94 / 102
第93話 アシュフォードside
しおりを挟む
俺の立場。
バロウズの王族、王弟。
結婚後は公爵。
それと、求婚者。
アグネスへの。
本当に止めたいのなら、物理的にアグネスの邪魔をすればいい。
クラリスの誕生日にどこかへ強引に連れ出す。
それこそ、事前に国外にでも連れ去って、その日に間に合うように帰国出来ないとでも言えばいい。
だが……
アグネスの中で、この日は心に期する日なのだと、思う。
この日に、最初で最後の死人還りを行う事で、過去に踏ん切りがついて、前に進めるのなら。
俺は彼女の側にいて、見届けたい。
「今更、イェニィ伯爵夫人やアンナリーエ夫人が手伝うと申し出ても、信じないでしょうし……
参った……何で、僕は彼女にああいう言い方したかなぁ」
不意に昔に帰った様な言葉使いを、先生がしたので。
もう俺の前では『僕』と、言わない先生が本気で困っているようで。
見た目は変わっても、ずっとこの人は先生のままだと思った。
この人は生徒の前でも、自分の間違いや迷いを認めるひとだった。
「当日までにアグネスが誰か協力者を見つけて、部屋にも入れて貰えないなら、部屋の前で待機します。
誰も見つけられていないようなら、邪魔はしない、立ち会うだけだの、うまく言って無理にでも部屋に入りますよ」
そう言った俺を、納得し難い目で先生は見ていた。
◇◇◇
夏を迎えた頃だった。
少しずつ、俺の休み無しの外交ペースも落ちてきて。
バロウズで過ごす日々も増えていて、一見俺とアグネスの間も順調に見えていた。
どんな集まりだろうと出席する場合のパートナーは、いつもアグネスだったし、踊る相手もアグネスのみ。
帰国して半年以上経って、彼女も社交界で新たな友人も出来て居場所を見つけた。
人々の関心は既に、『似ているせいか』『妹だからか』から
『いつ婚約するのだ』『早く婚姻すればいいのに』に、変化しつつあった。
王家も侯爵家も落ち着いているのに、周囲だけが急いでいた。
「すまん、また……母上がやらかした」
今年に入ってから、正式に俺の秘書官の肩書きを持つようになったレイが慌てて、執務室に入ってきた。
「今そこで、ルメインから聞いたんだが……」
ルメイン・コルト子爵令嬢は現在のレイの恋人だ。
王城でギルバートの女官として働いているから、今そこに居るわけはない。
ふたりで空き時間に、何処かで逢い引きでもしていたに違いない。
そこは敢えて聞かないが、母上と言うことはアライアか。
レイに詫びられたから何となく想像がつくので、気分が沈む。
俺の側に居たカランの顔も途端に険しくなった。
何年も前から、カランは俺の前ではアライアへの反感を隠さない。
口にはしないが、名ばかりになった専用女官長を辞めさせたらいいのにと、思っている。
既に1人前の仕事をしている王弟に対して、元乳母だからと遠慮が無さ過ぎると、憤っている。
「本日午前中にスローン侯爵令嬢が、忘れ物を届けに侯爵の執務室を訪れた」
今日の午前中に? 俺は会議に出ていた。
アグネスとは会えていないし、ここに残っていたカランも何も言っていなかった。
カランは首を振っている。
と、言うことは彼女は俺の執務室には来ていない。
アグネスが登城するのは、夜会の時くらいで。
登城の機会があったら、先触れ無しで、いつでもいいから俺を訪ねて欲しいと、前々から言っていた。
「ご令嬢自らが、忘れ物を届けると言うことは……
アグネス嬢は王弟殿下に会うつもりだった」
最近、カランの前でもレイは『殿下』と、俺を呼ぶようになっていた。
前置きが長いぞ、悪い話は早く言え。
「その帰り、こちらに寄ろうとして……廊下で母上とばったりと。
母親だから庇う訳じゃないが、決して待ち伏せしていたんじゃないのは、先に言わせて欲しい」
「……」
「ギルバート殿下の執務室から出てきたルメインはふたりの会話を全部聞いた訳じゃない。
途中からだと言っていたが、母上が少しアグネス嬢を責めている様に感じたらしい」
「……何を言っていたんだ?」
ギルバートの執務室は、ここから少し離れているが同じ廊下の先にある。
コルト女官が近付く前から、ふたりは会話を交わしていて、その結果アグネスは俺を訪ねる事なく下城したのだ。
アライアは一言どころじゃなく、結構責めたのだろう。
「『スローン侯爵令嬢なら結婚してもいい』と、殿下は仰せなのだから、引き延ばしたりせずに早く受けるのが当然でしょうと、言っていたそうだ」
は? 『アグネスなら結婚してもいい』?
