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最終章『いない、いない、ばあ。』
第六話『宣誓』
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直腸の洗浄を俺の手によって行われている間に、治療薬として本来使う筈の媚薬でもあるその薬の、一回の最大服薬量を服薬した影響を受け始めたその人の身体は、しっとりと汗ばみ、全体的に熟れた様に血色が良く、俺にとってもはや視覚の暴力と化していた。あのダンススタジオでの会話の後、透さんを前にして初めて身体に宿った熱をそのままに、現場に臨んだ俺としては、我慢の限界はとっくの昔に過ぎていて。直腸の洗浄の為に訪れた風呂場の段階で、俺は背後からその人に襲い掛かった。
そして、そのまま、風呂場で、二回。風邪を引かない様に身体の水滴を拭き、脱衣室で、二回。パジャマの上だけを寒さ対策で羽織らせて、居間で、三回。水分補給を口移しでさせながら、台所で、二回。トイレ休憩を挟むついでに、トイレで、二回。二階の寝室に向かう為に訪れた階段に手を突かせて、一回。
結局、寝室に辿り着くまでの間に、俺は、未開封だったその一箱を、余裕で消費してしまった。
治療薬として処方された媚薬を服薬せずとも、反り返る程に勃ち上がった自分の怒張の先端を、解したばかりの秘孔に押し当てた、一番最初の瞬間の透さんの表情は堪らないものがあった。風呂場のカウンターに手を突いて、ハッとした表情を浮かべた透さんは、背後を振り返り、その猛々しく聳り立つ怒張の状態を視界に映すと、目を見開いたまま、みるみると涙を浮かべた。
『じゅん、……ッ、うれし……ぼく、ホンマにうれしい……っ』
感極まった様に、口元を手の平で覆って嗚咽しながら首を振る透さんを見ているうちに、俺自身も、次第に自分の感情を抑えきれなくなって。ダンススタジオにいた時の段階では、あれだけ奮い立つ程に、様々な感情の渦に飲み込まれたのも忘れて、その場で一緒に泣いてしまった。
お互いに泣きながら、こんな日常に溢れた場所で、雪崩れ込む様にしながら媾うだなんて。本当の意味での初めてのセックスを、こんなありふれた場所で行うだなんて。本当に破廉恥極まりない、ふしだなら行為なのだけど。でも、それがきっと、本来の自分に備わっている、この人に対して持つ欲求の発露そのものだから。この人が今すぐに欲しい、今すぐに抱きたい、という溢れんばかりのその欲求に素直に従った。
『透さん、……っ、愛してる、ホンマに俺、貴方だけや。せやから、ずっとずっと、こうしたかった』
『ひ、ァッ……ッ、ぼくも、ほしか……ッアア……ッや、ぁ、はげし……ッッ』
『ごめんなさい、待たせて。せやけど、こうなったらもう、俺が満足するまで離さへん。堪忍な、許してな、こんな男で、ごめんな』
きちんとした媾う場所でもない、日常がありふれた場所で。その人との優しくて、温かで、安らぎに満ちた思い出が溢れたその場所で。へこへこと浅ましく腰を振りたくり、その思い出や日常を全て上から塗り潰し、台無しにしていく。そんな俺の胸の中にある感情は、爽快感と達成感。そして、漸くこの人を本当の意味で征服出来たという圧倒的な充足感と、この人に寄せる重厚で欲深い愛情と執着だった。
きっと、これから先。この人は、日常に塗り重ねられていく、俺と交わした卑猥な情交を、この家の何処にいても、何をしていても、脳裏に思い浮かべる事になるだろう。そして、俺は、その淫靡な記憶に振り回され、何も手に付かなくなってしまったその人の元に颯爽と現れて、その身に宿した熱を解放する為に、自らの身体を行使していく。そうして、きちんと媾う環境ではない、ありふれた景色やその場所を、互いの身体を交わした記憶で、隅から隅まで、飽きる事なく塗り重ねて行くのだ。
『二人の愛の巣』という、その言葉通りに。
寝室に移動し、これまた未開封だった二箱目の半分までをも消費した頃には、この人は、俺の腕の中で半ば気を失い、ただただ俺の怒張の侵攻を受け止めるだけの肉人形と化してしまった。四肢に込められた力も失い、全身を弛緩させ、口もぽかんと開けたまま、焦点の合わない視線を、其処彼処に散らばしたその人は。媚薬を服薬せずとも奮い立ち続ける俺の猛攻をその身に受け続け、時折微かな呻き声を上げて、ビクビクと身体を痙攣させると、雌雄両方の絶頂を極めて、薄い精液を小振りな性器の先端からぴゅくぴゅくと飛ばし、俺の怒張を痛いくらいに締め付けていった。
