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第18話 アシュフォードside
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呼び出し係の声が高らかに響き。
俺達3人は慌てて会場内へと戻った。
この国の国王陛下よりも、今宵のメインの俺よりも。
ファーストダンスが終わる頃を見計らって。
勿体付けて、敢えて遅れての入場で、居並ぶ貴族達の注目を浴びる、隣国リヨンの悪名高き王女。
レイが読み上げたメモ通り、堂々10人を従えてフォンティーヌ・ラ・ベルヌ・リヨンが現れた。
2年ぶりに会う王女の本当に怖いところは、その目を引く体型以上に、一種独特な魅力があるところだ。
身体は大きいのに、不思議と顔面の造りは良くて、緑色の瞳の目力が凄い。
歪なカリスマ性を持ち、この女を恐れながら、それでも認められたくて付き従う人間が多いことも知られていた。
それ故に、幾多のきな臭い伝説のような噂がつきまとう。
リヨンの後継者の王太子と第1王女は第2妃の子供だ。
フォンティーヌ第2王女はリヨン国王の3番目の子供になるが、母親は第1妃。
リヨンでは第1妃と第2妃の地位に大きな違いはない。
ただ、妃の実家の爵位が高い方が第1妃になる。
母親の第1妃派閥の後押しでフォンティーヌを王太女とし、王配を娶った方が国力が高まるのではないかとの一部貴族の動きがあり、第1王子が王太子に決定するまではリヨン王家はゴタゴタ続きだった。
王太子が腹違いの妹を嫌うのは、当然と言えば当然だな。
彼が実権を握った王宮は居心地が悪くて、早く養女に行きたがっている、とも聞いた。
俺が見たところ、体型はゾウからクジラに格上げされる程成長はしていないのに、そう名付けられたという事は、与える印象が大海を縦横無尽に泳ぐ、全てを呑み込みそうな無双の海獣めいてきたからかも知れない。
「確かにデカい……どんな醜い女かと思ってたけど、意外と……だな?」
傍らのレイが小声で言った。
そうだな、お前の好きな手応えは物凄くあると思うぞ。
一昨日の午後、王城に到着したフォンティーヌ王女御一行は、先ず両陛下と王太子殿下との謁見を済ませた。
事前に歓迎の夕食会等は辞退したい、と連絡は受けていた。
その後、王女とお付きの者それぞれが滞在する各部屋に入ると、食事等も部屋へ運ばせて、今夜まで外に出ることはなかった。
『身体もデカいが態度もデカい』そう噂されてきたフォンティーヌ王女が率いる彼等だ。
どれ程、傍若無人に無理難題を言い出しても、充分に対処が出来るようにと、よく出来た使用人達を部屋付きに揃えていたが、何の要求もなく大人しい、と今朝アライアから報告は受けていた。
俺は到着時には、学園で勉学に励んでいたし、
『第3王子殿下からの歓迎のご挨拶をいただくのも、夜会当日までお気遣い無く』との伝言を貰ったのをこれ幸いと、事前に王女の部屋を訪れることもなかったので、今が2年ぶりの再会だった。
立ち上がった国王陛下が、両脇を侍女達に支えられたフォンティーヌ王女に近付き、王妃陛下が微笑みながら、何かを彼女に話していて……
到着した日の一度きりの謁見で両陛下は隣国の王女と親しくなっていたようだが、それは知らなかった。
こんな重要な情報が回ってこないところが、スローン侯爵から
『マーシャルには力がない』と、言われる所以なのかも。
「挨拶に行くか」
隣に立っていたクラリスが頷いたので、レイに軽く手を振った。
クラリスをエスコートして、そちらへと進む。
これからが本番だと改めて気合いを入れる。
兄のギルバートは俺と同じくリヨン王国で、王女と会っているので普通に王子スマイルを浮かべているが、その腕にぶら下がるように立っている婚約者のイザベラ嬢は、圧倒されたようにフォンティーヌ王女を見つめていた。
相手は友好国の王女殿下なのだから、規格外の大きさに驚いても、口を開けたまま見つめるのはやめて欲しい。
クラリスがそんな対応を見せるなら、注意をしないと。
しかし彼女を見たら普段のままの落ち着いた表情なので安心した。
この女はやはり度胸がある、俺よりも。
これならクジラに呑まれることはない。
「ようこそ、お越しくださいました。
拙いもてなししか出来ず、お恥ずかしい限りでございますが、お楽しみいただけますよう勤めさせていただきます」
そう上っ面なセリフと得意の(胡散臭くて、心がこもっていないとレイから評された) 笑顔で、クジラに挨拶をする。
そしてそのまま、傍らのクラリスを王女に紹介した。
「こちらは私のパートナーです。
学園の同級で、親しくさせていただいているクラリス・スローン侯爵令嬢です」
それに併せて、クラリスが完璧に王族相手の最上級カーテシーを決める。
「スローンに、ございます。
王女殿下におかれましては、以後お見知りおきを……」
「彼女のお父様は財務大臣をなさっていて」
王妃陛下が言いたかっただろうセリフを、クラリスの挨拶が終わる前に、王太子妃がクジラにご注進した。
義姉上もフォンティーヌの魅力にやられるタイプだったとは。
するとクジラが笑って……あぁ、赤い口紅が……
頭から丸呑みされそうで怖い。
「お誕生日おめでとうございます、アシュフォード王子殿下。
本日はこのような、素晴らしい宴に招んでいただきまして光栄に存じます
スローン嬢も初めまして。
用意に手間取ってしまって、おふたりのファーストダンスを見逃してしまいました」
招んでいただいて?