俺はそんな風に言っていない。
『アグネスとしか、結婚しない』と、言ったんだ。
それをアライアは同じ意味として、彼女に伝えたのか?
しかしそれじゃ、まるで……まるで、俺が結婚したくない独身主義者で。
本当は誰とも結婚なんかしたくないのに、仕方なく結婚しないといけないのなら、アグネスだったら良しとするかみたいな、何を上から偉そうにみたいな。
自意識過剰なバカ男、そんな風に受け取られかねない。
俺はアライアに言った言葉を、レイとカランの前で聞かせた。
ふたりは神妙な表情だ。
「この2つは同じ意味か?
はっきり言ってくれ、これはマーシャル夫人の受け取り方が正しいのか?」
ふたりは大きく頭を振った。
どちらがおかしいのか、審判は下った。
自分を抑えようと思っても、我慢出来ない事もある。
アライアには、俺が公爵となったら伝えようと思っていたが、早めることにした。
「レイ、早急に伯爵になる準備をしておいてくれないか」
俺の周りには男性のみでいい。
俺との私的な会話を、誰が聞いているかわからない廊下で話す女官長など要らない。
それも、微妙に言い回しを変えてだ。
これからは女性の手が必要な時には、優秀な女官をその時々にまわして貰えばいい。
それこそ、コルト女官のような。
聞いた事をまず噂で流す人間が多いなか、彼女はよく教えてくれた。
人の良いグレゴリーには、申し訳ないが。
妻アライアの、アグネスに対する無礼は看過出来ない。
二度とアグネスに接触出来ないようにする。
カランには現マーシャル伯爵夫妻を呼び出す段取りと、スローン侯爵家への先触れを頼んだ。
バロウズの王族、王弟。
結婚後は公爵。
それと、求婚者。
アグネスへの。
本当に止めたいのなら、物理的にアグネスの邪魔をすればいい。
クラリスの誕生日にどこかへ強引に連れ出す。
それこそ、事前に国外にでも連れ去って、その日に間に合うように帰国出来ないとでも言えばいい。
だが……
アグネスの中で、この日は心に期する日なのだと、思う。
この日に、最初で最後の死人還りを行う事で、過去に踏ん切りがついて、前に進めるのなら。
俺は彼女の側にいて、見届けたい。
「今更、イェニィ伯爵夫人やアンナリーエ夫人が手伝うと申し出ても、信じないでしょうし……
参った……何で、僕は彼女にああいう言い方したかなぁ」
不意に昔に帰った様な言葉使いを、先生がしたので。
もう俺の前では『僕』と、言わない先生が本気で困っているようで。
見た目は変わっても、ずっとこの人は先生のままだと思った。
この人は生徒の前でも、自分の間違いや迷いを認めるひとだった。
「当日までにアグネスが誰か協力者を見つけて、部屋にも入れて貰えないなら、部屋の前で待機します。
誰も見つけられていないようなら、邪魔はしない、立ち会うだけだの、うまく言って無理にでも部屋に入りますよ」
そう言った俺を、納得し難い目で先生は見ていた。
◇◇◇
夏を迎えた頃だった。
少しずつ、俺の休み無しの外交ペースも落ちてきて。
バロウズで過ごす日々も増えていて、一見俺とアグネスの間も順調に見えていた。
どんな集まりだろうと出席する場合のパートナーは、いつもアグネスだったし、踊る相手もアグネスのみ。
帰国して半年以上経って、彼女も社交界で新たな友人も出来て居場所を見つけた。
人々の関心は既に、『似ているせいか』『妹だからか』から
『いつ婚約するのだ』『早く婚姻すればいいのに』に、変化しつつあった。
王家も侯爵家も落ち着いているのに、周囲だけが急いでいた。
「すまん、また……母上がやらかした」
今年に入ってから、正式に俺の秘書官の肩書きを持つようになったレイが慌てて、執務室に入ってきた。
「今そこで、ルメインから聞いたんだが……」
ルメイン・コルト子爵令嬢は現在のレイの恋人だ。
王城でギルバートの女官として働いているから、今そこに居るわけはない。
ふたりで空き時間に、何処かで逢い引きでもしていたに違いない。
そこは敢えて聞かないが、母上と言うことはアライアか。
レイに詫びられたから何となく想像がつくので、気分が沈む。
俺の側に居たカランの顔も途端に険しくなった。
何年も前から、カランは俺の前ではアライアへの反感を隠さない。