その絶頂の余韻に浸りながら腰を振り、愛しいその人の身体を貪欲に貪り喰らいながら、二箱目の小箱の残り半分を消費しきった俺は、あくる日の昼過ぎ近くまで、休む事なく自分の腰を振り続け、身体の奥からこんこんと湧き上がってくるその人への愛欲をそのままに、その人の身体に、涎を垂らしながら、むしゃぶりついていった。
そして。
「どないしよ、透さん。もう空っぽになってもうた。これやと、もうこれ以上でけへんなぁ……」
がっかりと、本当に心の底から残念な気持ちを込めて、肩を落とす。とは言え、何事にも、限度や際限というものがあるから、それが目の前に、目に見える形で訪れてしまったというだけの話ではあるのだけど。トイレ休憩を挟んでから、口移しで経口補水液を与えて水分補給をさせ、風邪対策として購入してあったゼリー飲料も同じ様にして与えてエネルギー補給を行い、再びいそいそと一緒に包まったシーツの中で、俺はその受け止めきれない現実を前にして悄気返った。
「こないに早く使い切ってしまうなら、もう少しストック用意しとくんやった。ホンマに気が利かん男で、迷惑掛けて、ごめんなさい」
トイレ休憩を挟む前に意識を取り戻し、首の可動や視線だけで意思疎通を図れる様にまで身体が回復した透さんは、口元に穏やかな笑みを浮かべてから、大丈夫、と示すかの様に、微かに首を横に振った。その、疲労困憊ながらも、俺の欲望の赴くがままを、全てその身に受け止めきった愛しいその人の身体を労る様に愛撫していくうちに、胸に溢れる愛しさを堪え切れなくなって。その愛しさを存分に伝えたいが為に、もう数えるのも忘れてしまった口付けを交わした。
ちゅ、ちゅ、とそのふっくらと艶やかな唇を食む度に、俺の全身は多幸感と、後から後から湧いてくるこの人への愛しさとに包まれていって。口付けをしていく事によって、身体に再び芽吹こうとする欲情の萌芽を、懸命になって摘み取って行ったのだけど。
「透さん、ごめん。したい……全然、ちっとも我慢でけへん。したいよ、したい。せやから、このまま、させて……」
物理的な際限や限度が目の前に立ち塞がっても、自分自身の欲望の際限や限度は、終ぞ、見当たらなかった。
「ゴムとかもう、俺、ホンマは付けたくないねん。ずっとずっと、格好付けてたんや。貴方の身体の事とかも考えてたけど、ホンマはずっと、貴方の中に全部出したかった。一滴も無駄にしたく無かった。どうせ全部無駄になるけど、それでも……」
ぐすぐすと、熱病に侵された幼児の様に鼻を啜りながら、自分よりも一回り小さいその人に縋り付く。こんな風に、不恰好な自分の姿を見せたくなくて、これまで必死になって自分自身の本心を隠してきたけれど。物理的な障壁を前にした、ここで打ち止め、というサインを示されても、俺の欲情と、この人が本当の意味で欲しいという欲望は、俺の中で際限なく昂り続けていくばかりだった。
透さんをこの腕に抱きながらも、きっとこの欲情の成れの果てに、こんな結果を呼ぶという事実は、視界の隅にいつだって見え隠れしていて。だけど、十二個×二のエチケットを消費する前にそれを口にしてしまえば、ただただ自分自身が、軽薄で軽率な男になってしまうと思ったから。そんな俺のどう仕様もない意地やプライドを守る為に。自分自身の免罪符の為に。俺は繰り返し繰り返し、この人を犯し続けてきたんだ。
たったそれだけの為に、この人にこんなにも無茶をさせてしまった。もしも、このままこの人に見捨てられてしまったら、と思わず恐怖に打ち震える。けれど、これ以上躊躇って、またこんな風にこの人に無茶をさせてしまう結果を呼ぶよりは、何倍も何十倍もいい。
この人が、本当に、本当に、好きだから。
「………ぇ………よ………」
泣き噦る俺の耳元に、微かな、聞き取るのもやっとの声が届く。ハッと顔を上げると、其処には、慈愛に満ちた表情を浮かべる、蒼白なその人の顔があって。胸が引き絞られるくらいに痛むのに、こんな風に話すのもやっとの状態にしたのは自分なのに、罪悪感よりも圧倒的な、喜びと愛しさが、この身に迫った。
「なに、透さん、どないした?……水?お腹空いた?トイレ?……なん……」
「え、え……よ」
そして、その人が、俺に対して何を訴えたいのか、それを理解した瞬間。この人を知る世界中の人間に向けて、俺は、宣戦布告をした。
「そんなん、ずっと……つけんで、ええよ」
世界中にいる、この人のファンや、この人の仲間、この人を支えてくれた人達、ごめんなさい。だけど、この人は、もう俺だけのダンサーだから。ずっとずっと、俺だけの為に、俺の腕の中で踊り続けると、決めた人だから。
「……嘘みたいや、なんで、こない気持ちええの。勝手に腰動いてまう、なかとろとろで、無茶苦茶、気持ちええ」
「はぁ……あっ、……じゅんの、すごい、ごりごり、奥まで、くるのぉ……ッアア……ッあっあっ、はげし、ぃ……ッッ」
「ごめん、もう俺ホンマ無理や。透さんの身体、ホンマに気持ちええ。こんなん、直ぐに……なぁ、いっちゃん奥に、出していい?何があっても、全部責任取るから」
「ぁあっん、……っおく、が……イイッ、だして、僕の奥に、……あっあっ、ァアっ……ひぁっ」
「透さん、透……愛してる、ッ、あいし……ぁ、…っく……ッ」
貴方達がどれだけこの人を、再びステージの上に引きあげようとしても。例えばそれが、この国の大統領であったとしても。俺は、断固として、貴方達と、敵対します。
「ごめん、さっきより早いかもしれへん。透の中、俺のでぬるぬるで、ごっつ気持ちええ……また、一番奥に出すよ、ええ?」
「聞かんで……ええ……せやから、もう……っ」
「うん、うん……せやけど聞きたかってん。貴方の口から、俺の事欲しがって貰いたかったんや。せやから欲しがりの俺の為に、ちゃんと言ってくれる?」
「ッ……潤の、ほしい、おくに、ほしいのぉ……」
「嗚呼、上手や。ホンマに良え子やね、透。愛してる……愛してんで」
「ぁっ、あう、……っん……ぼくも、あいしてる、潤……ッッあ、はぁ、んッッ、……ァアっ!!」
宣誓。
俺は、貴方の望むままに、世界中の人達を、否、この世界を敵に回すと、貴方に誓います。
直腸の洗浄を俺の手によって行われている間に、治療薬として本来使う筈の媚薬でもあるその薬の、一回の最大服薬量を服薬した影響を受け始めたその人の身体は、しっとりと汗ばみ、全体的に熟れた様に血色が良く、俺にとってもはや視覚の暴力と化していた。あのダンススタジオでの会話の後、透さんを前にして初めて身体に宿った熱をそのままに、現場に臨んだ俺としては、我慢の限界はとっくの昔に過ぎていて。直腸の洗浄の為に訪れた風呂場の段階で、俺は背後からその人に襲い掛かった。
そして、そのまま、風呂場で、二回。風邪を引かない様に身体の水滴を拭き、脱衣室で、二回。パジャマの上だけを寒さ対策で羽織らせて、居間で、三回。水分補給を口移しでさせながら、台所で、二回。トイレ休憩を挟むついでに、トイレで、二回。二階の寝室に向かう為に訪れた階段に手を突かせて、一回。
結局、寝室に辿り着くまでの間に、俺は、未開封だったその一箱を、余裕で消費してしまった。
治療薬として処方された媚薬を服薬せずとも、反り返る程に勃ち上がった自分の怒張の先端を、解したばかりの秘孔に押し当てた、一番最初の瞬間の透さんの表情は堪らないものがあった。風呂場のカウンターに手を突いて、ハッとした表情を浮かべた透さんは、背後を振り返り、その猛々しく聳り立つ怒張の状態を視界に映すと、目を見開いたまま、みるみると涙を浮かべた。
『じゅん、……ッ、うれし……ぼく、ホンマにうれしい……っ』
感極まった様に、口元を手の平で覆って嗚咽しながら首を振る透さんを見ているうちに、俺自身も、次第に自分の感情を抑えきれなくなって。ダンススタジオにいた時の段階では、あれだけ奮い立つ程に、様々な感情の渦に飲み込まれたのも忘れて、その場で一緒に泣いてしまった。
お互いに泣きながら、こんな日常に溢れた場所で、雪崩れ込む様にしながら媾うだなんて。本当の意味での初めてのセックスを、こんなありふれた場所で行うだなんて。本当に破廉恥極まりない、ふしだなら行為なのだけど。でも、それがきっと、本来の自分に備わっている、この人に対して持つ欲求の発露そのものだから。この人が今すぐに欲しい、今すぐに抱きたい、という溢れんばかりのその欲求に素直に従った。