嘘付け、押し掛けてきたくせに。
そのせいで俺は、バタバタして、ポンポン言われて。
……まぁ、そのお陰で自覚出来た事もあるけど。
国王陛下が合図して、再びダンスが始まった。
音楽と笑い声とグラスを合わせる音。
着飾った貴族の男女が踊り、固まって会話して、噂の花を咲かせている。
「リヨンの王宮の外に出るのは久方ぶりなのです。
素敵な夜をありがとうございます」
噂より低姿勢なフォンティーヌ王女を囲みながら、王家オールスターズ(チビふたり抜き、クラリス追加) で会話をする。
その形にクジラの追い込み漁が頭に浮かび、可笑しくなって自分でも性格悪いなと思う。
しばらくその場で話していたが、王女の両腕、腰の3点を支える侍女達の限界が近そうで、王女用に用意した特大ソファーまで、王太子がエスコートを申し出た。
王太子に連れられ、ゆっくりと移動していくフォンティーヌ王女の一行を見送りながら、クラリスが呟いた。
「……王女殿下は用意に手間取った、と仰っていましたが……泣いていらしたのではないでしょうか?」
俺達3人は慌てて会場内へと戻った。
この国の国王陛下よりも、今宵のメインの俺よりも。
ファーストダンスが終わる頃を見計らって。
勿体付けて、敢えて遅れての入場で、居並ぶ貴族達の注目を浴びる、隣国リヨンの悪名高き王女。
レイが読み上げたメモ通り、堂々10人を従えてフォンティーヌ・ラ・ベルヌ・リヨンが現れた。
2年ぶりに会う王女の本当に怖いところは、その目を引く体型以上に、一種独特な魅力があるところだ。
身体は大きいのに、不思議と顔面の造りは良くて、緑色の瞳の目力が凄い。
歪なカリスマ性を持ち、この女を恐れながら、それでも認められたくて付き従う人間が多いことも知られていた。
それ故に、幾多のきな臭い伝説のような噂がつきまとう。
リヨンの後継者の王太子と第1王女は第2妃の子供だ。
フォンティーヌ第2王女はリヨン国王の3番目の子供になるが、母親は第1妃。
リヨンでは第1妃と第2妃の地位に大きな違いはない。
ただ、妃の実家の爵位が高い方が第1妃になる。
母親の第1妃派閥の後押しでフォンティーヌを王太女とし、王配を娶った方が国力が高まるのではないかとの一部貴族の動きがあり、第1王子が王太子に決定するまではリヨン王家はゴタゴタ続きだった。
王太子が腹違いの妹を嫌うのは、当然と言えば当然だな。
彼が実権を握った王宮は居心地が悪くて、早く養女に行きたがっている、とも聞いた。
俺が見たところ、体型はゾウからクジラに格上げされる程成長はしていないのに、そう名付けられたという事は、与える印象が大海を縦横無尽に泳ぐ、全てを呑み込みそうな無双の海獣めいてきたからかも知れない。
「確かにデカい……どんな醜い女かと思ってたけど、意外と……だな?」
傍らのレイが小声で言った。
そうだな、お前の好きな手応えは物凄くあると思うぞ。
一昨日の午後、王城に到着したフォンティーヌ王女御一行は、先ず両陛下と王太子殿下との謁見を済ませた。
事前に歓迎の夕食会等は辞退したい、と連絡は受けていた。
その後、王女とお付きの者それぞれが滞在する各部屋に入ると、食事等も部屋へ運ばせて、今夜まで外に出ることはなかった。
『身体もデカいが態度もデカい』そう噂されてきたフォンティーヌ王女が率いる彼等だ。
どれ程、傍若無人に無理難題を言い出しても、充分に対処が出来るようにと、よく出来た使用人達を部屋付きに揃えていたが、何の要求もなく大人しい、と今朝アライアから報告は受けていた。
俺は到着時には、学園で勉学に励んでいたし、