口にはしないが、名ばかりになった専用女官長を辞めさせたらいいのにと、思っている。
既に1人前の仕事をしている王弟に対して、元乳母だからと遠慮が無さ過ぎると、憤っている。
「本日午前中にスローン侯爵令嬢が、忘れ物を届けに侯爵の執務室を訪れた」
今日の午前中に? 俺は会議に出ていた。
アグネスとは会えていないし、ここに残っていたカランも何も言っていなかった。
カランは首を振っている。
と、言うことは彼女は俺の執務室には来ていない。
アグネスが登城するのは、夜会の時くらいで。
登城の機会があったら、先触れ無しで、いつでもいいから俺を訪ねて欲しいと、前々から言っていた。
「ご令嬢自らが、忘れ物を届けると言うことは……
アグネス嬢は王弟殿下に会うつもりだった」
最近、カランの前でもレイは『殿下』と、俺を呼ぶようになっていた。
前置きが長いぞ、悪い話は早く言え。
「その帰り、こちらに寄ろうとして……廊下で母上とばったりと。
母親だから庇う訳じゃないが、決して待ち伏せしていたんじゃないのは、先に言わせて欲しい」
「……」
「ギルバート殿下の執務室から出てきたルメインはふたりの会話を全部聞いた訳じゃない。
途中からだと言っていたが、母上が少しアグネス嬢を責めている様に感じたらしい」
「……何を言っていたんだ?」
ギルバートの執務室は、ここから少し離れているが同じ廊下の先にある。
コルト女官が近付く前から、ふたりは会話を交わしていて、その結果アグネスは俺を訪ねる事なく下城したのだ。
アライアは一言どころじゃなく、結構責めたのだろう。
「『スローン侯爵令嬢なら結婚してもいい』と、殿下は仰せなのだから、引き延ばしたりせずに早く受けるのが当然でしょうと、言っていたそうだ」
は? 『アグネスなら結婚してもいい』?
俺はそんな風に言っていない。
『アグネスとしか、結婚しない』と、言ったんだ。
それをアライアは同じ意味として、彼女に伝えたのか?
しかしそれじゃ、まるで……まるで、俺が結婚したくない独身主義者で。
本当は誰とも結婚なんかしたくないのに、仕方なく結婚しないといけないのなら、アグネスだったら良しとするかみたいな、何を上から偉そうにみたいな。
自意識過剰なバカ男、そんな風に受け取られかねない。
俺はアライアに言った言葉を、レイとカランの前で聞かせた。
ふたりは神妙な表情だ。
「この2つは同じ意味か?
はっきり言ってくれ、これはマーシャル夫人の受け取り方が正しいのか?」
ふたりは大きく頭を振った。
どちらがおかしいのか、審判は下った。
自分を抑えようと思っても、我慢出来ない事もある。
アライアには、俺が公爵となったら伝えようと思っていたが、早めることにした。
「レイ、早急に伯爵になる準備をしておいてくれないか」
俺の周りには男性のみでいい。
俺との私的な会話を、誰が聞いているかわからない廊下で話す女官長など要らない。
それも、微妙に言い回しを変えてだ。
これからは女性の手が必要な時には、優秀な女官をその時々にまわして貰えばいい。
それこそ、コルト女官のような。
聞いた事をまず噂で流す人間が多いなか、彼女はよく教えてくれた。
人の良いグレゴリーには、申し訳ないが。
妻アライアの、アグネスに対する無礼は看過出来ない。
二度とアグネスに接触出来ないようにする。
カランには現マーシャル伯爵夫妻を呼び出す段取りと、スローン侯爵家への先触れを頼んだ。
61
お気に入りに追加
2,078
あなたにおすすめの小説
不遇な王妃は国王の愛を望まない
ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝ある時、クラウン王国の国王カルロスの元に、自ら命を絶った王妃アリーヤの訃報が届く。王妃アリーヤを冷遇しておきながら嘆く国王カルロスに皆は不思議がる。なにせ国王カルロスは幼馴染の側妃ベリンダを寵愛し、政略結婚の為に他国アメジスト王国から輿入れした不遇の王女アリーヤには見向きもしない。はたから見れば哀れな王妃アリーヤだが、実は他に愛する人がいる王妃アリーヤにもその方が都合が良いとも。彼女が真に望むのは愛する人と共に居られる些細な幸せ。ある時、自国に囚われの身である愛する人の訃報を受け取る王妃アリーヤは絶望に駆られるも……。主人公の舞台は途中から変わります。
