下さる姿を見て、愛されている実感が欲しくて、ただそれだけの為に生きている人間です。俺の為に、こんな事までしてくれるんだと思えるだけで、俺は貴方に巡り逢えた喜びを全身で感じる。誰よりも貴方の愛を独り占めしたいから……だから、チャンスを下さい」  

「どんな?俺の為に、君は何をしてくれるの?」


俺は、本来なら祭壇の前か、もしくは部屋で二人きりになった時に見せようと思っていた小さな小箱を懐から取り出して、雅之さんの前に跪いた。車とはいえ、室内と言って良い広い車だから、何なく跪く事が可能だった。そして、その小箱を雅之さんに向けて開き、真摯で真剣な眼差しを渾身込めて意識しながら、口を開いた。


「俺には貴方しかいません。だから、これから先も、ずっとずっと、貴方の側に置かせて欲しい。ですから、どうか、貴方の左手の薬指を、俺に」


ブリリアントカットされた一粒ダイヤの婚約指輪が、その小箱に鎮座していた。一眼見ただけで婚約指輪だと誰しもに伝わるその指輪は、だからこそ俺に選ばれた。こうして言葉にしなくても分かる通り、雅之さんは、とてもとてもモテる。これから会う、幹部である『薔薇の八大原種』の中にも、怪しい人物はそれなりにいた。そんな人達を出し抜くつもりは無かったけど、結果的にそうなってしまったのは、この話の流れ上、致し方ない。後から知ったら、どう思われることかとは思いつつも、いや、今更どう思われたっていい、というのが、俺の本心だった。いま一番この人の側に居るのは、この俺だ。他の幹部達とは、これまで培ってきたアドバンテージが違うのだから、それを利用しない手はない。


この人は、特別贅沢を好む人……というか、はっきり言って身分からしてみたら質素過ぎる生活をしているから、ダイヤもあまり主張の激しくない物を選んだ。それでも、こだわり抜いたブランドを選んだし、デザインから一緒にデザイナーさんと考えて行ったし、指輪本体もプラチナだけを使用している。だから、今の自分が用意できる最上級の一品を選び抜いて、この人の前に差し出した。この人が、もしもこれを受け入れてくれたら、俺は今日この日を、人生で最も輝かしい日に出来るだろう。


祈る様な気持ちで、同じ体勢を維持している俺に、雅之さんはすっかり驚いていて、ぽかんと口を開いてこちらを凝視していた。どんな反応が返ってくるかと胸をバクバクとさせながら待っていると、突然雅之さんは、ふふ、あははっと堪えきれなかった、と言わんばかりに笑い出した。何故雅之さんが突然笑い始めたのか、その理由が分からず、俺は心の中にあった動揺を隠しきれずに、困惑の表情を浮かべた。


「ふふ、真司は、もう俺の物でしょう?なら、その指輪は、俺にとって受け取って当然に決まっているじゃないか。今日は朝から妙に懐いてくるから何事かと思ってみたら……本当に、君は可愛い子だね」


座ったまま、喉仏に指先を一本当てられて、そのままその指で顎を引かれる。そして、そのまましっとりと唇を重ねられて、ちゅ、ちゅ、と音を立てながら、何度も唇を吸われた。


あまりの幸福と、俺の気持ちを受け入れて貰えた達成感に、思わず雅之さんを下から抱き締めながら、貪る様なキスを送った。


「雅之さん、雅之さん……」


愛する人の名前を呟きながら、その人の全身を弄って、股間のチャックに手を掛けて引き下げ、無造作にその中に手を入れる。そして、愛しいその人の、まだ何の兆しもない花芯を外に取り出して、其処をじっくりと愛撫した。


「……ぁ、だめ……みんな、待ってるのに……匂いで、バレちゃう」

「なら、俺の口に出して。全部。貴方がすぐに欲しい」

「君は?……辛くないの?」
  
「じゃあ、シートに寝そべって。お互いにしましょう」

「もう、服が皺になっちゃうよ」

「いい、分からせればいい。貴方が、誰の物なのか。それが分かれば、みんな静かになりますから」

「ふふ……独占欲が、本当に強いんだから」


車内とは言え、そのシートは広い。二人掛けのソファーくらいの大きさを誇っている座席がコ字型に組まれていて、小さなバーカウンターまで備え付けられている。俺がそのソファーに寝そべると、その上に、雅之さんが跨った。すると、開け放たれたファスナーの小窓から、ぷりんとした桃花色の陰嚢と、先端部にむけて桜桃の様に赤みが刺している花芯が、俺の目の前に垂れ下がった。その姿を一目見ただけで、俺の口内には溢れんばかりの唾液が湧き、ごくり、とそれを飲み下した。


俺の怒張もファスナーから外へといよいよ飛び出し、恥ずかしい事に既に完勃ちになっている。もとよりプロポーズが成功した影響で興奮していたそれは、愛らしくてならない雅之さんの花芯を見た瞬間に本領を発揮して亀頭を剥き出しにし、だらだらと涎を垂らして、ガチガチに硬直しきっていた。


初めて出会った時よりも。初めて繋がった時よりも。昨日よりも。ついさっきよりも。この瞬間瞬間を生きる今の貴方を、愛しています。


「美味しい、雅之さん、あぁ……本当に、まるで南国のエキゾチックな果物みたいです。ぷりぷりして、とろとろで、ずっとずっとしゃぶっていたい」


花芯の先端部をチュバチュバと涎を垂らしながら吸い上げ、喉を鳴らして先走りを飲み干していく。そして、二つある睾丸を指でくにゅくにゅ刺激していくと、裏筋がしっかりと通ってきた雅之さんの花芯の尿道がくぱくぱと開閉し、後から後から甘い蜜を生成した。睾丸をポンプの様に扱きながら精液の生成を促し、夢中でむしゃぶりついていると、花芯の雁首が張り出し、今にも破裂しそうな緊張感を持ち始めた。愛する人の絶頂が近い事を知った俺の反り返った怒張の先端からは、激しい興奮を受けて、どくっどくっと大量の先走りが溢れていった。


「真司、こんなの、もう、欲しくなっちゃう。あそこが疼いちゃうよ……あっ、やぁッ……くふ、ん…っ……」


その心から漏れ出した言葉に、俺はもう我慢する必要は無いのだという事を悟って、雅之さんに一旦俺の上から退いてもらってから、膝立ちにしてソファーに上体を預けさせ、雅之さんのズボンを下ろして、太腿に自分の怒張を挟み込み、腰をばつんッと打ち据えた。ぴくぴくと微振動しながら上を向く花芯にも手を伸ばして、根本から先端に向けて絞り上げる様にして抜き上げていく。そうして素股をしながら花芯を嬲り続けていくと、これまでに蓄積された興奮も相まって、あっという間にお互いが限界を迎えた。


「あ、っ、やぁん、おちんちん、んぅ……ッすぐ、イッちゃう…ぅ……ッ」 

「はぁ、は、……雅之さん、愛してる……だから、一緒に……ッ」 

「ふ、くぅ……やぁっ、はぁ、あぅ……ッ」 

「………は、っ、………あぁ……ッ、雅之さん…っ」

 
そうして俺達は、殆ど同時に、皮張りのソファーに向けて射精した。お互いの吐き出したザーメンが溶け合い、絡まり合って、ソファーの表面をとろとろに汚している。その扇情的な様に、俺は再び猛烈な興奮を覚えたけれど。これ以上、この人をこんな場所で、待ち合わせをしている時に求め過ぎる訳には行かないから、渋々と雅之さんの身体を解放した。


服には飛ばない様に注意したのでセーフだったけど、あからさまにカーセックスをしてしまった現実が、熱が冷めた頭で考えると少しだけ恥ずかしかった。黒服の運転手にもバレているだろうし、いつの間にか教会に着いていたので、外から見れば中の人間が何をしていたかなんて、車体の揺れで分かってしまう。少し調子に乗ってしまった感は否めないけれど、俺はこれでいて、満足していた。


俺達の車での様子は、他の『薔薇の八大原種』にも恐らく筒抜けとなる筈だ。そうなれば体の良い牽制になるし、『俺はこの人に、こんな事をしても許される人間なんだぞ』とアピールできる。潤滑剤がなかったので実際の交配……否、交尾は出来なかったけれど、これでいて充分な収穫になったと言わざるおえない。


……本当は。


雅之さんの身体の奥深くに夥しい量の子種を撃ち込み。遠隔操作出来る真っ黒な馬のペニス型のディルドを差し込んで。秘孔をキュンキュンと窄ませて子種が外に出てこない様に見守りながら。時折手元のスイッチで振動させて内側から刺激を加え。俺の精子がお腹の中を元気に泳ぎ回っている姿を想像しながら悦に浸り。雅之さんを狙っている他の幹部達にマウントを取りたかったのだけど……