『第3王子殿下からの歓迎のご挨拶をいただくのも、夜会当日までお気遣い無く』との伝言を貰ったのをこれ幸いと、事前に王女の部屋を訪れることもなかったので、今が2年ぶりの再会だった。
立ち上がった国王陛下が、両脇を侍女達に支えられたフォンティーヌ王女に近付き、王妃陛下が微笑みながら、何かを彼女に話していて……
到着した日の一度きりの謁見で両陛下は隣国の王女と親しくなっていたようだが、それは知らなかった。
こんな重要な情報が回ってこないところが、スローン侯爵から
『マーシャルには力がない』と、言われる所以なのかも。
「挨拶に行くか」
隣に立っていたクラリスが頷いたので、レイに軽く手を振った。
クラリスをエスコートして、そちらへと進む。
これからが本番だと改めて気合いを入れる。
兄のギルバートは俺と同じくリヨン王国で、王女と会っているので普通に王子スマイルを浮かべているが、その腕にぶら下がるように立っている婚約者のイザベラ嬢は、圧倒されたようにフォンティーヌ王女を見つめていた。
相手は友好国の王女殿下なのだから、規格外の大きさに驚いても、口を開けたまま見つめるのはやめて欲しい。
クラリスがそんな対応を見せるなら、注意をしないと。
しかし彼女を見たら普段のままの落ち着いた表情なので安心した。
この女はやはり度胸がある、俺よりも。
これならクジラに呑まれることはない。
「ようこそ、お越しくださいました。
拙いもてなししか出来ず、お恥ずかしい限りでございますが、お楽しみいただけますよう勤めさせていただきます」
そう上っ面なセリフと得意の(胡散臭くて、心がこもっていないとレイから評された) 笑顔で、クジラに挨拶をする。
そしてそのまま、傍らのクラリスを王女に紹介した。
「こちらは私のパートナーです。
学園の同級で、親しくさせていただいているクラリス・スローン侯爵令嬢です」
それに併せて、クラリスが完璧に王族相手の最上級カーテシーを決める。
「スローンに、ございます。
王女殿下におかれましては、以後お見知りおきを……」
「彼女のお父様は財務大臣をなさっていて」
王妃陛下が言いたかっただろうセリフを、クラリスの挨拶が終わる前に、王太子妃がクジラにご注進した。
義姉上もフォンティーヌの魅力にやられるタイプだったとは。
するとクジラが笑って……あぁ、赤い口紅が……
頭から丸呑みされそうで怖い。
「お誕生日おめでとうございます、アシュフォード王子殿下。
本日はこのような、素晴らしい宴に招んでいただきまして光栄に存じます
スローン嬢も初めまして。
用意に手間取ってしまって、おふたりのファーストダンスを見逃してしまいました」
招んでいただいて?
嘘付け、押し掛けてきたくせに。
そのせいで俺は、バタバタして、ポンポン言われて。
……まぁ、そのお陰で自覚出来た事もあるけど。
国王陛下が合図して、再びダンスが始まった。
音楽と笑い声とグラスを合わせる音。
着飾った貴族の男女が踊り、固まって会話して、噂の花を咲かせている。
「リヨンの王宮の外に出るのは久方ぶりなのです。
素敵な夜をありがとうございます」
噂より低姿勢なフォンティーヌ王女を囲みながら、王家オールスターズ(チビふたり抜き、クラリス追加) で会話をする。
その形にクジラの追い込み漁が頭に浮かび、可笑しくなって自分でも性格悪いなと思う。
しばらくその場で話していたが、王女の両腕、腰の3点を支える侍女達の限界が近そうで、王女用に用意した特大ソファーまで、王太子がエスコートを申し出た。
王太子に連れられ、ゆっくりと移動していくフォンティーヌ王女の一行を見送りながら、クラリスが呟いた。
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