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第二章
第十話
しおりを挟む人間は醜い。自らの脆弱さを、打算と計算とあざとい思考でなんとか誤魔化して生きながらえ、他の生き物の命を喰らって生きているどころか、稀に同族同士で殺し合いをしたり、潰しあったりもする。
他の生き物を見せ物にしたり。死骸をコレクションしたり。毛皮や皮膚を服やバッグなどの装飾品の材料として運用したり。時には増え過ぎたと評して駆逐に乗り出したり。この世界の主人は正しく自分達であると傲り高ぶり、平然とのさばっている。
死んだら、骨すらろくに残せない癖に。
あまりにも不様だ。
あまりにも滑稽だ。
なのに、俺はそんな不様で滑稽な生き物に生まれついてしまった。
俺は生まれた瞬間からきっと、この世界に飽いていたんだと思う。だから、泣き叫んでこの世界に生まれてきたんだ。俺は、この世界に絶望していた。
愛などない。愛などない。愛などない。
全て欺瞞だ。
けれど、こんな醜い人間として生まれてしまった以上。生きたくても生きられない、可哀想な生き方しか選び取れなかった自分以外の存在がある以上。この与えられた生を無駄なく生きるしか、俺には他に術がなかったんだ。だから俺は、ひたすらに、自らの生を早い段階で誰かに終結させて貰うことだけを願い続けてきた。俺は、臆病者で、はしたなくて、意地汚い、命からがら生きている脆弱な存在でしかなかったから。この唯一残された、若さという自分の存在価値が薄まらないうちに、この価値を知る人間の手を借りて、その命を尊ばれながら、この世から絶縁したいと思っていたんだ。
自分で首を括る事もできない臆病者な俺に、そんな死を与えてくれる、運命の人。掛け替えのない死刑執行人に、俺は出会いたかった。そして、俺は漸く出逢った。この人に殺して欲しい、そう思える存在に。
あらゆる生き物のヒエラルキーの頂点に位置する、完膚なきまでに崇高な存在。俺の見窄らしい価値観の中で、けれども最も優れていると導き出した存在に。
けれど、彼は、真っ直ぐに、俺の双眸だけを見つめながら。自分がこうして変わる事が出来たのは、俺という存在があったからであると。全身全霊で俺に答え、惜しみない感謝の言葉を口にした。
だから、俺は思ったんだ。嗚呼、無駄じゃなかったと。
他の生き物を食し。排し。纏い。踏み付けにし。踏み付けにされてきた。俺の、数十年にもわたる道程は、無駄じゃなかった。
死に場所を探した数限りない逃避行が、いつしか生きる道に変わった。その証明が、いま、俺の目の前に、存在している。
綺麗だ。ただただ、君は綺麗だね。
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ありがとう。俺と出逢ってくれて。
俺の人生は。だから、きっと、尊いものだった。
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