【完結】この胸が痛むのは

Mimi

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第31話 アシュフォードside

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結局、別荘に行くことはなくて。
それを兄のギルバート第2王子に伝えると、
『えー、今更……』と、言われた。
今年は俺に行かせてくれ、と譲って貰ったから申し訳なかった。
花火祭りと同じ様な日程で、ガードナー侯爵領へ行き婚約1周年を祝う約束になっているらしい。


それを聞き付けたバージニアに、『ご一緒しましょう』と言われて、追い払った。
アグネスの事や、これまでの苛めの事を怒りたいけれど、やはり妹にも何か思いがあってそんな真似を続けているのかも、と思うと……複雑だ。

他に苛めに参加していた者の名前をストロノーヴァ先生に聞くと、グレイシーの名前が出た。
聞き覚えがあるので記憶を辿ると、あの夜会で声をかけてきた二人組が浮かんできた。
あのゴージャスの方だ。
貴婦人達が王妃陛下や王太子妃殿下に気を遣って、控えめに装う王家主催の場に、やたらと豪華なドレスを纏っていた1学年上の伯爵令嬢……あれの妹か。

妹を責めるだけでは駄目だし、ストロノーヴァ先生には相談を拒否されたし、両陛下に言うとまた、アグネスが逆恨みされそうだし……何もかも与えられているバージニアの不満がわからない。



外務大臣にアグネスの祖母の前ダウンヴィル伯爵夫人が提出した旅券申請に書かれた帰国予定日を調べて貰った。
届け出には、一回の旅券申請で目一杯の3ヶ月と書かれているらしい。


「そういうのってさ、皆多めに申請するから」

……このまま一度も会えずに、夏が終わるのか。
愕然とした俺をレイが慰めた。



夏休みの課題を片付けながら、スローン侯爵に言われた事を考え続けた。
ぼんやりとだが、今頭の中にあるのは『外交』についてだ。


フォンティーヌ王女の捜索は2ヶ月目に打ち切られた。
ねじ込むように送り込んだ我が国の捜索隊も帰国した。
王女を乗せて沈んだ船の残骸がリヨンの海岸線に打ち上げられたが、乗客、乗組員、全員の遺体は発見出来なかった。

海の生き物達に喰われたか、それとも。
何処かで今も息を潜めてその日が来るまで、リヨンの王太子から隠れているのか。
俺には真相はわからないが、兄の王太子は
『何処かへ逃れて、全員無事で居て欲しい』と言っていたが……
ウチの王家が噛んでいる可能性は高い。
だから、わざと王太子がガーランドにまで出て大騒ぎした?
責任だ、協力すると、半ば強引にリヨン国内に入った割には、捜索終了になるとさっさと帰ってきた。
その時にリヨンの王宮に、国内に、何かの種を蒔いてきたか。


俺の想像が正しいのだとすれば、王太子はフォンティーヌ王女にその価値があるのだと判断したのだ。
いつか王女が立った時、援助の見返りに何を約束させたのだろう。


大して役に立たないガキの俺を連れていったのは、それに気付かせる為か。
兄が俺に期待するのは、それか。
同腹だからこそ、見せられる腹の中。
言葉にしなくても、国王の立場上自由に動けない自分の代わりに動いてくれる駒。
国内は王弟のギルバートに、外交は俺に。


侯爵が伝えたかったのはこれか。
同腹でしかないが、同腹でしか貰えない『王からの信用』だ。


 ◇◇◇


クラリスから手紙が届いた。
封筒の中には絵葉書1枚だけが入っていた。


トルラキアからクラリスの元に届けられたアグネスの絵葉書。
王都グラニドゥのホテルに帰国まで滞在すると綴られている。
俺には来なかったショックよりも、今アグネスが何処に居るのか判明して、その喜びの方が大きい。

クラリスがこれを俺に送ってくれたと言うことは、『行け』と言うことだ。
バーモントからの打診は断った、とそれだけは侯爵から聞いていたが、あの国トルラキアには得体の知れない何かが住んでいるからな。


アライアを至急呼び出し、俺が出席するような国の行事がないか確認する。
理由を聞かれるが、答えない。
反対されるのがわかっている。
トルラキアへの旅券や準備を全部済ませてから告げるつもりだ。

登校日の皆が帰った教室で、アライアへの口止めを誓わせてレイにトルラキアへ行く事を伝えた。
先日クラリスから聞いた話がずっと胸の辺りにつかえていて苦しい。
アグネスの本当の笑顔が見られるまで帰るつもりがないので、それだけを伝えようと思っていた。


「それ、滞在費とか旅費はアシュ持ち?」

……そうするつもりなんだが。
しかし、俺に宛がわれてる第3王子予算は使えないだろうな。
何かを換金するか。
俺は贅沢出来て、好きなものを好きなだけ買えると思われてるだろうけど、その実は全然自由になる金はない。

小遣い程度なら、ある程度は自由だ。
だが国外の旅費となると……財務大臣、つまりスローン侯爵の承認がなければ、これっぽっちも引き出せない。
……俺は持ってる金目のものを思い出そうとした。


「俺とカランで何とかするから、俺も連れて行けよ?
 高等部の登校日の多さ、うんざりだよ」

レイが何とかする代わりに、一緒に行くと言う。


「予算が駄目だったら、城下で換金だろ?
 それも任せて」


打てば響く男の手腕はわからないが、父親のグレゴリーよりは確かに頼りになる。

こうなると、王妃陛下からのブレスレットを売り払う、と言ったクラリスの気持ちがよくわかるな。
彼女にも自由になる金なんか、ないんだ。

今回の絵葉書のお礼に、いつかクラリスがトルラキアへ旅立つ時は、餞別にスムーズに国外に持ち出せるものを渡そう。



それで旅の資金については、レイに任せるとして。
外務大臣には再び無理をお願いして、俺とレイの急ぎの旅券の発行を頼む。
普通2週間かかるそれを3日待ってくれと言う。
ありがたくて頭を下げたら、
『王子殿下は頭を下げてはいけません』と注意される。


懸念の旅費についてはレイから話を聞いたカランが頑張ってくれた。
アライアには秘密、と言うと張り切ってくれたらしい。
財務の仕事をしている知り合いに頼み込んでくれてスローン侯爵の事務方に話を通して貰って、外交費用みたいな名目で計上して貰えることになった。
そして、それを侯爵が承認印を押してくれたのだ。

今回は外交活動なんて一切しないのに。
あの侯爵が? 
アグネスがいるトルラキアに俺が行くのに協力してくれた?
それを聞いた時は素直に受け取れなくて、また俺を叱る為の罠か、と疑ってしまった。


骨を折ってくれたカランも誘うが
『トルラキアなんて、絶対に行きません』と、断られた。
吸血鬼に襲われる夢を幼い頃に何度も見たらしい。 


「俺にはわかってたよ。
 クラリスが絵葉書をアシュに送るのを、あの侯爵が黙認してるんだからな?」

レイはそう言うが、あの侯爵が、だぞ?
侯爵が毎回こんな優しさを見せてくれれば、もう少し馴染めるのに……
言い方がキツいからな。


だが、とにかく。
皆の協力や心遣いがありがたくて。

まだまだ俺はひとりでは何も出来ない。
それだけは、心に刻む。
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