20 / 39
第三章『秘密の花園』
神聖なる祭壇を前に辱められる心と身体。厭らしいお強請りも、愛する者の為ならば
しおりを挟む
・
俺達全員が収まってもまだまだ余裕がある『室内』には、全くの静寂が訪れていた。其々が其々の思いを抱えながら教会から薔薇の花園までのおよそ五分ほどの移動時間を過ごし、花園の入り口の前まで音も無く到着すると、御方と『薔薇の八大原種』のメンバーがその室内から完全に姿を消してから、最後の順番を選んでその室内を出た。室内……黒塗りの車体の長いその車の後部座席から花園に掛けての道には黒服の男達が左右対象にずらりと縦に並び、直立不動の姿勢を維持して俺達がその短い道のりを歩んでいく姿を見守っていた。
「さて、ここから先は、お前だけで行け」
花園の喫茶スペースにいち早く足を踏み入れた御方は、俺を振り返ると、何でもない事の様に、俺達が二人きりで話せる時間を用意した。
「いや、でも……ロサ・フェティダさんは、まだ俺と二人きりになりたいとは思っていないと思うんですが」
大見栄を切って花園に足を踏み入れたとは言え、あれだけの口論をしてしまったロサ・フェティダさんと、時間を置かずにたった二人きりになって話をするのは、気が引けてしまうのもまた事実。隣に立つ慎也さんをチラリと伺うも、その視線は合うことはない。どうしたものかと困窮していると、御方はそんな俺を、はっ、と鼻で笑った。
「何を馬鹿な事を。あの子がどれだけお前を待っていたと思っているんだ。あの子は、ずっとお前に対して罪悪感を抱いていた。自分の大切な想いや思想を守る為に、お前を必要以上に傷付けてしまったかもしれないとな。お前が帰ってきたら、これまでの事を謝りたいと、ずっと願い続けていたんだ……早く行って楽にしてやれ。それは、お前にしか出来ない事なんだ」
何かを信仰する人の気持ちは、やっぱりまだ俺には分からない。だけど、分からないからといって、目の前にいる人の思想を否定する資格は誰にもない。それなのに俺はこれまで、ロサ・フェティダさんの御方に向ける信仰心をずっと揺さぶり続けてきた。だから、その反発をこの身に受けるのは当然の事なのに。ロサ・フェティダさんは、それをずっと気に病んでいてくれたのか。
「………分かりました。これから先は、一人で行きます」
「あぁ。しかし、お前には悪いが、話が終わるまで、俺達はここで待たせて貰うよ。話の内容が内容だからな。理解して欲しい」
「はい、分かっています」
教会の未来が掛かっているんだ。話が終わったら、その話し合いがどんな結末を迎えたのか、御方や『薔薇の八大原種』に向けて、その説明責任が生じてしまうのは当然だろう。俺は深く頷いてから、黒服の男の人の案内を受けて、ロサ・フェティダさんの待つという『喫煙室』に向かった。九條さんと新庄さんと話し合いをした時にも使ったその部屋は、その部屋で交わした話は、その後決して外に漏れる事はないという、花園の中でも最も秘匿性の高い部屋だった。
「リリー………」
「………ただいま、ロサ・フェティダさん」
黒服の男の人に扉を開けて貰うと、中にいたその人は、自分の掛けていた席から少しだけ腰を浮かして、消え入りそうな微かな声で俺の名前を呼んだ。俺はそんな、とても心配していた待ち人が、漸く目の前に現れたと言わんばかりの様子を見せる想い人を前にして、何故だか『ただいま』という言葉を選んで口にしてしまった。
そんな俺を見ても、ロサ・フェティダさんはまるで気に留めた様子もなく、口元を両手でそっと押さえながら、目尻に涙を浮かべて、何度も何度も頷いていた。その様子を見て、きっと俺は、ロサ・フェティダさんの案内の後、御方その人と対峙していく中で、何度もその命を風前の下に晒してきたのだろうという事実を悟った。
あれだけの事前準備を整えて、俺の前に立ち塞がってきた御方を相手に、思えば俺は善戦してきたと思う。試合にはまるでならなかった。全てが万事、御方の掌の上の出来事だった。それでも俺は、俺なりの最善の道を歩み、その最善の選択をしていく中で、俺は御方からその存在を本当の意味で認められた。ロサ・キネンシスという、次代の御方の御身を守り、その存在を影ながら支え続ける人間にならないかという誘いまで受け、それだけでなく、自分の使命とも思える大役まで授けられて、俺は自分の命を天秤に掛けながら、漸く自分の居場所を手にしたんだ。
ロサ・フェティダさんという、大切な人の隣という、居場所を。
「……僕はずっと、君をあの人の元に行かせてしまった事を、本当はずっと後悔していたんだ。だから、君がこうして僕の前まで来てくれたのが、何よりも嬉しい。無事に帰ってきてくれて、ありがとう」
その、自分の涙を手を使って拭いながら告げられた心からくる『ありがとう』に、俺の心臓は鷲掴みにされた。誰かに寄せる愛しさが死因に繋がるとしたならば、俺はいまきっと、この人の涙ぐみながら溢した笑顔と感謝の言葉をもってして、この命を絶たれていた。
「ロサ・フェティダさん。俺は、どうあっても、貴方の事が好きです。貴方が御方を、他の誰かを愛していても、その気持ちは変わらない。だから、貴方がもしも、人よりずっと辛い道を歩んで行くというのなら、俺は、誰よりも近くにいて、それを支えていきたい」
「……聞いたんだね、僕が、これからどんな道を歩いていくのかを」
肯定を示す様にして頷き、俺はロサ・フェティダさんの隣に座ってから、自分の涙を拭って少しだけしっとりとしたその両手をそっと取った。
「教会の暗黒時代を知る俺にとって、貴方を御方の手から救い出すのが俺の目標でした。そして、自分の道を己が手で切り開き、御方から自立して行って欲しいと考えていた。だけど、御方の命が、あと僅かだと聞かされた時、俺は漸く貴方の絶望を知った。愛する人が、信仰の対象が目の前からいなくなってしまう。そんな現実を前にして、貴方があんな風に意固地になってしまうのは、当然です。そして、何より次期御方候補となった貴方のその責任に対する重圧が、貴方の視野を狭くしていってしまったのは、とても理解出来ます」
愛する人の、目の前に転がる『死』という絶望を前に、どれだけの正気が保っていられるだろうか。そんな人間の心が悲鳴を上げて、あんな風に取り乱したり、自らの狂気性をコントロール出来なくなるのは、当然の結果だ。信仰する人間として、これから先、何を頼りにして生きていけば良いのか分からず、しかもその対象から後の事を任せたなどと言われたら、その道にしがみつくしか選択肢は無いだろう。
御方からの話によれば、ロサ・フェティダさんが次期御方候補者であると聞かされたのは、ここ一週間の間の出来事だったそうだ。それなのに、俺は帰ってきて早々に、この人を心理的に徹底して揺さぶりをかけてしまった。なんて残酷な真似をしてしまったのか、と後悔はしたけれど、あの話をしなければ、俺はきっと御方と対峙する事は難しかっただろう。だから、何が正解だったかは分からなくても、今こうして心も身体も向き合ってくれているロサ・フェティダさんには、深い感謝しか感じていなかった。
「だから、貴方が御方亡き世界を生きていく為に、次期御方として生きる事がどうあっても必要な道なのだとしたら……もう、俺に貴方を止めるつもりはありません」
「リリー……僕は、御方の為に生きる事を決めていた。だけど、その道標はいつか突然消え失せてしまうかもしれないと聞かされて、激しく動揺した。でも僕は、あれだけ憎んでいた君が目の前に現れた瞬間、言葉には表せない深い安堵に包まれてしまったんだ。そして、その人柄に触れていく中で、自分が御方として生きていくその傍に君がいてくれたら、どれほど心強いだろうと、願ってやまなくなってしまった………こんな僕を、君は滑稽だと笑うかな」
力無く笑うロサ・フェティダさんの腰に、そっと手を回してから、自分の身体に引き寄せる。そして俺は、握り締めたその人の手を、自分の手で優しく外して、その人の頬を指先でゆっくりと辿ってから顎を引き、その唇をそっと重ねた。唇同士を重ね合わせるだけのキスを終わらせると、俺は至近距離からロサ・フェティダさんの潤んだ瞳を見つめた。
「御方の話してくれた夢の話を聞いた瞬間、現在の教会の在り方について持っていた、ネガティブな意識は変わりました。俺は、御方のその夢を引き継いで、自分の母親を、母親の様な困っている人間を、救いたい。そして、何よりも、誰よりも側にいて、貴方の存在を支えられる人になりたい。だから、俺を貴方の側に置いて下さい」
「ロサ・キネンシスになる決意を固めたんだね?」
「はい。俺は、貴方にとって誰よりも頼りになる懐刀になりたい。貴方を癒やして、励まして、慰められる存在になりたい。だから、貴方が御方となられた暁には、俺に洗礼の儀を行って下さい。貴方に、俺の生涯と、愛と、信仰を捧げます」
御方は、幹部が信者でなかったとしても別に問題はないと話していたけれど、そんな話が通用する訳がない。俺という存在がロサ・フェティダさんの足枷になってしまうくらいなら、俺はその可能性を徹底的に潰してみせる。
「無理に僕を信仰なんてしなくても良い。だけど、気持ちは本当に嬉しいよ。僕で良かったら、御方へとその身を移した時には、君を真っ先に洗礼すると約束するよ」
「ありがとうございます……あ、そうだ。ロサ・フェティダさん、俺、ずっと尋ねたかった事があって」
なぁに?と言わんばかりに小首を傾げる姿が胸を打って。俺は、この人の唇を再び塞いでみたいという強烈な欲求をグッと抑えた。
「ロサ・フェティダさんが御方になられたら、字名は消えてしまいますよね?だとしたら、俺はこれから貴方を、何と呼べばいいんでしょうか」
「ああ、確かに、そうなった場合は、困ってしまうよね。なら、他の『薔薇の八大原種』達の様に、僕の本当の名前を呼んだらいいよ」
「本当の?……つまり、本名ですか?」
ロサ・フェティダさんの本名は、間違いなくあるのは分かっていたけれど、それを聞かされ、あまつさえ呼んでよしと本人から定められると、一気に気分が高揚する。だから、俺は、自分自身が格好悪いと分かっていながらも、前のめりの状態で、ずい、とロサ・フェティダさんに詰め寄った。
「是非、是非知りたいです。因みに俺は、その名前を呼んでも大丈夫なんですよね?」
「ふふ、勿論。だけど、あまり周りに示しがつかないから、その場の空気が砕けていたり、他に人がいない時にね?」
俺は了承を告げる為に、ぶんぶんと頭を縦に振った。それをくすくすと鈴を転がす様にしてロサ・フェティダさんに笑われても、全く気にはならなかった。
「僕の……俺の名前は、雅之。昔は一人称を俺にしていたんだけど、御方から、そっちの方が可愛いからと言われて、僕に直していたんだ。だけど俺は、君の前でだけは、より自然体でいたいと思っているから……それを元に戻すと言ったら、君は変に思うかな?」
俺に向けて探りを入れてくるロサ・フェティダさん……もとい、雅之さんは、おどおどしながら、俺の顔色を伺ってきた。だから俺は、雅之さんを安心させる様にして、にっこりと笑った。
「貴方が、自分をどんな風に呼んでいようとも、俺の気持ちは変わりません。それに、俺を選んで自然体でいたいと思ってくれたなんて、俺からしてみたら、これ以上ない喜びです。だから、何も気にせず、自分らしくいて下さい」
「ありがとう。これはね、俺からしてみれば、凄い前進なんだ。リリーに……真司に会ってから、俺の積極性だとか、色んな気持ちの変化があって。だから、御方の意に反した行動を取るなんて、昔の自分からしてみたら、考えられない事なんだよ。それだけ君の存在は、俺の中でとても大きな存在なんだと思うんだ………だけど、こんな風に言われたら、迷惑だよね?俺はずっと君に辛く当たっていたから」
これまでの俺に向けてきた言動や行動を通して、雅之さんの心には深い罪悪感が芽生えていた。それだけ周囲に向けるこの人の視界が広がりを見せているんだという事実、そしてそれを成したのが自分だという事に、俺の胸は歓喜の渦に巻き込まれてしまった。
俺の行動は、無駄じゃなかった。ちゃんとこの人に届いていたんだ。そして、この人にとったら一大事でしかない、御方に対する小さな反抗までさせられるに至った。これから先もこうして、御方に向けてきた狂信にも似た感情が収まりを見せていけば、この二人は以前の様な健全な友達に戻っていけるかも知れない。あと、半年しか時間は残されていたいけれど、せめて二人がなんの気鬱も憂いもなく笑い合える時間が少しでも訪れたらいいなと思った。
「雅之さん。俺は、どんな貴方も受け入れます。だから、心配せずに、どんどん自分らしさを思い出したり、開拓していって下さい。恥ずかしがったりしても、例え失敗したとしても笑ったりはしません。俺に、貴方の本当の姿をゆっくり見せていって下さい」
「真司……俺、君にそんな目で見つめられたら、頭が君の事で一杯になっちゃう。だから、もうそんな目で見ないで……」
気恥ずかし気に視線を逸らし、頬をうっすらと桃花色に染め上げていく雅之さんが、堪らなく愛おしくて。俺は雅之さんの身体を強く抱き締め、驚きの表情を浮かべた雅之さんの唇に噛み付くようなキスを送った。夢中になって激しく口内を舌で弄りながら、ゆっくりと長椅子にその人の身体を押し倒していく。そんな俺を、焦った様子で止めようとする雅之さんと俺との間で、僅かな攻防があった。
「雅之さん……ずっと、ずっと会いたかった。貴方に触れたかった、キスがしたかった」
「あ……っ、待って、まだ、みんなが外に……だから、もっと静かな場所で、二人きりになれるまで、待って」
言葉を返すと、静かな場所で二人きりになれる環境さえ整えば、雅之さんは俺が肌に触れても良いと言った様なものだった。言質は確実に取ったので、顔の全体に唇を音を立てて落としてから、雅之さんを腕の中から解放した。
因みに、俺の股間はどうしようもなく反応してしまい、ズボンの中で大変な状態になってしまっている。それにしても、キス一つで、こんなにも身体が反応してしまうだなんて。御方に触れられた時は、全く微動だにしなかった物と同じ物とは到底思えない。やっぱり、俺はもう、この人じゃないと反応しない身体になってしまったんだなと、しみじみ思う。だから、俺の身体をこんな風にしてしまった雅之さんには、悪いけれど責任をとって貰うしか無い。
貴方の為に、俺はこの身体と魂の全てを捧げる。そして貴方を、この生涯を賭して支え続ける。だから、その代わりに、貴方はその愛を、この俺に。
