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第3話
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フォードと名乗られた男性は、自分の事を簡単に説明されました。
「私は色々と見習いの身でして、決まった仕事など就いていないので、時間があるのです。
あー、それと2ヶ月後に16歳になります」
色々と見習い、とは?
普通見習いの期間なら、覚えなくてはいけない事が多く、こんなところでゆっくり休憩などしていられるはずもないのに。
彼の苦し紛れな言い分をそのまま信じた私は子供でした。
「左様でございますか……あの、お手伝いしてくださるとおっしゃるのは?」
「レディは本日は、バージニア王女殿下のお茶会に?」
「御存じなのですか?」
「麗しい小さなご令嬢方が、続々といらっしゃいましたからね……」
後から親しくなってから、アシュフォード殿下が教えてくださった事なのですが。
殿下がこのお茶会の席から離れた庭園の四阿の裏で隠れるように過ごされていたのは、王女殿下のせいでした。
美しい兄がご自慢のバージニア王女殿下は、何かと自分のお茶会にアシュフォード殿下を連れ出そうとされていたのです。
「スローン嬢がお茶会に戻りたいのなら、エスコート致しますし。
お帰りになりたいのなら、お見送り致します」
「どちらにしろ、お茶会に戻って王女殿下にご挨拶して、ですよね……」
「戻りたくないなら、戻らなくても大丈夫です。
王女殿下には私からうまく話しておきますので、ご心配なく」
一介の、何の見習いをしているのか不明なこの御方が王女殿下にとりなしてくれる等、あり得ないことなのに。
何故か疑問も持たず、その言葉をそのまま受け取った私でした。
私には7歳上の姉が居て、4歳上の兄が居て。
まだ子供の私を彼等は同等に扱ってくれていたので、実際の年齢より知識も考え方も、大人びていると常々言われておりましたのに。
こんな怪しげな、本当か嘘かわからない話をする初対面の男性に、少しの警戒心も持たずに懐いてしまった私でした。
私達はその後も、そのまま四阿で会話を続け……。
既に『フォード』『アグネス』と、7年も年の差があったのに、お互いに名前も呼ぶようになっておりました。
そうして時が過ぎ、午後の太陽が西に傾き出した頃。
王女殿下のお茶会がお開きの時間となり、迎えに来たスローン家の侍女が私が席にいないことに驚き……
何人もの人間が辺りを探していたようでした。
私とフォード様が話し込んでいる現場を、近衛騎士様が見つけられました。
「アシュフォード殿下!」
騎士様の慌てた声に、私は傍らのフォード様を見上げました。
「次回会うまでは、見習いのフォードでいたかったな」
「……フォード様は王子殿下で……あらせられるのですか?」
「3番目、だからね
王子見習い、だよ」
「……」
「友達になってくれるね?
私の身分など気にしなくていい。
アグネスには、ただのフォードで接しているからね。
それは最初からだし、これから先もそうだよ」
ご自分の身分を知った私が、畏れ多いと萎縮したのに気付いて、アシュフォード殿下は手を差しのべてくださいました。
友達だと言われて、その手を殿下が仰せになるまま取ってよいものなのか……
さすがの私も、それはあまりに身の程知らずであるとわかります。
「さっきまで、私の目を見て話してくれていたのにね?」
アシュフォード殿下が寂しそうに仰られたので。
私はつい……
「私もお友達になりたいです!」
「よし! 次は君のウチにお邪魔しよう!」
あまりにも明るく、弾んだ声に。
さっきまで、あんなに……あんなに力無くお寂しそうだったのに。
あれは、演技というものなのでしょうか?
ウチは嫌です、と言えばよかったと。
後から何度も後悔しました。
アシュフォード殿下と姉のクラリスは王立学園高等部の同級生で、初等部の頃から学園内では何度もすれ違っていたと思います。
だから、初対面ではなかったのですが。
ウチに遊びに来られた殿下は。
学園では興味を持っていなかったのに。
姉と顔を合わせて、個人的に会話を交わしたことで。
クラリスを意識するようになったのです。
それは、謂わば……
私がふたりを結び付けてしまったのでしょう。
「私は色々と見習いの身でして、決まった仕事など就いていないので、時間があるのです。
あー、それと2ヶ月後に16歳になります」
色々と見習い、とは?
普通見習いの期間なら、覚えなくてはいけない事が多く、こんなところでゆっくり休憩などしていられるはずもないのに。
彼の苦し紛れな言い分をそのまま信じた私は子供でした。
「左様でございますか……あの、お手伝いしてくださるとおっしゃるのは?」
「レディは本日は、バージニア王女殿下のお茶会に?」
「御存じなのですか?」
「麗しい小さなご令嬢方が、続々といらっしゃいましたからね……」
後から親しくなってから、アシュフォード殿下が教えてくださった事なのですが。
殿下がこのお茶会の席から離れた庭園の四阿の裏で隠れるように過ごされていたのは、王女殿下のせいでした。
美しい兄がご自慢のバージニア王女殿下は、何かと自分のお茶会にアシュフォード殿下を連れ出そうとされていたのです。
「スローン嬢がお茶会に戻りたいのなら、エスコート致しますし。
お帰りになりたいのなら、お見送り致します」
「どちらにしろ、お茶会に戻って王女殿下にご挨拶して、ですよね……」
「戻りたくないなら、戻らなくても大丈夫です。
王女殿下には私からうまく話しておきますので、ご心配なく」
一介の、何の見習いをしているのか不明なこの御方が王女殿下にとりなしてくれる等、あり得ないことなのに。
何故か疑問も持たず、その言葉をそのまま受け取った私でした。
私には7歳上の姉が居て、4歳上の兄が居て。
まだ子供の私を彼等は同等に扱ってくれていたので、実際の年齢より知識も考え方も、大人びていると常々言われておりましたのに。
こんな怪しげな、本当か嘘かわからない話をする初対面の男性に、少しの警戒心も持たずに懐いてしまった私でした。
私達はその後も、そのまま四阿で会話を続け……。
既に『フォード』『アグネス』と、7年も年の差があったのに、お互いに名前も呼ぶようになっておりました。
そうして時が過ぎ、午後の太陽が西に傾き出した頃。
王女殿下のお茶会がお開きの時間となり、迎えに来たスローン家の侍女が私が席にいないことに驚き……
何人もの人間が辺りを探していたようでした。
私とフォード様が話し込んでいる現場を、近衛騎士様が見つけられました。
「アシュフォード殿下!」
騎士様の慌てた声に、私は傍らのフォード様を見上げました。
「次回会うまでは、見習いのフォードでいたかったな」
「……フォード様は王子殿下で……あらせられるのですか?」
「3番目、だからね
王子見習い、だよ」
「……」
「友達になってくれるね?
私の身分など気にしなくていい。
アグネスには、ただのフォードで接しているからね。
それは最初からだし、これから先もそうだよ」
ご自分の身分を知った私が、畏れ多いと萎縮したのに気付いて、アシュフォード殿下は手を差しのべてくださいました。
友達だと言われて、その手を殿下が仰せになるまま取ってよいものなのか……
さすがの私も、それはあまりに身の程知らずであるとわかります。
「さっきまで、私の目を見て話してくれていたのにね?」
アシュフォード殿下が寂しそうに仰られたので。
私はつい……
「私もお友達になりたいです!」
「よし! 次は君のウチにお邪魔しよう!」
あまりにも明るく、弾んだ声に。
さっきまで、あんなに……あんなに力無くお寂しそうだったのに。
あれは、演技というものなのでしょうか?
ウチは嫌です、と言えばよかったと。
後から何度も後悔しました。
アシュフォード殿下と姉のクラリスは王立学園高等部の同級生で、初等部の頃から学園内では何度もすれ違っていたと思います。
だから、初対面ではなかったのですが。
ウチに遊びに来られた殿下は。
学園では興味を持っていなかったのに。
姉と顔を合わせて、個人的に会話を交わしたことで。
クラリスを意識するようになったのです。
それは、謂わば……
私がふたりを結び付けてしまったのでしょう。
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