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変わらずにあるもの

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 出版社を出て、まだ傷一つ無い車に乗り込み空港へ向かう。

 免許を取得し愛車まで購入した事は内緒にしているのだ。
 今日、これから空港にお迎えに行ったところで空を乗せることは出来ない。大人気スターを乗せるには運転技術に不安がある。

 先日、担当の井出さんに練習を兼ねたドライブに付き合ってもらおうと誘ったら、僕が一番に助手席に乗るわけにはいかないと断られた。でも、正直言うと『初めて』はディーラーの営業マンなのだ。納車の時に練習で少し走った時に乗ってもらった。

 ・・・それはノーカウントにしておこう。


 いきなり日本を飛び出して行った大好きな彼が帰ってくると思ったら嬉しくて泣けてくる。

 『俺は本当に愛斗と一生添い遂げる気でいるから、今のままじゃダメだ!』

 そう言って事務所へと出かけたと思えば、十日後には海外行きが決定していた。海はKAIになり飛び立って行った。

 それは『別れ』ではなく寧ろ逆。

 世界でも地位を得て唯一無二の俳優になり、少しの事では揺るがない地盤を創る。その少しの事と言うのは、俺たちの同性婚の事なのだ。

 そこまで覚悟を決めてくれた気持ちが嬉しくて愛しくて、自分も負けないくらい頑張ろうと決めたんだ。何倍も何十倍も成長して帰ってくる空の隣に胸を張って立っていたいし、置いて行かれたくない。だから、この先続くであろう何十年を思えば、ほんの五、六年離れる事なんて大したことは無い。

 毎日メッセージ交換はしてたし、時間が合えばビデオ通話もしてたからお互いの状況は常に把握できていた。俺の漫画が舞台化した時には劇場に花もくれたし、空が初めて向こうの映画出演が決まった時には俺もプレゼントを贈った。それでも、寂しい時もあったし秋好に愚痴ってしまった事もあるけどさ。・・・それは内緒にしておこうと思う。子どもっぽくて恥ずかしいから。

 いや~でもさ、ビックリだよね。空の事だから、どこへ行っても成功するとは思っていたし信じてたけど、こんなに早く結果をだして帰ってくるとは!

 街中には、看板やポスター、商品のパッケージにもKAIの笑顔が溢れかえっているし、映画館へ行けば、流暢な英語で、誰もが知っているような大スターたちと肩を並べるKAIに会える。日本に居ない時だってワイドショーではKAIの新着情報コーナーができたり、海外密着特番が放送されていた。今日の帰国なんてお祭りかっていうくらいに騒がれている。

 空港に向かったところで、報道陣やファンの子の分厚い壁に阻まれて直接会う事は出来ないだろうな。空も来なくていいよって言っていたし。でも、遠めでもいいから元気に帰ってきた姿を見たいんだ。

 今気づいた。

 これってお迎えじゃなくて只のストーカーっぽくない?・・・まあいいか。お迎えってことにしておこう。




 空港に着くと、やはりそこは人が溢れかえり、かなり多くの警備員さんが汗を流しながら整備している。電光板に目を向けると、どうやら飛行機の到着が五分遅れるようだ。

 これって、俺自身も報道陣にバレたらやばいんじゃないか?と思ったが、皆がみんな到着ゲートにクギ付けで周りを気にしている余裕もないから大丈夫か。


 待つこと十五分。一気に空港内がざわつき、ファンの子が握っているネーム入りお手製団扇がパタパタとあちらこちらで動き始めた。あの団扇はアイドル限定かと思ってたけど、そうではないらしい。俺も作ってみようかな。

 お、来たかな?


 ・・・あっ・・・空だ・・・空・・・。

 無数のフラッシュの光を浴び大歓声に包まれている俺の大好きな人。

 ・・・やばっ、泣きそっ・・・。しかも何か超~かっこよく見えるんですけど。え?CG??かっこ良過ぎなんですけどぉぉぉ。


 人で出来た分厚い壁のほんの隙間から盗み見ていると、不意に空と目が合ったような気がした。

 いやいやいやいや、離れてるし。こんな隙間からのチラ見だし。と思っていると、目の前の人垣が、なんちゃらの十戒の海の如く瞬く間に割れていく。

 ま、まさかね。流石にこの状況での対面再会はマズいと思い、背を向けてその場を離れた。


 つもりだった。


 気が付いた時には黄色い歓声と共に、懐かしい温かさと求めていた大好きな匂いに後ろから包み込まれていた。


「愛斗。ただいま。俺の愛斗。」

 悲鳴にも近い歓声のお陰で、俺だけに聞こえた言葉。

「空。お帰り。早く会いたくて来ちゃった。」

 前を向いたまま、涙を堪え伝える。

 次の瞬間、体ごと後ろを向かされたかと思ったら、唇に柔らかい感触が!