※設定などは独自の世界観で、あくまでもご都合主義。断罪あり(苦手な方はご注意下さい)。ハピエン🩷
※稚拙ながらも投稿初日からHOTランキング(2024.11.21)に入れて頂き、ありがとうございます🙂 今回初めて最高ランキング5位(11/23)✨ まさに感無量です🥲

「奇遇ですね。私の婚約者と同じ名前だ」
ねむたん
恋愛
侯爵家の令嬢リリエット・クラウゼヴィッツは、伯爵家の嫡男クラウディオ・ヴェステンベルクと婚約する。しかし、クラウディオは婚約に反発し、彼女に冷淡な態度を取り続ける。
学園に入学しても、彼は周囲とはそつなく交流しながら、リリエットにだけは冷たいままだった。そんな折、クラウディオの妹セシルの誘いで茶会に参加し、そこで新たな交流を楽しむ。そして、ある子爵子息が立ち上げた商会の服をまとい、いつもとは違う姿で社交界に出席することになる。
その夜会でクラウディオは彼女を別人と勘違いし、初めて優しく接する。
最愛から2番目の恋
Mimi
恋愛
カリスレキアの第2王女ガートルードは、相手有責で婚約を破棄した。
彼女は醜女として有名であったが、それを厭う婚約者のクロスティア王国第1王子ユーシスに男娼を送り込まれて、ハニートラップを仕掛けられたのだった。
以前から婚約者の気持ちを知っていたガートルードが傷付く事は無かったが、周囲は彼女に気を遣う。
そんな折り、中央大陸で唯一の獣人の国、アストリッツァ国から婚姻の打診が届く。
王太子クラシオンとの、婚約ではなく一気に婚姻とは……
彼には最愛の番が居るのだが、その女性の身分が低いために正妃には出来ないらしい。
その事情から、醜女のガートルードをお飾りの妃にするつもりだと激怒する両親や兄姉を諌めて、クラシオンとの婚姻を決めたガートルードだった……
※ 『きみは、俺のただひとり~神様からのギフト』の番外編となります
ヒロインは本編では名前も出ない『カリスレキアの王女』と呼ばれるだけの設定のみで、本人は登場しておりません
ですが、本編終了後の話ですので、そちらの登場人物達の顔出しネタバレが有ります
想定よりも字数が超えそうなので、短編から長編に変更致します
申し訳ございません

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
大好きなあなたを忘れる方法
山田ランチ
恋愛
あらすじ
王子と婚約関係にある侯爵令嬢のメリベルは、訳あってずっと秘密の婚約者のままにされていた。学園へ入学してすぐ、メリベルの魔廻が(魔術を使う為の魔素を貯めておく器官)が限界を向かえようとしている事に気が付いた大魔術師は、魔廻を小さくする事を提案する。その方法は、魔素が好むという悲しい記憶を失くしていくものだった。悲しい記憶を引っ張り出しては消していくという日々を過ごすうち、徐々に王子との記憶を失くしていくメリベル。そんな中、魔廻を奪う謎の者達に大魔術師とメリベルが襲われてしまう。
魔廻を奪おうとする者達は何者なのか。王子との婚約が隠されている訳と、重大な秘密を抱える大魔術師の正体が、メリベルの記憶に導かれ、やがて世界の始まりへと繋がっていく。
登場人物
・メリベル・アークトュラス 17歳、アークトゥラス侯爵の一人娘。ジャスパーの婚約者。
・ジャスパー・オリオン 17歳、第一王子。メリベルの婚約者。
・イーライ 学園の園芸員。
クレイシー・クレリック 17歳、クレリック侯爵の一人娘。
・リーヴァイ・ブルーマー 18歳、ブルーマー子爵家の嫡男でジャスパーの側近。
・アイザック・スチュアート 17歳、スチュアート侯爵の嫡男でジャスパーの側近。
・ノア・ワード 18歳、ワード騎士団長の息子でジャスパーの従騎士。
・シア・ガイザー 17歳、ガイザー男爵の娘でメリベルの友人。
・マイロ 17歳、メリベルの友人。
魔素→世界に漂っている物質。触れれば精神を侵され、生き物は主に凶暴化し魔獣となる。
魔廻→体内にある魔廻(まかい)と呼ばれる器官、魔素を取り込み貯める事が出来る。魔術師はこの器官がある事が必須。
ソル神とルナ神→太陽と月の男女神が魔素で満ちた混沌の大地に現れ、世界を二つに分けて浄化した。ソル神は昼間を、ルナ神は夜を受け持った。