身体の熱が治まり、下腹部の状態もなんとか落ち着きを見せてから、二人してその部屋を出た。すると、喫茶スペースは御方と『薔薇の八大原種』のメンバー達がいて、それぞれに一人ずつ給仕係が付き添っていた。薔薇や薔薇の蕾ではなく、黒服の男達だ。どの人物も見目麗しい美男子達で、俺はその中に、この花園でお世話になった事のある人物を見つけ、小さく声を上げた。
「あ……ロサ・ラエウィガータ先輩」
しかし、ロサ・ラエウィガータ……時任 仁という先輩は、静かな笑みを口元に浮かべる以上の反応は見せなかった。薔薇の中でも特別優秀で、誰からも信頼されていた人徳に溢れていた先輩との再会に嬉しい気持ちにはなったけれど。先輩は、いまは慎也さんの給仕をする為にこの場に存在しているようだ。だから、不躾に空気を読まず声を掛けてしまって申し訳ない事をしたな、と思った。
「さて、話は済んだ様だな。それで、結局どんな話に落ち着いたんだい?」
紅茶を優雅な仕草で飲んでいた御方が、出し抜けにそんな話を始めたので、この人は、もしかしたら割とせっかちな人なのかも知れないな……と思いながらも、雅之さんの斜め後ろに立って、御方と『薔薇の八大原種』のメンバー達に向かって、自分達の決断がどの様なものであったのかを説明する雅之さんの話を黙って聞いた。
「成る程、つまり、ロサ・フェティダは、気持ちを固めたという事だね?」
「はい……至らぬ点は沢山あるとは思いますが、御方の気持ちに報いて、精一杯努力し、勤めていく所存です」
「それは僥倖。ならば、今日をもって、俺は自分に課せられた任を解く」
その決断を受けて、周囲の『薔薇の八大原種』のメンバー達にも、動揺が走った。雅之さんに至っては言葉を失っていて、ぼんやりと御方の顔を眺めているばかりだ。放心状態、といった表現がここまで似合う反応を見せられてしまうと心配で仕方がなくて、俺自身の動揺なんてどうでも良くなった。
慌てて、雅之さんの腰に手を回し、肩にもそっと手を置いて、『大丈夫ですか?』と声を掛ける。すると、動揺から立ち直った『薔薇の八大原種』達から四方八方と視線を浴びて。衝撃的な発言をした御方本人ではなく、俺達に向けて視線が集中していった。
「おや、もうその子のナイトを気取っているのかい?ふふ、分かりやすい奴め……まぁ、良い兆候だと思って、見逃してやろう。だが、今後は謹んだ方が身の為だよ。その子とお前自身の為にね」
御方からの率直な苦言に、その場にいた『薔薇の八大原種』の全員も同意する様に頷いた。それを受けて、俺は自分自身の感情に対する管理不行き届きに、口惜しい気持ちを抱いた。
今この場で雅之さんが心配になったとはいえ、すぐにそれを行動に起こしてしまう様では、これから先が思いやられてしまう。俺の取った行動に対して、不安を覚える信者や教会関係者、これから先に出会う人々に『本当にこの教祖に着いていって大丈夫なのか?』という疑念を抱かせてしまうかもしれないからだ。それは、まず間違いなく、教会にとって、多大なるマイナス要因になるだろう。
雅之さんを心配して、今すぐに駆け寄って抱きしめたいと思っても、俺はそれを我慢しなくてはいけない。辛い事や悲しい事に傷付いてしまった雅之さんを慰めて癒すのは、その日の仕事が終わって、プライベートな時間が訪れてから。それでいて尚且つ、人目の付かない場所を選んで行動に移していくしかないんだ。だから、俺は素直になって、『以後、気を付けます』と頭を下げてから、再び雅之さんの斜め後ろの立ち位置に戻った。
「ようは慣れだ。失敗をどれだけ自分の力にしていけるかも、これから先に掛かっている。だから、気に病む事はないが、今日の事はしっかり反省するといい」
「はい、すみませんでした、御方」
「出雲だ」
「…………は?」
「それが俺の本名だ。これからは、俺の吉川 出雲という本名を持って、俺を出雲と呼ぶがいい。みんなも、それでいいな」
異議なし、と言わんばかりに、『薔薇の八大原種』達が全員頷いた。それを受けて俺は、こんなにもあっさりと御方の襲名の儀が滞りなく進んでいくという事実に、呆気に取られてしまった。
「えっと、つまりは、その……雅之さんは、もう御方その人になられたと、そう言う話ですか?」
「そうだ。だから、ロサ・フェティダとしての任も、それと同時に解かれたと考えていい」
「何か、特別な式典をやったりとか、他の教会関係者の御目通りですとか、そんな話は?」
「それはこれから先の話だよ。ただ、式典は執り行わないし、御目通りもごく僅かの人間だけに限定する。はっきり言って、雅之のやる事は、とても少ないんだ。君臨せずとも統治せず、というだろう?自慢ではないが、御方としては、いままではそれを地でやってきていたし、そんな姿を、この子は誰よりも近くで見てきた。だから、目先にある不安材料といえば、この花園に対する問題を今後どうしていくか……まぁ、そんな所かな」
「花園の、問題?」
この、どの角度から見ても不測が見当たらない花園に、一体どんな問題があるというのか分からず、鸚鵡返しする。
「この場所は、綺麗に統治され過ぎていた。教会のお膝元という場所である以上、それは然るべき状態ではあったのだが、その門扉を潜り抜け、薔薇の蕾として採用する人間は、ごく僅かだった。俺の様な人間達を集め、癒やし、社会に羽ばたかせる、そのシステムは賞賛を受けるに値すると考えていたが。それに苦言を呈してきた人物がいてな」
「それは、誰なんですか?」
「そこにいる、雅之だよ」
俺は、驚きに身を固めてから、直ぐに意識を取り戻し、隣に立つ雅之さんに視線を向けた。
「まぁ、この一週間、いや、二カ月と言えば良いか。お前がその子に与えた衝撃は、俺達の想像以上に強かったんだろう。花園を、もっと広く人材を集める場所にしていくべきなのではないか、と力説されてしまってね。お前が居なくなってからのこの子は、誰よりも花園に対する未来を心配する様になっていったんだ」
性的マイノリティの問題に苦しむ優秀な人材は、何も男性だけには限らない。女性の中にも問題を抱えて、本来持つその優秀さを発揮できずに悩み苦しんでいる人達はいる。そんな人間にも、花園の恩恵を受ける機会を与えてはどうか。雅之さんは、そう出雲さんに向かって力説したという。雅之さんが、出雲さんにそんな風に進言したり、ある意味で抵抗したりしていただなんて。そんな様子、俺の前では一度だって見せた事はない。
なら、昼間にした、あの俺達の口論は、もしかして。
「雅之さん、貴方は……俺を試してくれたんですね。そして、御方も、時には失敗だってしてしまう同じ人間である事を、自分と同じ様に認めてくれる存在である俺に、いずれは自分を支えて欲しいと思っていてくれた」
この人は、俺が今まで出会ってきた人間の中でも、人一倍優しく、傷付きやすい人だ。だからこそ、御方として誰よりも支配者層のトップとして直走ってきた出雲さんも、一人の人間であり、失敗をしたりするのだという事実を知った俺に、失敗あり気でついてきて欲しいと願った。予防線を張るのとは違う。失望して欲しくないからとも違う。きっと、この人は。
俺の好きになった、この人は。
「貴方は、貴方です。肩書きが御方だから、貴方に着いていくんじゃない。それはきっと、『薔薇の八大原種』のメンバー達も、同じ気持ちだと思います。だから、完璧で失敗などない御方の、これまで積み上げてきた常識に風穴を開けて未来を切り開いて行こうとする貴方を、俺は、この先もずっと支え続けていきます」
誰よりも大切な人が築き上げてきた『完璧に管理された世界』の常識に風穴を開け、花園を始めとした事業の改革に乗り出す。そこに掛ける強い信念を見て、俺は雅之さんが、本当はどれだけ強い人なのかを思い知った。
自らが定める神に向けて、『貴方は間違っている』と言える強さを持つ雅之さんなら、きっと、御方だった出雲さんと同じく、いや、それ以上に、より良い治世を果たしていけるだろう。
俺は、この人を、誰よりも誇りに思う。
「なぁに『薔薇の八大原種』代表みたいな顔してんだ、お前。しかも、言いたかった事全部言われたのもムカつく」
慎也さんが、ぶーぶーと文句を言ってくる。それを右から左に受け流して、俺は再び雅之さんに視線を移した。
「雅之さん、いえ、御方。改めてお願いがあります。俺に、洗礼の儀を執り行って頂けませんか?」
これから先、俺が『薔薇の八大原種』の一員として生きていく為には、やはりどう考えても洗礼の儀は切っても切り離せない。だとしたら、俺は直ぐにでもそれを行なって、速やかに雅之さんの隣に位置したいと考えていた。
「本当に、後悔はしないんだね?」
「はい。俺は貴方の隣で生きていきたい。貴方を支え、自分の使命を果たし、貴方が進むべき道を切り開く手伝いをしていきたいんです」
「………分かったよ。もう、俺から言う事はない。なら、これから直ぐに、君の望みを叶えてあげる」
言われている意味が分からなくてキョトンとしていると、雅之さんがその場で指をパチン、と鳴らした。すると、黒服達の手によって喫茶スペースのテーブルや椅子が全て傍に追いやられ、その床に、真四角に近い線が引かれた不思議な空間が生まれた。
「最大幹部である『薔薇の八大原種』は、洗礼の儀を全てこの地下にある祭壇の前で行う。蓮さんは、洗礼の為に使う一式を全部用意したままここに来てくれたから、後は俺達で下に向かえば、準備は完了だ。この下に向かえば、君はもう後戻りは出来ない。それでも進むかい?」
信者となり、御方の側近中の側近である薔薇の一輪『ロサ・キネンシス』として生きる覚悟はあるか?と問われる最後の質問に、俺は、逡巡する間もなく、頷いた。それを見た『薔薇の八大原種』のうちの誰かが突然吹き出し、『あいつ、やっぱりスゲェわ』といってしみじみと感嘆していた。きっと、慎也さんだと思う。同意を示す様に他のメンバー達も頷いていたり、感心しきっていたり、様々な反応を寄せていた。なんだか、気恥ずかしい気持ちになったから、俺はくるっと後ろを振り向いて、『雅之さんと二人きりにして下さいね。また笑われたら困るんで』と早口で捲し立てた。
「邪魔なんかするかよ。俺達は、ロサ・ムルティフロラのバーにいるから、お前達も後で来いよ。真司は、洗礼の儀が終わったら、母親に付き添って病院に行け。病院の様子を聞いたり、どんな環境なのかをその目で見て、これから先の仕事に生かせる様にするんだ。お前が戻って来るまでは酒盛りしているから、ゆっくり見てきな」
「ありがとうございます、出雲さん」
気にするな、と言った様に軽く顔の前で手を振る出雲さんに一礼をしてから、俺は、祭壇があるという開け放たれた地下室へと足を進めていった。雅之さんは、先に祭壇の前に佇んでいて、軽装ではあるけれど、教祖がその身に纏う様な服装に身を包んでいる。その姿が、薄明かりの中、とても荘厳に見えてしまって。ついさっき御方を襲名したばかりの人間とは全く思えないほど、威風堂々としていた。
人払いは全て終わらせてあり、地下に通じる扉も完全に封鎖され、中の様子が外から確認出来ない様になっているけれど、通気口はあって、息苦しさは全く感じない。だから、完全なる密閉状態ではないのだと胸を撫で下ろしてから、祭壇の前に立っている雅之さんの元へと進んでいった。
荘厳な造りをした祭壇には、洗礼の儀の為に使うだろう全ての準備が整っていた。だから、それを雅之さんは一人で上手く扱えるのだろうかと少しだけ心配になってしまったのだけれど、しかし、それは全て杞憂に終わった。雅之さんは、洗礼用に用意されていると思われる文言を、瞳を閉じながら歌う様に口にして行き、綺麗な装飾が施された長剣を踊る様な仕草で使用してから、跪いた俺の肩にその長剣の背を当てて、そっと呟いた。
「汝、谷川 真司を、御方の名の下に我が教会に迎え入れる。異議はないか」
「ありません」
「では汝の額を、これに」
言われて、俯いていた顔を上げ、目を閉じた。すると、水盆の中に用意されていた聖油が、額に指先で一筋引かれた感覚を覚えた。
「これで、君は我が教会の信徒となった。特に変わった感覚はないだろうけれど、君という存在は、これから更に教会からの恩恵を得られるようになる。それで、これからどうするつもり?」
「……まだ、何をどうしていけば分からない状態です。出雲さんの夢を引き継ぐとは話しましたが、具体的な話も、まだ何も」
「あの人は、ああ見えて忙しいからね。これから忙しくなって浮き足立ってしまう教会が落ち着くまでは、放って置かれるかも」
「はい、そんな気はしていました」
肩を竦めて溜息を吐くと、雅之さんは俺をくすくすと笑ってから、ある提案をしてきた。
「真司さえ良ければなんだけど……それまで、花園の改革を進める俺の手伝いをしてくれないかな?勿論、お願いする以上は、なんらかの見返りは用意するつもりだよ」
花園を、男女問わず人材を募集し、本当の意味での人材の派遣に乗り出すというビジョンを描いている雅之さんは、俺にそんなお願いをしてきた。俺としては雅之さんの仕事を手伝うなんて、一緒にいながら雅之さんを支えられて尚且つ感謝までされるという一挙両得な提案でしかなかったから、見返りなんていりません、と答えようとしたんだけど。その寸前で、はたりとある考えが頭の中に降ってきた。
その考えは、俺にとって、どこまでも魅力的な見返りで、もし断られたらどうしよう、だなんて考えたけれど。駄目で元々だと思って、ままよ、と口にした。
「もし良かったら……俺達、一緒に住みませんか?」
「………え?」
「あの、すみません。下心が全くないというのは流石に嘘なんですけど。俺、真智さんのバーの二階を間借りしている状態で。こうして教会内で仕事をしていくなら、もうあそこにずっといる訳には行かなくなってしまうんです。だから、他に住む場所を探していて……」
本音を言ってから言い訳をしていくという、情け無いを形にした様な有り様の俺の声は、次第にか細く微かな声になっていった。そんな俺を見て、雅之さんは、くすっと笑ってから、何でもない様な……そんな口調にしようと努力しているのが見え見えの反応を見せながら、頬を薔薇色に染めて、俺の提案を受け入れてくれた。
「でも俺、誰かと一緒に暮らした事が無いから、色々不便を掛けてしまうだろうけど、いいかな?」
「そんなの、何の問題になりません。だけど、本当に?」
「…….うん。真司なら、俺、いいよ」
その場で小さくガッツポーズをしてしまうのは、どうあっても止められなくて。そんな俺を見て、雅之さんは照れ臭そうに笑った。
「なら、住む場所を探さなくちゃね。俺のワンルームは、二人で生活するには狭過ぎるから」
「教会は便宜を図ってくれないんですか?」
「俺は、極力そうした方法を取らないできたんだ。自分の事は自分でやって、自立した人間になりたかったから。御方の負担になりたくなかったしね」
「そんな……」
誰よりも深い信仰を御方に捧げ、質素を絵に描いた様な生活を送りながら、教会からの恩恵をその身に受けるのは積極性をもって拒否して、慎ましく生活している雅之さんを見て、俺はどうあってもこの人を支え、守っていこうと強く心に決めた。その瞬間、その人に対する気持ちが堪えきれなくなって。俺は、軽装とはいえ教祖に相応しい格好をしている雅之さんを、ぎゅっと力強く抱き締めた。
「もっと、自分を大切にして下さい。貴方は、御方として生きていくんだから、それに見合った生活をしていくべきです」
「御方であっても、自分の生活スタイルを変えようとは思っていないんだ。だから、真司に贅沢な生活をさせられないのだけが、心苦しくて」
「俺なんて気にしないで下さい。貴方の隣に居られれば、貴方を誰よりも近くで支えられるなら、俺は他に何もいりません。そこに、貴方の愛があれば、尚更……」
背中に回していた掌で、するするとその上半身を撫で上げていく。左手はすっかり礼服の中に入り込んでいて、薄い生地の上から、臀部をじっくりと撫で回していた。
「あ、……っ、まって、真司、こんな場所で……」
「可愛いお尻ですね。いつまでも撫でていたいくらいに……ねぇ、雅之さん。俺との夜を思い出して、ここが疼いたりしませんでしたか?」
愛するその人に触れていくうちに、次第に息も荒々しくなり、興奮で、頭が馬鹿になっていく自覚があった。俗世間から完全に秘匿された神聖な場所で、こんな不埒な行為に及ぶなんて、と雅之さんは全身から焦りを生じさせていたけれど。俺はそんな雅之さんに迫っている自分自身を、どうあっても抑えきれなくなっていった。
「……っ、や、お尻の穴、指でぐりぐりしないで……」
「腰、動いてる。ねぇ、雅之さん。本当は、俺の事をどう思っているんですか?出雲さんが言っていました。貴方は、何とも思っていない相手に、あんな風に身体を許す人ではないと。そして、俺に身体を教え込まれたら、もう他の男や道具なんかじゃ満たされないって。教えて雅之さん、俺に、貴方の身体と心の秘密を」
「ぁ……っ、真司、やめて、許して」
「………一人で、した?」
秘孔の入り口を指先でカリカリと布越しに引っ掻きながら耳元で囁くと、涙を目尻に浮かべて顔を真っ赤に染め上げた雅之さんは、ふるふると首を横に振った。そんな必死で自分の潔白を証明しようとするその人の身体を、じわじわと祭壇に押し付けると、俺は、雅之さんの気が逸れた所を見計らって、水盆に用意されている聖油を右手の中指に纏わせた。
「じゃあ、俺以外の男とは?」
「……ッぁ、あっ……ッや、ぁ、ん……ッ!してなぁ……ひぃ、ぁ、あっ?!」
邪魔な布を取り払い、聖油を纏った中指を、丸出しの秘孔に、ぬぐぅ、と第二関節まで一気に挿入していく。そして、そのまま、聖油の滑りを利用して秘孔の拡張に移っていった。指に聖油を再び絡める為に一旦指を抜き出し、止めてくれたと勘違いし、ホッと息を吐くその人の安堵を打ち砕く様にして、二本に増やした指で、再びずっぷりと秘孔を蹂躙していく。そして、本格的な交配に移ろうとしている俺の意思に漸く気が付いた雅之さんは、一気に慌てふためきだした。
「だ、だめ……こんな場所ッ、ふしだらだ、絶対に駄目……やだ、本当にやめて、真司ッ」
「静かで、二人きりになれる場所が良いって言ったのは、貴方じゃないですか」
「そんな、ちがうの、……ここは、神聖な……」
「そう、神聖な場所です。だからこそ、愛し合う二人が生涯の愛を誓う上で、これ以上ない場所だとは思いませんか?」
「だめ、俺は、……こんなの、絶対に……ぁ、あっあっ……やだ、そこッ……くぅ、んっ」
懸命に抵抗を図る雅之さんの、男の泣きどころである前立腺の場所を、たった一回の交配で覚えきってしまっている俺は、太腿の間に腕を突っ込み、二本の指で雅之さんの前立腺を激しく責めたてた。
「本当にここが弱いですよね。俺のでも、後で沢山突いてあげる。ねぇ、おちんちんの様子はどう?……気持ち良くて、興奮して、可愛くなった?」
「あ、……だ、やめて……あん、みない、でぇっ」
股間を隠している法衣を剥ぎ取る様にして、雅之さんの恥部を露出させる。するとそこには、一週間前に見た時と変わらない、可愛らしい花芯がピクピクと震えていて。先端から蜜をたらたらと溢しつつ、きちんと勃起している愛らしい姿を見せた。
「あぁ、後ろだけで、こんなにして……本当に、可愛らしい人ですね」
「やだあ、……じろじろ、見ないで……ッ」
「ふふ、そんなに恥ずかしいなら、貴方からは見えない様に、食べちゃいましょうか」
そう言って俺は、祭壇に後ろ手を付いている雅之さんの恥部が顔の前に来るまでしゃがみ込むと、陰毛の産毛すらないつるんとした花芯を、一気に根本まで頬張った。口内に溢れる、先走りの蜜が俺の頭をすっかりと興奮させる。
嗚呼、ずっとずっと、この味が恋しかった。
「ぁッ、アン……だめ、たべないで、お願い……おちんちん、もぐもぐ、しないで……ッ」
なんて愛らしい。快楽に侵されて、頭が幼児化して子供の言葉遣いになってしまうのは、どうやらこの人にとってデフォルトの様だ。確かに、もぐもぐという表現がどこまでも似つかわしいくらいに、舌全体を使って花芯を丸ごと口内で転がしていっている。しかし、本当に胸が苦しいくらいに可愛い。どこまで俺を煽ったら気が済むんだ。俺は鼻息荒く花芯にしゃぶり付きながら、二本から三本に増やした指でごりごりと前立腺を責め立てた。その刺激を受ける度に雅之さんの花芯の先からは、とくとくと先走りが後から後から漏れてきて、俺の頭を完全に使い物にならなくしていった。
「……っひ、やだ、喉の奥までじゅるじゅるしないで……っ、おねがい、でちゃう、このままじゃ、この場所を、汚しちゃうからぁ……ッ」
「なら、選択して下さい。このまま俺の口の中に出すのと、手コキして祭壇に向けて射精するのと……貴方は、どちらがいいですか?」
驚愕に目を見開く雅之さんに、俺は、にっこりと口元に笑みを浮かべ、雅之さんに残酷な二択を迫った。
「俺の口の中がいいなら、そうお強請りして。それが嫌なら、祭壇に向けて射精する事になりますよ」
「やめ……ッ、それだけは、だめ、絶対、だめぇ、ぁ、あっ、ひん……っ」
「嗚呼、手コキもこんなに気持ち良いんですね。ほら、可愛らしいピンク色の亀頭が、ぴくぴくしてる。このまま黙ったままでいると、祭壇に向かって本当に出ちゃいますよ」
「くふ、……ッぁ、あ、やめ……いう、言うから、……もう、手を、うごかさないで……ぇッ」
その言葉を受けて、根本から亀頭にかけてまでをぬこぬこと手淫していた手をぴたりと止めると、俺は雅之さんの顔を下から見上げながら、自分の中にある愛しさを言葉に乗せるようにして『言って』と促した。すると、全身を真っ赤にした雅之さんが、震える声で、『のんでください』と喘ぐ様にして、俺にお願いをしてきた。
「いまの貴方は、俺の頭が変になるくらいに凄く可愛らしいですけど。何を、どうやって、どこから出るソレについて飲んで欲しいって言及しないと、お願いのうちに入りませんよ?申し訳ないですが、理解が足らない俺の為に、もっと丁寧にお願いして貰えませんか?」
すると、俺の指摘を受けた雅之さんは、唇をキュッと噛み締めて、悔しさと恥ずかしさから、ポロポロと涙をこぼしながら、はくはくと口を開閉し、辿々しく俺に『お願い』をしてきた。
「おれ、の、ッおちん、ちん…を、君のお口の中でもぐもぐして、……先っぽから出る、のを、ごっくんして、くださ……ぃ……」
現在、教会の最高権力者であり、御方として今後その力と権力を治世の為に惜しみなく奮っていくだろう尊い身である雅之さんが、こんな何も成した事がないただの若造である俺の要求に、一生懸命に応えてくれている。だからこそ、これ以上ない愛しい想いを抱きつつも、それと同時に、言葉には尽くせない迄の愉悦を感じた。紛れもない下克上を果たしている現実と、どこまでも掻き立てられる庇護欲とが胸の中で綯交ぜになって、その全てが比類なき愛しさという感情に、余す所なく変換されていく。
嗚呼、貴方以外に、俺を満たしてくれる存在など、ありはしない。
「俺の為に一週間溜めておいてくれた濃厚なザーメン、一滴残さず俺の口に出して下さい。俺はそれを貴方からの愛の結晶だと思って、じっくり味わい尽くしますから」
俺の心の底からの本心という名前の言葉の数々に、どうにも弱いらしい雅之さんは、目をギュッと瞑って、激しい羞恥心に耐えていた。そんな、どこまでも愛らしい姿を見せる雅之さんに、俺の愛心は擽られ、一分一秒前よりも、更に深くなっていく雅之さんへの愛を、惜しみなく本人へと還元していった。
「蜜袋まで美味しい。まるで、極上の飴を舐めてるみたいです。ずっとずっと、口の中で転がしていたい……」
「……ぃっ、あ、……くふ…ぅっ……やっ、はずかし……口の中で、転がさないで……っ」
「嗚呼、雅之さんの匂いがする。興奮で頭がくらくらします。雅之さん……雅之さん……愛してます……」
二つある睾丸を口の中でにゅくにゅくと舐め回しながら、花芯の先端から止めどなく溢れてくる先走りを掌全体に纏わりつかせ、上下に花芯を抜き上げていく。そして俺はそれをしながら、鼻頭を恥部に擦り付けて、法衣を重ね着し、更に褌まで付けていた事で蒸れてしまったソコの匂いを、思う存分に嗅ぎ続けた。
祭壇についた手や、辛うじて踏ん張っている足がガクガクと震えて、自然に俺に向けて恥部を晒していく雅之さんに、ときめきが止まらない。自分自身の大切にしている物を守る為、羞恥心に耐え続けるその人は、ひたすらに俺の中にある加虐心を煽った。それでも雅之さんは、身体に与えられる快楽にはどうしようもなく弱くて。自分の意思とは無関係に俺を求めて来る雅之さんに、際限の無い愛しさが込み上げて来る。
その情動に身を委ねた俺は、雅之さんの胸の飾りに布越しに手を伸ばし、グミみたいに柔らかなそれを爪の先でカリカリと引っ掻いた。そして、前立腺を三本挿入した指の腹で執拗に押し潰しながら、花芯全体を頬張って口を窄め、舌をべったりと裏筋に這わせて、頭を前後に動かし、じゅるじゅると音を立てて花芯を貪っていった。
「まっ……ァ、ッいい……だめ、ぜんぶ、一緒……ひぃっ……」
激しい快楽を感じる三点責めを受けた雅之さんは、強過ぎる快感を逃す様にして、肢体全体を波の様にくねらせた。『あぁん、やぁッ』と艶っぽく喘ぎながら、恥部を俺の顔に押し付けて来るその淫猥な姿に俺はすっかりと煽られて、ズボンの中で完全にそそり立った怒張に走る痛みに耐えながら、激しく口淫を続けた。
「はぁっ……ん、ンッ……やぁ、イク、いっちゃ……あん、おくち、だめぇ、ほんとに、だしちゃ……ほんとは、のんじゃやなの、お願い、のまないで……ッ」
この人の嫌がる姿は、何故俺をこんなにも興奮させるんだろう、とふと思いながら、怯える雅之さんと完全に目線を合わせて、じゅるるッ、と激しい水音を荘厳な室内に響かせながら花芯を啜り上げる。一週間溜め込んでいた濃厚な精液を、一滴残さず飲み干す事への執念を燃やす俺のぎらぎらとした眼差しに、雅之さんの腰は完全に引けていた。
「やぁ、……あんッ……もぅ、だめ、イク……ぁっあ、あっ……っくぅ……んッッ!!」
俺が舌先で尿道口を抉り、そのまま、ずるんっ、と花芯の全体を喉奥近くまで飲み込んだ瞬間、ビクビクッと激しく痙攣した花芯の先端から、生き物独特の生臭さを孕んだ、栗の花の香りを伴う液体が、ドピュッビュククッ……と勢いよく弾けた。
ほんのり甘くて、味わいに深みがあって、ゼリーみたいにぷるぷるしていて……世の中に、こんなに美味しい物があるなんて、俺はちっとも知らなかった。しかもそれを、誰にも触れられない身体の中に隠していただなんて。貴方は、なんて罪深い人なんだ。飲み込んでしまうのが勿体無い。いつまでも味わっていたい。嗚呼、雅之さん。
一週間身体を構わなかった影響で、ぷるぷるとしたゼリー状になっている甘露の様な甘さを持つそれを、舌の上でじっくり味わい、唾液と撹拌させてから、ごくり、ごくり、と喉を鳴らして飲み干していく。そして俺は、その喉越しすらもじっくりと味わいながら、雅之さんの花芯の竿を舌の動きで扱き上げて、尿道に残った甘い蜜を一滴残らず搾り取っていった。
ジュルッ……じゅぷぷ……っ、ズルル、ずずッッ……
射精を終えたばかりの微痙攣する花芯にべったりと舌を纏わせて扱きながら、睾丸に残った残滓までもを飲み干そうと、二つある睾丸を両方とも入念にマッサージしていき、執拗に花芯全体を舐めしゃぶっていく。すると、雅之さんは、身体をくねらせながら、射精後の敏感な花芯に与えられる刺激から、懸命になって逃れようとした。
「ぁ、ん……もう、出ない、よぅ……やめて、ぁ、」
イッたばかりの敏感な花芯に、執拗に刺激を加えていく俺の頭を股間から剥ぎ取ろうと、一生懸命に雅之さんが頭を押し返している。けれど俺はそれには全く反応しないままに、前立腺をぬくぬくと身体の内側から刺激しながら、芯が無くなって柔らかくなった花芯を、ふやけるまでしゃぶり尽くした。
ちゅぶッ、……ジュルルッッ、ぐぷっ……ぢゅぷ……ッッ……
「ん、やぁ、……あ、……ひっ、ぃ……ひっ…くぅ……っ」
舌と指の動きに合わせて、ひっ、ひっ、と引き攣る様に泣き噦る雅之さんが愛らし過ぎて、いつまでもこうしてしゃぶっていたくなる。けれども俺は、一度目の射精を終えた事により、薄くなってしまった精液も味わってみたいと思っていたから、可愛らしいばかりのその姿をみせる花芯に向ける執着を手放し、再び花芯に芯が通る様にと、徹底してそこに刺激を加え続けた。
ぶじゅぅ……っ、ジュルルッッ、ヂュッヂュッ……ちゅぶ、……グジュ……ッッ
「……ぁ、……やら、……やっ、や、……だめ、もう……や、……ッッ」
すると、やっ、やっ、と甲高い声を上げ始めた雅之さんの腰が、先程以上に、あからさまに引けてきた。恐らく、激しい射精を味わった身体に、再び熱が燻り始めたのだろう。これ以上強い快楽を植え付けられたら、本当に正気を失ってしまう……そう考えて怯え始めても、おかしくはなかった。
すると、口淫を加えていた花芯が、再びゆっくりと俺の口の中で頭を擡げ始めた。歓喜に沸いた俺は、ゆっくりと皮が捲れ始めた亀頭に舌を這わせて、皮の下に隠れている雁首を執拗に刺激しながら、睾丸をぐにゅぐにゅとマッサージし、二度目の勃起を促していった。