いくら雅之さんを狙っている人がいるからと言っても、あの人達には日頃からお世話になっているから、必要以上に喧嘩を売る事はないなと諦めて、簡単に身支度を整えてから教会の施設内に足を進めた。


会議室として利用しているその部屋は、昔の教会の司祭……俺にトラウマを植え付けたあの男が、日頃から悪巧みをする為に作った、豪奢な作りになっていた。


悪役が下っ端達を集めて持て囃され、自慢の設えの部屋で偉そうに踏ん張りながら、べらべらと講釈を垂れて、イエスマンに囲まれながら有頂天になっていく姿をありありと想像してしまって辟易としたけれど。その部屋の中央にある円卓に座っていた、俺達を除いた七人の姿はまさに圧巻の一言に尽き、俺の中にあったそんな気鬱は、あっという間に霧散していった。


支配者層たる風格を兼ね備えた選りすぐりの精鋭、『薔薇の八大原種』達は、入り口から入ってきた俺達に、一斉に視線を向けた。その眼差しは、面白がっている者もいれば、冷ややかな者もあり、何を考えているのか分からない人達もいたりして、反応は様々だった。


そんな中、俺達に陽気に声を掛けて来たのが、現ロサ・フェティダであり、元教祖兼御方をしていた、出雲さんだった。


「よう。何だ、雅之。来る途中で猫か犬にでも戯れ付かれたか?」

「すみません、お待たせしてしまって……」


完全に話が筒抜けになっているのがありありと分かって、雅之さんは平謝りをした。俺も一緒になって頭を下げると、俺に冷ややかな視線を投げ掛けてきた人間の内の一人である祐樹先生が、盛大な舌打ちをした。


「御方の時間は限られてるんだ。お前の都合で振り回すな」


棘しかないし、完全に俺が悪者扱いされている。けれど、それだけの事を仕出かした自覚はあるので、すみません、と再度平謝りをした。最近、祐樹先生は妙に俺に対して冷たくなる時がある。考え過ぎではなく、恐らくポッと出の俺が雅之さんから重用されているのが面白くないんだろう。雅之さんが初恋の人だったという話だし……気持ちの調整が難しいのだろうなと思う。


そんな流れを終わらせると、俺達も席に着こうとした。先に雅之さんが座り、そして、その隣にある席に、何の考えもなく俺が着席しようとした時。


「真司、申し訳ないけど、その席には座らないで」


雅之さんから、何故か俺は着席する事を許されなかった。きょとん、と目を丸くしていると、その隣の席に腰を落ち着けていた出雲さんが、快活な口調で俺に話を切り出した。


「ほら、お前は今日、お前の母親が入る事になっている病院の現場に視察に行く事になっているだろう?だから、ここでお喋りしている時間はないんだ。今日は俺の手術が成功した快気祝いが後でロサ・ムルティフロラのバーできちんと催されるから、お前は仕事が終わったら、そのままバーで落ち合おう」


確かに、俺の今日の仕事は、御方である雅之さんをここに連れて来てから、そのまま病院の建設現場に視察に行くという流れになっている。確かに、言われなくとも、ここでお喋りをしている時間はないだろう。だから、俺は苦笑を浮かべてから、胸に沸いた感情を口に出したんだ。


「分かりました。でもみなさん、俺を忘れてあんまりはしゃぎ過ぎないで下さいね。俺だって、これでも一応は、仲間なんですから」


俺は少しだけ拗ねていた。確かに仕事はあるのは分かっている。それに、雅之さんを送り届けるのが目的だったのに自分の感情を優先して、遅刻はさせなかったけれど、出雲さんよりも遅くに現地に着いてしまった。これは、出雲さんの快気祝いをする側としては致命的なミスだろう。だから、批判を浴びるのは仕方ないとは分かっていた。それでも、俺を置いて先に宴会を始めてしまうのは、流石に寂しいと感じてしまった。この日に合わせて仕事が入っていたので諦めてはいるけど、だから、せめて俺が行くまではそれなりに素面の状態でいて欲しいなという想いから、それを口にしたんだ。でも。