望まれない結婚〜相手は前妻を忘れられない初恋の人でした
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【忘れるな、憎い君と結婚するのは亡き妻の遺言だということを】
男爵家令嬢、ジェニファーは薄幸な少女だった。両親を早くに亡くし、意地悪な叔母と叔父に育てられた彼女には忘れられない初恋があった。それは少女時代、病弱な従姉妹の話し相手として滞在した避暑地で偶然出会った少年。年が近かった2人は頻繁に会っては楽しい日々を過ごしているうちに、ジェニファーは少年に好意を抱くようになっていった。
少年に恋したジェニファーは今の生活が長く続くことを祈った。
けれど従姉妹の体調が悪化し、遠くの病院に入院することになり、ジェニファーの役目は終わった。
少年に別れを告げる事もできずに、元の生活に戻ることになってしまったのだ。
それから十数年の時が流れ、音信不通になっていた従姉妹が自分の初恋の男性と結婚したことを知る。その事実にショックを受けたものの、ジェニファーは2人の結婚を心から祝うことにした。
その2年後、従姉妹は病で亡くなってしまう。それから1年の歳月が流れ、突然彼から求婚状が届けられた。ずっと彼のことが忘れられなかったジェニファーは、喜んで後妻に入ることにしたのだが……。
そこには残酷な現実が待っていた――
*他サイトでも投稿中

本の虫令嬢は幼馴染に夢中な婚約者に愛想を尽かす
初瀬 叶
恋愛
『本の虫令嬢』
こんな通り名がつく様になったのは、いつの頃からだろうか?……もう随分前の事で忘れた。
私、マーガレット・ロビーには婚約者が居る。幼い頃に決められた婚約者、彼の名前はフェリックス・ハウエル侯爵令息。彼は私より二つ歳上の十九歳。いや、もうすぐ二十歳か。まだ新人だが、近衛騎士として王宮で働いている。
私は彼との初めての顔合せの時を思い出していた。あれはもう十年前だ。
『お前がマーガレットか。僕の名はフェリックスだ。僕は侯爵の息子、お前は伯爵の娘だから『フェリックス様』と呼ぶように」
十歳のフェリックス様から高圧的にそう言われた。まだ七つの私はなんだか威張った男の子だな……と思ったが『わかりました。フェリックス様』と素直に返事をした。
そして続けて、
『僕は将来立派な近衛騎士になって、ステファニーを守る。これは約束なんだ。だからお前よりステファニーを優先する事があっても文句を言うな』
挨拶もそこそこに彼の口から飛び出したのはこんな言葉だった。
※中世ヨーロッパ風のお話ですが私の頭の中の異世界のお話です
※史実には則っておりませんのでご了承下さい
※相変わらずのゆるふわ設定です
※第26話でステファニーの事をスカーレットと書き間違えておりました。訂正しましたが、混乱させてしまって申し訳ありません

初夜に大暴言を吐かれた伯爵夫人は、微笑みと共に我が道を行く ―旦那様、今更擦り寄られても困ります―
望月 或
恋愛
「お前の噂を聞いたぞ。毎夜町に出て男を求め、毎回違う男と朝までふしだらな行為に明け暮れているそうだな? その上糸目を付けず服や装飾品を買い漁り、多大な借金を背負っているとか……。そんな醜悪な女が俺の妻だとは非常に不愉快極まりない! 今後俺に話し掛けるな! 俺に一切関与するな! 同じ空気を吸ってるだけでとんでもなく不快だ……!!」
【王命】で決められた婚姻をし、ハイド・ランジニカ伯爵とオリービア・フレイグラント子爵令嬢の初夜は、彼のその暴言で始まった。
そして、それに返したオリービアの一言は、
「あらあら、まぁ」
の六文字だった。
屋敷に住まわせている、ハイドの愛人と噂されるユーカリや、その取巻きの使用人達の嫌がらせも何のその、オリービアは微笑みを絶やさず自分の道を突き進んでいく。
ユーカリだけを信じ心酔していたハイドだったが、オリービアが屋敷に来てから徐々に変化が表れ始めて……
※作者独自の世界観満載です。違和感を感じたら、「あぁ、こういう世界なんだな」と思って頂けたら有難いです……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる