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第三章『すれ違い』

第七話『新しいライフスタイル』

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新しい物に付け替える時は、開封する所から付けるまでの全てを透さんにやって貰った。透さんの方からの進言と、俺自身の意識でそれをする事になったのだけど。そうする事で、俺の中にある、日頃は隠している独占欲や、普段は表沙汰に出来ない支配欲求みたいなものは、存分に満たされていった。


しかし、それでも、俺の身体に燻る、目の前にいるその人の身体を貪りたいという獣欲は、止まるところを知らなかった。媚薬の効果は然程長い時間続く物では無い。だから、こうしていま、十二個入りの小箱の最後の一つを消費し切った俺の怒張に再び血が巡っていくのは、二倍量になった媚薬を足掛かりに、自分自身を繋ぎ止めていた枷が壊れ、自分の持つ本来の我欲が解き放たれたからだとしか思えなかった。しかし、その我欲を先走りさせても、目の前にある現実は変わらない。だから、俺は自分自身の暴れ狂う欲求を抑え込み、事実を事実として、透さんに告げた。


「透さん、見て」


しっとりと、未だ情欲に濡れたままの声色が自分の口から生み出されてしまうのには、我ながら呆れた。まだまだ、目の前にいる愛しい人の身体を求めたいという本心が、自分の意思とは無関係に、そこに如実に表れていた。自分自身に内心呆れ返っている俺に促され、透さんは、虚な眼差しで空になった小箱の中に視線を移した。そして、そこから読み取った情報と、俺の言わんとしている事の意味を知り、微かに目を見開いた。


「無くなってしもうたなら、しゃあないかなって……せやから、今日はもう」

「して」


嬌声をひっきりなしに上げ、掠れたその声は、しかし、確かに、其処に掛けた強い意志を感じさせた。その為、『今日はもう、お開きにしよう』と言う俺の意思は、誰よりも愛しい者による強制力を兼ね備えたその声を前にして、呆気なく陥落してしまいそうになった。


「せやけど、透さん……」

「僕、まだ体力残っとるから、大丈夫や。それとも潤は、もう身体が付いていかへんの?」

「いや、それは、その……」


この場限りの嘘をついて、お茶を濁すのも大人の手段か、と思う。けれど、それは、視覚から得られる確かな情報を前にして、選び取れる方法ではなかった。だから、もう、はっきり言う………透さんの婀娜っぽい流し目からの、『して』の一言だけで、あっという間に完勃ちしました。


「潤、僕、頑張るから。僕で、いっぱい気持ち良くなって」


俺は、透さんの『俺の為に頑張りたい』という気持ちを前に、渋々と頷くしかなかった。けれど、本心で言えば、この流れを俺自身も待っていたのは間違いなくあったので。ふっと、口角だけを僅かに上げた苦笑を浮かべてから、汗をしっとりと掻いた透さんの額に唇を落とした。


透さんから少しだけ身体を外して、怒張に装着したままのゴムの先端部に溜まった精液を指先で摘んで堰き止める。そして、精液を溢す事なく、怒張から綺麗にゴムを取り去ると、ゴムの上部を手早く一本結びにして、ティッシュに包み、ゴミ箱に捨てた。


この話は透さんには秘密だけど、透さんがその時、少し残念そうな顔をしているのが、俺の中でグッドポイントだった。


「そんなにがっついて奥まで咥え込んで、沢山鳴いたから、喉痛いんやない?無理したらあかんで。ちゃんと最後まであげるから落ち着いて……うん、せやね、良かったね。うん、俺も気持ちええよ。ホンマに、ありがとう」


口淫を一生懸命に施す透さんの頭を撫でたり、体調を心配したり、共感したり、ちゃんと気持ち良い事を伝えたり。そうしていくうちに、透さんは、自然とリラックスした様子で、うっとりと目を細めながら、自分自身の喉奥で拾う性感帯を開拓していった。その様子を上から眺めながら、俺自身も満たされた気持ちになる。愛する人に愛される喜びを全身で感じながら、俺は次第に、透さんの喉奥に向かって緩く腰を動かし始めた。


自分自身よりも、この世の誰よりも、貴方を大切にしたい。それが、混じり気の無い俺の本心だ。だからこそ、誰よりも大切な貴方が、それを望むなら仕方がないと、俺は貴方のパートナーとして、貴方の強固なその想いの前に跪き、時には諦めたり譲歩したりする必要がある。それも、パートナーに対する理解や、気遣いの範疇に入るかも知れないのだから。


『僕をもっと頑張らせて、もっとお前を愛させて』


そう、物言わぬ貴方の瞳が訴えて、それを心の底から願うのならば、俺は、敢えてその気持ちを止めようとは思わない。


「透さん、そろそろ出るよ。せやから、一旦口の外に出して。喉に直接掛けたら、身体に障るかもしれんやろ?……そう、うん。安心して」


ひっきりなしに嘔吐いては、涙目になりながら上目遣いをし、頷く事すら碌に出来ない透さんと、視線だけで会話する。その、俺の為ならどんな事にも全力で頑張ります、という、日頃から俺の前で見せている真面目なスタイルを、こんな時にまで適用してしまう優等生の透さんを見ているだけで、胸がときめきと切なさで苦しくなった。