「見て下さい、また芯が入ってきましたよ。気持ちいいですか?ふふ、亀頭が弱いんですね。舌先で擽ると、美味しい蜜がたらたら垂れてくる」
「ぁ、……ひ、やぁ………また、また勃っちゃ……ッッやらぁっ、も、…良過ぎちゃう、気持ち良過ぎちゃうからぁ……ッ先っぽやらぁッッ」
亀頭に破り入っている裏筋から尿道口にかけてを舌先でぴちゃぴちゃと愛撫すると、完全に勃起した花芯から、再び、とくとくと先走りが溢れてきた。透明なその蜜の味を存分に味わいながら陰嚢の裏側を手の平で弄り、竿を根元から抜きあげる。そして、完全に射精させるという一点に重きを置いて激しく責め立てていくと、雅之さんの花芯はそれに応える様にして、ビクビクッッと痙攣し、射精の予備動作に入った。
「さっきのは濃いやつだったから、今度は薄いのを飲ませて下さい。貴方の味が知りたい……貴方の全てが知りたい」
「……ぁ、やぁ、……は、ぁ……だめ、もう、さっきより、はや、……ぁ、あっ、……ッイッ……くぅ……ッ」
蓄積された快感が身体の中で渦巻いていた所為か、雅之さんの二度目の射精は思っていたよりも早く訪れた。
「……ぅ……っ、く…ぁ、……ん、…ひぁ……ッッ」
どくっ、どくり……と、まるで身体の奥底から込み上げ、無理矢理搾り出されてきた、と言わんばかりの勢いの無い射精に、俺はどうしようもない興奮を覚えた。亀頭に吸い付いて尿道に残った残滓をずぞぞッと音を立てて飲み干すと、そこにきて漸く俺は、雅之さんの花芯を口内からずるりと取り出した。
「二回目の方が、とろとろしてて濃いくらいでした。えぐみよりも甘さが引き立っていて、芳醇な栗の花の香りがして、いつまでも口の中で味わっていたい……本当に、どこまで俺を煽ったら気が済むんですか?こんな美味しくて堪らない物を飲ませられて、こんな艶やかな姿まで見せられたら、俺、もう……」
自分自身の昂りを抑え込めず、俺は、ベルトを外し、ズボンのチャックを開け、ボクサーパンツの中から怒張を取り出した。すると、大きく反り返り、太い血管が浮き出した、ドス黒く暴力的な見た目のそれがずるんっ、と迫り出してきた。それを目にした雅之さんは、嗚呼、と漏らす様な感嘆をあげてから、もろもろとその場に跪いて、俺の怒張に、激しい快楽を叩きこまれてトロトロに蕩けてしまった眼差しを向けた。
「こんなの、こんなのでされたら、俺……」
「雅之さん……すみません。でも、俺ももう、限界なんです」
びくん、びくん、と、涎を垂らしながら痙攣する凶悪なソレを見て、雅之さんは涙をぽろぽろと溢しながら、過去に与えられ、教え込まれた強烈な快楽の記憶に身を震わせた。
「俺はこのまま、貴方に俺を受け入れて欲しい。そして、貴方の愛を、本当の意味で実感したいんです……どうしても、駄目ですか?」
俺の心の底からの懇請を受けて、雅之さんは、ハッと我に返った様な表情を浮かべた。そして、俺と真っ直ぐに視線を合わせると、覚悟を決めた様な真摯な眼差しを俺に向けた。
「俺は、こんな風に誰かに強く想って貰える日が来るなんて、思ってもみなかった。だから、どうしたらその気持ちに応えられるのか、自分の気持ちにどう向き合っていったらいいのか、分からなくて。だけど、真司には……真司とは、きちんと向き合っていきたいと思うから。本当は、もっと時間が欲しいのが、正直な気持ちなんだけど。それ以上に、俺は君の気持ちに応えたいと思えるから。だから……」
「雅之さん……つまり、それは、貴方も俺の事を?」
穏やかに微笑み、そして、頷く。その僅かな時間で俺は、物の見事に号泣した。
「雅之さん、雅之さん……ッ、俺は、俺は……絶対に、貴方を幸せにします……ッッ」
「これ以上、幸せにしてくれるの?それが、真司の幸せに繋がる?」
「はい……勿論です。貴方の幸せが、俺の幸せなんです……ッッ、だから、誰よりも幸せでいて下さい」
「うん。だから、真司も、きちんと幸せになってね」
穏やかで、幸せに彩られた表情をこの目で視認し、俺は、雅之さんのその身体を、下から掬い上げる様にして抱き締めた。そして、その柔らかな唇をそっと塞ぎ、雅之さんという存在を足元から支えて、祭壇にその身体を押し付けた。次第に深くなっていく口付けを、うっとりと目を細めながら交わしていく。そうして、暫くお互いの存在を確認し合う様な時を過ごしてから、俺は雅之さんの身体を反転させて、祭壇に手をつかせた。
そして、雅之さんが着ていた法衣をたくし上げて下半身を露わにすると、祭壇の上にある水盆に入った聖油をたっぷりと手にとって自分の怒張に纏わせた。そして、目の前に顕になっている生尻をゆっくりと割り開き、その奥にある濃いピンク色した窄まりに、怒張の先端を、ぬちゃり、と押し付けた。そして……
「ぁ、あ゛……ッッぃ、あぁあ……ッッ!!」
自分の腰を深くグラインドし、雅之さんの体内にある、三壁のヒューストン弁を、たった一突きで乗り越えた。
バチンッと、大きくずっしりと肥え太った俺の陰嚢と肉が打つかる激しい音を立てて、最初の一手から、直腸の奥にある直腸S状部に深々と亀頭を潜り込ませる。すると、目の前にいる愛しい愛しい『雌花』を、間違いなく孕ませるという気概しかない怒張の先端から、どくっどくっ……と、大量の先走りが溢れていった。
「あ、く……は、ひい、……ッッああ、やぁ、ん、はげし、まっ、……ああ、ふぁ、んッッ」
恐らく、俺にとっての本日一度目の射精は、量と質、そしてその受精率と、どれを取っても大変に優れた物となるだろう。そんな、有りもしない懐胎への期待感すら感じ取れる最高のポテンシャルを保持した怒張で、容赦無く雅之さんの最深部を掘り起こしていく。祭壇に手をついていた雅之さんは、今や祭壇に縋り付きながら、『雄花』の猛攻をその身で受け止めるだけの存在に成り果てていた。そして、『雌花』として生を受けた人間としての悦びに、ビクビクと全身を痙攣させ、打ち震えていた。
「……ッぁ、……ひ……ッッぃ、……くふ……ッ」
「雅之さん……愛しています。ずっと、ずっとこうしたかった。あの日の一晩で、俺の身体はすっかり作り替えられてしまった。もう俺は、貴方じゃないと、まるで使い物にならない身体になってしまったんです。だから、その責任を、貴方の身体で支払って下さい」
「ぁ……ッ、はげ、し……だめ、奥……きちゃ、やぁ……んッッ、いくぅ、やら、いくいく……くぅ……ッッ」
「奥、凄いですね。きゅんきゅん締め付けて……深くイッてる時の貴方の身体は、本当に格別だ。もっとお腹の奥を開いて。一番深い所まで犯してあげる」
「ぁ゛、あ……あ゛、だめ、らめなのぉ……そこ、はいらないれぇ……ッッ」
激しい猛攻の結果、開き始めたS状結腸の入り口を、先走りをたっぷり纏ったぬるぬるの亀頭で蹂躙していく。そして、ペチャッと閉じていたそこが、じんわりとその入り口の膠着を解き始めたのを見計らうと、俺は雅之さんの腰をがっしりと掴んで自分の身体に引き寄せ、下生えをしっかりと尻たぶに押し当てながら、ぐりぐりと腰を動かし、最深部をこじ開けていった。
「く、ぅん、……あ、あ、やだ、あぁ、あっ、くう、ぁああッッ」
「……は、……あは、入れた。あなたの『子宮』」
みっちりと、それでいて深々と怒張を最深部のその果てに潜り込ませ、その達成感に打ち震える。目の前にいる愛する雌花を、完全に自分の物とした満足感と充足感に浸りながら、恍惚とした口調で事実を告げると、腕の中にいるその人は、強過ぎる快楽に怯え、完全に泣き出してしまった。
「……ひぃ……ぁ、……待って、やだ、そこから出てぇ……もう、君のおちんちんで、俺の身体、これ以上、おかしくしないでぇ。このままじゃ、本当に赤ちゃんができる身体になっちゃうよう」
完全に自分の事を雌花……否、『雌』であると自認した雅之さんは、えぐえぐと泣きながら、いやいや、と頭を横に振った。しかし、完全に腰が抜けているので、口でしか反抗出来ていないところが、堪らなく俺の加虐心を擽る。犯したい。媚肉が捲れ上がるまで、甚振りたい。発情期の雌猿の様な見た目にして、更に犯したい。嗚呼、だけど。
貴方を、本当は、誰よりも何よりも甘やかして、優しくしたいというのも、本心なんだ。
「怖がらないで。大丈夫。もしも本当に貴方が俺の子供を孕んでも、絶対に幸せにするって約束します。だから、このまま貴方の身体の一番奥に出させて」
「やらぁ……出さないで、中にださないでぇ……ッッホントに妊娠しちゃう、しちゃうからぁッッ」
「ふふ、ずっと雌イキしながら俺のをぎゅうぎゅうに締め付けてる人に止めてなんて言われたら、応えなくちゃ……ってなるのが男なんですよ。絶対に子宮の中に、一滴残らず出してあげる。終わったら、よしよししながら、沢山ぎゅってしてあげますからね」
「あ、やぁ、ひぃ……ッッ、おぐ、だめ、らめぇッッ」
ばつん、ばつん、と激しく後ろから責め立てながら、妊娠確率の高い先走りをどろどろに纏わせた怒張で犯し尽くす。しかし、翻弄されているだけだと思われていた雅之さんは、俺が耳元でそうと言い付けると、その言い付け通りに自分の尻たぶを自分の手で押さえつけ、そのまま従順に、ゆっくりと両サイドに開いていった。そのおかげでより深く亀頭をS状結腸に打ち込む事が出来て、俺は雅之さんの『子宮』を、がつがつと激しく穿ちながら、雅之さんに向ける獣欲を惜しみなく解放していった。
「雅之さん、雅之……貴方は、俺の物だ。誰にも渡さない。ずっと、ずっと俺と生きて」
「……ひゃあ、……ッッぁ、あっ、だめ、いく……また、イッちゃ…………ッッぃ、………ふっ、」
子宮を抉る様にして怒張を捩じ込むと、雅之さんは、深く長い絶頂を極め、ピクピクと痙攣しながらその場にがくりとずれ落ちそうになった。そんな雅之さんの身体を支えて、祭壇の上に上半身を戻すと、祭壇を抱え込ませてから、再び雅之さんの身体に覆い被さった。
「飛ばないで。まだまだ『交尾』は終わってないですよ。雌がいっぱいイッてから雄に出されれば妊娠しやすいって話ですから、それまで頑張って……ね、雅之」
祭壇に縋り付かせながら、雅之さんの腰を両手で掴んで固定し、ぱんっ、ぱんっ、ぱんっ、とリズム良く腰を打ち据える。その度に雅之さんは、声にならない喘ぎ声をあげながら雌イキを繰り返し、俺の怒張をギュッギュッ、と締め上げた。そして。
「出すよ、雅之。全部受け止めて、貴方の身体の、一番深い所で」
「アァッ、しんじ、ぃ……ッッ」
「……ッッ、ぁ……く……ッッ」
ビュクッッ!!ビュルルッッ……ドピュッ!!ドクッ……ドク…ッ……ぴゅくっ、ぴゅく…っ……
「……ぁ、……すご、はっ、……はは、意味分かんないくらいに出てる。本当に凄い、貴方の身体を知ったら、俺はもう、他に何も要りません。だから、孕んでよ、ねぇ。雅之さん、雅之……」
最深部にある『子宮口』の先に向けて大量に射精した子種の粘性を高める様に、怒張の先端部を使って執拗に腸壁を捏ね回しながら、腹の底から後から後から湧いてくる懐胎に向けた欲求を、熱い溜息と共に漏らすと、ピクピクと痙攣し、意識を飛ばしてしまった雅之さんの花芯から、本日三度目の精液が迸っていた。祭壇に向けて放たれたそれは、べったりと祭壇の側面を汚し、淡い栗の花の香りをこの荘厳で厳格な部屋一杯に広げている。その、教祖としての厳かな姿をかろうじて失っていないまま、祭壇を前にして、惨たらしく、激しく交尾を繰り返した雅之さんを見ているだけで、俺は強烈な興奮を覚え、背筋がゾクゾクとした。
神への、冒涜。
洗礼を受け、信者となっても、俺の本質は、恐らく大きくは変わらない。きっと俺は、自らが信仰の対象となったこの人を、この祭壇だけでなく、世界中に点在しているだろう祭壇にこの人を縋り付かせながら、何度も何度も、飽きる事なく犯し続けていくのだろう。自らの立場を駆使しながら、この人の隣に侍り、愛を捧げ、その身を支えて、そしてその見返りをこの人の身体に求める、そんな人間になっていく。
まるで、悪魔に魅入られた人生だと思わざるおえない人生だったけれど。俺は、貴方と出会い、結ばれた今という時間があるのなら、あれだけの地獄を経験したとしても、お釣りどころか、いるともしれない神様から、幸福というものをこれ以上なく与えられてきた人生だと思える様になった。
出会いに、感謝を。
貴方に、感謝を。
この素晴らしき世界に、光あれ。
俺達全員が収まってもまだまだ余裕がある『室内』には、全くの静寂が訪れていた。其々が其々の思いを抱えながら教会から薔薇の花園までのおよそ五分ほどの移動時間を過ごし、花園の入り口の前まで音も無く到着すると、御方と『薔薇の八大原種』のメンバーがその室内から完全に姿を消してから、最後の順番を選んでその室内を出た。室内……黒塗りの車体の長いその車の後部座席から花園に掛けての道には黒服の男達が左右対象にずらりと縦に並び、直立不動の姿勢を維持して俺達がその短い道のりを歩んでいく姿を見守っていた。
「さて、ここから先は、お前だけで行け」
花園の喫茶スペースにいち早く足を踏み入れた御方は、俺を振り返ると、何でもない事の様に、俺達が二人きりで話せる時間を用意した。
「いや、でも……ロサ・フェティダさんは、まだ俺と二人きりになりたいとは思っていないと思うんですが」
大見栄を切って花園に足を踏み入れたとは言え、あれだけの口論をしてしまったロサ・フェティダさんと、時間を置かずにたった二人きりになって話をするのは、気が引けてしまうのもまた事実。隣に立つ慎也さんをチラリと伺うも、その視線は合うことはない。どうしたものかと困窮していると、御方はそんな俺を、はっ、と鼻で笑った。
「何を馬鹿な事を。あの子がどれだけお前を待っていたと思っているんだ。あの子は、ずっとお前に対して罪悪感を抱いていた。自分の大切な想いや思想を守る為に、お前を必要以上に傷付けてしまったかもしれないとな。お前が帰ってきたら、これまでの事を謝りたいと、ずっと願い続けていたんだ……早く行って楽にしてやれ。それは、お前にしか出来ない事なんだ」
何かを信仰する人の気持ちは、やっぱりまだ俺には分からない。だけど、分からないからといって、目の前にいる人の思想を否定する資格は誰にもない。それなのに俺はこれまで、ロサ・フェティダさんの御方に向ける信仰心をずっと揺さぶり続けてきた。だから、その反発をこの身に受けるのは当然の事なのに。ロサ・フェティダさんは、それをずっと気に病んでいてくれたのか。
「………分かりました。これから先は、一人で行きます」
「あぁ。しかし、お前には悪いが、話が終わるまで、俺達はここで待たせて貰うよ。話の内容が内容だからな。理解して欲しい」
「はい、分かっています」