『透さん、……っ、愛してる、ホンマに俺、貴方だけや。せやから、ずっとずっと、こうしたかった』
『ひ、ァッ……ッ、ぼくも、ほしか……ッアア……ッや、ぁ、はげし……ッッ』
『ごめんなさい、待たせて。せやけど、こうなったらもう、俺が満足するまで離さへん。堪忍な、許してな、こんな男で、ごめんな』
きちんとした媾う場所でもない、日常がありふれた場所で。その人との優しくて、温かで、安らぎに満ちた思い出が溢れたその場所で。へこへこと浅ましく腰を振りたくり、その思い出や日常を全て上から塗り潰し、台無しにしていく。そんな俺の胸の中にある感情は、爽快感と達成感。そして、漸くこの人を本当の意味で征服出来たという圧倒的な充足感と、この人に寄せる重厚で欲深い愛情と執着だった。
きっと、これから先。この人は、日常に塗り重ねられていく、俺と交わした卑猥な情交を、この家の何処にいても、何をしていても、脳裏に思い浮かべる事になるだろう。そして、俺は、その淫靡な記憶に振り回され、何も手に付かなくなってしまったその人の元に颯爽と現れて、その身に宿した熱を解放する為に、自らの身体を行使していく。そうして、きちんと媾う環境ではない、ありふれた景色やその場所を、互いの身体を交わした記憶で、隅から隅まで、飽きる事なく塗り重ねて行くのだ。
『二人の愛の巣』という、その言葉通りに。
寝室に移動し、これまた未開封だった二箱目の半分までをも消費した頃には、この人は、俺の腕の中で半ば気を失い、ただただ俺の怒張の侵攻を受け止めるだけの肉人形と化してしまった。四肢に込められた力も失い、全身を弛緩させ、口もぽかんと開けたまま、焦点の合わない視線を、其処彼処に散らばしたその人は。媚薬を服薬せずとも奮い立ち続ける俺の猛攻をその身に受け続け、時折微かな呻き声を上げて、ビクビクと身体を痙攣させると、雌雄両方の絶頂を極めて、薄い精液を小振りな性器の先端からぴゅくぴゅくと飛ばし、俺の怒張を痛いくらいに締め付けていった。
その絶頂の余韻に浸りながら腰を振り、愛しいその人の身体を貪欲に貪り喰らいながら、二箱目の小箱の残り半分を消費しきった俺は、あくる日の昼過ぎ近くまで、休む事なく自分の腰を振り続け、身体の奥からこんこんと湧き上がってくるその人への愛欲をそのままに、その人の身体に、涎を垂らしながら、むしゃぶりついていった。
そして。
「どないしよ、透さん。もう空っぽになってもうた。これやと、もうこれ以上でけへんなぁ……」
がっかりと、本当に心の底から残念な気持ちを込めて、肩を落とす。とは言え、何事にも、限度や際限というものがあるから、それが目の前に、目に見える形で訪れてしまったというだけの話ではあるのだけど。トイレ休憩を挟んでから、口移しで経口補水液を与えて水分補給をさせ、風邪対策として購入してあったゼリー飲料も同じ様にして与えてエネルギー補給を行い、再びいそいそと一緒に包まったシーツの中で、俺はその受け止めきれない現実を前にして悄気返った。
「こないに早く使い切ってしまうなら、もう少しストック用意しとくんやった。ホンマに気が利かん男で、迷惑掛けて、ごめんなさい」
トイレ休憩を挟む前に意識を取り戻し、首の可動や視線だけで意思疎通を図れる様にまで身体が回復した透さんは、口元に穏やかな笑みを浮かべてから、大丈夫、と示すかの様に、微かに首を横に振った。その、疲労困憊ながらも、俺の欲望の赴くがままを、全てその身に受け止めきった愛しいその人の身体を労る様に愛撫していくうちに、胸に溢れる愛しさを堪え切れなくなって。その愛しさを存分に伝えたいが為に、もう数えるのも忘れてしまった口付けを交わした。
ちゅ、ちゅ、とそのふっくらと艶やかな唇を食む度に、俺の全身は多幸感と、後から後から湧いてくるこの人への愛しさとに包まれていって。口付けをしていく事によって、身体に再び芽吹こうとする欲情の萌芽を、懸命になって摘み取って行ったのだけど。
「透さん、ごめん。したい……全然、ちっとも我慢でけへん。したいよ、したい。せやから、このまま、させて……」