みんなは、俺の顔を凝視したまま、何一つとして反応を返してくれなかった。


これ以上ない無表情。温度の全く感じられない眼差し。花屋に並ぶショーケースの中の花を見ている人や、ペットショップにいる小動物に向ける眼差しの方が、まだ温度がある。俺は、何故だか無性に背筋がゾッとして。背中に、冷たい汗がすぅ、と流れた。何だろう、この、みんなの冷たい空気は。いつものように和気藹々として、俺や雅之さんが来ると暖かく迎えてくれる、いつものみんなとは、まるで纏う雰囲気が違った。


「あの………本当に、すみませんでした。御方をこの場にお連れするのが遅れたのは、俺の責任です。これからは、以後気を付けます」


この場の空気を変える為に、恐らく最良の選択だろうと思われたのが、心からの陳謝だった。どこまでも、調子に乗っていた自分を心から恥じた。深く考えずとも、自分の都合に雅之さんを巻き込んで、出雲さんをお待たせしてしまったのは、明らかに俺のミス。それを上司たる雅之さん……御方に先に謝らせるなど、言語道断。なのに、あんな台詞を吐いて……俺は、身が縮む様な羞恥心に包まれた。


「まぁ、皆さん、落ち着いて下さい。この子は、悪気があった訳ではないんです。だから、俺の顔に免じて、お怒りを解いて下さい。後で、俺からきちんと話しますから、ね?」


雅之さんがそう言うと、張り詰めていたその場の空気が、フワッと解けていった。それを見て、ああ、本当に雅之さんは、『薔薇の八大原種』のメンバー達から慕われているんだな、としみじみと理解したんだ。これだけみんなから大切にされているこの人の側近をしているんだ。これからは、より一層気を引き締めたくてはならないな、と心に誓った。


「まぁ、雅之に言われたら仕方ないかぁ。いずれちゃんと自分の立場ってものが分かっていくだろうしね……それに期待かな?」


そう切り出したのは、俺の師匠でもあった真智さんだった。真智さんは、俺に向けて、『ファイト!』と手を振ってくれている。いつもと変わらない明るい笑みを向けられた俺は、どこまでも胸がホッとして。俺はいつも、この人の明るさに助けられているなと思った。


「本当に、すみませんでした。自分の立場に誇りを持って、これからも精進していきます。ご指導ご鞭撻のほど、宜しくお願いします」

「指導に関しては、雅之がするものだろう?自分にいま何が求められているのか分かる様になりたければ、私達には何の問題もありはしないよ。雅之とよくコミュニケーションを取って、雅之の心と身体をたっぷり癒すといい。君に課せられた役割は、そこにあるんだから」


遠回しに、『お前は雅之の愛妾なんだから、自分の仕事をしながら、雅之の求める人間像の探求に時間を費やせ』と蓮さんに言われて、顔にカッと血が回った。馬鹿にはされてないけれど、明確に自分達とは扱いが異なると言われた様なものだからだ。


けれど、この世界は、弱肉強食の世界。結果こそが全てなんだから、一人前扱いされたかったなら、結果を残せと言われるのは道理だ。俺のここでいう結果とは、雅之さんの信頼を勝ち取って、雅之さんの役に立ち、自分に課せられた仕事で、目に見えた結果を示せ、という事だろう。でなければ、本当の意味での『薔薇の八大原種』のメンバーとは認められない。俺の課題や障害は、ロサ・キネンシスとなった今でも、目の前に沢山用意されている。それを乗り越えていってこそ、俺はみんなから、本当の仲間だと認めて貰えるんだ。


ならば、俺にできる事は、たった一つ。


「視察のため、この場を失礼させて頂きます。退出の許可を頂いてよろしいでしょうか?」

「うん。大丈夫。行っておいで。また後でね」


俺は、悔しい気持ちを隠して、その場で円卓に向けて一礼をし、その部屋を出た。足取りは力強く、悔しさが歩むその足に漲っている。みんなに馬鹿にされた様な雰囲気はなくとも、まだまだ仲間として完全には認められないという空気だけは感じ取った。だから、いつかみんなに、本当の意味で認めて貰う為に、そして、いつか雅之さんの左手に輝くそれを、婚約ではなく、婚姻の契りをしたカップルが身に付けるそれへと以降させる為に、俺は、この道を決して諦めたりはしない。


待ってろよ、海千山千の怪物共。俺は、絶対に、あの場所で成り上がってみせる。


そして、雅之さんを、ロサ・キネンシスとしての地位を、誰よりも近くで雅之さんを支え続けるその資格を、本当の意味で手に入れてやる。


この俺の生涯を、賭して。
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