教会の未来が掛かっているんだ。話が終わったら、その話し合いがどんな結末を迎えたのか、御方や『薔薇の八大原種』に向けて、その説明責任が生じてしまうのは当然だろう。俺は深く頷いてから、黒服の男の人の案内を受けて、ロサ・フェティダさんの待つという『喫煙室』に向かった。九條さんと新庄さんと話し合いをした時にも使ったその部屋は、その部屋で交わした話は、その後決して外に漏れる事はないという、花園の中でも最も秘匿性の高い部屋だった。
「リリー………」
「………ただいま、ロサ・フェティダさん」
黒服の男の人に扉を開けて貰うと、中にいたその人は、自分の掛けていた席から少しだけ腰を浮かして、消え入りそうな微かな声で俺の名前を呼んだ。俺はそんな、とても心配していた待ち人が、漸く目の前に現れたと言わんばかりの様子を見せる想い人を前にして、何故だか『ただいま』という言葉を選んで口にしてしまった。
そんな俺を見ても、ロサ・フェティダさんはまるで気に留めた様子もなく、口元を両手でそっと押さえながら、目尻に涙を浮かべて、何度も何度も頷いていた。その様子を見て、きっと俺は、ロサ・フェティダさんの案内の後、御方その人と対峙していく中で、何度もその命を風前の下に晒してきたのだろうという事実を悟った。
あれだけの事前準備を整えて、俺の前に立ち塞がってきた御方を相手に、思えば俺は善戦してきたと思う。試合にはまるでならなかった。全てが万事、御方の掌の上の出来事だった。それでも俺は、俺なりの最善の道を歩み、その最善の選択をしていく中で、俺は御方からその存在を本当の意味で認められた。ロサ・キネンシスという、次代の御方の御身を守り、その存在を影ながら支え続ける人間にならないかという誘いまで受け、それだけでなく、自分の使命とも思える大役まで授けられて、俺は自分の命を天秤に掛けながら、漸く自分の居場所を手にしたんだ。
ロサ・フェティダさんという、大切な人の隣という、居場所を。
「……僕はずっと、君をあの人の元に行かせてしまった事を、本当はずっと後悔していたんだ。だから、君がこうして僕の前まで来てくれたのが、何よりも嬉しい。無事に帰ってきてくれて、ありがとう」
その、自分の涙を手を使って拭いながら告げられた心からくる『ありがとう』に、俺の心臓は鷲掴みにされた。誰かに寄せる愛しさが死因に繋がるとしたならば、俺はいまきっと、この人の涙ぐみながら溢した笑顔と感謝の言葉をもってして、この命を絶たれていた。
「ロサ・フェティダさん。俺は、どうあっても、貴方の事が好きです。貴方が御方を、他の誰かを愛していても、その気持ちは変わらない。だから、貴方がもしも、人よりずっと辛い道を歩んで行くというのなら、俺は、誰よりも近くにいて、それを支えていきたい」
「……聞いたんだね、僕が、これからどんな道を歩いていくのかを」
肯定を示す様にして頷き、俺はロサ・フェティダさんの隣に座ってから、自分の涙を拭って少しだけしっとりとしたその両手をそっと取った。
「教会の暗黒時代を知る俺にとって、貴方を御方の手から救い出すのが俺の目標でした。そして、自分の道を己が手で切り開き、御方から自立して行って欲しいと考えていた。だけど、御方の命が、あと僅かだと聞かされた時、俺は漸く貴方の絶望を知った。愛する人が、信仰の対象が目の前からいなくなってしまう。そんな現実を前にして、貴方があんな風に意固地になってしまうのは、当然です。そして、何より次期御方候補となった貴方のその責任に対する重圧が、貴方の視野を狭くしていってしまったのは、とても理解出来ます」
愛する人の、目の前に転がる『死』という絶望を前に、どれだけの正気が保っていられるだろうか。そんな人間の心が悲鳴を上げて、あんな風に取り乱したり、自らの狂気性をコントロール出来なくなるのは、当然の結果だ。信仰する人間として、これから先、何を頼りにして生きていけば良いのか分からず、しかもその対象から後の事を任せたなどと言われたら、その道にしがみつくしか選択肢は無いだろう。
御方からの話によれば、ロサ・フェティダさんが次期御方候補者であると聞かされたのは、ここ一週間の間の出来事だったそうだ。それなのに、俺は帰ってきて早々に、この人を心理的に徹底して揺さぶりをかけてしまった。なんて残酷な真似をしてしまったのか、と後悔はしたけれど、あの話をしなければ、俺はきっと御方と対峙する事は難しかっただろう。だから、何が正解だったかは分からなくても、今こうして心も身体も向き合ってくれているロサ・フェティダさんには、深い感謝しか感じていなかった。
「だから、貴方が御方亡き世界を生きていく為に、次期御方として生きる事がどうあっても必要な道なのだとしたら……もう、俺に貴方を止めるつもりはありません」
「リリー……僕は、御方の為に生きる事を決めていた。だけど、その道標はいつか突然消え失せてしまうかもしれないと聞かされて、激しく動揺した。でも僕は、あれだけ憎んでいた君が目の前に現れた瞬間、言葉には表せない深い安堵に包まれてしまったんだ。そして、その人柄に触れていく中で、自分が御方として生きていくその傍に君がいてくれたら、どれほど心強いだろうと、願ってやまなくなってしまった………こんな僕を、君は滑稽だと笑うかな」
力無く笑うロサ・フェティダさんの腰に、そっと手を回してから、自分の身体に引き寄せる。そして俺は、握り締めたその人の手を、自分の手で優しく外して、その人の頬を指先でゆっくりと辿ってから顎を引き、その唇をそっと重ねた。唇同士を重ね合わせるだけのキスを終わらせると、俺は至近距離からロサ・フェティダさんの潤んだ瞳を見つめた。
「御方の話してくれた夢の話を聞いた瞬間、現在の教会の在り方について持っていた、ネガティブな意識は変わりました。俺は、御方のその夢を引き継いで、自分の母親を、母親の様な困っている人間を、救いたい。そして、何よりも、誰よりも側にいて、貴方の存在を支えられる人になりたい。だから、俺を貴方の側に置いて下さい」
「ロサ・キネンシスになる決意を固めたんだね?」
「はい。俺は、貴方にとって誰よりも頼りになる懐刀になりたい。貴方を癒やして、励まして、慰められる存在になりたい。だから、貴方が御方となられた暁には、俺に洗礼の儀を行って下さい。貴方に、俺の生涯と、愛と、信仰を捧げます」
御方は、幹部が信者でなかったとしても別に問題はないと話していたけれど、そんな話が通用する訳がない。俺という存在がロサ・フェティダさんの足枷になってしまうくらいなら、俺はその可能性を徹底的に潰してみせる。
「無理に僕を信仰なんてしなくても良い。だけど、気持ちは本当に嬉しいよ。僕で良かったら、御方へとその身を移した時には、君を真っ先に洗礼すると約束するよ」
「ありがとうございます……あ、そうだ。ロサ・フェティダさん、俺、ずっと尋ねたかった事があって」
なぁに?と言わんばかりに小首を傾げる姿が胸を打って。俺は、この人の唇を再び塞いでみたいという強烈な欲求をグッと抑えた。
「ロサ・フェティダさんが御方になられたら、字名は消えてしまいますよね?だとしたら、俺はこれから貴方を、何と呼べばいいんでしょうか」
「ああ、確かに、そうなった場合は、困ってしまうよね。なら、他の『薔薇の八大原種』達の様に、僕の本当の名前を呼んだらいいよ」
「本当の?……つまり、本名ですか?」
ロサ・フェティダさんの本名は、間違いなくあるのは分かっていたけれど、それを聞かされ、あまつさえ呼んでよしと本人から定められると、一気に気分が高揚する。だから、俺は、自分自身が格好悪いと分かっていながらも、前のめりの状態で、ずい、とロサ・フェティダさんに詰め寄った。
「是非、是非知りたいです。因みに俺は、その名前を呼んでも大丈夫なんですよね?」
「ふふ、勿論。だけど、あまり周りに示しがつかないから、その場の空気が砕けていたり、他に人がいない時にね?」
俺は了承を告げる為に、ぶんぶんと頭を縦に振った。それをくすくすと鈴を転がす様にしてロサ・フェティダさんに笑われても、全く気にはならなかった。
「僕の……俺の名前は、雅之。昔は一人称を俺にしていたんだけど、御方から、そっちの方が可愛いからと言われて、僕に直していたんだ。だけど俺は、君の前でだけは、より自然体でいたいと思っているから……それを元に戻すと言ったら、君は変に思うかな?」
俺に向けて探りを入れてくるロサ・フェティダさん……もとい、雅之さんは、おどおどしながら、俺の顔色を伺ってきた。だから俺は、雅之さんを安心させる様にして、にっこりと笑った。
「貴方が、自分をどんな風に呼んでいようとも、俺の気持ちは変わりません。それに、俺を選んで自然体でいたいと思ってくれたなんて、俺からしてみたら、これ以上ない喜びです。だから、何も気にせず、自分らしくいて下さい」
「ありがとう。これはね、俺からしてみれば、凄い前進なんだ。リリーに……真司に会ってから、俺の積極性だとか、色んな気持ちの変化があって。だから、御方の意に反した行動を取るなんて、昔の自分からしてみたら、考えられない事なんだよ。それだけ君の存在は、俺の中でとても大きな存在なんだと思うんだ………だけど、こんな風に言われたら、迷惑だよね?俺はずっと君に辛く当たっていたから」
これまでの俺に向けてきた言動や行動を通して、雅之さんの心には深い罪悪感が芽生えていた。それだけ周囲に向けるこの人の視界が広がりを見せているんだという事実、そしてそれを成したのが自分だという事に、俺の胸は歓喜の渦に巻き込まれてしまった。
俺の行動は、無駄じゃなかった。ちゃんとこの人に届いていたんだ。そして、この人にとったら一大事でしかない、御方に対する小さな反抗までさせられるに至った。これから先もこうして、御方に向けてきた狂信にも似た感情が収まりを見せていけば、この二人は以前の様な健全な友達に戻っていけるかも知れない。あと、半年しか時間は残されていたいけれど、せめて二人がなんの気鬱も憂いもなく笑い合える時間が少しでも訪れたらいいなと思った。
「雅之さん。俺は、どんな貴方も受け入れます。だから、心配せずに、どんどん自分らしさを思い出したり、開拓していって下さい。恥ずかしがったりしても、例え失敗したとしても笑ったりはしません。俺に、貴方の本当の姿をゆっくり見せていって下さい」
「真司……俺、君にそんな目で見つめられたら、頭が君の事で一杯になっちゃう。だから、もうそんな目で見ないで……」
気恥ずかし気に視線を逸らし、頬をうっすらと桃花色に染め上げていく雅之さんが、堪らなく愛おしくて。俺は雅之さんの身体を強く抱き締め、驚きの表情を浮かべた雅之さんの唇に噛み付くようなキスを送った。夢中になって激しく口内を舌で弄りながら、ゆっくりと長椅子にその人の身体を押し倒していく。そんな俺を、焦った様子で止めようとする雅之さんと俺との間で、僅かな攻防があった。
「雅之さん……ずっと、ずっと会いたかった。貴方に触れたかった、キスがしたかった」
「あ……っ、待って、まだ、みんなが外に……だから、もっと静かな場所で、二人きりになれるまで、待って」
言葉を返すと、静かな場所で二人きりになれる環境さえ整えば、雅之さんは俺が肌に触れても良いと言った様なものだった。言質は確実に取ったので、顔の全体に唇を音を立てて落としてから、雅之さんを腕の中から解放した。
因みに、俺の股間はどうしようもなく反応してしまい、ズボンの中で大変な状態になってしまっている。それにしても、キス一つで、こんなにも身体が反応してしまうだなんて。御方に触れられた時は、全く微動だにしなかった物と同じ物とは到底思えない。やっぱり、俺はもう、この人じゃないと反応しない身体になってしまったんだなと、しみじみ思う。だから、俺の身体をこんな風にしてしまった雅之さんには、悪いけれど責任をとって貰うしか無い。
貴方の為に、俺はこの身体と魂の全てを捧げる。そして貴方を、この生涯を賭して支え続ける。だから、その代わりに、貴方はその愛を、この俺に。
身体の熱が治まり、下腹部の状態もなんとか落ち着きを見せてから、二人してその部屋を出た。すると、喫茶スペースは御方と『薔薇の八大原種』のメンバー達がいて、それぞれに一人ずつ給仕係が付き添っていた。薔薇や薔薇の蕾ではなく、黒服の男達だ。どの人物も見目麗しい美男子達で、俺はその中に、この花園でお世話になった事のある人物を見つけ、小さく声を上げた。
「あ……ロサ・ラエウィガータ先輩」
しかし、ロサ・ラエウィガータ……時任 仁という先輩は、静かな笑みを口元に浮かべる以上の反応は見せなかった。薔薇の中でも特別優秀で、誰からも信頼されていた人徳に溢れていた先輩との再会に嬉しい気持ちにはなったけれど。先輩は、いまは慎也さんの給仕をする為にこの場に存在しているようだ。だから、不躾に空気を読まず声を掛けてしまって申し訳ない事をしたな、と思った。
「さて、話は済んだ様だな。それで、結局どんな話に落ち着いたんだい?」
紅茶を優雅な仕草で飲んでいた御方が、出し抜けにそんな話を始めたので、この人は、もしかしたら割とせっかちな人なのかも知れないな……と思いながらも、雅之さんの斜め後ろに立って、御方と『薔薇の八大原種』のメンバー達に向かって、自分達の決断がどの様なものであったのかを説明する雅之さんの話を黙って聞いた。
「成る程、つまり、ロサ・フェティダは、気持ちを固めたという事だね?」
「はい……至らぬ点は沢山あるとは思いますが、御方の気持ちに報いて、精一杯努力し、勤めていく所存です」
「それは僥倖。ならば、今日をもって、俺は自分に課せられた任を解く」
その決断を受けて、周囲の『薔薇の八大原種』のメンバー達にも、動揺が走った。雅之さんに至っては言葉を失っていて、ぼんやりと御方の顔を眺めているばかりだ。放心状態、といった表現がここまで似合う反応を見せられてしまうと心配で仕方がなくて、俺自身の動揺なんてどうでも良くなった。
慌てて、雅之さんの腰に手を回し、肩にもそっと手を置いて、『大丈夫ですか?』と声を掛ける。すると、動揺から立ち直った『薔薇の八大原種』達から四方八方と視線を浴びて。衝撃的な発言をした御方本人ではなく、俺達に向けて視線が集中していった。
「おや、もうその子のナイトを気取っているのかい?ふふ、分かりやすい奴め……まぁ、良い兆候だと思って、見逃してやろう。だが、今後は謹んだ方が身の為だよ。その子とお前自身の為にね」
御方からの率直な苦言に、その場にいた『薔薇の八大原種』の全員も同意する様に頷いた。それを受けて、俺は自分自身の感情に対する管理不行き届きに、口惜しい気持ちを抱いた。