 ・・・・・は?

 ここ、空港ですけど?!沢山の人が居るんですけどぉぉ!!??

 あぁぁぁぁこらこらこら舌を入れるな!あ・・待って!本当に待って!!


 子どもの可愛いキスではなく、可愛くない大人のキスをされて腰が砕けた。

 仕方ないじゃないか!凄く久し振りなんだから!!これ絶対ワイドショーでもスポーツ新聞でもネットでも騒がれてしまうやつじゃないかっ!!帰国早々何してくれてるんだっ!もうっ!!

 と思ったものの、腰砕けになっている状況では声にも出せず、ヒョイッと空に抱えられて運ばれて行ったのであった。・・・空の車までね。


 少し休めば頭も腰も落ち着いてくる。


「ちょっと!!何やってんだよ!帰国早々!!」

「えっ!だって、愛斗の姿を見たら抑えられなくて。」

「いやいや、ここは日本だからな!スキンシップまで外国仕様になって帰ってきたのかよ!マスコミも沢山いたのに大変な事になるぞっ!もう!」

「ははっ!大丈夫だよ。それよりほら、言う事ない??ほら。」

「ん。・・・空、お帰りなさい。」

「愛斗。ただいま。」

「会いたかった。」

「俺も。会いたかったよ愛斗。」

 そして再び熱いキスを交わすため抱き合い、見つめ合う。


「んんっ!すみません。僕の存在忘れてません?」

「・・・・あ。細川さんもお帰りなさい。」

「もぉぉ。いい所だったのに邪魔しないでよ細川さん!」

「いやいや!海君。僕も蒼先生に挨拶したいんですから!それなのに僕の前で二人の世界をつくらないで下さい!海君は蒼先生が待っていてくれてたからいいですよね!僕は帰って来ても一人なんです!」

「細川さん、向こうで金髪の彼女作るんだって意気込んで日本を発って行ったのに彼女できなかったんですか?」

「・・・蒼先生。それは言わないで下さい。」

「はははっ。でも、細川さんも英語ペラペラになったんだから、これから日本でモテモテかもしれないですよ??」

「うぅぅ。そんな優しい事を言ってくれるのは蒼先生だけですぅぅ。」

「細川さん。もういいから!折角愛斗と話してるから少し黙って。」

 向こうで一緒に二人三脚で頑張っていたからか、空と細川さんの距離がグッと縮まり、本当の兄弟のような雰囲気になっていた。前よりも強固な信頼関係を築いたんだろう。


「空のこれからのスケジュールは?」

「事務所へ挨拶と打合せに行って、帰国記者会見。今日はそれだけ。」

「じゃあ、家で楽しみに待ってる!何が食べたい??」

「はぁぁ。事務所行かずにこのまま愛斗と一緒に居たい。離れたくない。いやだいやだ。」

「美味しいご飯作って待ってるから、もう少しだけ頑張って!」

「・・・分かった。じゃあ、和食が食べたい。」

「いいよ。じゃあ夜ね!俺は向こうに車あるから。」

「ん?誰かに送ってもらったのか?松永さん?井出さん?」

「何と!自分の車です!俺、免許とったんだ!」

 もの凄く驚いた空は、俺の車に乗っていきたいと駄々をこねこねこね・・・大変だったけど、事故を起こしたら大変だし、事務所に行かないといけないのだから無理だよという内容を言葉を変え五回くらい説明をして、やっと諦めて細川さんの車で事務所へ向かった。



 本当は合う前は少し不安だった。照れ臭さいなとか、向こうに行って成功して性格が変わってたらどうしようとか、沢山の出会いの中で俺への気持ちが薄れていたらどうしようかとか。マイナス思考に陥っていたんだけど、そんな心配は全く要らなかった。

 前と何も変わらない空が居た。

 安心した。


 さあ、最高の和食を作るために買い物へ向かおう!


 いつか助手席に空を乗せるであろう愛車のハンドルを握りしめアクセルを踏む。

 目指すはお馴染みのスーパーだ!!!


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