口の中からずるん、と怒張を抜き出した透さんは、舌を長々と放り出して、両目をトロトロに蕩けさせたまま、あんぐりと口を開けて、俺の怒張の先端から飛び出す精液を、今か今かと待ち続けた。優等生気質を完全に拗らせてしまった透さんのその姿に、罪悪感を抱いたり、それでも悲しいかな感じてしまう男の性を掻き立てられつつも、俺は自分の手で手淫を施して絶頂の階段を駆け上がり、自分自身のタイミングで、真っ赤な空洞と化した透さんの口内を白く染め上げた。


「……は……っ、」


最初に使ったゴムの中に放ったものと、同じくらいの量の吐精を果たした事実には、当の本人である俺自身が一番驚いた。心の中では罪悪感を感じていても、それを凌駕する興奮を抱いてしまった事実に、顔を覆いたい気分になる。しかし、その欲望の塊をごくん、と一飲みにした透さんはと言うと、ほぅ、と熱い溜息を吐いて、うっとりと恍惚の表情を浮かべていて。俺の心の機微や複雑な男心を感じ取ってはいない様だった。幸か不幸か。俺に幸あれ。


「潤、気持ち良かった?僕、最後の方はアホみたいに口開けたまんまやったから」

「大丈夫。ホンマに気持ち良かった。ありがとう、透さん。体調が良い時は、また、してくれる?」

「うん、僕、頑張る」


透さんの可愛らしい口の中に、自分の意思で精液をぶっ掛けたかった衝動を持つ自分を、この人にだけは知られてはならない。だから、俺に褒めて貰いたい、俺に愛されたいと全身で表現する、一生懸命な透さんの頭を撫でて、自分自身の持ってはならない気持ちを誤魔化した。


「でも、そんなに力んだり、頑張ろうとせんでもええんです。俺は、貴方がそこに居ってくれたら、それだけでええんやから。せやから、身体だけは絶対に大事にして下さいね、透さん」


敬語や丁寧語を強調し、これで今日は本当にお仕舞い、という感覚を強調すると、透さんは、最後に自分が頑張って俺が達して終わり、という流れに気分を落ち着けたのか、漸く安堵の表情を浮かべた。そして、俺が真摯な眼差しを意識しながらそう締め括った事により、どっちが年上か分からへん、と苦笑しながらも、一応の頷きを返してくれた。


「僕も、そう思うてる。潤は、そこに居てくれるだけでええて。だけど、大きな仕事を任されて、自信持ってる潤も、格好良いと思うとるんよ。せやから……僕に出来る事あったら、いつでも言ってな?」


確かに、自分にとっての大切な誰かに対して、貴方はそこに居てくれるだけで良いと言う気持ちがあるのも正しい感情だろう。それでも、仕事上で大役を任されるだけの実力があり、人として一味も二味もある人間の方が、人の目に魅力的に映るのは仕方がない事だ。だから、前園先輩の言っていた、仕事も恋愛も両立してこそ、と言う話は、間違っていないのだと思えた。


この人に、ずっとずっと、恋していて欲しい。だから、その為にも仕事に打ち込む時間を作るのも、時には必要なのかも知れない。


「これから、きっと、夜遅くに帰ってくる事が増えると思うんです。でも、その時は今度こそきちんと連絡しますし……もう、こんな風に貴方に寂しい思いはさせへんて、誓います」

「それって、誰に誓うん?」

「勿論、貴方に」

「ふふ、なら、信頼したる」


くすくす、とお互いに微笑み合いながら、そのまま自然に、惹かれ合う様にして、ゆっくりと唇を交わしていく。身体の熱は、実を言えば、まだまだ治る所を知らないのだけれど。ここで俺が身動きを取ってしまったら、今日この日の思い出を、綺麗に終わらせる事が出来なくなってしまう。だから、その衝動には見て見ぬ振りをして。休日を良い事に、同じベッドの同じシーツに包まって、惰眠を貪った。


目覚めると、透さんの身体は完全に悲鳴を上げていて。俺はそれを、付きっきりで介抱した。透さんの身体を労り、家の事や透さんの身の回りのお世話の為にと、家の中を駆け回った。けれど不思議と身体は全く疲れを訴えず。寧ろ、俺の身体を受け入れて疲労困憊になってしまった透さんの為に献身的に尽くすという構図は、俺の中でぴったりと自分の性格と合致していて。その行為そのものが、自分自身のストレスの発散にまでなると言う事実を省みて、嬉しい驚きと発見を胸にした。


平日は仕事や会議をして夜遅くまで帰らず、休みの前日はある程度仕事をセーブして帰宅。処方された治療薬を服薬してから、一晩中、次の日の明け方近くまで透さんを求め、未開封のコンドームを瞬く間に一箱消費し。休日は、俺に抱き潰されて身動きが取れない、可愛くて愛しくて止まない透さんを介抱し、透さんの手足となって動いて自分自身のストレスまで解消してから、再び仕事三昧の日々に戻る……俺は、自分自身のモチベーションにもなるそんな愛に溢れた生活を、自分の中の、否、俺達のライフスタイルにしていったのだった。


そして、そんな生活を続けて行ってから、約半年間が経過し。とうとう俺は、イベントの本番当日を迎えた。

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