物理的な際限や限度が目の前に立ち塞がっても、自分自身の欲望の際限や限度は、終ぞ、見当たらなかった。
「ゴムとかもう、俺、ホンマは付けたくないねん。ずっとずっと、格好付けてたんや。貴方の身体の事とかも考えてたけど、ホンマはずっと、貴方の中に全部出したかった。一滴も無駄にしたく無かった。どうせ全部無駄になるけど、それでも……」
ぐすぐすと、熱病に侵された幼児の様に鼻を啜りながら、自分よりも一回り小さいその人に縋り付く。こんな風に、不恰好な自分の姿を見せたくなくて、これまで必死になって自分自身の本心を隠してきたけれど。物理的な障壁を前にした、ここで打ち止め、というサインを示されても、俺の欲情と、この人が本当の意味で欲しいという欲望は、俺の中で際限なく昂り続けていくばかりだった。
透さんをこの腕に抱きながらも、きっとこの欲情の成れの果てに、こんな結果を呼ぶという事実は、視界の隅にいつだって見え隠れしていて。だけど、十二個×二のエチケットを消費する前にそれを口にしてしまえば、ただただ自分自身が、軽薄で軽率な男になってしまうと思ったから。そんな俺のどう仕様もない意地やプライドを守る為に。自分自身の免罪符の為に。俺は繰り返し繰り返し、この人を犯し続けてきたんだ。
たったそれだけの為に、この人にこんなにも無茶をさせてしまった。もしも、このままこの人に見捨てられてしまったら、と思わず恐怖に打ち震える。けれど、これ以上躊躇って、またこんな風にこの人に無茶をさせてしまう結果を呼ぶよりは、何倍も何十倍もいい。
この人が、本当に、本当に、好きだから。
「………ぇ………よ………」
泣き噦る俺の耳元に、微かな、聞き取るのもやっとの声が届く。ハッと顔を上げると、其処には、慈愛に満ちた表情を浮かべる、蒼白なその人の顔があって。胸が引き絞られるくらいに痛むのに、こんな風に話すのもやっとの状態にしたのは自分なのに、罪悪感よりも圧倒的な、喜びと愛しさが、この身に迫った。
「なに、透さん、どないした?……水?お腹空いた?トイレ?……なん……」
「え、え……よ」
そして、その人が、俺に対して何を訴えたいのか、それを理解した瞬間。この人を知る世界中の人間に向けて、俺は、宣戦布告をした。
「そんなん、ずっと……つけんで、ええよ」
世界中にいる、この人のファンや、この人の仲間、この人を支えてくれた人達、ごめんなさい。だけど、この人は、もう俺だけのダンサーだから。ずっとずっと、俺だけの為に、俺の腕の中で踊り続けると、決めた人だから。
「……嘘みたいや、なんで、こない気持ちええの。勝手に腰動いてまう、なかとろとろで、無茶苦茶、気持ちええ」
「はぁ……あっ、……じゅんの、すごい、ごりごり、奥まで、くるのぉ……ッアア……ッあっあっ、はげし、ぃ……ッッ」
「ごめん、もう俺ホンマ無理や。透さんの身体、ホンマに気持ちええ。こんなん、直ぐに……なぁ、いっちゃん奥に、出していい?何があっても、全部責任取るから」
「ぁあっん、……っおく、が……イイッ、だして、僕の奥に、……あっあっ、ァアっ……ひぁっ」
「透さん、透……愛してる、ッ、あいし……ぁ、…っく……ッ」
貴方達がどれだけこの人を、再びステージの上に引きあげようとしても。例えばそれが、この国の大統領であったとしても。俺は、断固として、貴方達と、敵対します。
「ごめん、さっきより早いかもしれへん。透の中、俺のでぬるぬるで、ごっつ気持ちええ……また、一番奥に出すよ、ええ?」
「聞かんで……ええ……せやから、もう……っ」
「うん、うん……せやけど聞きたかってん。貴方の口から、俺の事欲しがって貰いたかったんや。せやから欲しがりの俺の為に、ちゃんと言ってくれる?」
「ッ……潤の、ほしい、おくに、ほしいのぉ……」
「嗚呼、上手や。ホンマに良え子やね、透。愛してる……愛してんで」
「ぁっ、あう、……っん……ぼくも、あいしてる、潤……ッッあ、はぁ、んッッ、……ァアっ!!」
宣誓。
俺は、貴方の望むままに、世界中の人達を、否、この世界を敵に回すと、貴方に誓います。
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