今この場で雅之さんが心配になったとはいえ、すぐにそれを行動に起こしてしまう様では、これから先が思いやられてしまう。俺の取った行動に対して、不安を覚える信者や教会関係者、これから先に出会う人々に『本当にこの教祖に着いていって大丈夫なのか?』という疑念を抱かせてしまうかもしれないからだ。それは、まず間違いなく、教会にとって、多大なるマイナス要因になるだろう。
雅之さんを心配して、今すぐに駆け寄って抱きしめたいと思っても、俺はそれを我慢しなくてはいけない。辛い事や悲しい事に傷付いてしまった雅之さんを慰めて癒すのは、その日の仕事が終わって、プライベートな時間が訪れてから。それでいて尚且つ、人目の付かない場所を選んで行動に移していくしかないんだ。だから、俺は素直になって、『以後、気を付けます』と頭を下げてから、再び雅之さんの斜め後ろの立ち位置に戻った。
「ようは慣れだ。失敗をどれだけ自分の力にしていけるかも、これから先に掛かっている。だから、気に病む事はないが、今日の事はしっかり反省するといい」
「はい、すみませんでした、御方」
「出雲だ」
「…………は?」
「それが俺の本名だ。これからは、俺の吉川 出雲という本名を持って、俺を出雲と呼ぶがいい。みんなも、それでいいな」
異議なし、と言わんばかりに、『薔薇の八大原種』達が全員頷いた。それを受けて俺は、こんなにもあっさりと御方の襲名の儀が滞りなく進んでいくという事実に、呆気に取られてしまった。
「えっと、つまりは、その……雅之さんは、もう御方その人になられたと、そう言う話ですか?」
「そうだ。だから、ロサ・フェティダとしての任も、それと同時に解かれたと考えていい」
「何か、特別な式典をやったりとか、他の教会関係者の御目通りですとか、そんな話は?」
「それはこれから先の話だよ。ただ、式典は執り行わないし、御目通りもごく僅かの人間だけに限定する。はっきり言って、雅之のやる事は、とても少ないんだ。君臨せずとも統治せず、というだろう?自慢ではないが、御方としては、いままではそれを地でやってきていたし、そんな姿を、この子は誰よりも近くで見てきた。だから、目先にある不安材料といえば、この花園に対する問題を今後どうしていくか……まぁ、そんな所かな」
「花園の、問題?」
この、どの角度から見ても不測が見当たらない花園に、一体どんな問題があるというのか分からず、鸚鵡返しする。
「この場所は、綺麗に統治され過ぎていた。教会のお膝元という場所である以上、それは然るべき状態ではあったのだが、その門扉を潜り抜け、薔薇の蕾として採用する人間は、ごく僅かだった。俺の様な人間達を集め、癒やし、社会に羽ばたかせる、そのシステムは賞賛を受けるに値すると考えていたが。それに苦言を呈してきた人物がいてな」
「それは、誰なんですか?」
「そこにいる、雅之だよ」
俺は、驚きに身を固めてから、直ぐに意識を取り戻し、隣に立つ雅之さんに視線を向けた。
「まぁ、この一週間、いや、二カ月と言えば良いか。お前がその子に与えた衝撃は、俺達の想像以上に強かったんだろう。花園を、もっと広く人材を集める場所にしていくべきなのではないか、と力説されてしまってね。お前が居なくなってからのこの子は、誰よりも花園に対する未来を心配する様になっていったんだ」
性的マイノリティの問題に苦しむ優秀な人材は、何も男性だけには限らない。女性の中にも問題を抱えて、本来持つその優秀さを発揮できずに悩み苦しんでいる人達はいる。そんな人間にも、花園の恩恵を受ける機会を与えてはどうか。雅之さんは、そう出雲さんに向かって力説したという。雅之さんが、出雲さんにそんな風に進言したり、ある意味で抵抗したりしていただなんて。そんな様子、俺の前では一度だって見せた事はない。
なら、昼間にした、あの俺達の口論は、もしかして。
「雅之さん、貴方は……俺を試してくれたんですね。そして、御方も、時には失敗だってしてしまう同じ人間である事を、自分と同じ様に認めてくれる存在である俺に、いずれは自分を支えて欲しいと思っていてくれた」
この人は、俺が今まで出会ってきた人間の中でも、人一倍優しく、傷付きやすい人だ。だからこそ、御方として誰よりも支配者層のトップとして直走ってきた出雲さんも、一人の人間であり、失敗をしたりするのだという事実を知った俺に、失敗あり気でついてきて欲しいと願った。予防線を張るのとは違う。失望して欲しくないからとも違う。きっと、この人は。
俺の好きになった、この人は。
「貴方は、貴方です。肩書きが御方だから、貴方に着いていくんじゃない。それはきっと、『薔薇の八大原種』のメンバー達も、同じ気持ちだと思います。だから、完璧で失敗などない御方の、これまで積み上げてきた常識に風穴を開けて未来を切り開いて行こうとする貴方を、俺は、この先もずっと支え続けていきます」
誰よりも大切な人が築き上げてきた『完璧に管理された世界』の常識に風穴を開け、花園を始めとした事業の改革に乗り出す。そこに掛ける強い信念を見て、俺は雅之さんが、本当はどれだけ強い人なのかを思い知った。
自らが定める神に向けて、『貴方は間違っている』と言える強さを持つ雅之さんなら、きっと、御方だった出雲さんと同じく、いや、それ以上に、より良い治世を果たしていけるだろう。
俺は、この人を、誰よりも誇りに思う。
「なぁに『薔薇の八大原種』代表みたいな顔してんだ、お前。しかも、言いたかった事全部言われたのもムカつく」
慎也さんが、ぶーぶーと文句を言ってくる。それを右から左に受け流して、俺は再び雅之さんに視線を移した。
「雅之さん、いえ、御方。改めてお願いがあります。俺に、洗礼の儀を執り行って頂けませんか?」
これから先、俺が『薔薇の八大原種』の一員として生きていく為には、やはりどう考えても洗礼の儀は切っても切り離せない。だとしたら、俺は直ぐにでもそれを行なって、速やかに雅之さんの隣に位置したいと考えていた。
「本当に、後悔はしないんだね?」
「はい。俺は貴方の隣で生きていきたい。貴方を支え、自分の使命を果たし、貴方が進むべき道を切り開く手伝いをしていきたいんです」
「………分かったよ。もう、俺から言う事はない。なら、これから直ぐに、君の望みを叶えてあげる」
言われている意味が分からなくてキョトンとしていると、雅之さんがその場で指をパチン、と鳴らした。すると、黒服達の手によって喫茶スペースのテーブルや椅子が全て傍に追いやられ、その床に、真四角に近い線が引かれた不思議な空間が生まれた。
「最大幹部である『薔薇の八大原種』は、洗礼の儀を全てこの地下にある祭壇の前で行う。蓮さんは、洗礼の為に使う一式を全部用意したままここに来てくれたから、後は俺達で下に向かえば、準備は完了だ。この下に向かえば、君はもう後戻りは出来ない。それでも進むかい?」
信者となり、御方の側近中の側近である薔薇の一輪『ロサ・キネンシス』として生きる覚悟はあるか?と問われる最後の質問に、俺は、逡巡する間もなく、頷いた。それを見た『薔薇の八大原種』のうちの誰かが突然吹き出し、『あいつ、やっぱりスゲェわ』といってしみじみと感嘆していた。きっと、慎也さんだと思う。同意を示す様に他のメンバー達も頷いていたり、感心しきっていたり、様々な反応を寄せていた。なんだか、気恥ずかしい気持ちになったから、俺はくるっと後ろを振り向いて、『雅之さんと二人きりにして下さいね。また笑われたら困るんで』と早口で捲し立てた。
「邪魔なんかするかよ。俺達は、ロサ・ムルティフロラのバーにいるから、お前達も後で来いよ。真司は、洗礼の儀が終わったら、母親に付き添って病院に行け。病院の様子を聞いたり、どんな環境なのかをその目で見て、これから先の仕事に生かせる様にするんだ。お前が戻って来るまでは酒盛りしているから、ゆっくり見てきな」
「ありがとうございます、出雲さん」
気にするな、と言った様に軽く顔の前で手を振る出雲さんに一礼をしてから、俺は、祭壇があるという開け放たれた地下室へと足を進めていった。雅之さんは、先に祭壇の前に佇んでいて、軽装ではあるけれど、教祖がその身に纏う様な服装に身を包んでいる。その姿が、薄明かりの中、とても荘厳に見えてしまって。ついさっき御方を襲名したばかりの人間とは全く思えないほど、威風堂々としていた。
人払いは全て終わらせてあり、地下に通じる扉も完全に封鎖され、中の様子が外から確認出来ない様になっているけれど、通気口はあって、息苦しさは全く感じない。だから、完全なる密閉状態ではないのだと胸を撫で下ろしてから、祭壇の前に立っている雅之さんの元へと進んでいった。
荘厳な造りをした祭壇には、洗礼の儀の為に使うだろう全ての準備が整っていた。だから、それを雅之さんは一人で上手く扱えるのだろうかと少しだけ心配になってしまったのだけれど、しかし、それは全て杞憂に終わった。雅之さんは、洗礼用に用意されていると思われる文言を、瞳を閉じながら歌う様に口にして行き、綺麗な装飾が施された長剣を踊る様な仕草で使用してから、跪いた俺の肩にその長剣の背を当てて、そっと呟いた。
「汝、谷川 真司を、御方の名の下に我が教会に迎え入れる。異議はないか」
「ありません」
「では汝の額を、これに」
言われて、俯いていた顔を上げ、目を閉じた。すると、水盆の中に用意されていた聖油が、額に指先で一筋引かれた感覚を覚えた。
「これで、君は我が教会の信徒となった。特に変わった感覚はないだろうけれど、君という存在は、これから更に教会からの恩恵を得られるようになる。それで、これからどうするつもり?」
「……まだ、何をどうしていけば分からない状態です。出雲さんの夢を引き継ぐとは話しましたが、具体的な話も、まだ何も」
「あの人は、ああ見えて忙しいからね。これから忙しくなって浮き足立ってしまう教会が落ち着くまでは、放って置かれるかも」
「はい、そんな気はしていました」
肩を竦めて溜息を吐くと、雅之さんは俺をくすくすと笑ってから、ある提案をしてきた。
「真司さえ良ければなんだけど……それまで、花園の改革を進める俺の手伝いをしてくれないかな?勿論、お願いする以上は、なんらかの見返りは用意するつもりだよ」
花園を、男女問わず人材を募集し、本当の意味での人材の派遣に乗り出すというビジョンを描いている雅之さんは、俺にそんなお願いをしてきた。俺としては雅之さんの仕事を手伝うなんて、一緒にいながら雅之さんを支えられて尚且つ感謝までされるという一挙両得な提案でしかなかったから、見返りなんていりません、と答えようとしたんだけど。その寸前で、はたりとある考えが頭の中に降ってきた。
その考えは、俺にとって、どこまでも魅力的な見返りで、もし断られたらどうしよう、だなんて考えたけれど。駄目で元々だと思って、ままよ、と口にした。
「もし良かったら……俺達、一緒に住みませんか?」
「………え?」
「あの、すみません。下心が全くないというのは流石に嘘なんですけど。俺、真智さんのバーの二階を間借りしている状態で。こうして教会内で仕事をしていくなら、もうあそこにずっといる訳には行かなくなってしまうんです。だから、他に住む場所を探していて……」
本音を言ってから言い訳をしていくという、情け無いを形にした様な有り様の俺の声は、次第にか細く微かな声になっていった。そんな俺を見て、雅之さんは、くすっと笑ってから、何でもない様な……そんな口調にしようと努力しているのが見え見えの反応を見せながら、頬を薔薇色に染めて、俺の提案を受け入れてくれた。
「でも俺、誰かと一緒に暮らした事が無いから、色々不便を掛けてしまうだろうけど、いいかな?」
「そんなの、何の問題になりません。だけど、本当に?」
「…….うん。真司なら、俺、いいよ」
その場で小さくガッツポーズをしてしまうのは、どうあっても止められなくて。そんな俺を見て、雅之さんは照れ臭そうに笑った。
「なら、住む場所を探さなくちゃね。俺のワンルームは、二人で生活するには狭過ぎるから」
「教会は便宜を図ってくれないんですか?」
「俺は、極力そうした方法を取らないできたんだ。自分の事は自分でやって、自立した人間になりたかったから。御方の負担になりたくなかったしね」
「そんな……」
誰よりも深い信仰を御方に捧げ、質素を絵に描いた様な生活を送りながら、教会からの恩恵をその身に受けるのは積極性をもって拒否して、慎ましく生活している雅之さんを見て、俺はどうあってもこの人を支え、守っていこうと強く心に決めた。その瞬間、その人に対する気持ちが堪えきれなくなって。俺は、軽装とはいえ教祖に相応しい格好をしている雅之さんを、ぎゅっと力強く抱き締めた。
「もっと、自分を大切にして下さい。貴方は、御方として生きていくんだから、それに見合った生活をしていくべきです」
「御方であっても、自分の生活スタイルを変えようとは思っていないんだ。だから、真司に贅沢な生活をさせられないのだけが、心苦しくて」
「俺なんて気にしないで下さい。貴方の隣に居られれば、貴方を誰よりも近くで支えられるなら、俺は他に何もいりません。そこに、貴方の愛があれば、尚更……」
背中に回していた掌で、するするとその上半身を撫で上げていく。左手はすっかり礼服の中に入り込んでいて、薄い生地の上から、臀部をじっくりと撫で回していた。
「あ、……っ、まって、真司、こんな場所で……」
「可愛いお尻ですね。いつまでも撫でていたいくらいに……ねぇ、雅之さん。俺との夜を思い出して、ここが疼いたりしませんでしたか?」
愛するその人に触れていくうちに、次第に息も荒々しくなり、興奮で、頭が馬鹿になっていく自覚があった。俗世間から完全に秘匿された神聖な場所で、こんな不埒な行為に及ぶなんて、と雅之さんは全身から焦りを生じさせていたけれど。俺はそんな雅之さんに迫っている自分自身を、どうあっても抑えきれなくなっていった。
「……っ、や、お尻の穴、指でぐりぐりしないで……」
「腰、動いてる。ねぇ、雅之さん。本当は、俺の事をどう思っているんですか?出雲さんが言っていました。貴方は、何とも思っていない相手に、あんな風に身体を許す人ではないと。そして、俺に身体を教え込まれたら、もう他の男や道具なんかじゃ満たされないって。教えて雅之さん、俺に、貴方の身体と心の秘密を」
「ぁ……っ、真司、やめて、許して」
「………一人で、した?」
秘孔の入り口を指先でカリカリと布越しに引っ掻きながら耳元で囁くと、涙を目尻に浮かべて顔を真っ赤に染め上げた雅之さんは、ふるふると首を横に振った。そんな必死で自分の潔白を証明しようとするその人の身体を、じわじわと祭壇に押し付けると、俺は、雅之さんの気が逸れた所を見計らって、水盆に用意されている聖油を右手の中指に纏わせた。
「じゃあ、俺以外の男とは?」
「……ッぁ、あっ……ッや、ぁ、ん……ッ!してなぁ……ひぃ、ぁ、あっ?!」
邪魔な布を取り払い、聖油を纏った中指を、丸出しの秘孔に、ぬぐぅ、と第二関節まで一気に挿入していく。そして、そのまま、聖油の滑りを利用して秘孔の拡張に移っていった。指に聖油を再び絡める為に一旦指を抜き出し、止めてくれたと勘違いし、ホッと息を吐くその人の安堵を打ち砕く様にして、二本に増やした指で、再びずっぷりと秘孔を蹂躙していく。そして、本格的な交配に移ろうとしている俺の意思に漸く気が付いた雅之さんは、一気に慌てふためきだした。
「だ、だめ……こんな場所ッ、ふしだらだ、絶対に駄目……やだ、本当にやめて、真司ッ」
「静かで、二人きりになれる場所が良いって言ったのは、貴方じゃないですか」
「そんな、ちがうの、……ここは、神聖な……」
「そう、神聖な場所です。だからこそ、愛し合う二人が生涯の愛を誓う上で、これ以上ない場所だとは思いませんか?」
「だめ、俺は、……こんなの、絶対に……ぁ、あっあっ……やだ、そこッ……くぅ、んっ」
懸命に抵抗を図る雅之さんの、男の泣きどころである前立腺の場所を、たった一回の交配で覚えきってしまっている俺は、太腿の間に腕を突っ込み、二本の指で雅之さんの前立腺を激しく責めたてた。
「本当にここが弱いですよね。俺のでも、後で沢山突いてあげる。ねぇ、おちんちんの様子はどう?……気持ち良くて、興奮して、可愛くなった?」
「あ、……だ、やめて……あん、みない、でぇっ」
股間を隠している法衣を剥ぎ取る様にして、雅之さんの恥部を露出させる。するとそこには、一週間前に見た時と変わらない、可愛らしい花芯がピクピクと震えていて。先端から蜜をたらたらと溢しつつ、きちんと勃起している愛らしい姿を見せた。
「あぁ、後ろだけで、こんなにして……本当に、可愛らしい人ですね」
「やだあ、……じろじろ、見ないで……ッ」
「ふふ、そんなに恥ずかしいなら、貴方からは見えない様に、食べちゃいましょうか」
そう言って俺は、祭壇に後ろ手を付いている雅之さんの恥部が顔の前に来るまでしゃがみ込むと、陰毛の産毛すらないつるんとした花芯を、一気に根本まで頬張った。口内に溢れる、先走りの蜜が俺の頭をすっかりと興奮させる。
嗚呼、ずっとずっと、この味が恋しかった。
「ぁッ、アン……だめ、たべないで、お願い……おちんちん、もぐもぐ、しないで……ッ」
なんて愛らしい。快楽に侵されて、頭が幼児化して子供の言葉遣いになってしまうのは、どうやらこの人にとってデフォルトの様だ。確かに、もぐもぐという表現がどこまでも似つかわしいくらいに、舌全体を使って花芯を丸ごと口内で転がしていっている。しかし、本当に胸が苦しいくらいに可愛い。どこまで俺を煽ったら気が済むんだ。俺は鼻息荒く花芯にしゃぶり付きながら、二本から三本に増やした指でごりごりと前立腺を責め立てた。その刺激を受ける度に雅之さんの花芯の先からは、とくとくと先走りが後から後から漏れてきて、俺の頭を完全に使い物にならなくしていった。
「……っひ、やだ、喉の奥までじゅるじゅるしないで……っ、おねがい、でちゃう、このままじゃ、この場所を、汚しちゃうからぁ……ッ」
「なら、選択して下さい。このまま俺の口の中に出すのと、手コキして祭壇に向けて射精するのと……貴方は、どちらがいいですか?」
驚愕に目を見開く雅之さんに、俺は、にっこりと口元に笑みを浮かべ、雅之さんに残酷な二択を迫った。
「俺の口の中がいいなら、そうお強請りして。それが嫌なら、祭壇に向けて射精する事になりますよ」
「やめ……ッ、それだけは、だめ、絶対、だめぇ、ぁ、あっ、ひん……っ」
「嗚呼、手コキもこんなに気持ち良いんですね。ほら、可愛らしいピンク色の亀頭が、ぴくぴくしてる。このまま黙ったままでいると、祭壇に向かって本当に出ちゃいますよ」
「くふ、……ッぁ、あ、やめ……いう、言うから、……もう、手を、うごかさないで……ぇッ」
その言葉を受けて、根本から亀頭にかけてまでをぬこぬこと手淫していた手をぴたりと止めると、俺は雅之さんの顔を下から見上げながら、自分の中にある愛しさを言葉に乗せるようにして『言って』と促した。すると、全身を真っ赤にした雅之さんが、震える声で、『のんでください』と喘ぐ様にして、俺にお願いをしてきた。
「いまの貴方は、俺の頭が変になるくらいに凄く可愛らしいですけど。何を、どうやって、どこから出るソレについて飲んで欲しいって言及しないと、お願いのうちに入りませんよ?申し訳ないですが、理解が足らない俺の為に、もっと丁寧にお願いして貰えませんか?」
すると、俺の指摘を受けた雅之さんは、唇をキュッと噛み締めて、悔しさと恥ずかしさから、ポロポロと涙をこぼしながら、はくはくと口を開閉し、辿々しく俺に『お願い』をしてきた。
「おれ、の、ッおちん、ちん…を、君のお口の中でもぐもぐして、……先っぽから出る、のを、ごっくんして、くださ……ぃ……」
現在、教会の最高権力者であり、御方として今後その力と権力を治世の為に惜しみなく奮っていくだろう尊い身である雅之さんが、こんな何も成した事がないただの若造である俺の要求に、一生懸命に応えてくれている。だからこそ、これ以上ない愛しい想いを抱きつつも、それと同時に、言葉には尽くせない迄の愉悦を感じた。紛れもない下克上を果たしている現実と、どこまでも掻き立てられる庇護欲とが胸の中で綯交ぜになって、その全てが比類なき愛しさという感情に、余す所なく変換されていく。
嗚呼、貴方以外に、俺を満たしてくれる存在など、ありはしない。
「俺の為に一週間溜めておいてくれた濃厚なザーメン、一滴残さず俺の口に出して下さい。俺はそれを貴方からの愛の結晶だと思って、じっくり味わい尽くしますから」
俺の心の底からの本心という名前の言葉の数々に、どうにも弱いらしい雅之さんは、目をギュッと瞑って、激しい羞恥心に耐えていた。そんな、どこまでも愛らしい姿を見せる雅之さんに、俺の愛心は擽られ、一分一秒前よりも、更に深くなっていく雅之さんへの愛を、惜しみなく本人へと還元していった。
「蜜袋まで美味しい。まるで、極上の飴を舐めてるみたいです。ずっとずっと、口の中で転がしていたい……」
「……ぃっ、あ、……くふ…ぅっ……やっ、はずかし……口の中で、転がさないで……っ」
「嗚呼、雅之さんの匂いがする。興奮で頭がくらくらします。雅之さん……雅之さん……愛してます……」
二つある睾丸を口の中でにゅくにゅくと舐め回しながら、花芯の先端から止めどなく溢れてくる先走りを掌全体に纏わりつかせ、上下に花芯を抜き上げていく。そして俺はそれをしながら、鼻頭を恥部に擦り付けて、法衣を重ね着し、更に褌まで付けていた事で蒸れてしまったソコの匂いを、思う存分に嗅ぎ続けた。
祭壇についた手や、辛うじて踏ん張っている足がガクガクと震えて、自然に俺に向けて恥部を晒していく雅之さんに、ときめきが止まらない。自分自身の大切にしている物を守る為、羞恥心に耐え続けるその人は、ひたすらに俺の中にある加虐心を煽った。それでも雅之さんは、身体に与えられる快楽にはどうしようもなく弱くて。自分の意思とは無関係に俺を求めて来る雅之さんに、際限の無い愛しさが込み上げて来る。
その情動に身を委ねた俺は、雅之さんの胸の飾りに布越しに手を伸ばし、グミみたいに柔らかなそれを爪の先でカリカリと引っ掻いた。そして、前立腺を三本挿入した指の腹で執拗に押し潰しながら、花芯全体を頬張って口を窄め、舌をべったりと裏筋に這わせて、頭を前後に動かし、じゅるじゅると音を立てて花芯を貪っていった。
「まっ……ァ、ッいい……だめ、ぜんぶ、一緒……ひぃっ……」
激しい快楽を感じる三点責めを受けた雅之さんは、強過ぎる快感を逃す様にして、肢体全体を波の様にくねらせた。『あぁん、やぁッ』と艶っぽく喘ぎながら、恥部を俺の顔に押し付けて来るその淫猥な姿に俺はすっかりと煽られて、ズボンの中で完全にそそり立った怒張に走る痛みに耐えながら、激しく口淫を続けた。
「はぁっ……ん、ンッ……やぁ、イク、いっちゃ……あん、おくち、だめぇ、ほんとに、だしちゃ……ほんとは、のんじゃやなの、お願い、のまないで……ッ」
この人の嫌がる姿は、何故俺をこんなにも興奮させるんだろう、とふと思いながら、怯える雅之さんと完全に目線を合わせて、じゅるるッ、と激しい水音を荘厳な室内に響かせながら花芯を啜り上げる。一週間溜め込んでいた濃厚な精液を、一滴残さず飲み干す事への執念を燃やす俺のぎらぎらとした眼差しに、雅之さんの腰は完全に引けていた。
「やぁ、……あんッ……もぅ、だめ、イク……ぁっあ、あっ……っくぅ……んッッ!!」
俺が舌先で尿道口を抉り、そのまま、ずるんっ、と花芯の全体を喉奥近くまで飲み込んだ瞬間、ビクビクッと激しく痙攣した花芯の先端から、生き物独特の生臭さを孕んだ、栗の花の香りを伴う液体が、ドピュッビュククッ……と勢いよく弾けた。
ほんのり甘くて、味わいに深みがあって、ゼリーみたいにぷるぷるしていて……世の中に、こんなに美味しい物があるなんて、俺はちっとも知らなかった。しかもそれを、誰にも触れられない身体の中に隠していただなんて。貴方は、なんて罪深い人なんだ。飲み込んでしまうのが勿体無い。いつまでも味わっていたい。嗚呼、雅之さん。
一週間身体を構わなかった影響で、ぷるぷるとしたゼリー状になっている甘露の様な甘さを持つそれを、舌の上でじっくり味わい、唾液と撹拌させてから、ごくり、ごくり、と喉を鳴らして飲み干していく。そして俺は、その喉越しすらもじっくりと味わいながら、雅之さんの花芯の竿を舌の動きで扱き上げて、尿道に残った甘い蜜を一滴残らず搾り取っていった。
ジュルッ……じゅぷぷ……っ、ズルル、ずずッッ……
射精を終えたばかりの微痙攣する花芯にべったりと舌を纏わせて扱きながら、睾丸に残った残滓までもを飲み干そうと、二つある睾丸を両方とも入念にマッサージしていき、執拗に花芯全体を舐めしゃぶっていく。すると、雅之さんは、身体をくねらせながら、射精後の敏感な花芯に与えられる刺激から、懸命になって逃れようとした。
「ぁ、ん……もう、出ない、よぅ……やめて、ぁ、」
イッたばかりの敏感な花芯に、執拗に刺激を加えていく俺の頭を股間から剥ぎ取ろうと、一生懸命に雅之さんが頭を押し返している。けれど俺はそれには全く反応しないままに、前立腺をぬくぬくと身体の内側から刺激しながら、芯が無くなって柔らかくなった花芯を、ふやけるまでしゃぶり尽くした。
ちゅぶッ、……ジュルルッッ、ぐぷっ……ぢゅぷ……ッッ……
「ん、やぁ、……あ、……ひっ、ぃ……ひっ…くぅ……っ」
舌と指の動きに合わせて、ひっ、ひっ、と引き攣る様に泣き噦る雅之さんが愛らし過ぎて、いつまでもこうしてしゃぶっていたくなる。けれども俺は、一度目の射精を終えた事により、薄くなってしまった精液も味わってみたいと思っていたから、可愛らしいばかりのその姿をみせる花芯に向ける執着を手放し、再び花芯に芯が通る様にと、徹底してそこに刺激を加え続けた。
ぶじゅぅ……っ、ジュルルッッ、ヂュッヂュッ……ちゅぶ、……グジュ……ッッ
「……ぁ、……やら、……やっ、や、……だめ、もう……や、……ッッ」
すると、やっ、やっ、と甲高い声を上げ始めた雅之さんの腰が、先程以上に、あからさまに引けてきた。恐らく、激しい射精を味わった身体に、再び熱が燻り始めたのだろう。これ以上強い快楽を植え付けられたら、本当に正気を失ってしまう……そう考えて怯え始めても、おかしくはなかった。
すると、口淫を加えていた花芯が、再びゆっくりと俺の口の中で頭を擡げ始めた。歓喜に沸いた俺は、ゆっくりと皮が捲れ始めた亀頭に舌を這わせて、皮の下に隠れている雁首を執拗に刺激しながら、睾丸をぐにゅぐにゅとマッサージし、二度目の勃起を促していった。
「見て下さい、また芯が入ってきましたよ。気持ちいいですか?ふふ、亀頭が弱いんですね。舌先で擽ると、美味しい蜜がたらたら垂れてくる」
「ぁ、……ひ、やぁ………また、また勃っちゃ……ッッやらぁっ、も、…良過ぎちゃう、気持ち良過ぎちゃうからぁ……ッ先っぽやらぁッッ」
亀頭に破り入っている裏筋から尿道口にかけてを舌先でぴちゃぴちゃと愛撫すると、完全に勃起した花芯から、再び、とくとくと先走りが溢れてきた。透明なその蜜の味を存分に味わいながら陰嚢の裏側を手の平で弄り、竿を根元から抜きあげる。そして、完全に射精させるという一点に重きを置いて激しく責め立てていくと、雅之さんの花芯はそれに応える様にして、ビクビクッッと痙攣し、射精の予備動作に入った。
「さっきのは濃いやつだったから、今度は薄いのを飲ませて下さい。貴方の味が知りたい……貴方の全てが知りたい」
「……ぁ、やぁ、……は、ぁ……だめ、もう、さっきより、はや、……ぁ、あっ、……ッイッ……くぅ……ッ」
蓄積された快感が身体の中で渦巻いていた所為か、雅之さんの二度目の射精は思っていたよりも早く訪れた。
「……ぅ……っ、く…ぁ、……ん、…ひぁ……ッッ」
どくっ、どくり……と、まるで身体の奥底から込み上げ、無理矢理搾り出されてきた、と言わんばかりの勢いの無い射精に、俺はどうしようもない興奮を覚えた。亀頭に吸い付いて尿道に残った残滓をずぞぞッと音を立てて飲み干すと、そこにきて漸く俺は、雅之さんの花芯を口内からずるりと取り出した。
「二回目の方が、とろとろしてて濃いくらいでした。えぐみよりも甘さが引き立っていて、芳醇な栗の花の香りがして、いつまでも口の中で味わっていたい……本当に、どこまで俺を煽ったら気が済むんですか?こんな美味しくて堪らない物を飲ませられて、こんな艶やかな姿まで見せられたら、俺、もう……」
自分自身の昂りを抑え込めず、俺は、ベルトを外し、ズボンのチャックを開け、ボクサーパンツの中から怒張を取り出した。すると、大きく反り返り、太い血管が浮き出した、ドス黒く暴力的な見た目のそれがずるんっ、と迫り出してきた。それを目にした雅之さんは、嗚呼、と漏らす様な感嘆をあげてから、もろもろとその場に跪いて、俺の怒張に、激しい快楽を叩きこまれてトロトロに蕩けてしまった眼差しを向けた。
「こんなの、こんなのでされたら、俺……」
「雅之さん……すみません。でも、俺ももう、限界なんです」
びくん、びくん、と、涎を垂らしながら痙攣する凶悪なソレを見て、雅之さんは涙をぽろぽろと溢しながら、過去に与えられ、教え込まれた強烈な快楽の記憶に身を震わせた。
