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22 努力は裏切らないらしい

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場に出た数字。前回の手札。ディーラーの仕草。
このゲームにはいくつかのパターンがある。
もちろん、毎ゲーム確実に勝てるわけじゃないけれど、強気に出るべきタイミングくらいは分かる程度に攻略法が確立されているのだ。

「俺がどんだけここで金使ってきたと思ってるんだ」

自信満々に名乗りを上げてゲームを始めたプレイヤーがそんなことを言っていたけど、その理屈で言ったら俺も同じだ。ってかここで俺は全財産を溶かしている。普通に何度か泣いている。

「は?? ……嘘だろ」

「ははは」

……でもまあ何があろうと、最後に笑ったやつが勝ちなので。
俺は案の定、ゲームに勝った。それはもう大勝ちした。
卓上にエナジードリンクを並べ、廃人のような死んだ目でペラとカードを捲り、また捲り、また捲り。「へへ、」なんて死んだ目で笑いをこぼし。そうやってついに見つけた攻略法に一人「……ッシャ!!!」とガッツポーズをしたあの日々は、俺を裏切らなかったのである。
万が一失敗した時は速やかにこの場を立ち去り、脳みそに叩き込まれている王都のやたらややこしい道を全力疾走して追手を巻くというプランBも用意していたのだけれど、どうやらその出番はなさそうだ。
流石に裸足で雪道を走りたくはない。よかった俺、『ラスト・キング』の廃ゲーマーをやってて。

「おうおうやるなあ!!」

お仲間の分も含めた大量のお酒を注文し機嫌を取ったおかげか、例のドワーフのおじさんもすっかり上機嫌である。
これまた『ラスト・キング』プレイ中に知った、お酒好きというドワーフの特徴を大いに利用させてもらったのだ。
もちろん毛皮の弁償は既に済ませてある。
迷惑料として大分箔を付けて払ったけど、それでも俺の手元には一晩どころかしばらくウィンターグレーに滞在することになっても充分なお金が残ったので、大勝ちしたことで不興を買いすぎないよう他の客たちにもお酒を勧めておいた。
残念ながら腕っぷしにはちっとも自信がないのだ。せっかく手に入れたお金を腕にもの言わせて奪われたんじゃ敵わないし。
そんなわけで、店内は大分盛り上がっている。
途中何度も「ちょっとあなたすごいわね……! なにかコツがあるの……!?」「いやあ面白いもんをみた。俺アイツに何度も大負けしてたんだ、良い気味だぜ」と酒を注がれまくったせいで俺もだいぶご機嫌になってしまっているけど、どうやらこの場は切りぬけたと見てよさそうだ。
自分の周りを囲む愉快げな顔たちをさりげなく見回しながら、俺はようやく肩の力を抜いていた。
ひとまずはこのまま朝まで、好意的なお客たちと屈強なドワーフたちに囲まれてやり過ごしていれば勝金を狙って襲われる心配もないだろう。
ああ、やれやれ。助かった。一時はどうなることかと思った。
とりあえずこのままみんなを酔っ払わせて、俺は外が明るくなり次第さりげなくとんずらして宿屋を探そう。
いったい全体、何がどうしてこんなことになったのかは未だによく分からないけれど。
ウィンターグレーに来てしまったのならば、シドに会わずに帰るなんて選択肢は俺にはないのだ。
何としても無事にここから抜け出して、彼を捜索せねば。
さて、この広い王都の中で身を隠しているだろうシドと再会するにはどうしたら良いだろうか。
まさか広場の噴水に上ってしがみつき、「シド~~! 俺だ~~! 愛してる~~! 結婚してくれ~! ……じゃない間違えた。君の元気な顔を一目見させてくれ~~!」と叫ぶわけにはいかないし。そんなことをしたら普通に憲兵に変質者として真顔でしょっ引かれるのは違いないし。何よりシドに嫌われるし。シドに嫌われるくらいなら死ぬし。
俺が相変わらずの調子で頭の中をシドでいっぱいにしたまま、店員さんにお酒を注文していると。

「ミナト」

知り合いのいない異世界の街で、聞き覚えのある声が俺の名前を呼んだ。
店員さんに向けていた目をパチと瞬かせて振り返る。
……気のせいだろうか。
うろうろと賑やかな酒場の中に視線を彷徨わせる。そして、入り口前に立っているフード姿の人の前でヒタと視線が止まった。その見覚えのあるコート……俺が「これなら暖かいしウィンターグレーでも浮かないでしょ!」とシドに用意して着て行くよう言い含めた服……を脳みそが認識した瞬間、テーブルの上に腕をついて凭れていた体がパッと持ち上がり、俺は椅子から跳ね上がるようにして立ち上がった。

「シ、シド……!?」
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