「俺はこのまま、貴方に俺を受け入れて欲しい。そして、貴方の愛を、本当の意味で実感したいんです……どうしても、駄目ですか?」
俺の心の底からの懇請を受けて、雅之さんは、ハッと我に返った様な表情を浮かべた。そして、俺と真っ直ぐに視線を合わせると、覚悟を決めた様な真摯な眼差しを俺に向けた。
「俺は、こんな風に誰かに強く想って貰える日が来るなんて、思ってもみなかった。だから、どうしたらその気持ちに応えられるのか、自分の気持ちにどう向き合っていったらいいのか、分からなくて。だけど、真司には……真司とは、きちんと向き合っていきたいと思うから。本当は、もっと時間が欲しいのが、正直な気持ちなんだけど。それ以上に、俺は君の気持ちに応えたいと思えるから。だから……」
「雅之さん……つまり、それは、貴方も俺の事を?」
穏やかに微笑み、そして、頷く。その僅かな時間で俺は、物の見事に号泣した。
「雅之さん、雅之さん……ッ、俺は、俺は……絶対に、貴方を幸せにします……ッッ」
「これ以上、幸せにしてくれるの?それが、真司の幸せに繋がる?」
「はい……勿論です。貴方の幸せが、俺の幸せなんです……ッッ、だから、誰よりも幸せでいて下さい」
「うん。だから、真司も、きちんと幸せになってね」
穏やかで、幸せに彩られた表情をこの目で視認し、俺は、雅之さんのその身体を、下から掬い上げる様にして抱き締めた。そして、その柔らかな唇をそっと塞ぎ、雅之さんという存在を足元から支えて、祭壇にその身体を押し付けた。次第に深くなっていく口付けを、うっとりと目を細めながら交わしていく。そうして、暫くお互いの存在を確認し合う様な時を過ごしてから、俺は雅之さんの身体を反転させて、祭壇に手をつかせた。
そして、雅之さんが着ていた法衣をたくし上げて下半身を露わにすると、祭壇の上にある水盆に入った聖油をたっぷりと手にとって自分の怒張に纏わせた。そして、目の前に顕になっている生尻をゆっくりと割り開き、その奥にある濃いピンク色した窄まりに、怒張の先端を、ぬちゃり、と押し付けた。そして……
「ぁ、あ゛……ッッぃ、あぁあ……ッッ!!」
自分の腰を深くグラインドし、雅之さんの体内にある、三壁のヒューストン弁を、たった一突きで乗り越えた。
バチンッと、大きくずっしりと肥え太った俺の陰嚢と肉が打つかる激しい音を立てて、最初の一手から、直腸の奥にある直腸S状部に深々と亀頭を潜り込ませる。すると、目の前にいる愛しい愛しい『雌花』を、間違いなく孕ませるという気概しかない怒張の先端から、どくっどくっ……と、大量の先走りが溢れていった。
「あ、く……は、ひい、……ッッああ、やぁ、ん、はげし、まっ、……ああ、ふぁ、んッッ」
恐らく、俺にとっての本日一度目の射精は、量と質、そしてその受精率と、どれを取っても大変に優れた物となるだろう。そんな、有りもしない懐胎への期待感すら感じ取れる最高のポテンシャルを保持した怒張で、容赦無く雅之さんの最深部を掘り起こしていく。祭壇に手をついていた雅之さんは、今や祭壇に縋り付きながら、『雄花』の猛攻をその身で受け止めるだけの存在に成り果てていた。そして、『雌花』として生を受けた人間としての悦びに、ビクビクと全身を痙攣させ、打ち震えていた。
「……ッぁ、……ひ……ッッぃ、……くふ……ッ」
「雅之さん……愛しています。ずっと、ずっとこうしたかった。あの日の一晩で、俺の身体はすっかり作り替えられてしまった。もう俺は、貴方じゃないと、まるで使い物にならない身体になってしまったんです。だから、その責任を、貴方の身体で支払って下さい」
「ぁ……ッ、はげ、し……だめ、奥……きちゃ、やぁ……んッッ、いくぅ、やら、いくいく……くぅ……ッッ」
「奥、凄いですね。きゅんきゅん締め付けて……深くイッてる時の貴方の身体は、本当に格別だ。もっとお腹の奥を開いて。一番深い所まで犯してあげる」
「ぁ゛、あ……あ゛、だめ、らめなのぉ……そこ、はいらないれぇ……ッッ」
激しい猛攻の結果、開き始めたS状結腸の入り口を、先走りをたっぷり纏ったぬるぬるの亀頭で蹂躙していく。そして、ペチャッと閉じていたそこが、じんわりとその入り口の膠着を解き始めたのを見計らうと、俺は雅之さんの腰をがっしりと掴んで自分の身体に引き寄せ、下生えをしっかりと尻たぶに押し当てながら、ぐりぐりと腰を動かし、最深部をこじ開けていった。
「く、ぅん、……あ、あ、やだ、あぁ、あっ、くう、ぁああッッ」
「……は、……あは、入れた。あなたの『子宮』」
みっちりと、それでいて深々と怒張を最深部のその果てに潜り込ませ、その達成感に打ち震える。目の前にいる愛する雌花を、完全に自分の物とした満足感と充足感に浸りながら、恍惚とした口調で事実を告げると、腕の中にいるその人は、強過ぎる快楽に怯え、完全に泣き出してしまった。
「……ひぃ……ぁ、……待って、やだ、そこから出てぇ……もう、君のおちんちんで、俺の身体、これ以上、おかしくしないでぇ。このままじゃ、本当に赤ちゃんができる身体になっちゃうよう」
完全に自分の事を雌花……否、『雌』であると自認した雅之さんは、えぐえぐと泣きながら、いやいや、と頭を横に振った。しかし、完全に腰が抜けているので、口でしか反抗出来ていないところが、堪らなく俺の加虐心を擽る。犯したい。媚肉が捲れ上がるまで、甚振りたい。発情期の雌猿の様な見た目にして、更に犯したい。嗚呼、だけど。
貴方を、本当は、誰よりも何よりも甘やかして、優しくしたいというのも、本心なんだ。
「怖がらないで。大丈夫。もしも本当に貴方が俺の子供を孕んでも、絶対に幸せにするって約束します。だから、このまま貴方の身体の一番奥に出させて」
「やらぁ……出さないで、中にださないでぇ……ッッホントに妊娠しちゃう、しちゃうからぁッッ」
「ふふ、ずっと雌イキしながら俺のをぎゅうぎゅうに締め付けてる人に止めてなんて言われたら、応えなくちゃ……ってなるのが男なんですよ。絶対に子宮の中に、一滴残らず出してあげる。終わったら、よしよししながら、沢山ぎゅってしてあげますからね」
「あ、やぁ、ひぃ……ッッ、おぐ、だめ、らめぇッッ」
ばつん、ばつん、と激しく後ろから責め立てながら、妊娠確率の高い先走りをどろどろに纏わせた怒張で犯し尽くす。しかし、翻弄されているだけだと思われていた雅之さんは、俺が耳元でそうと言い付けると、その言い付け通りに自分の尻たぶを自分の手で押さえつけ、そのまま従順に、ゆっくりと両サイドに開いていった。そのおかげでより深く亀頭をS状結腸に打ち込む事が出来て、俺は雅之さんの『子宮』を、がつがつと激しく穿ちながら、雅之さんに向ける獣欲を惜しみなく解放していった。
「雅之さん、雅之……貴方は、俺の物だ。誰にも渡さない。ずっと、ずっと俺と生きて」
「……ひゃあ、……ッッぁ、あっ、だめ、いく……また、イッちゃ…………ッッぃ、………ふっ、」
子宮を抉る様にして怒張を捩じ込むと、雅之さんは、深く長い絶頂を極め、ピクピクと痙攣しながらその場にがくりとずれ落ちそうになった。そんな雅之さんの身体を支えて、祭壇の上に上半身を戻すと、祭壇を抱え込ませてから、再び雅之さんの身体に覆い被さった。
「飛ばないで。まだまだ『交尾』は終わってないですよ。雌がいっぱいイッてから雄に出されれば妊娠しやすいって話ですから、それまで頑張って……ね、雅之」
祭壇に縋り付かせながら、雅之さんの腰を両手で掴んで固定し、ぱんっ、ぱんっ、ぱんっ、とリズム良く腰を打ち据える。その度に雅之さんは、声にならない喘ぎ声をあげながら雌イキを繰り返し、俺の怒張をギュッギュッ、と締め上げた。そして。
「出すよ、雅之。全部受け止めて、貴方の身体の、一番深い所で」
「アァッ、しんじ、ぃ……ッッ」
「……ッッ、ぁ……く……ッッ」
ビュクッッ!!ビュルルッッ……ドピュッ!!ドクッ……ドク…ッ……ぴゅくっ、ぴゅく…っ……
「……ぁ、……すご、はっ、……はは、意味分かんないくらいに出てる。本当に凄い、貴方の身体を知ったら、俺はもう、他に何も要りません。だから、孕んでよ、ねぇ。雅之さん、雅之……」
最深部にある『子宮口』の先に向けて大量に射精した子種の粘性を高める様に、怒張の先端部を使って執拗に腸壁を捏ね回しながら、腹の底から後から後から湧いてくる懐胎に向けた欲求を、熱い溜息と共に漏らすと、ピクピクと痙攣し、意識を飛ばしてしまった雅之さんの花芯から、本日三度目の精液が迸っていた。祭壇に向けて放たれたそれは、べったりと祭壇の側面を汚し、淡い栗の花の香りをこの荘厳で厳格な部屋一杯に広げている。その、教祖としての厳かな姿をかろうじて失っていないまま、祭壇を前にして、惨たらしく、激しく交尾を繰り返した雅之さんを見ているだけで、俺は強烈な興奮を覚え、背筋がゾクゾクとした。
神への、冒涜。
洗礼を受け、信者となっても、俺の本質は、恐らく大きくは変わらない。きっと俺は、自らが信仰の対象となったこの人を、この祭壇だけでなく、世界中に点在しているだろう祭壇にこの人を縋り付かせながら、何度も何度も、飽きる事なく犯し続けていくのだろう。自らの立場を駆使しながら、この人の隣に侍り、愛を捧げ、その身を支えて、そしてその見返りをこの人の身体に求める、そんな人間になっていく。
まるで、悪魔に魅入られた人生だと思わざるおえない人生だったけれど。俺は、貴方と出会い、結ばれた今という時間があるのなら、あれだけの地獄を経験したとしても、お釣りどころか、いるともしれない神様から、幸福というものをこれ以上なく与えられてきた人生だと思える様になった。
出会いに、感謝を。
貴方に、感謝を。
この素晴らしき世界に、光あれ。
0
お気に入りに追加
125
あなたにおすすめの小説
肌が白くて女の子みたいに綺麗な先輩。本当におしっこするのか気になり過ぎて…?
こじらせた処女
BL
槍本シュン(やりもとしゅん)の所属している部活、機器操作部は2つ上の先輩、白井瑞稀(しらいみずき)しか居ない。
自分より身長の高い大男のはずなのに、足の先まで綺麗な先輩。彼が近くに来ると、何故か落ち着かない槍本は、これが何なのか分からないでいた。
ある日の冬、大雪で帰れなくなった槍本は、一人暮らしをしている白井の家に泊まることになる。帰り道、おしっこしたいと呟く白井に、本当にトイレするのかと何故か疑問に思ってしまい…?
ずっと女の子になりたかった 男の娘の私
ムーワ
BL
幼少期からどことなく男の服装をして学校に通っているのに違和感を感じていた主人公のヒデキ。
ヒデキは同級生の女の子が履いているスカートが自分でも履きたくて仕方がなかったが、母親はいつもズボンばかりでスカートは買ってくれなかった。
そんなヒデキの幼少期から大人になるまでの成長を描いたLGBT(ジェンダーレス作品)です。
部室強制監獄
裕光
BL
夜8時に毎日更新します!
高校2年生サッカー部所属の祐介。
先輩・後輩・同級生みんなから親しく人望がとても厚い。
ある日の夜。
剣道部の同級生 蓮と夜飯に行った所途中からプチッと記憶が途切れてしまう
気づいたら剣道部の部室に拘束されて身動きは取れなくなっていた
現れたのは蓮ともう1人。
1個上の剣道部蓮の先輩の大野だ。
そして大野は裕介に向かって言った。
大野「お前も肉便器に改造してやる」
大野は蓮に裕介のサッカーの練習着を渡すと中を開けて―…
僕は肉便器 ~皮をめくってなかをさわって~ 【童貞新入社員はこうして開発されました】
ヤミイ
BL
新入社員として、とある企業に就職した僕。希望に胸を膨らませる僕だったが、あろうことか、教育係として目の前に現れたのは、1年前、野外で僕を襲い、官能の淵に引きずり込んだあの男だった。そして始まる、毎日のように夜のオフィスで淫獣に弄ばれる、僕の爛れた日々…。
お嬢様、お仕置の時間です。
moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。
両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。
私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。
私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。
両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。
新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。
私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。
海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。
しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。
海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。
しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。
少年ペット契約
眠りん
BL
※少年売買契約のスピンオフ作品です。
↑上記作品を知らなくても読めます。
小山内文和は貧乏な家庭に育ち、教育上よろしくない環境にいながらも、幸せな生活を送っていた。
趣味は布団でゴロゴロする事。
ある日学校から帰ってくると、部屋はもぬけの殻、両親はいなくなっており、借金取りにやってきたヤクザの組員に人身売買で売られる事になってしまった。
文和を購入したのは堂島雪夜。四十二歳の優しい雰囲気のおじさんだ。
文和は雪夜の養子となり、学校に通ったり、本当の子供のように愛された。
文和同様人身売買で買われて、堂島の元で育ったアラサー家政婦の金井栞も、サバサバした性格だが、文和に親切だ。
三年程を堂島の家で、呑気に雪夜や栞とゴロゴロした生活を送っていたのだが、ある日雪夜が人身売買の罪で逮捕されてしまった。
文和はゴロゴロ生活を守る為、雪夜が出所するまでの間、ペットにしてくれる人を探す事にした。
※前作と違い、エロは最初の頃少しだけで、あとはほぼないです。
※前作がシリアスで暗かったので、今回は明るめでやってます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる